The Interstellar Extinction Law toward the Galactic Center II. V, J, H, and Ks Bands


西山、長田、田村、寒鳥、畑野、佐藤、杉谷
2008 pJA 680, 1174 - 1179




 アブストラクト

銀河系バルジの OGLE データに IRSF/SIRIUS 観測を足して、Av/E(V-J) = 1.251±0.014, AJ/E(V-J) = 0.225±0.007 を導いた。 その結果、 AJ/ AV = 0.188±0.005 が得られた。 この結果を論文 I での結果と組み合わせて、AV:AJ: AH:AKs = 1:0.188:0.108:0.062 を得た。これは長波長 側で急速に落ちる減光を表している。特に、 Ks 減光の強さが AKs/ AV = 1/16 で以前の値 1/10 と比べ著しく小さい値であることは 驚くべきことである。

 1.イントロ 

 外挿による Rv の決定 
 Cardelli et al 1989 は UV から 可視に至る減光曲線が一つのパラメター Rv = Av/E(B-V) の値で区別されることを示した。通常 Rv を求めるには E(λ-V)/E(B-V) を λ = &inf; まで外挿する。しかし、ダストの 放射光や散乱光の混入がこの方法には付きまとう。

新しい Rv の決定法 
 Woznial. Stanek 1996 は Rv の新しい決定法を提案した。それは銀河バルジ 内 RC 星の等級とカラーの変化を測る方法である。色等級図上でのこの変化の 勾配が Rλ を与える。 この方法は Stanek 1996, Udalski 2003, Sumi 2004 により V, I バンドで発展させられ、最近 西山ら 2006 によって近赤外に拡張された。
バルジ方向の RVI は小さい 
 Popowski 2000 はバルジレッドクランプ星を用いて RVI = Av/E(V-I) = 2.0 という驚くべき小さな値を導いた。それまで Rv = 3.1 に対する Cardelli et al カーブでは RVI = 2.5 であった。この値は Sumi 2004 によりもっと多数の 星と領域で確認された。このように、バルジ方向、波長帯 V - I に関しては通常より 小さい RVI が妥当なようである。

 近赤外の Rλ
 一方、近赤外では Cardelli et al カーブは Rv に依存せず、近赤外減光カーブは ユニバーサルで一定と考えられてきた。しかしながら、西山ら 2006 は近赤外減光カーブ がバルジ方向では標準カーブと異なることを示した。

 論文の目的 
 この論文では、 Udalski 2003 のバルジ V バンド測光を用いて、 Rλ を J バンドまで拡張する。さらに、ここで得た結果を前論文で扱った より高減光領域での値と接続して、AJ/AV, AH/AV, AKs/AV を得る。



 2.観測、データ整約、解析 

 2.1.近赤外観測 

 V, I データ 
 近赤外観測は ITSF/SIRIUS を用いて、 2004 May 18, 19 に行われた。 この領域は Udalski 2003 の領域 A に相当し、測光精度 ≈ 0.01 - 0.02 mag である。V, I 測光データは http://bulge.princeton.edu/~ogle/ogle2/bulge_maps,html から取った。

 NIRデータ 
 IRSF/SIRIUS は J, H, Ks バンドの画像を取得できる。しかし、H, Ks 測光誤差は 大きく、一方減光量は小さい。そのため、Jバンドのみを使用する。


図1.観測領域。太線領域は OGLE でも観測されている。斜線域が IRSF 観測。

 2.2.SIRIUS と OGLE 天体の同定 

 図2に座標差を示す。


図2.OGLE と SIRIUS 天体の座標差。左:赤経。右:赤緯。

 2.3.データ解析 

図3は(V, V-I) 色等級図。第1に、各領域を 2.8'×2.8' の 副領域 9 個に分ける。そして各副領域ごとに、(V, V-J), (J. V-J) 色等級図を作成する。第2に、レッドクランプに占められた領域の光度 関数を作る。第3に同様にカラー分布のピークを探す。減光の高い 領域では測光精度が落ちるから、減光が大きくはっきりしたピークが 見つからない副領域は避ける。


図3.(V, V-I) 色等級図。等高線は 0 から 1600 まで 80 間隔。 実線=本論文の減光ベクトル。破線=Av/E(V-J)=1.393(Cardelli et al 1989, Rv=3.1)




 3.結果 

 レッドクランプピークの分布 
 各副領域のレッドクランプピークを図4a (V, V-J) 面と図4b(J, V-J) 面上にプロットした。最少二乗フィットの傾きが、 AV/E(V-J) = 1.255±0.004, AJ/E(V-J) = 0.225±0.005 を与える。


図4a.(AV, E(V-J))図上のレッドクランプピークの変化。
 AJ/AV 
 傾きから得た AV/E(V-J) から AJ/AV = 0.201±0.011 が、 と AJ/E(V-J) から AJ/AV = 0.184±0.006 が 得られる。二つの重み付き平均として、 A/AV = 0.188±0.005 を得た。


図4b.(AJ, E(V-J))図上のレッドクランプピークの変化。



 4.議論 

 4.1.データの信頼性 

 限界等級 
 図4の最も暗い点は V = 20.2, J = 14.7 である。Udalski 2003 は V = 20.7 まで彼のデータは完全であると述べている。この限界値は 我々のデータよりさらに 0.5 等下である。J バンドの限界等級は 16.8 であり、余裕がある。

 完全性 
 完全性がピーク等級の決定に影響しているだろうか? 人口星実験の結果、検出率は J = 14 で 95%, 15 で 85%, 16 で  70 % であった。したがって、完全性はピークの決定に影響を 及ぼしていないと考えられる。


図5a.隣り合った領域間の平均等級の差。太線=赤経。斜線=赤緯。
 ゼロ点 
 ゼロ点の誤差はどの程度であろうか?隣り合った領域間の 重複部分の天体の等級の差を図5a に示す。測光誤差は 0.05 等以下であることが分かる。差の rms 等級差は 0.02 mag であった。 もう一つのチェックとして、図5b では 2MASS 等級を IRSF と比べた。 差の平均値は 0.009, rms 等級差は 0.015 mag であった。rms 値は 我々が標準星の観測から導いたゼロ点不定性の大きさと一致する。 したがって、我々のデータに含まれる系統誤差は 0.02 mag 程度である と結論する。注意しておくが、この系統誤差はゼロ点の絶対的不定性 ではなく、相対的不定性である。RC の絶対等級に系統的オフセットが あっても図4のプロットの勾配には影響しない。


図5b.IRSF と 2MASS 平均等級の差。



 4.2.Rλ の誤差 

 距離効果 
 バー構造 Nakada et al 1991 による RC 星までの距離変化は 観測領域内では 0.03 等程度の差しか生み出さない。

 メタル量効果 
種族効果も系統誤差の原因となる。しかし、メタル量勾配は小さい Udalski et al 2002, Nishiyama et al 2005 また、RC に対する メタル量効果が小さいことも分かっている。
 4つの副領域の (J, V-J) 色等級図上で、勾配 0.225 を固定して 直線フィットし、J 軸との交点の大きさを調べた。 13.37, 13.37, 13.35, 13.38 で有意な差は検出されなかった。交点を一定にして 勾配を変える実験でも同様の結果であった。したがって、種族効果は 結果に影響しないといえる。

 4.3.Aλ/AV の評価 

 可視域 
 バルジ方向では 0.5 - 0.9 μm で減光曲線の勾配が急である、 つまり Rv が小さい、ことは当初バーデの窓で RC 星のカラーが異常で ある原因の説明として、 Poposki 2000, Gould et al 2001, 提案 された。 小さい Rv は MACHO V, R 測光からも AV/ E(V=R) ≈ 3.5 として報告されている。OGLE V, I 測光の Av/E(V-I) ≈ 2.0 Udalski 2003, Sumi 2004 も同様である。 Cardelli et al 1989, Fitzpatrick 1999 のバルジ方向減光曲線 の解析近似式は Rv=2 を導入している。この値は希薄星間空間に 適用される Rv = 3.1 よりずっと小さい。

 小さな Rv
 Cardelli et al 1989 式は λ > 0.9 μm では Rv に関係なく λ-1.61 を採用している。 しかし、Av は Rv に依存し、また AV/E(V-J) も AJ/E(V-J) も Rv に依存する。我々の結果は Rv = 1.8 と良く合い、やはり非常に小さい。図3には Rv = 3.1 と 1.8 の 場合の赤化ベクトルを描いてある。
 小さな Rv は通常小さなダスト粒子が卓越していることを示す。 この微小粒子は紫外から可視にかけての減光を支配する。多くの 方向で Rv が低い領域、特に高銀緯で、見出されている Larson et al 1996, Larson, Whittet 2005 が、 Rv < 2.0 となるのは少数 Szomoru, Guhathakurta 1999, Larson, Whittet 2005 である。
 近赤外 
 前論文では J, H, K バンドでの吸収を調べた。本論文で J バンドの 吸収と V バンドの吸収がつながった。ただし、前回の強い吸収の領域は 今回の観測領域とは重なっていない。
 全論文では 4 deg × 2 deg で AKs/E(H-Ks) の変化は最大 7 % であった。今回 AJ/AV = 0.188 ±0.005 を 得たが、視線方向による変動も前論文の AKs/E(H-Ks) と同じと 見なし、 AJ/AV = 0.188 ±0.014 とする。ここに 0.014 = [0.0052+(0.0188×0.07)2]1/2 である。前論文の AJ : AH : AK = 1 : 0.573±0.008 : 0.331±0.004 を用いて、 、以下の結果を得た。
AJ/AV : AH/AV : AKs/AV = 0.188±0.014 : 0.108±0.008 : 0.062±0.005.

この結果は Rieke, Lebofsky 1985 の結果に基づく Rv=3.1 Cardelli et al 曲線より明らかに急勾配である。




表1.星間減光の波長依存性