ASTE による CO(3-2) 観測と野辺山 12CO(1-0), 13CO(1-0) データと合わせて解析し、銀河系の中心分子帯(CMZ) の物理条件を求めた。 速度勾配近似(LVG)法を用いた。位置と速度の関数として、CO(3-2) 観測領域での ガス密度、運動温度、CO コラム密度を求めた。 | CMZ の 69 % 以上でのデータポイントにおいて物理条件を定めることができた。 運動温度は CMZ 全体でほぼ一定であった。一方、ガス密度は 120 pc 星形成リング において外側のダストレーンより高い。CO(3-2)/CO(1-0) 比が高い領域の物理条件 も調べた。 |
CMZ の様子 分子ガスは r ≤ 200 pc の CMZ に集中する。そこでのガス密度と温度は 銀河系のどこよりも高い。そこでの分裂した構造と稠密で高速の分子雲の集合 は多数の超新星爆発が起きていることを示唆する。 |
ASTE による CO(3-2) 観測 Oka et al 2007 は多数の高 CO(3-2)/CO(1-) 構造 を (Δl, Δb) = (2, 0.5) に見出した。この論文では野辺山 12CO(1-0), 13CO(1-0) データを合わせてその領域の 物理状態を調べる。Ro = 8.5 kpc を仮定した。 |
ASTE データは l =[1.50, -0.60], b = [-0.23, +0.23] をカバーしている。 速度は [-200, 200] km/s をカバーした。これらのデータは 34″ ×34″×2km/s のグリッドに仕切られ、平滑化で 1′×1′×2km/s に均された。 データポイント数は 2284800 である。 |
![]() 表1.データセット |
LVG法 Nco/dV = 単位速度巾当たりの CO 柱密度。個cm-2(km/s)-1 n(H2) = 水素分子個数密度。個cm-3 Tk = 運動温度 解析により、CO(1-0), 13CO(1-0), CO(3-2) の放射強度 y = (T1-0, T13, T3-2) から x = (Nco, Tk, n) を求める。計算では LVG モデルを観測スペクトルに最少二乗 フィットする。 最少二乗フィット χ2 = ∑i{yi - T∗i}2/σi 2 ここに、T∗i = モデルからの予想ライン強度。 σi = yi の 1σ ノイズレベル。 χ2 は自由度3の χ二乗分布を示し、ライン強度 y が モデルで完全に再現された時にはゼロとなる。 光学的に厚い領域 光学的に厚い領域ではライン強度は Tk に収束する。そこでは n, Nco/dV を定めることは難しい。なぜなら、そこではパラメタ―を大きく変えても ライン強度が一定に留まるからである。単純に χ2 を最小化 すると、物理的に無意味に高い n, Nco/dV へと導くことがある。 |
![]() 図1.T1-0 = 13 K, T13 = 1 K, T3-2 = 10 K の場合に対する χ2(x) + fcons(x) の変化。 (a): Nco/dV = 1016cm-2(km/s)-1。 (b): n = 103.55-3 抑圧ファクター fcons(x) この状況を改善するため、抑圧ファクター fcons(x) を導入した。 実際の計算では χ2(x) + fcons(x) を最小化する。図1にはその例を示す。 |
限界線 図2には T3-2 = 10 K に固定して、T1-0 と T13 を様々に変えた時の最少二乗フィットの結果である。パラメタ― は灰色領域ではよく決定された。その良好領域の縁の曲り目を A, B, C, D, E と名付けた。 AB =光学的に厚い状況への限界線で T1-0 = T13。 BC =局所熱平衡。光学的に厚い。 CD =局所熱平衡。光学的に薄い。 DE =光学的に薄い sub-thermal limit EA =光学的に厚い sub-thermal limit となる。 ある。 不連続ライン 限界線の外側にはパラメタ―が不連続になるラインがある。それを太線で示す。 |
![]() 図2.T3-2 = 10 K に固定して、T13 - T1-0 面上で LVG モデルで決まる物理量の分布を示す。(a): Nco/dV (b): Tk (c): n(H2) χ2 < 11.35 領域を灰色にした。太線=パラメタ―不連続。 |
物理量ヒストグラム 400841/653550 データポイントで適切解を得た。それら物理量のヒスト グラムを図3に示す。Nco/dV は光学的厚みが極めて大きい前景腕でのみ 1019cm-2(km/s)-1 に達する。そこでの パラメタ―値は不定性が大きい。前景腕では Tk ≈ 5 K と低い。 Tk の最高値 120 K は Sgr A 付近で得られた。 図4:(l, v) 図上での物理量分布 図4には例として、 b = -0.009 での (l, v) 図上での物理量分布を示す。 V = [-60, 20] km/s 領域は円盤状の4本の腕からの混入が激しい。 我々の LVG 法は光学的に厚いガスには不適当なので、この速度領域は議論から 除く。V < -60 km/s と V > 20 km/s 領域では 281885/410704 データ点 で適切な LVG 解が得られた。ここでは CMZ 内の二つの主な成分、 120 pc 星形成 リングと外側ダストレーンの物理状態を述べる。 星形成リング CMZ 内にある分子の大部分は 120 pc 星形成リングに含まれている。そこには Sgr B1, B2, Sgr C HIIR がある。我々の計算によれば星形成リングは Tk = 20 - 35 K, n = 103.5 - 4.0 cm-3 である。この結果は 以前に Huttemeister et al 1993 が NH3 で、坪井ら 1999 が 高密度追跡ラインで求めた結果と合致する。 外側ダストレーン Rodriguez-Fernandez et al. (2006) の K, L, M 構造は 海部ら 1972 では 200 pc 膨張リングの一部と以前考えら れていたが、現在ではバーに付随するダストレーンと看做されている。 それらは Tk = 30 K と低い密度 n = 103.0 - 3.5 cm-3 を持つ。密度が低いことは高密度追跡ラインが検出できなかったことと一致する。 構造 M に付随する熱く(250 K) 低密度( ≤ 102.0 cm-3)成分が 岡ら 2005 の NH3+ 吸収線 観測により、クインテット星団方向で検出された。 |
![]() 図3.物理量の分布。(a) Nco/dV. (b) Tk. (c) n. (d) χ2 灰色:不適切解。黒:適切解。 しかしながら構造 M では 高温部の証拠は見出されなかった。この不一致の説明としては、 (1) NH3+ 吸収線で検出された高温ガスは低密度で CO を J = 1 レベルに励起できない。 (2)高温ガスは空間的にクインテット星団に封じ込められている。 |
Nco の最大 V = [-200, -60] km/s と [20, 200] km/s での Nco/dV を足し合わせて CMZ の CO 柱密度分布を求めた。結果を図5に示す Nco の最大は Sgr B2 コアでの 3.1 1019 cm-2 である。この値は 13CO で求められた 9 1017 cm-2 と合致する。 |
分子質量 [CO]/[H (i) 我々のデータが CMZ を完全に覆っていない。 (ii) Nco/dV が大きいところでは LVG 法が不適切。 |
[CO(3-2)/CO(1-0)] > 1.5 は通常、高励起、高温度の光学的に薄い 高密度ガスの特徴と考えられている。図6には Tk ≥ 60 K の高温度 CO (1-0) 分布を示す。 | この分布は高[CO(3-2)/CO(1-0)] ガスの分布(岡ら 2007) とよく似ている。これは、[CO(3-2)/CO(1-0)] の高いポイントを衝撃波ガス として抜き出せる可能性を示唆している。 |
CMZの物理条件を決めた。 (i) 120 pc 星形成リングは外側ダストレーンより高密度である。 (ii) 外側ダストレーンの運動温度は一定で Tk = 30 K |
(iii) ダストレーンで [CO(3-2)/CO(1-0)] の高いところは
Tk も高い 高密度で光学的に厚いコア領域の物理条件は我々の方法では決められなかった。 もっと透明なラインの使用が望まれる |