球状星団巨星枝先端にある星の有効温度と TiO バンド強度の変化を観測した。 フィールド巨星ではバンドが強い温度で、中間メタル量の球状星団では TiO が検出 されなかった。この結果に赤化補正は重要でない。 | 高メタル星団では最も低温の星で TiO が検出された。それは同じ温度のフィールド 星と較べると弱い。赤化に関し適当な知識があると、この結果を使って星団をメタル量 で並べられる。予備的な理論較正から、 NGC 6171 と M71 のメタル量は他の研究結果 と一致する。 |
1.イントロダクションTiO は良い温度指標Deutsch, Wilson, Keenan 1969, Spinrad 1973, O'Connell 1976 は TiO バンド強度が良い温度指標であると述べている。これは TiO の解離エネルギー が高いためである。しかし、 M-型矮星に関し Wingm Dean, MacConnell 1976, Mould 1976a はハロー準矮星は同じ温度の円盤矮星と較べると TiO がかなり 弱いことを見出した。 別の温度基準 1ミクロン連続光勾配 = m(7520A) - m(10235A) を別の温度パラメタ―として 用いる事にする。TiO は 1 ミクロンより短い側では強いブランケッティング 効果をもたらすが、7520 A 帯は TiO 吸収の窓にあたる。 球状星団の巨星枝先端 この論文では巨星にも同様の現象が起きているかどうかを探る。高メタル 球状星団の巨星枝先端の星を調べた。赤化補正した後で同じ1ミクロン連続光 勾配を持つフィールド星に較べると、星団巨星は TiO 吸収が弱かった。 TiO 吸収の出現を知らせるパラメタ―が提案された。そのパラメタ―を使い、 星団のメタル量ランキングを作ったが、これはこれまでの結果と一致した。 2.観測星団フィールド星では (B-V)o = 1.4 は TiO の γ(0, 0) システムが出現 する時である。そこで、高メタル球状星団中でこれより赤い星を選んだ。 NGC 6712 では赤すぎる星が存在するので V - IK > 2.5 の 星を排除して変光星候補を除いた。1977 年に KPNO 1.3 m を使い、 Mould, McElroy 1978 が述べたバンド強度分光測光装置を搭載して星団星の観測を 行った。 参照星 近傍から赤化補正の必要のない明るい BS 星を選び 40 cm 望遠鏡に同じ 装置を載せて観測した。観測結果は表1に示す。 表1=観測結果 表1で、m(1μ) = 10,175 A フラックスを Hayes, Latham 1975 のスケール で表示している。連続光勾配 1μΔ = m(1μ) - m(7540A), TiO バンドの強度 D(7120) = 連続光の想定等級 - m(7120) である。 観測波長の選択は Wing 1967, 1971m Mould 1976a から来ている。矮星の指標 である CaH の観測はここには報告しない。 |
![]() 表1.観測星団 |
低銀緯の4星団は大きな赤化を被っている。バンド強度 D(7120) には 赤化の影響がないが、連続光勾配 1μΔ は注意深く処置しないと いけない。Whitford 1958 減光則を使うと E(1μΔ)/E(B-V) = 0.7 で ある。表2に星団の赤化を示す。 |
![]() 表2.星団の赤化 |
フィールド星の TiO 強度 図1のフィールド星は、良く知られているように、温度の低下と共に TiO バンド 強度の急激な増加を示す。散らばりが小さいのは赤化の影響を受けていないことを 意味する。 中間メタル量星団の TiO 中間メタル量星団, M 3, M 10, M 13, に対しては TiO のサインが見られない。 これは低メタル巨星では、同じ温度の太陽メタル巨星と較べ、TiO が弱いことを 示している。 残りの星団 残りの星団、M 71, NGC 6171, NGC 6712, は赤化が大きい。それらには明らか に TiO 吸収が見える。しかしそれらは同じ温度のフィールド星よりも弱い。 これらの振る舞いは、もし赤化量が分かるなら、高メタル星団をメタル量順に 並べる可能性を示唆する。 ![]() 図1.赤化補正後の 1μ 連続光勾配と TiO バンド強度との関係。 バツ=フィールド星。黒丸= M 71, 黒四角= NGC 6171, 黒三角= NGC 6712, 白丸= M3, 白三角= M 13, 白四角= M 10. /b> |
TiO 出現 M 71 と NGC 6171 の場合、図2上にメタル量一定の直線をフィールド星と 同じ勾配で引くことでそれが実現される。バンド強度ゼロの座標値が TiO 7120 A 吸収出現を表す。当然のことだが、その温度は低メタルほど低い。 例: M 71 と NGC 6171 表3には TiO 出現時の連続光勾配 (1μΔ)1 を M 71 と NGC 6171 に対して示した。NGC 6712 の場合ははっきりしたラインが得ら れなかった。星野が混んでいるので、フィールド星の混入、または赤化の 激しい空間変動が疑われる。 ![]() 図2.モデル大気の連続光勾配 1μΔ と TiO コラム密度の関係。 メタル量は図に示されている。log g の値は、黒丸=2、白丸=1、 白四角=0.5 で温度が変化しているのである。 |
図3=メタル量の影響を定性的に示す 表3には3つの星団に対し公表されているメタル量を示した。 (1μΔ)1 によるメタル量順位付けは公表メタル量の値と 定性的に合致する。この結果を定量的な解釈に結び付けるには TiO の完全な モデル再現が必要である。しかし、一時的な較正を TiO コラム密度と結びつ けて行うことができる。 大気モデルで N(TiO), (1μΔ) 計算 そのために、原子吸収線ブランケッティングモデル大気を J.Cohen から 提供してもらった。7120 A で光学的深さ 0.3 までの TiO コラム密度を Mould 1976b, Mould, Wyckoff 1977 に従って計算した。TiO 解離エネルギー は 6.84 eV (Dubois, Gole 1977)とした。(0, 0) バンドに対しては、表4に 示すコラム密度計算値が観測される吸収強度と近似的には比例する。表4には また、モデルのフラックスを内挿して得た (1μΔ) も示す。 (1μΔ) の温度依存性は (V-K) より小さいが、重力やメタル量に対し て比較的感度が鈍いので有効温度の指標として有用である。 [Fe/H] = -1.5 で (1μΔ)1 = 0.665 図2に示す2本の実線は、星が巨星枝を上がるに連れ、 N(TiO) が増加する 様子を [M/H] = 0, -1.5 に対して示したものである。TiO は重力にはそれほど 鋭敏でないので、温度変化に伴う重力の変化は太陽組成の古い円盤種族巨星枝 から推測できる。図2の太陽組成ラインが、図1から決まったフィールド巨星 の TiO 出現 (1μΔ)1 に、達した時の N(TiO) が 破線= TiO 検出のコラム密度を与える。その値を [Fe/H] = -1.5 の 図4ラインに適用すると、(1μΔ)1 = 0.665 が得られる。 (O-C)/Fe 比は一定か? こうして大気モデルを使って決めた (1μΔ)1 の温度 依存性は1次の較正と看做せる。しかしこの較正が妥当なのは、(O-C)/Fe 比 が太陽と同じである場合のみである。最近の赤色巨星 CNO 存在量の研究に よれば、事情はもう少し複雑である。特に CN バンド強度にからんで。 Gバンド Gバンドは(CHなので N の存在量の影響を受けないので)より系統的な 研究が可能となる。Norris, Zinn 1977 によると、AGB に弱い G バンド効果 があるが RGB には存在しない。したがって、太陽に較べ炭素比がても大部分の 星への影響は小さいと看做せる。逆に炭素比が大きくなった場合、炭素が2倍 以上になると炭素星になってしまう。 |
![]() 表4.低温度巨星モデルのコラム密度と有効温度 フリーな酸素の存在量 [O I] λ6300 からフリーな酸素の存在量が直接測定可能となった。M3 の3つの星から Cohen 1978 は [O/Fe] = 0.4 を得た。 M13 の 5 星で検出でき 無かったので、上限 0.4 となる。どうも自由酸素原子と鉄原子との比に 系統的な効果はなさそうである。 (1μΔ)1 からメタル量の導出 もし我々が今回の較正を適正と認めるなら、(1μΔ)1 からメタル量を求めることが可能である。 M71 と NGC 6171 に関する 結果を表3に示す。以前の別の方法によるメタル量と矛盾しない値が得られて いることが判る。 |
M3, M13 = TiO 非検出星団 ブランケッティング効果を補正した連続光レベルに対する TiO γ(0, 0) バンドの観測は M3, M13 の低温度巨星に TiO が存在しないことを示した。 同じ有効温度で、フィールド巨星は TiO の明らかな存在を示す。これは TiO バンドがメタル量に鋭敏であることを示す。 TiO 検出の星団では (1μΔ)1 のメタル依存性 TiO が検出された星団では、TiO の出現は (1μΔ)1 に関係する。これはメタル量がファクター2変わると 0.06 mag 動くという まあまあのメタル量依存性を示すが、一方赤化の不定性にも影響される、 E(B-V) が 0.05 mag 変わると (1μΔ)1 は 0.035 mag 動く。 |
Wing はないと言っている。 上に述べた、TiO バンド強度にメタル量依存性がある、という話は、 Wing 1973 が ω Cen と 47 Tuc での 8 バンド測光から得た結論と 食い違う。Wing は、二つの星団間で TiO 強度と温度の間の関係に系統的な差 はないと結論した。類似の結論が Glass, Feast 1973 によっても述べられた。 しかし、ω Cen は星団の構成が一様でない可能性がある。 Glass, Feast も 47 Tuc の場合、 (1μΔ) のズレは認められないが [M/H] = -0.6 である。これから ω Cen と同じくらいのズレが期待されるので やや問題である。しかし、Wing の観測した星は進化の非常に進んだ星 で一つを除くと他は全て変光星なので、この違いは深刻ではない。 Glass, Feast 1973 は非変光星を観測したがズレは検出されていない。 しかし、我々の観測は TiO の 7540 A 窓で行われ、内部無矛盾性も高く 装置の感度も良い。同じ装置で南天の星団の観測が望まれる。 |