アブストラクト銀河系セファイドの近赤外データが少ないここ数十年セファイドの近赤外周期光度関係は可視域の関係より優れているという 認識が広まってきた。しかし、銀河系セファイドの近赤外データは殆ど存在しない。 それらは、1m以上の望遠鏡にとっては明る過ぎる。 0.6m望遠鏡+ハワイー2アレイ実験カメラ ここでは、ワイオミング大学レッドバッテス(Red Buttes)天文台0.6m望遠鏡 近赤外カメラの開発について述べる。カメラの名前は BIRCAM (Buttes InfraRed CAMera) で、ハワイー2アレイを使い、より大きな装置のテスト用に作成された。その比較的 短い寿命の間に私はセファイドを含む130領域のサーベイを行った。計画の目標は 現在知られているセファイド光度曲線を3倍に増やすことである。将来 GAIA や SIM データが現れた時には、これらは距離指標の正確な較正に役立つであろう。 131セファイドの近赤外光度曲線を得た 私は北天の131セファイドの光度曲線を得た。それらから、光度重みの近赤外等級 を求めた。距離と減光が知られている19セファイドを用い、周期光度関係を作った。 この関係の分散は 0.13 等で、勾配はLMCセファイドのそれと区別がつかない。 分散の値はこれまでのサーベイと同じくらい小さい。銀河系 PLR をLMCに適用すると DM(LMC) = 18.49 ±0.06 となる。 サーベイの際に見つかった 72 変光星の性質も論じる。 |
1.背景1.1. 検出器1.2. フィルター1.3. 星間減光1.4. メタル量効果可視、紫外域ではメタルのラインブランケッティング効果が大きい。そのため、可視 域での周期光度関係にメタル依存性があるかどうかについて論争が続いている。 Tammann et al. 2003 AA 404, 423 のレビューを見よ。 |
2.1.背景古典的セファイドの代表、δ Cephei、 は 1784 年に変光が発見された。 距離決定に有用である。Jacoby et al 1992 PASP 104, 599.2.2.セファイドの物理タイプIとタイプ II古典的セファイド=タイプIセファイド=種族I W Virginis 型変光星=タイプ II セファイド=種族 II タイプIはタイプII より1.5 等明るく、数も多い。例えば、LMCで Soszynski et al 2008 Acta Astron. 58, 163 はタイプ II セファイド 197 星、古典セファイド 3361 星 を報告している。 ![]() 図2.1.LMCセファイドの周期光度関係。青:基本振動。赤:第1倍音。 緑:第2倍音。他の点は二重モードセファイド。log P > 0.7 では 基本振動しか存在しない。(Soszynski et al 2008 より) |
古典的セファイドの基本的性質 古典的セファイドは太陽と比べ、大きさで 25-300 倍、明るさで 400 - 40,000 倍 である。脈動の間に半径で 5 - 15 %、温度で 500 - 1500 K 変化する。 古典的 セファイドの代表的な数値を表2.1.に載せた。 ![]() 表2.1.古典的セファイドの性質 (Cox 2000 より) 基本振動モード Cox 2000 によると、現在銀河系では約 640 の古典的セファイドが知られている。内 321 は基本モードで振動している。周期が 5 日より長いところでは、基本モードの 星が他のどのモードよりも明るい。5日より短い周期では変光曲線の形からどのモード で振動しているかを判別する。下の図2.1.に見られるように、基本振動モードと 倍音振動とでは周期光度関係が異なる系列を形成している。 ![]() 図2.2.左:基本振動、中:第1倍音、右:第2倍音の光度曲線。 下ほど短周期になっている。 Soszynski et al 2008 より。 |
2.3.距離指標![]() 図2.4.距離の梯子。 2.4.セファイドの近赤外観測が必要なわけヒッパルコスでは足りなかったBenedict et al 2007 はHSTを用いて10個のセファイドの視差を測定した。 ヒッパルコスデータは数が多いが精度が低い。 van Leeuwen et al 2007 は Benedict et al 2007 のデータにヒッパルコスを加え 14 セファイドから PLR を導いた。将来は GAIA によりこの状況が飛躍的に改善されるであろう。 近赤外PLRは分散が小さい 可視の周期光度関係は分散が大きい。図2.5.を見ると分かるが、近赤外の周期 光度関係は精度が高い。 |
![]() 図2.5.波長が長くなると振幅と分散が小さくなる。(Madore.Freedman 1991) 銀河系のセファイド観測 しかし、銀河系セファイドの大局的観測は限られていて、 Laney, Stobie 1992, Welch et al 1984, Barnes et al 1997 (今後LBW) 程度しかない。これらを皆合わせると、56星(Fouque et al 2007) になる。北 半球からは29星が観測可能である。 LMCのセファイド観測 LMCでは Persson et al 2004 が92セファイドを平均22観測/星で観測した。 彼らのPLRは現在のところ最も正確なものである。 GAIA との結合が重要 GAIA で正確な視差が得られた時には銀河系の最も正確な NIR PLR が得られる。この 論文のテーマはそれである。 |
3.1.Red Buttes Observatory3.2.BIRCAM An Introduction3.3.クライオスタットデザイン3.4.オプティカルデザイン |
3.5.BIRCAM エレキ3.6. 補助エレキ3.7. 装置ソフト3.8. カメラ性能 |
![]() 表4.1.観測から外れた有名なセファイド 4.1.天体選択基準(1)基本振動セファイドを Tammann et al 2003 から選んだ。 (2)δ >: -20° (3)明る過ぎる星(表4.1)は落とす。 (4)幾つかの明るい星はぼかして観測 実際の観測数 BIRCAMは1年間の運用という制限があり、効率を優先せざるを得なかった。 図4.1.を見ると分かるが、上の基準に合致しても暗い方の星は落ちているのが ある。実際には134星が観測された。毎晩、ダイナミック位相計算表に当日の 位相とこれまで観測された位相を表示して観測天体を決めた。位相の計算には GCVSからの周期と極大期日を用いた。 |
![]() 図4.1.等級別のセファイド数。観測したのは134星。 4.2.観測戦略観測方法選んだ天体は5回のディザリングで1セットの観測とした。90晩の観測の内、 60晩は測光夜であった。各晩 30−40セファイドと8−15標準星を 観測した。 除去した星 CEa と CEb は連星で分離できなかったので落とした。GQ Ori は座標が間違って いた。 |
![]() 図4.2.ピンクは観測した位相。青△が当日の位相。数字は、名前、周期、 |
![]() 図4.3.4.2.の続き |
5.1.データの扱い5.2.露出時間補正5.3.露出時間補正 |
5.4.較正済み画像の作成5.5.画像の整列5.6.測光較正 |
6.1.変光曲線の作成等級の決定DAOMASTER では、ある画像内の星の測光値を標準画像と比較する。DAOMASTER は ".raw" ファイル、入力された生の等級、と ".cor" ファイル、各晩のゼロ点移動と 空の条件による透明度効果を補正した等級、の二つを作る。DAOMASTER アルゴリズム では各フレーム内の星の等級を第1フレームの等級に合うようにずらす。しかし、 この論文で決めるオフセット値は「補正ファイル」のフラックス重み平均等級が 「生ファイル」のフラックス重み平均と等しくなるように決めた。この手続きでは 平均すると各フィールドの毎晩の較正は正しく行われていることを仮定している。 著者はもしかすると低精度の一枚の画像を標準として信頼することを嫌った。 この方法は変光曲線が得られている星に対してのみ適用された。 平均等級 「補正」等級は GCVS の周期と元期に基づいて位相を計算されてプロットした。 光度曲線は Madore, Burns 2008 が C で提供した "Gaussian LOcal ESTimation (GLOES) " プログラムで内挿し、それを用いてフラックス重み付き平均等級を 求めた。計算では内挿光度曲線の位相を50等分した。 | 6.2.サンプル測光システムLaney. Stobie 1992 データは Carter 1990 の標準星(SAAOシステム)を使用して いる。これはここで使用している Elias et al 1982 の CIT/CTIO システムと 系統的にずれている。特に J バンドでズレが大きい。それは図6.4.を見ると 明らかである。 エラー 各チャート中の天体用に作った表は主に位置確認用のもので、位置カタログとして ではない。小さな等級のズレはあるだろうが、表に付けたエラーは変光曲線の分散に 基づいている。非変光星の場合エラーは J, H, K で 0.02, 0.02, 0.03 等である。 分散の大きな星は暗いか又は変光星である。エラーが非常に小さいの(0.000-0.003) は明る過ぎるためのソフト的な誤りによる値である。 |
OT Per![]() 図6.1.OT Perチャート(J)。 ![]() 表6.1.OT Perチャート上の主な天体。 ![]() 図6.2.OT Per変光曲線。 ![]() 表6.2.OT Per各晩の等級 |
SZ Aql![]() 図6.3.SZ Aqlチャート(J)。 ![]() 表6.3.SZ Aqlチャート上の主な天体。 ![]() 図6.4.SZ Aql変光曲線。3グループの観測を色分けして示した。 ![]() 表6.4.SZ Aql各晩の等級 |
![]() 図6.5.SZ Aql-10 の変光曲線。 |
![]() 表6.5.SZ Aql-10 の各晩の等級。 |
6.3.以前のサーベイとの比較平均等級Barnes et al 1997 は平均等級を出していないので、GLOEST 計算を行った。Laney, Stobie 1992 は SAAO システムなので、表6.6.の係数を使って CTIO システムに 変換した。図6.6.にはそれらの差が 1 % 以下であることを示す。 ![]() 図6.6.平均等級の今回の結果との残差。1 % 程度の系統誤差はあり得るが、分散の 方が大きいので無視する。 |
6.4.サーベイで見つかった他の変光星GCVSにある登録済み変光星は表B.1.に載せた。その他に未登録の変光星が 72個見つかった。それらの周期は決まらない場合が多かった。IRAFのPDM で周期が 決まったものは表B1に載せた。Kiso C2-66、StSR 248 は登録されていたが変光星 としてではなかった。![]() 表6.6.SAAO - CTIO システム変換係数。Person et al 2004 より。 |
6.5.測光のまとめ 表6.7.![]() 131 セファイドの最終結果が表6.7.にまとめてある。変光曲線はよく埋 まっており、測光精度も高い。したがって、観測間の誤差は系統誤差が主である。 それらは J, H, K で 0.018, 0.016, 0.015 等である。 |
![]() ![]() |
距離の決定 現在セファイドの距離を測る方法が幾つかある。 (1)視差測定。HST で実施された。 (2)星団セファイド 主系列フィットで距離が判る星団中のセファイド。 (3)脈動に伴う半径変化を視角と比較する。干渉Baade-Wesselink 法 (LBW) CHARA のような地上干渉計を使用して視角変化を測定するか、赤外表面 輝度法(Barnes et al 2005) を使用。 Fouque et al 2007 サンプル 最近 Fouque et al 2007 は銀河系 59 セファイドの距離、色超過、近赤外等級 を集めた。距離はLBWで決められたものが多い。LBWのために行われた近赤外 観測は南半球が多いためカタログ天体は南天に片寄っている。それらの内19天体が BIRCAM 天体と重なっている。それらを表7.1.に載せた。 減光則 二つの減光曲線が使われた。第1は Laney, Stobie 1993 の仕事に基づく、 Gieren et al 1998 の GFG 則で、第2は HST の距離スケールキープロジェクト で採用された Cardelli et al 1989 の CCF 則である。表の色超過に対して 両方の減光則を適用した。その結果が表7.1.に載っている。将来は Schechter et al 1992 や Laney, Stobie 1993 が述べている色ー周期関係を 用いて独立に色超過を決める仕事も行われるべきである。 ![]() 表7.1.Fouque et al 2007 サンプル中 BIRCAM で観測したセファイド |
NIR PLR 表7.1.の19星を用いた NIR PLR を図7.1.に示す。BIRCAM 平均等級 は GFG, CCF の二つの減光則で補正してある。黒線が最小二乗フィットで赤線が Persson et al 2004 関係である。表7.2.に結果の比較を載せた。DM(LMC) = 18.50 を仮定している。 ![]() 図7.1.J, H, K バンドPLR と Wesenheit (W) パラメター。赤線は Persson et al 2004 の92星からのPLR。 ![]() 表7.2.銀河系 PLR と LMC データとの比較 |
PLRの比較 表7.2.では、この論文の PLR を最近の Fouque et al 2007 の銀河系 PLR と Persson et al 2004 による LMC PLR と比較した。Person et al 2004 と比べるため BIRCAM データ(CTIOシステム)は LCOシステムに変換された。Fouque et al 2007 データは 2MASS システムに依っており、従って LCO システムと 0.02 ±0.01 の範囲で一致する。 GAIA との結合 PLRを導くのに使ったセファイドの数は Fouque et al 2007 で 59, Persson et al 2004 は 88 LMC セファイド、BIRCAM サンプルが 19 である。PLR の分散は 同程度である。BIRCAM データセットは最終的には 131 星に達するはずで、これを LBW の 64 サンプルと結合すると、重なりを抜くと総計約 160 になる。GAIA の 距離が得られた時にはこのサンプルは銀河系 NIR PLR の最終サンプルとなるであろう。 PLC関係 PLR 以外に二つの関係が論じられている。一つは PLC 関係である。 〈Mx〉 = ax log(P) + bx + cx〈(J - K)〉 WJK = K - [AK/E(B-V)](J - K) = ax log(P) + bx | LMC距離 勾配は エラーの範囲で一致しているので、Persson et al 2004 の勾配 を採用し、BIRCAM サンプル 19 星のフラックス重み平均等級から LMC 距離 への較正を与える。CCF 減光則からは DM(LMC) = 18.52 ±0.03、 GFG 減光則からは DM(LMC) = 18.45 ±0.03 である。ただし、内部エラー しか考えていない。セファイド距離指数の見積もりは 0.1 等程度の誤差がある、 従って、二つの平均をとりランダム不定性を保持して、 18.49 ±0.06 とした。この結果は Gibson et al 2000 が集めた結果 18.5 ±0.2 と 合致する。 メタル効果 LMC と銀河系のデータの合致は素晴らしい。しかし、Tammann et al 2003 は 銀河系 PLR をメタル量の異なる銀河に適用することに疑いを持っている。 Spergel et al 2007 参照。 |
BIRCAM の開発とセファイドの観測 ハワイ2アレイを使ったBIRCAM を開発した。これを使い 10か月の間 130 フィ ールドでセファイドの赤外モニターを実施した。 PLR 131セファイド中、既知の距離をもつ 19 星から NIR PLR を求めた。その結果は 1σ の範囲で Fouque et al 2007 と Persson et al 2004 の結果とあった。 銀河系と LMC の間に勾配の差は認められなかった。DM(LMC) = 18.49 ±0.06 を得た。 | サンプルの拡大 今後の方向は今回除かれた暗いセファイドに観測を広げ、南天のセファイドも 観測することである。また、視線速度サーベイは Baade-Wesselink データを完全に するので、GAIA と独立に視差を与える。 将来の研究 将来は色超過を独立に測定し、南天データと合わせて、GAIA の結果により、 銀河系 NIR PLR の決定版を作ることである。そうすれば LMC を飛ばして 銀河距離を求めることができる。これは Ho 決定の不確実さを大きく減少させる であろう。 |