電波源の分布 可視で見える HIIR や OB-星の銀経分布は基本的には星間減光で決められて いる。従って、可視観測はよくても太陽近傍の構造しか決められない。一方、 電波観測はダストの影響を受けない。従って、l = 17.5° にピークを持つ 電波源の分布は天の川銀河の構造と関係しているに違いない。 巨大 HIIR の分布 二つの再結合線サーベイが運動距離を与える。もし巨大 HIIR のみを選ぶと 次のような分布が得られる。 (1)4 kpc 腕の内側には巨大 HIIR は 5 個しかない。 (2)巨大 HIIR の大部分は、 4 - 6 kpc のリングに集中している。 |
(3)別の巨大 HIIR の集中がサジタリウス腕とペルセウス腕の
存在を示唆する。 (4)可視光観測から太陽付近の構造として挙げられていた3つの特徴は 巨大 HIIR が描く大規模構造とはうまく合わない。 (5)13 kpc を越えると実際上巨大 HIIR は存在しない。 (6)巨大 HIIR の表面密度は 4 - 8 kpc の間でピークとなる。中性水素の 表面密度は 11 - 15 kpc で最大となる。ただし、実際の HI 空間密度としては、 4 - 8 kpc 領域でもかなり高いだろう。 |
O-型星 電離制限(ionization bounded) HIIR からの電波フラックスはライマン連続光 フラックスと直接関係する。熱電波源である HIIR の大部分は O-型星を1つ または複数個必要とすることが分かっている。我々の研究から以下のことが分かってきた: (a) コンパクト成分 強い熱電波源である HIIR の大部分には、一つか複数の小さな高電子密度成分が 存在する。それらは広がった低電子密度域内に埋もれている。Blaauw 1964 が O- アソシエイションで観測したサブグループの最初期ステージがこの CHIIR ではないか。 (b)ダストに埋もれている コンパクト成分は、広がった HIIR でさえ、しばしばダストに隠されている。 通常励起星は見えない。 |
(c)可視 HIIR は進化後期 Sharpless 1959 のカタログにあるような可視光で見える HIIR は熱電波源としては 弱い。 ( FIR も弱くなるか?) 可視 HIIR は、電離ガスが膨張し、ダスト雲が消散した進化後期を代表しているらしい。 (Felli, Churchwell 1970) 可視 HIIR と電波 HIIR の差に注意 HIIR の可視観測は 3 kpc が限界である。一方、電波観測には減光の影響はない。 しかし、可視 HIIR と電波 HIIR を進化段階の差を考えずに混ぜてしまうと、銀河系構造 の研究に混乱が生じる。 |
![]() 図1.(a). OB+星の銀経分布。(b). OB-星の銀経分布。 (c). OB-星の銀経分布。(d). 可視 HIIR の銀経分布。 (a) OB+星と (d)可視 HIIR の類似に注意。 図2.可視 HIIR の分布。距離は主に励起星の測光距離。Courtes et al 1968 より。 |
Sim の OB-星分布研究 Sim 1968 は、Hamburg-Warner, Swasey サーベイに基づき、OB+、 OB、OB-星の銀経分布を調べた。図1(a),(b),(c) に載せてある。 私は Sharples 1959 カタログを用いて可視 HIIR の銀経分布を調べてみた。 それが図1(d) である。HIIR と最もよく似た分布を示すのは OB+ 星であることが分かる。 l = [20, 90] の極小 OB-星も可視 HIIR も共に、l = [20, 90] で極小を示す。例外は Cyg X (l = 76°) である。しかし、この領域は銀河系内でも最も星形成が活発な領域である。ダスト雲による 減光が OB-星や可視 HIIR の見かけ分布を狂わせている原因である。 HIIR の局所分布 Courtes et al 1968 は励起星の測光距離や可視スペクトルから定めた視線速度による 運動距離を用い、 HIIR の局所分布を調べた。図2はその結果でペルセウス、オリオン、 サジタリウス腕が良く現れている。 l = 330° に3つの遠い HIIR が見えているが これは 定規―盾座腕のメンバーだろう。 ![]() |
Westerhout 1958 による GHz 帯の開拓(1)連続波が銀河面に集中熱的成分は HPW=1.6° の非常に細い分布を示す。非熱的成分は HPW=4.2° で ずっと幅広である。 (2)l = 26° の極大 熱的成分は l = 26° に極大をもつ。一方非熱的成分は銀河系中心に向かって 強度を増していく。電離水素は半径 4 kpc の外側にリング状に存在する。 (3)W-天体 円盤成分とは別に個々に分かれた強い電波源があり、W-番号を付けられた。 その後の拡張 Altenhoff 1960 は精度を高め、Mathewson et al 1962 は南天へ拡張したが、基本的な変化は 無かった。 点源への分解新しい観測新しい波が来るのには 10 年かかった。 Altenhoff 1968 は NRAO 140ft 望遠鏡を用い、 2.7 GHz の完全銀河面サーベイを行い、 Westerhout の 10 倍の電波源を発見した。その結果、Westerhout の熱的電波円盤は ほぼ完全に個々の電波源に分解されてしまった。 表1には南天と北天に対する高分解能電波 サーベイをリストした。 Altenhoff の仕事 この先は主に彼の仕事 Alternhoff et al 1969 の紹介をする。彼は 電波源のスペクトルの勾配、S ∝ να で α ≥ -0.3 を熱的とした。驚いたことに 206 銀河電波源中、 31 % が非熱的であった。ただ、 星形成域内にも非熱的電波源が存在する。 |
可視 HIIR との分布の違い 図1(d)を図3a と比べると、明らかな差が認められる。どちらかと言えば 負の相関がある。電波源は銀河中心方向付近で少なく、急増して l = 17.5° で 極大となり、反中心方向に減っていく。その間小さなピークが l = 37.5°, (62.5°), 77.5°, (92.5°), 132.5°, 152.5° にある。 逆相関の意味 この原因として考えられるのは、 a. 電波源は進化最初期の O-アソシエイションや星団で強い。 b. 星形成が活発なところは減光が強い。 したがって、電波観測の方が渦状腕の追跡には向いている。 非熱的電波源の分布 非熱的電波源の分布は滑らかで b 分布は幅広である。表面輝度が高く、 コンパクトな電波源のその本性は分からない。 ![]() 図3.電波源の分布。斜線は再結合線観測天体。 |
電波連続波の観測者にとっては、銀河系の反対側にある HIIR を観測できる
ことを知りながら、距離を求める手立てがないのはもどかしいものである。
電波再結合線はこのジレンマを解決するものであった。南天と北天のほぼ完全な
サーベイについては表2を見よ。
銀経分布 二つのサーベイの合計数は 213 天体だが、重なりを除くと 201 である。 それらの銀経分布は 図5a に示した。図5b には再結合線を検出した天体を 示した。図5c には非検出天体を示した。 非検出天体の割合 興味深いのは北天探査で輝線非検出の割合 32 % は連続光スペクトル指数から 非熱的と判断された割合 31 % に非常に近いことである。ただし、南天では 輝線非検出率は 12 % で北天より明らかに低い。原因は不明である。 遠近問題 運動距離の遠近分離は原子および分子吸収線により解決する。図6には運動距離 が決まった HIIR の分布を示す。 弱い HIIR の除去 図6は渦状腕パターンがはっきりしない。その主な原因は太陽近傍の弱い HIIR が混じっているからである。そこで次の基準で強い HIIR を選んだ。 S(5GHz)D2 > 400 f.u. kpc2 この基準はオリオン星雲の約4倍に対応する。それらを図7にプロットした。銀河の 向こう側に対しては探査が不完全であることがわかる。これはライン観測の検出限界」 によるもので、現存の望遠鏡でこの壁を打ち破れるかどうか疑わしい。 ![]() 図6.運動距離が決まった HIIR の分布。 |
![]() 図5.l = [-100, +100] の H109α 観測天体。(a)=観測。(b)=検出。(c)=非検出。 ![]() 図7.強い HIIR の分布。 |
はっきりとは渦状腕が浮かび出てこない 図7を見ると期待を裏切りあまりはっきりとは渦状腕が浮かび出てこない。 しかし、系外銀河でもこんなものである。はっきりしているように見えるのは HIIR に OB-星が加わるからである。巨大 HIIR は今現在の星形成活動を表し、 OB-アソシエイションは 1 - 10 Myr 昔の星形成と結びついていると看做すべき である。 HIIR リング 図7を見ると、巨大 HIIR が R = 4 - 6 kpc のリングに集中していることが 分かる。また、その外側にもいくらかの集中が見られるが、それが渦状腕を なぞっているのかどうかはっきりしない。その原因の一部は遠方で運動距離の 信頼度が下がるためである。そこで、測光距離に基づく近傍 HIIR 分布(Courtes et al 1968)を巨大 HIIR 分布と結びつけた。その結果が図8である。 しかし、近傍 HIIR 分布に現れた大きなピッチ角は巨大 HIIR が作る渦状腕と 結び付けられない。私はここで、扱っているのが弱い近傍 HIIR と遠方の巨大 HIIR という性質の違う天体であることを強調したい。 動径分布 図9には、巨大 HIIR の動径分布を示す。ただし、今のところ 10 kpc ま でしか観測が到達していない。将来はもっと先に伸びてサンプル数が増えるだろう。 図9b には数密度に直して表示したが、 5- 6 kpc と 7 - 8 kpc にピークがある。 それよりはっきりしているのは 4 - 8 koc に巾の広い極大が存在することだ。 また、 12 kpc の先にはない。図10では巨大 HIIR を HI ガスと比べた。 HI は 13 kpc で極大になる。そこには巨大 HIIR は一つもない。どうやら HI の 高密度は O-型星の形成に取り必要ではあるが、十分ではないらしい。 ![]() 図9.巨大 HIIR 数の動径分布。 |
![]() 図8.測光距離の近傍弱い HIIR と運動距離の巨大 HIIR の分布 ![]() 図10.斜線=巨大 HIIR 数密度の動径分布。点線=中性水素の数密度 |