On the Relation of Silicates and SiO Maser in Evolved Stars


Liu, Jiang
2017 ,




 アブストラクト 

 SiO 分子は星周エンベロープ中でのシリケイトダストの種候補の一つである。 しかしこの考えには疑問が持たれている。ここでは SiO メーザー強度とシリケ イト放射強度の関係を調べる。PMO/Delingha 13.7 m 望遠鏡での観測と文献 データから、 SiO v = 1, J = 2 - 1 の 21 天体と SiO v = 1, J = 1 - 0 28 天体のサンプルを集めた。  それらの天体は ISO/SWS の SiO 放射も示している。SiO メーザーとシリケ イト放射の間には明白な相関があった。これは SiO 分子がシリケイトダストの 種であるという仮説に反しない。一方、 SiO メーザーとシリケイト結晶性の 間には相関がみられない。これは結晶性が質量放出率と関係ないことを 意味するのかも知れない。


 1.イントロダクション 

 シリケイト 

 珪酸(silisic acid) = SiOx(OH)4-2x である。 シリケイトは珪酸ラディカル SiO44-, または SiO32- と陽イオン(cation) から成る。 星周空間において最も多いカチオンは Fe と Mg である。その結果天体シリ ケイトの組成は Fe2xMg2(1-x)SiO4 (olovine 橄欖石) または FexMg(1-x)SiO3 (pyroxene 輝石) となる。 x = と 1 の両極端には名前が付いていて、

 Fe2SiO4 = fayalite(フェアライト)鉄橄欖石
 Mg2SiO4 = forsterite(フォルステライト)苦土橄欖石
 FeSiO3 = ferrosilite(フェロシライト)鉄珪輝石
 MgSiO3 = enstatite(エンスタタイト)頑火輝石



 シリケイトダストのバンド 

 通常天体シリケイトは 9.7 μm, 18 μm に幅広で構造のないバンドを 示す。しかし、 Waters et al 1996 は ISO/SWS から結晶シリケイトと思われる 狭いバンドを発見した。Molsters et al 2002 a,b,c, Gielen et al 2008 は Spitzer/IRS から 10, 18, 23, 28, 33, 40, 69 μm に狭いバンドを 見出した。

 ダスト形成 

 Ferrarotti, Gail 2001 によるとダスト形成は2段階で起きる。
第1段階:種=数ナノメーターの形成。カーボンでは種は TiC か ZrC.
      シリケイトの種は論争中。コランダムが有力視されている。       しかしまだ不明な点が残る。
 SiO は種になるか? 

 SiO はガス中分子としては最多で、かつその固相は比較的安定である。しか し、実験によると凝結温度が 600 K 程度と低い。観測されるシリケイト温度は 900 K 付近なので、600 K は低すぎる。再調査で 700 K まで上がったので、 SiO は種候補として生き延びている。

 結晶シリケイトの形成 

 最初にできるシリケイトは非晶質なのか、結晶質なのかという疑問は未解決 である。Gail, Sedlmayr 1999 のモデル計算は鉄抜きのオリビンが最も凝結 温度が高く、最初にできるだろうとした。このモデルは観測される結晶シリケ イトに鉄が欠けている説明となる。赤外光吸収率が高いので鉄シリケイトは 星から離れた所でのみ安定に存在できるのだろう。しかし、この議論には 実験データによる裏付けがない。アニーリングによる非晶質シリケイトから 結晶シリケイトへの変換も、特に星周円盤において、議論されているが、 降着円盤と違い、物質の動径方向移送が起きないので変換説に疑問があるという 意見もある。また、初めに結晶が生じ、そこに鉄イオンが衝突して内部に 貫入して結晶を破壊するという説もあるが観測による確認はない。

 研究目的 

 この研究ではシリケイトダストと SiO ガス分子の関係を調べ、シリケイト ダストの形成に関する基礎データを提供したい。SiO 分子の観測は v = 0 の 熱輻射線か v = 1, 2 のメーザーで行われる。ただし熱輻射線は非常に弱い。 メーザーは恒星大気層と 3 - 5 Rs のダスト形成層の中間から放射される。 そこの温度は 1100 - 1770 K である。



表1.SiO v = 1, J = 2 -1 86 GHz 観測候補天体リスト



 2.サンプル選択と SiO メーザー観測 

 2.サンプルと 観測 

 結晶シリケイト 

 結晶シリケイトの特徴を示す星のサンプルを Gielen et al 2008, Olofsson et al 2009, Jones et al 2012 から選んだ。バンド強度の計算し易さのため、 ISO/SWS のデータ処理が完全に終わっていることを条件に加えた。ISO/SWS の 波長帯は 2.4 - 45.4 μm で、Spitzer/IRS の 5.2 - 38.0 μm より広い ためバンド強度の測定がより正確にできる。PMO 13.7 m Delingha 望遠鏡の位 置は天体の選択を制限する。以上から表1に示す 31 個の星が選ばれた。 サンプルは AGB 星, OH/IR 星、 post-AGB 星、 PPN, PN 及び数個の超巨星か ら成る。2個を例外として、他の星は全て [12-25] = 2.5 log(F25/F12) > 1.5, [25-60] = 2.5 log(F60/F25) > 0.0 である。7天体はシリケイト吸収 帯を示し、残りは放射帯を示す。後に示すように、 10 μm 吸収天体で SiO メーザーが検出されたのは OH 26.5+0.6 のみである。この天体は 10 μm で光学的に厚いので後の解析からは外す。

 SiO 観測 

 観測は 2013年 5月 2日から 6月 2日にかけて行われた。SiO v = 1, J = 2 - 1, 中心周波数 86.243 GHz, バンド幅 = 1 GHz, 分解能 61 kHz = 0.21 km/s である。メインビーム巾= 61", ビーム効率 ηmb = 0.557 であった。rms ノイズレベルは露出 1800 秒で 4σ = 0.09 K、システム 温度 = 160 K である。

 Jy への変換 

 図と表の強度は Jy 単位になっている。変換ファクターは (2k/Aη) で、 k = ボルツマン定数、A = アンテナ面積、η = 0.461 = 開口効率、である。 以上の数字を入れるとアンテナ温度から Jy への変換ファクター= 40.63 と なる。

 メーザー検出 

 5/31 天体からメーザーが検出された。それらは
   IRAS 01037+1219 = O-リッチ AGB 星
   IRAS 05073+5248 = OH/IR 星
   IRAS 19192+0922 = PPN
   OH 26.5+0.6 = OH/IR 星 (吸収帯のため解析から除く。)
   NML Cyg = 赤色超巨星 (図1)
で、全て以前に SiO メーザーが検出されている。変光の位相に伴って、メー ザー強度が変わる (Gray et al 2009) ので、単期観測ではメーザー天体の 全てが検出されるわけでない。従って、SiO 検出と位相の関係を解析できると 良いのだが、多くのサンプル星に対して周期が不明である。




図1a.PMO/Delingha 観測による検出。上= IRAS 01037+1219 (O-リッチ AGB 星). 下= IRAS 19192+0922 (PPN)

 2.2.文献からのメーザーサンプル 

 SiO メーザーの検出率が予想より低かったので、統計的研究を行うために サンプル数を拡大する必要がある。 SiO 観測文献に次の基準を課した。

(1)ISO スペクトルデータ Sloan et al 2003 がある。

(2)はっきりした 9.7 と 18 μm 放射帯がある。

(3)SiO v = 1, J = 2-1 か v = 1, J = 1-0 のメーザーがはっきり見える。

この結果、SiO v = 1, J = 2-1 は 21 天体、SiO v = 1, J = 1-0 は 28 天体で 確認された。相互比較のため、メーザー強度は Jy に変換した。表2を見よ。 変換ファクターは Cho et al 2009 に対し 54.0, Kim et al 2010 に対し2.5175, Cho, Kim 2012 に対し 13.29 である。









図1b.PMO/Delingha 観測による検出。上= IRAS 05073+5248 (OH/IR 星) 中= NML Cyg (超巨星)。下= OH 26.5+0.6 (OH/IR 星)



表2.SiO メーザー源



 3.シリケイトダスト放射の計算 

 モデルフィット 

 シリケイトダストからの放射強度の計算には IDL に組み込まれた PAHFIT (Smith et al. 2007) を用いた。Liu et al 2017 の方法に従い、我々は Dorschner et al 1995 の CDE-プロファイルを非晶質シリケイトの放射帯を 特徴付けるのに用いた。PAHFIT コードは PAH 分子放射をシミュレイトする ために開発されたが、最近シリケイトダスト用に改訂された。このコードの 利点は放射帯の情報を正確に取り出せ、シリケイト結晶性を計算するための ダスト温度により誘引される不定性を避けることが出来る点である。

 スペクトルの成分分解 

 我々が結晶シリケイトの特徴を正しく捉えていることを確認するため、 我々は Molsters et al 2002b を参照して、同定済みの結晶シリケイトの特徴 のみを用いた。例の一つを図2に示す。図には ISO/SWS スペクトルを
(1)星からの連続光
(2)ダスト連続光
(3)非晶質シリケイト放射帯
(4)何本かの細い放射帯
に分解した。(4)は Molsters et al 2002b で結晶シリケイトと同定された もののみを用いた。

 結晶度 

 結晶度= (4)/[(2)+(3)+(4)] と定義する。Kemper et al 2001 が指摘した ように、中間赤外では非晶質シリケイトと結晶質シリケイトの放射率は同 程度と考えられる。ただし、可視域と近赤外では結晶質シリケイトの放射率は 低い。従って、ダスト層が光学的に薄い天体では、結晶シリケイトの温度は 非晶質シリケイトより低いだろう。なので、Fcry/(Fam +Fcry) < mcry/(mam+mcry) である。従って、フラックス比は質量比の下限と考えるべきである。星間減光 は 10 μm 付近では可視の 5 % (Xue et al 2016) 程度であり、天体距離は 最大でも AH Sco の 2.7 kpc であるから、減光の効果は小さい。

図2.PAHFIT の結果。黒破線= ISO スペクトル。橙色=ダスト連続放射。 明るい青=中心星。青=個々のバンド放射。紫=ダスト連続放射+中心星。 緑= PAHFIT モデル。




 メーザー強度 

 メーザー強度は輝線部を単純に積分した。結果は表2と表3にある。



表3.メーザー源からのシリケイト放射強度



 4.結果と議論 




図3a.シリケイト放射とメーザー放射の相関。SiO v = 1, J = 1-0. 赤線=線形フィット。 r = ピアソン相関係数。


 表3=放射量と結晶度 

 表3にシリケイトダストの放射量と放射比=結晶度を示す。前章で議論した ように、表の結晶度は実際の値の下限値である。表の結晶度は 6 - 29 % に 分布し、多くは 10 % 付近になる。Henning 2010 が指摘したように、進化した 星の周りでの結晶度は 10 - 15 % である。Liu et al 2017 も同様の結果を 得た。我々のフラックス比もそれらと合致する。

 シリケイトと SiO のフラックス相関 

 シリケイト放射と SiO メーザー放射の相関を考える際に、考慮すべきは両者 共に距離の逆二乗で変化するので、直接のフラックス比較では距離効果による 見かけの相関が現れてしまう。この距離効果を消すために、両方を F60 で規格 化する。 NML Cyg と U Cep は F60 が無いので解析から外す。 図3はシリケイト放射が SiO 放射とよく相関することを示す。そのピアソン 相関係数は SiO v = 1, J = 1-0 で r = 0.60, SiO v = 1, J = 2-1 で r = 0.44 である。この関係はシリケイトダストの量 が SiO 分子の量と相関することを示す。さらに、Nuth, Donn 1982, Gail, Sedlmayr 1986 が示唆した SiO がダスト形成の種であるという考えを 支持する。

図3b.シリケイト放射とメーザー放射の相関。 SiO v = 1, J = 2-1.赤線=線形フィット。 r = ピアソン 相関係数。

 環境効果 

 一方で、放射量には存在量以外の環境効果の影響も大きい。SiO メーザーに 関しては、メーザー増幅機構は SiO 量に非線形に依存する。メーザー強度は 輻射ポンピングの場合、出口、井口 1976 が示したように速度勾配に影響され、 衝突ポンピングなら Elitzer 1980 が述べたように密度に依存する。Gray et al 2009 のモデルは SiO メーザーと動的大気モデルを結合させていて、ダストか らの赤外輻射がメーザー強度に影響することを示している。これは SiO メーザ ーとダスト放射の相関を意味する。シリケイトは O-リッチ星周層に存在する ダストの主成分であるから、シリケイトダスト放射と SiO メーザー放射の相関 は予想されることである。事態をさらに面倒にしているのは、シリケイト放射 は変光位相に依存することである。SiO メーザーも位相に対しさらに不規則な 応答をする。

 直接証拠が必要 

 Reid, Menten 1997 は SiO v = 1 メーザーが 2 - 4 Rs で生じることを示し た。一方、Danchi et al 1994 は SiO メーザー星のシリケイトダスト放射が 5 - 10 Rs から出ていることを示した。このように、両者の放出領域は近接し ている。したがってその相関が高いことは SiO 分子とシリケイト核形成の間 に関係があることを示唆する。しかし、この結論は統計的なものでより直接な 証拠が必要である。





図4a.シリケイト結晶度 η とメーザー放射の相関。SiO v = 1, J = 1-0. 赤線=線形フィット。 r = ピアソン相関係数。



 図4=結晶度は無相関 

 結晶度 η = Fcry/(Fcry+Fam) は SiO メーザー放射強度との相関は殆ど認められない(図4)。 シリケイト放射強度との相関係数も r < 0.1 で殆ど無相関である。

図4b.リケイト結晶度 η とメーザー放射強度との関係。SiO v = 1, J = 2-1.赤線=線形フィット。 r = ピアソン 相関係数。

 結晶度とマスロス率も無関係 

 では何が結晶度を決めているのであろう? Jones et al 2012 は 23, 28, 33 μm 結晶放射のどれかがマスロス率と関係するかを調べた。しかし、 大体の傾向として質量放出率が高いと結晶度も高いという以外の明白な相関 は見出さなかった。Tielens et al 1998, Gail, Sedlmayr 1999 は高マスロス に伴う大きなコラム密度が結晶シリケイトの形成を助けると考えた。Liu et al 2017 は ISO/SWS から 28 O-リッチ低温度巨星を選び研究した。彼らは PAHFIT コードにより、スペクトルフィットを行い、結晶シリケイトのフラッ クス比を導いた。さらに 植田、Meixner 2003 による 2DUST コードから得た ダストマスロス率を合わせ、結晶率とマスロス率の関係を調べた。その結果は やはり、両者の相関が殆どないというものであった。


 5.まとめ 

 SiO 分子がシリケイトダストの種であるかを知るために、SiO メーザーと シリケイトダストの放射強度の相関を調べた。 PMO/Delingeha 13.7 m 鏡によ る SiO v = 1, J = 2-1 メーザー観測を ISO/SWS から選んだ 31 天体に行い、 5/31 検出を得た。  文献データと合わせ、 SiO v = 1 J = 2-1 の 21 天体と SiO v = 1 J = 1-0 の 28 天体で SiO メーザー強度とシリケイト放射強度 との間にはっきりした相関を見出した。 この結果は SiO 分子がシリケイト ダストの種になるという仮説には反しないものである。一方、メーザー強度 とダスト結晶度との相関はなかった。