LMC 中間年齢星団 NGC 1846 AGB 星の変光特性をモデルとの比較から調べた。 我々の測光モニターを MACHO アーカイブと合わせて、星団 AGB 中から 22 変 光星を検出し、周期を求めた。星団パラメタ―から大気中の C/O 比を考慮し つつ脈動モデルを作った。酸素リッチ星と炭素リッチ星ではそれぞれに適切な オパシティを使用した。 | NGC 1846 星の P-L 図を質量 1.8 Mo のモデルでフィットした。脈動周期は 炭素星に変化すると増加する。脈動特性で定義された質量から星団年齢を 1.4 Gyr とした。これは星団年齢が AGB 星変光から求められた最初の例である。 炭素星は基本振動と第1倍音振動の混合であることが示された。 |
星団メタル量 文献に報告されたメタル量は [Fe/H] = -1.5 というグループと [Fe/H] = -0.7 のグループに二分される。最近の Grocholski et al 2006 では Ca II 三重線に基づいて [Fe/H] = -0.49 を出した。 星団年齢 年齢も 1 Gyr - 4.3 Gyr に亘っている。年齢は想定メタル量と相関する。 それは同時に AGB 質量 1.3 - 1.8 Mo に対応する。 |
変光 星団 AGB 星の変光観測は今まで行われていない。 Lebzelter, Wood (2005) では、 47 Tuc 星の変光解析が脈動モードや質量放出といった AGB 星の基本的性質を 調べるのに重要であることを示した。NGC 1846 AGB 星は 47 Tuc より思いので また新しい発見が期待できる。 |
CTIO 1.3 m 鏡 V, I モニター CTIO SMARTS コンソシアムに属する 1.3 m 望遠鏡 ANDICAM を用いた測光 モニタデータが使用2データの一つである。これは、 2週間に一度の割合で星団の V, I 画像を撮る計画である。しかし、観測時間 が十分に得られなかった。それでも JD 2453584 - 2454048 の 465 日の間、 JD 2453856 - 2453950 の 95 日間の欠落があるが、63 観測を行った。 MACHOデータ 観測期間が短かったために、100 日以下の周期の変光探索には有効だが、それ より長周期の変光星には向いていない。そのため、 MACHO データベースを探した。 その結果、新たに約 250 日の変光星が二つ見つかった。 近赤外データ CTIO 観測の一部として、 J, K モニターが約3月行われた。更に ANU 2.3 m 望遠鏡に搭載した CASPIR カメラによる測光が行われた。 スペクトル型の決定 スペクトル型不明の 5つの変光星に対しては ANU 2.3 m 望遠鏡 Dual Beam Spectrograph により スペクトル観測が行われた。O-リッチ星では TiO バンド 616 nm, 705 nm の 強度に基づいて分類を行った。LW4 は晩期 K, LW 1, LE 14, LE 15 は早期 M, LW 2 は CN バンド 692 nm, 788 nm と C2 バンド 564 nm から明らかに炭素星 である。基準スペクトルは Turnshek et al 1985 を見よ。 |
![]() 図1.NGC 1846 AGB 変光星の内、スペクトル型未定星のスペクトル。 |
![]() 表1.変光報告のなかった4星の座標 23 個の変光星 CTIO/ANDICAM 領域中に 23 赤色変光星が見つかった。 19/23 は Lloyd-Evans 1980 が同定した AGB 星であった。内 2 つ, LE 9 と LE 18 は周期が決められ なかった。4/23 は過去に変光の報告がなかった。それらの座標は 表1に載せた。 それらには LW を付けた名前を与えた。 周期 長周期の星に対し、MACHO モニターにフーリエフィットした結果を図2に示 す。より短周期の星に対しては図3に CTIO データを示す。図3の LW 3 はき れいな 83 日周期を示す (J-K)2MASS = 1.17 星であるが、星団 中心から 3.5 arcmin 離れている。この星はメンバーでないとして解析から 外す。最終的には 22 変光星が NGC 1846 に属し、20/22 が周期変光を示す。 それらの周期を表2に示す。 サンプルの特徴 (1)多重周期は殆どの星に共通する特徴である。暗い星でのみ単一周期で フィットできる。周期比が2に近いものと、第2周期が非常に長いものとの 2グループに分かれる。LE 12 や LE 13 ではこの長い第2周期が支配的とな る。 (2)NGC 1846 にはミラ型星のような大振幅の星は存在しない。可視域での 変光巾は 1 等を超えない。しかし、変光周期は 300 日前後でミラ型星と重 なる星が存在する。 表2.NGC 1846 変光星。赤化補正済み。多重周期は連続する行に載せた。 コロンは不確実な周期。最終列のスペクトル型は Frogel et al 1990 より。 LE 8 と LE 13 のスペクトル型だけは Lloyd-Evans を採用。 |
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![]() 図4.右:振幅 - K 関係。左:振幅 - J-K 関係。MACHO と ANDICAM 間の フィルター差の補正は行っていない。振幅は我々のモニター観測の最大値。 点=酸素リッチ星。丸=炭素星。 AGB 先端で振幅増大化 Tanabe et al 2004b は、星が AGB 先端に達すると変光巾が急に増加すること を発見した。我々は似た関係を 〈K〉 と 〈J-K〉 の間に 見出し、図4に示す。 近赤外変光は殆ど検出不能 近赤外観測は測定エラーのレベルでの散布しか示さない。LE 5 のみは明らか にエラー範囲を超えた変動を持つ。その変光曲線を図5に示す。この変化は可視 でもはっきり確認できる。ただ、モニター期間が短いので振幅の評価までは行か ない。近赤外カラーの変化も当然小さい。 |
![]() 図5. CTIO/ANDICAM データからの、中 = J 変光、下 = K 変光。上 = 可視 変光。 |
![]() 図6.NGC 1846 AGB 先端部。赤印=変光星。黒印=非変光星。L > 6000 Lo では C/O が上昇する。 実線=モデル経路上の何点かに C/O を与えた。 破線=炭素星が He フラッシュの際に光度低下して復活する経路を示す。 NGC 1846 の距離と減光 (m-M)v = 18.54, E(B-V)=0.08, Y = 0.27, Z = 0.004 を採用する。 また、 M = 1.5 Mo 程度の中間質量星では、球状星団星と異なり、超星風以前の 質量損失は無視できる。従って、モデルでは AGB に沿って星質量一定とする。 線形脈動モデル 計算には Fox,Wood 1982 の線形、非断熱脈動コードを改訂したものを用いる。 log T ≥ 3.75 では Iglesias, Rogers 1996 のオパシティを用いた。炭素星 では炭素の増加を考えてある。log T < 3.75 では Marigo 2002 の手法を O-リッチ、C-リッチ双方で用いた。CN, CO, H2O, 低励起メタルからの寄与を、 Alexander, Ferguson 1994 のゼロメタル低温度オパシティに加えた。詳細は 別に述べる。コア質量 Mc は Wood, Zarro 1983 の L - Mc 関係から得た。 Teff の決定 脈動周期の計算には半径 = Teff が重要である。O-リッチ星では Houdashell et al 2002a,b を用いて、MK, (J-K)o から log(L/Lo), log Teff への変換が可能である。2MASS から 変換で用いられる SAAO 系への変換は Carpenter 2001 を用いた。炭素星では Bessell et al 1983 の (J-K)o - Teff 関係を用いて、Teff を、さらに Wood 1983 の K-輻射補正式から L を出す。 図6には NGC 1846 星とモデル進化経路を示す。 |
![]() 表3.脈動モデル α = L/HP O-リッチ、Z=0.004 モデルと観測の一致には混合距離を定めて Teff を NGC 1846 AGB 星のそれに合わせる必要がある。しかし、混合距離が一定のモデルは AGB 上で L が上昇する時に Teff の低下が急すぎる。α = L/HP を L と共に増加させると、大体 α ∝ L0.3、 AGB の傾き を観測に合わせられる。変化は表3に現れている。混合距離が一定で起きる問題 は等時線一般に生じる。Girardi et al 2000. 炭素星 図6を見ると、 log L/Lo = 3.8, L = 6310 Lo 付近より上の NGC 1846 星は 全て炭素星である。そこで、 L > 6000 Lo では C/O が log L/Lo に比例し て増加すると仮定した。Wood 1974 によると熱パルスを平均すると、dlog L/dt は一定であるから、この仮定はつまり、ドレッジアップ率が一定であることを 意味する。我々は L = 9000 Lo で C/O = 3 となると仮定する。我々は、 C/O の観測値を知らない。しかし、LMC 惑星状星雲の観測から AGB 末期には C/O = 3 が予想されている。 ( この仮定は大きく狂った。) CN 分子 こうして作った AGN 進化経路を図6に示す。 C/O = 1 を越すと、CN 分子の 効果により、Teff は急速に低下する。C/O = 1.3 では全ての N が CN となって しまい、その後は C/O の増加に伴う Teff の低下は緩やかになる。 Teff モデル Teff は J-K からの変換で決めた Teff ほど低くない。後に示すよう に、モデル Teff は脈動周期とよくマッチし、信頼度が高い。この温度のズレは NGC 1846 の炭素星は J-K から決めた Teff より実際には高く、ダストシェル による赤化を受けていると考えるか、J-K から Teff への変換に問題がある ことを示唆する。 二つの炭素星はヘリウムフラッシュ低光度期? 図6の破線は C/O = 2 の炭素星がヘリウムシェルフラッシュを受けた時の 軌跡を示す。 He 燃焼時に M = 1 - 2 Mo の AGB 星は約1等の光度低下を 引き起こす。サイクル期間のかなりの間、低光度状態にある。図中 log(L/Lo) < 3.7, log Teff < 3.52 の二つの星はこの低光度期ではないだろうか? |
M = 1.8 Mo が周期フィットにベスト O-リッチモデルを観測した Teff にマッチさせて、O-リッチ星の観測周期が モデル周期と一致するかどうかを見る。マッチが良くなければ、星質量を変え る。そして、新しい AGB を計算し、周期を計算し直す。こうして、 M = 1.8 Mo が最も良いと分かった。これは、Girardi et al 2000 の等時線を使うと 1.4 Gyr に対応する。図7にフィットの様子を示す。モデルのパラメタ―は 表3に載せた。O-リッチ星は、log P = 1.8, log L/Lo = 3.49 の LE 17 を例 外として、全て 第1倍音、または第2倍音振動している。 炭素星の振動モード C/O > 1 では、大気中分子が原因となった半径の増大に伴って、周期が 急速に増加する。その上、観測された炭素星は P - L 関係図上で、第1倍音か 第2倍音の上に乗っている。 ("第1倍音か基本振動" の間違い?) 炭素星のモデルが初歩的であることを考えると、フィットが 完全でないのは当然である。その上、星の光度はヘリウムフラッシュサイクルの 度にファクター2の変動を繰り返す。図7の破線は C/O = 2 の星でヘリウム シェルフラッシュサイクルに伴い、基本振動モードと第1倍音モードが変動する かを示す。log L/Lo < 3.6 の二つの炭素星はサイクルの光度極小期付近、 サイクル時間の約 20 % を過ごす、にあるようだ。全般的には、炭素星の観測 及びモデル周期は比較的良く一致する。これはモデルの半径と有効温度は本当の 値に近く、近赤外カラーから決まる温度が怪しいことを意味する。 最も明るい炭素星の周期が最も長くはない 最も明るい炭素星の周期が最も長くはないのは少し不思議である。説明の一 つはホットボトムバーニングで C/O 比を下げることである。しかし、普通は 4 Mo が必要で 1.8 Mo では無理がある。もう一つは、脈動振幅が大きくなると 非線形効果で線形モデルが与える周期が正しくなくなる Lebzelter, Wood 2005 というものである。確かに、最も明るい LE 5 のみが近赤外振幅が大きい。 しかし、近赤外変光観測の期間は短すぎて、確かなことが言えない。 マスロスで短周期は説明できない マスロスを起こして星質量を減らすと、逆に周期を伸ばす方向に行くので、 先の問題の説明には使えない。NGC 1846 では質量変化を考える必要はない。こ れは Lebzelter, Wood 2005 が扱かった 47 Tuc と大きく異なる。 47 Tuc では AGB 上で大きなマスロスが観測された。この差は Reimers' formula を考えると 説明される。 47 Tuc AGB 質量は 0.9 Mo で、同じ光度ではより低温、つまりより 大きな R を持つ。したがって、同じ L で較べると、 LR/M は NGC 1846 星の 方が 47 Tuc より大きい。 |
![]() 図7.log(L/Lo) - log P 関係。L が He シェルフラッシュサイクルでの H 燃焼 極大付近にある時の基本振動と第1、2,3倍音振動を実線で示す。He 燃焼期 では基本振動と第1倍音のみを破線で示す。 SAGE は低マスロス星を示す マスロスを発見するため SAGE/Spitzer 観測は中間赤外測光を行った。 Blum et al 2006 は [8-24] がマスロスの良い指標になることを見出した。 SAGE には 5 つの炭素星 LE 1, LE 2, LE 3, LE 6, LE 11 の測光が記録され ている。その全てで [8-24] は低マスロスを示している。Tanabe et al 1998, 2004a のリストにも対応天体が見出されている。SAGE では検出されたが、可視 対応天体がない、または非常に暗い天体が3つある。しかし、それらが星団に 属している可能性は低い。付録にそれらの詳細なデータを載せた。我々の観測 は NGC 1846 AGB 星がその先端部で極めて短い時間内に質量を失うことを示す。 ( 高マスロスは検出されていないのに?) LE 17 が不可解 P - L 図上の LE 17 の位置はやや不可解である。log L/Lo = 3.57 付近に ある二つの炭素星が低光度期にある TP-AGB 星として予想される位置にあるのだが、 この説明は LE 17 に当てはまらない。この星は P - L 関係の少し下にある O- リッチ星である。もし、 LE 17 が低光度期にあるとすると、光度極大期にはこの 星は炭素星の領域に入り込んでしまう。幾つかの説明は可能だがはっきりしない。 |
NGC 1846 で 22 個の LPV が発見された。それらの C/O 比を考慮して、 O-
リッチと C-リッチ星の夫々の脈動モデルを作った。それらは 幾つかの
log L - log P 系列の上に上手く乗った。 LPV は第1と第2倍音系列
に沿って分布した。もっと明るい星は第一倍音と基本振動系列に乗った。 O-リッチ AGB 星は第1、第2倍音に沿う。この研究で初めて AGB 星が O-リッチ から C-リッチに変わる時に、星の膨張と有効温度の低下に伴って、脈動周期が 伸びることが示された。 炭素星は基本振動と第1倍音の二つの系列に沿って分布する。O-リッチモデルは 炭素星の PL 関係には全然合わない。それらは基本振動のみを予想する。 (ここ全然分からない。) | マスロスによる質量減少は AGB に沿っては見出されなかった。これは中間 赤外の観測結果とも一致する。星団 AGB 星の振動モード解析から M = 1.8 Mo を得たが、これは脈動から質量を決めた最初である。 |
![]() 図A1.ACS/HST 画像。中央上=中間赤外源1.中央下=中間赤外源2. 画像は 13"x13". ![]() 表A1.中間赤外源の位置。 |
![]() 図A2..ACS/HST 画像。中央、ギャップの上=中間赤外源3.画像は 13"x13". ![]() 図A3.SAGE データによる中間赤外源1のエネルギー分布。 |