C(A=12) から U(A=238) までの安定元素全ての銀河系化学進化モデルを作っ た。その結果、元素の起源とその時間経過が分かった。太陽近傍では、もし 20 - 50 Mo のハイパーノバ(HNe)からの寄与が大きければ M > 30 Mo の 星は超新星にならない。低質量スーパー AGB 星からのハイブリッド WDs が所謂タイプ Iax 型超新星として爆発しない、またはスーパー AGB 星が 電子捕獲型超新星 (ECSNe) として爆発しないなら、スーパーAGB星 (太陽 近傍では 8 - 10 Mo) からの銀河系化学進化への寄与は無視できる程度である。 | 第一ピーク元素 Sr, Y, Zr は ECSNe と AGBs で十分な量が作られる。 中性子星マージャーは急速中性子捕縛(r-過程)によって Th - U までの元素 を作ることができるが、低メタル量星での観測量を説明するにはタイムスケー ルが長すぎる。Eu に見られるような進化傾向はもし 25 - 50 Mo ハイパーノバ の 3 % が磁場ー回転型超新星となって r-過程元素を作るなら説明可能である。 太陽近傍の他にもハロー、バルジ、厚い円盤における進化傾向を予言し、将来 の観測との比較に備えた。 |
元素生産 宇宙における C, N, F の約半分は中低質量星の AGB 期に作られる。 (Karakas 2010, Kobayashi et al.2011 以降 K11) 13C, 17O, 25,26Mg も AGBs で強め られる。α 元素= O, Mg, Si, S, Ca は大質量星でコアコラプス SNe 前 に作られる。F, K, Sc, V のような元素はコアコラプス型超新星の際にニュー トリノ過程で増加する可能性がある。逆に、鉄ピーク元素=Cr, Mn, Fe, Ni, Co, Cu, Zn の半分はタイプ Ia 型超新星で生み出される。これは連星中の C+O WDs の爆発である。奇数 Z 元素 Na, Al, P, ... Cu の生産には母星の メタル量が影響する。というのは生産に 22Ne からの中性子の供給 が欠かせず、それが CNO サイクルの中で作られる 14N からの He 燃焼中に作られるからである。より少ない 13C, 17,18 O, 25, 26Mg の生産もやはりメタル量に依存する。 観測によるテスト [α/Fe]-[Fe/H] 関係は SNe Ia からの Fe の産出が遅れて起きることで 説明される。したがって、[α/Fe]-[Fe/H] 関係を用いて他の銀河での星形 成史に制限を掛けることができる。 |
s-過程 Fe の先, A ≥ 64, の元素は中性子捕縛過程で作られる。Nn 約 10 7 cm-3cm の s-過程と、Nn > 1020 cm-3cm の r-過程である。 伝統的な s-過程元素= Sr - Pb は低質量 AGB 星の高 He シェル間層において 作られる。そこでは中性子の供給源は主に 13C(α,n) 16O である。弱い s-過程元素 Fe - Sr は太陽メタル付近の大質 量星と、もし高速回転が起きるなら低メタル星の 22Ne(α,n) 25Mg 反応による中性子供給により起きる。 r-過程 r-過程がどこで起きるかは論争の種である。電子捕縛超新星とニュートリノ 駆動風の計算では A > 110 の元素を作れなかった。中性子星合体は r-過程 に適当な条件を提供し、重力波の観測で存在が実証された。ただ、中性子星 合体事象のタイムスケールは観測を説明するには長すぎる。磁気回転型超新星 も r-過程の舞台として考えられている。 |
星風中低質量星と超新星爆発前の大質量星からの星風には新たに形成された元素 と元からある元素の双方が含まれる。通常、 AGB 星の核合成イールド表には この二つを合わせた数字が書き込まれる。一方超新星のイールド表には新たに 形成された方のみが書き込まれ、元からの方は星形成当時の星間空間元素組成 の値を用いて銀河系化学進化モデルに加えられる。星風質量 Mwind はMwind =Minit - Mremnant - Σipzim ここに、核合成イールド pzim はイールド表に与えられる。 Mren/Mint では 0.459/0.7, 0.473/0.9 で pzim =0 とした。 AGB 星HBBメタル量に依るが大体 Minit = 0.9 - 8 Mo は TP-AGB 期を経る。 第3ドレッジアップは 12C と他の He 燃焼元素、それに s-過程 元素の増加の原因である。Mint ≥ 4 Mo では HBB が対流層基部で起きて 表面組成が変わる。対流の結果、間パルス期に外層物質は数千回混ぜ合わさ れるからである。CNO サイクルが新たに作られた 12C を 14N に変え、NeNa および MgAL チェインは 23Na と Al を作る。 13C ポケット 第3ドレッジアップの底では対流層が部分混合層(PMZ) にまで伸び、 12C(p,γ)13N(β+)13C チェインにより13C ポケットが形成される。多くの過程が提案されて きたが、未だにどの過程が混合を駆動するか定説はない。 AGB 星モデルに 13C ポケットを取り込むことは s-過程の、特にイールドの、決定に 関する最大の不定性の原因である。 |
PMZ PMZ = 対流層底部の下どこまでのびるか(?)はフリーパラメターとして 扱う。表1には基準モデルで採用した PMZ 値を載せた。 スーパーAGB 星中心外れ炭素点火8 - 10 Mo (Z=0.02) の星の最終状態はよく分からない。K11 ではその範囲の 星の寄与は含めていない。AGB 星の上限質量 Mup,C は炭素着火の 最小星質量として定義され、メタル量が大きくなると増加する。また、 Z < 10-4 でも増加する。Mup,C の少し上では ニュートリノ冷却と(中心核の?)収縮が、中心から外れた(off-center)箇所での炭素の 炎上を引き起こす。それは内側に広がるが中心までは到達しない。これはハイ ブリッド C+O+Ne WD の形成となるのかも知れない。これらのハイブリッド WDs は SNe Iax と呼ばれる SNe Ia サブクラスの前駆星であり得る。 O+Ne+Mg WD と ECSNe この質量帯より上で、 M < 9 Moの星では, 中心外れ炭素点火は中心にまで広がる。 また、Mini > 9 Mo では炭素点火が中心で生じる。どちらでも、強く縮退した O+Ne+Mg コアができる。もし外層が星風か連星相互作用で失われると、 O+Ne+Mg WD ができる。その形成質量上限は Ne 点火の最小質量 Mup,Ne = 9±1 Mo で決まる。これもメタル量と共に増大する。 Mup,Ne < M < 10 Mo では ≥ 1.35 Mo のコアを持ち、 Ne の中心外れ点火を起こす。もし Ne 燃焼が中心まで達しなかった場合、 最終的にはコア内部で電子捕縛による重力崩壊が生じると考えられる。電子捕 縛型超新星 (ECSNe) は r-過程の舞台候補の一つである。 |
コア崩壊型超新星爆発の多次元計算は上手く行っていない10 - 25 Mo 星の爆発は2、3次元で実施されているが、タイプ II, Ib, Ic のコア崩壊型超新星メカニズムは未だ不明である。これまでの計算では観測 されるほどの量の鉄を作ることができていない。またブラックホールが形成さ れたのはごく少数例のみである。したがって、ここでは一次元計算の結果を 使用する。 1次元計算は3グループ 超新星爆発による元素合成計算は3つのグループが行っている。互いの違いは 12C(α,γ)16O の反応率、ミクシング、回転、 マスロスで、それがイールドの差を産み出す。イールドの不定性に影響する 最大の要因は残骸=中性子星、ブラックホールである。Woosley, Weaver 1995 の 鉄質量は大き過ぎることが知られ、通常ファクター2か3減らす。しかし、 それだと同じ層で作られる他の鉄ピーク元素との釣り合いが取れなくなる。 Nomoto et al 1997 では残骸天体の質量はただ一つのパラメター、質量カット、 で決定される。このパラメターは鉄ピーク元素の量が丁度良い値になるように 選ばれる。しかし、その場合残骸天体形成は質量カットのみでは上手く再現で きない。 ハイパーノヴァ(HNe) 放出物の爆発エネルギーと 56Ni (56Fe に崩壊)質 量は観測による拘束=各 SN の光度曲線やスペクトルフィット、と合うように 決められる。その結果、通常の超新星のエネルギーが E51 = E/(10 51 erg) =1なのに、多くのコア崩壊型超新星 (M ≥ 20 Mo) で E51 ≥ 10 であることが分かった。 同時に鉄と α 元素の産生も大きい。 そこでこれらはハイパーノヴァ(HNe)と呼ばれ、E51 =1の超新星 SNe II と区別される。ハイパーノヴァの割合(εHN)は不明 である。K06/K11 では M ≥ 20 Mo で εHN = 0.5 とし、 Kobayashi, Nakasato 2011 ではそれをメタル量により変え、 SNe Ibc の観測 率に合うようにした。それはこの論文でも踏襲されている。 |
![]() 表2.我々の銀河系進化モデル(GCE)で使用したコア崩壊型超新星の質量 範囲と超新星爆発に必要な条件。 多次元効果 Sc, V, Ti, Co に対しては多次元効果が重要である。 K15 では 2D ジェット 効果により、[(Sc, Ti, V, Co, 64Zn)/Fe] = 1.0, 0.45, 0.3, 0.2, 0.2 dex イールドを上げた。 星の回転は C を H-燃焼シェルの中に混入させ、大量の N を作り、それが逆に He 燃焼シェルに戻る。低メタル高速回転=spin star ではこの過程で s- 過程元素が作られる。しかし、AGB 星からの非一様な増加でも観測される N/O - O/H 関係は再現できることが分かったので、この論文では採用しない。 |
失敗型超新星 (Failed SNe)M > 30 Mo SNe 前駆星が見つからないMu,2 = SNe II 型超新星の上限質量, はよく分からない。 それはブラックホール形成の機構が不確実だからである。K06/K11 では仮に Mu,2 = 50 Mo とした。 HNe の上限も同じとした。 最近、大質量 SNe II は爆発できるのかが疑問視されるようになった。 近傍の SNe II-P の位置で前駆星を探しても M > 30 Mo の星が見つから ないからである。超新星爆発の多次元シミュレイションでは M ≥ 25 Mo の星をニュートリノ機構で爆発させることは非常に困難である。 1 D モデルでもそれは同様である。低メタル量では、コアが小さくなるので さらに難しくなる。 失敗型超新星 (Failed SNe)の導入 そこでこの論文では、失敗型超新星(failed SNe) という区分を SNe II の 大質量端に加えた。CO コアは全てブラックホールに飲み込まれ、星間空間に は物質返還がない。Mu,2 はフリーパラメターとして扱う。 失敗超新星の質量区間でも IMF 上端 Mu まで HNe は生きると する。この論文では Mu,2 = 30 Mo, Mu = 50 Mo とする。 |
対不安定性型超新星CEMP[Fe/H] ≤ -2.5 では多くの星が [C/Fe] > 0.7 と高炭素で、 CEMP 星と呼ばれる。高 s-元素 CEMP ([Ba/Fe]>1) は連星において AGB 星からの質量移転で説明された。しかし、[Ba/Fe] < 1 の CEMPs は連星、孤立星のどちらにも見つかる。faint SNe は Z = 0 時点での み存在し、M > 13 Mo で通常又はそれ以上の爆発エネルギーを示し、比較 的大きなブックホールを残して、高炭素の外層を吹き飛ばす。 faint SNe はしかし 失敗 SNe と無関係である。 PISNe M = [100, 300] Mo の星は電子陽電子対消滅不安定性の結果、鉄の光分解 温度まで到達できない。対消滅不安定超新星=PISNe の痕跡を探す努力が 重ねられたが、太陽近傍、バルジの低メタル星には見つからなかった。 そこで、この星は 今回考えない。 まとめ 表2には、コア崩壊型超新星の様々なタイプに対し、それぞれが出現する 必要条件をまとめた。 |
電子捕獲型超新星 (ECSNe)スーパー AGB 星の爆発スーパー AGB 期の最後に、24Mg(e-,ν) 24Na(e-,ν)24Ne と 20Ne(e-,ν) 20F(e-,ν)20O の二つの電子捕縛過程の結果、電子の比率 Ye が低下し、重力崩壊を引き 起こす。(Miyaji et al.1980, Nomoto 1987). 重力崩壊する O+Ne+Mg コア の端には急激な密度勾配が生じ、それが束縛の緩い H/He 外層の爆発につながる。 Kitaura et al 2006 は 1D コードで自己無矛盾なニュートリノ輸送 を含む流体力学計算を行い、爆発を成功させた。その良い例は SN 1054 で ある。Nomoto et al. 1982. 電子捕獲型超新星の核合成率 1D 計算では重元素の r-過程に必要なほどには Ye が低下しないが、 Wanajo et all 2011 の 2D 計算は Ye が 0.4 まで下がる。その結果、 弱い r-過程により A = 110 まで元素合成が進行する。我々のモデルでは Wanajo et al 2013 が計算した 8.8 Mo 星の核合成率を 全ての電子捕縛型超新星に適用する。 |
ニュートリノ駆動型星風 (ν-風)中性子星形成中性子星が形成された直後は高温高密度の星内部からニュートリノが発生し、 ニュートリノ駆動型星風が生じる。プロト中性子星の質量が 2.0 Mo より 大きいと、重い r-過程元素を放出する。それ以下の質量の場合、準核統計平衡 の結果生じる比較的軽い Sr, Y, Zr のような鉄の先の元素、および弱い r- 過程で生じる A=110 までの元素が放出される。 ニュートリノ駆動型星風による 核合成率 初期星質量-中性子星質量関係に基いて、ニュートリノ駆動型星風による 核合成率をモデルに加えた。 |
中性子星マージャー (NSMs)重力波源 GW170817Lattimer-Schramm 1974 は NS-NS と NS-BH の合体が r-過程の舞台になると 考えた。最近発見された重力波源 GW170817 はトランジエント天体 AT2017gfo と同定され、そのスペクトルは NIR にピークを持つ r-元素に富んだ放出物から の放射と可視にピークを持つ BH 円盤からの流出風からの放射とで良く説明で きる。 NS-Ns 合体の核合成率 3D シミュレイションの結果は中性子星合体の後に 10-2 Mo の非束縛物質が残ることを示した。放出物質は極端に低い電子率 Ye < 0.1 を示し、これは A > 130 の「普遍的」r-過程パターンで説明される量 であるが、A < 130 では合わない。我々は NS-Ns 合体 (1.3Mo+1.3Mo)の 3D-GR 計算の結果得られた核合成率を NS-NS とNS-BH 合体の両方に採用 する。 NS-NS 合体率 パルサーの数から、NS-NS 合体は 10-5/yr/gal と見積もられる。 ただし、この値は様々なパラメターが入り、相当不確かである。 |
磁場―回転型超新星(MRSNe)一致しない計算結果通常のコアコラプス型超新星(SNe II)が降着衝撃波不安定性が引き金となる が、強い磁場と高速回転もコアコラプス型超新星を引き起こせる。3D MHD 計算は 15 Mo, 5 105 G の星でジェット状の爆発に成功した。 しかし、 25 Mo、1012 G 星での 3D MHD GR 計算ではジェットが 乱され、爆発は最後まで行かなかった。 HNe の 3 % を MRSNe と仮定 この論文では 25 - 50 Mo HNe の 3 % を MRSNe と仮定する。 この割合の選択は太陽近傍での [Eu/Fe]-[Fe/F] 関係から定めた。 |
タイプ Ia 超新星 (SNe Ia)原因は論争中(1) チャンドラセカール質量の白色矮星の単独縮退系で起きる拡大核反応 (2) チャンドラセカール質量以下での二重縮退系からの爆発 (3) チャンドラセカール質量以下での孤立または二重縮退系での二重爆発 観測からは「正常な」SNe Ia の大部分はチャンドラセカール白色矮星であるらしい。(Scazlo et al. 2014) チャンドラセカール質量爆発 Kobayashi, Leung, Nomoto 2020 は核合成の観点から、 SNe の 75 % 以上が チャンドラセカール質量爆発でなければならないと結論した。これは彼らの 2D 流体力学計算コードを, チャンドラセカール質量とチャンドラセカール未満質量 の白色矮星爆発に適用して得た核合成放出率(イールド)に基づいている。この 論文では、チャンドラセカール質量 C+O 白色矮星の遅延爆発に対するイールドを 採用する。この新しいイールドを Z = 0.02 - 0.10 で計算した結果、Nomoto 1997b と Iwamoto 1999 の計算で生じた Ni の過剰生産の問題が回避された。 |
連星パラメター 適用モデルは C+O 白色矮星と主系列または巨星伴星との連星系である。伴星 の質量範囲はメタル量により変化する。これは白色矮星からの光学的に厚い星風 の存在がこの系の爆発に向けての進化にとって決定的な役割を持つからである。 この銀河系化学進化計算では SNe Ia の寿命分布関数は Kobayashi, Nomoto 2009 の式[2] で計算される。白色矮星風 (Kobayashi 2009) のメタル量依存性と連星 系に対する質量剥離効果も考慮された。MS+WD 系のタイムスケールは 0.1 - 1 Gyr であり、星形成銀河に多い。一方 RG+WD 系は寿命 1 - 20 Gyr で早期型銀河 で支配的である。MS+WD 系の連星パラメター bMS と RG+WD 系の連星 パラメター bRG は [Fe/H] > -1 では [O/Fe]-[Fe/H] 関係から 主に定められる。この論文では (bMS, bRG) = (0.02, 0.04) を採用した。連星パラメターには単に連星の割合のみでなく、 SNe Ia 爆発に必要な他の条件も含まれている。その結果得られた 遅延時間/寿命 の分布は Z = 0.02 で観測された結果に非常に近い。 タイプ Iax 超新星 (SNe Iax)おそらくチャンドラセカール質量未満白色矮星起源の暗い SN Ia や、 チャンドラセカール質量超え白色矮星起源の超光度 SN Ia もかなり存在する。 超光度 SN Ia の数は少ないのでこの論文では無視する。暗い SNe Ia の一部は SNe Iax に含まれるだろう。 SN Iax の伴星が観測されているので、我々は Kobayashi, Nomoto, Hachisu 2015 の単一縮退モデルを採用する。前駆天体はハイブリッド C+O+Ne 白色矮星 と仮定し、その質量範囲はスーパー AGB 計算の結果 (Doharty et al 2015) から得た。 |
一層モデル 銀河系化学進化モデルの基礎方程式は Kobayashi, Tsujimoto, Nomoto 2000 に述べられている。星間物質は常に一様と仮定する一層モデルであり、即時 再利用の近似は使わず、元素増加の長時間遅延効果は適切に扱われる。 初期質量関数 IMF = 初期質量関数には Kroupa 2008 を使用する。これは、質量範囲毎に 異なる勾配の指数関数 φ(m) ∝ m-x を仮定する。 x = 1.3 (m = [0.5, 50]), x = 0.3 (m = [0.08, 0.5]), x = -0.7 (m = [0.01, 0.08]) である。IMF は M = [0.01, 50] の区間で 1 に規格化した。 表3には IMF 重みを付けた帰還関数とコアコラプス型 SNe のイールドを 示す。ネットイールドは Tinsley 1980 に従い、1/(1-R)y = 1-2Zo で 与えられる。 主系列寿命 主系列寿命 (0.6 - 80 Mo) は Kodama, Arimoto 1997 から採った。 これは Iwamoto, Saio 1999 の進化コードにより計算されたものである。 これらは Karakas 2010 の結果と低中間質量星で良い一致を示す。 星形成史 太陽近傍、ハロー、バルジ、厚い円盤の星形成史には Kobayashi et al.2006 を用いた。IMF だけは新しくした。これらは複雑で、動径方向移動や衛星銀河 の降着などにより影響される。しかしこの論文では大まかな進化描像を得るた めに1層モデルを採用している。 ガスの出入り ガスの比率は星形成と同時に銀河系外部への流出及び外部からの流入により 変化する。星形成率はガス比率 fg に比例すると考え、fg/τs とする。 原始ガスの降着は Pagel 1997 に倣い、 太陽近傍で ∝ t exp(-t/τi) (1/t ? ) とし、他領域で ∝ (1/τii) とする。 さらに、バルジであったような銀河形成初期の爆発的星形成期や、ハローのよ うに重力ポテンシャルが浅いところではガス流出は重要な物理過程である。 流出の駆動源は超新星であり、したがって流出率はガス比率に比例し、 fg/τo である。流出はその時期の星間ガス内に含まれるメタル を持ち去る。流出ガスの一部は再び降り積もるが今回は無視する。 バルジと厚い円盤では、銀河風により t = tw で星形成が突然停止 する。その原因は多数の超新星、または中心の超巨大ブラックホールである。 採用したパラメターを表4に示す。 |
![]() 表4.GCE モデルの諸パラメター。タイムスケール(Gyr):τi =流入。τs=星形成。τo=流出。 τ=銀河風時期。 太陽元素組成 K06, K11 と比較して大きな差は太陽の元素存在比を Asplund et al. 2009 にしたことである。ただし、 O, Th, U は別。 Li, Pb 以外の大部分の元素 では太陽光球値を用いたが、それがない場合は隕石の値を使用した。 O に対しては Steffen et al 2015 から Ao(O) = 8.76 とした。これは Asplund et al. 2009 の 8.69 より高い。K06, K11 では Anders, Grevesse 1989 の Ao(O) = 8.93 を用いた。Fe 比率 Ao(Fe) = 7.51 は K06 と同じ値 である。この結果、この論文での [O/Fe] 比は K06, K11 の時に比べ 1.5 倍 大きくなっている。それは化学進化モデルパラメターの選択に影響する。 Th と U に対しては過去 4.567 Gyr の間の放射能崩壊を考え、太陽系初期の 値 Ao(Th) = 0.22, Ao(U) = -0.02 を採用する。 他研究との比較 他研究と比較する際は我々の太陽組成に合わせた値に再規格化してから 行った。 原始ガス組成 原始ガス組成も改訂した。それは D/H = 2.527 10-5, 3He/H = 1.1 10-5, Y = 0.2449, 6Li/H = 1/27 10-14, 7Li/H = 5.623 10-10 である。 |
パラメターの性質 恒星物理に関係するパラメター、例えば IMF, はそれぞれ独立な観測から 決まる。一方、銀河パラメター、例えば τi, τs, τo, は化学進化モデルからの予言値を観測と比較することで 決める。そのために最も重要な量はメタル量分布関数 = MDF である。観測 された MDF に最も良く合うパラメターを表4に示す。 図1=SFH,AMR,MDFの解説 図1の (a) = SFR 史、 (b) = 年齢-メタル量関係、(c) = 太陽近傍の MDF である。太陽近傍では星形成が過去 13 Gyr 続いてきた。 SFR は 3 Gyr 昔にピークに達し、また 年齢 5 Gyr 以上では低下する。これは白色矮星の観測 結果 (Tremblay et al. 2014) とも一致する。最近の観測では星の年齢と メタル量の間にきつい関係が成立しない。(Holmberg et al 2007, Casagrande et al 2011) . 我々のモデルでは 4.6 Gyr 昔、太陽が形成された時期の星間 物質メタル量は [Fe/H] が僅かにマイナスである。つまり、太陽はその頃の平 均値より少し高メタルであった。最近の MDF (Casagrande et al 2011) は以前 より巾が狭い。これは Edvardsson et al 1993 や Wyse, Gilmore 1995 では 厚い円盤成分の星も含んでいたせいかも知れない。MDF のピークは僅かにマイ ナスで、これも太陽のメタル量が太陽近傍の低質量星の平均メタル量より少し 高いことを意味する。 K11 モデルでは以前の古い MDF に合うようにしたが、この論文では最近の MDF に合うようにした。しかし、銀河形成以前のメタル富加や外部からの降着率の 不自然な低下というような仮定をしなかった。このため幅の狭い MDF を完全に フィットするのはなかなか難しい。 図2=バルジ、ハロー、厚い円盤 図2はバルジ、ハロー、厚い円盤に対する図1と同様の図である。化学進化 パラメターは表4に示す。最初の4モデルは K11 と同じである。ハローの 第2モデルは Carlos et al 2018 と非常に近い。 |
バルジ バルジの MDF は太陽より高い値でピークになり、高メタル側で鋭く断ち切 られる。高い星形成活動が強い流出または銀河風で中断されるモデルが MDF を上手く再現する。低メタル星が欠けていることを説明するために流入も 必要とされる。こうすると、メタル量は急速に増加し、1Gyr で太陽メタルに 達する。その結果、 [Fe/H] ≥ -1 で [α/Fe] が高くなる。 (Matteucci, Bracato 1990). 第1モデル=赤長破線は流入と形成から3 Gyr 後 の銀河風を仮定し、3 Gyr で [Fe/H] = 0.3 を得た。 それより速いメタル量上昇=平坦な MDF は、星形成期間を 3 Gyr より短く するのでなければ、必要ない。銀河系型銀河の化学動力学シミュレイション の結果もバルジの星形成を 3 Gyr としている。流出モデル=オリーブ色一点 破線、でも星形成がより緩やかに抑制される結果同様の MDF が再現される。 この第2バルジモデルでは若くて高メタルな星が形成され [Fe/H] は現在値 +0.3 まで徐々に増加する。 厚い円盤 厚い円盤=マゼンタ点長破線、でも流入流出モデルを使用した。観測された 年齢・メタル量関係 Bensby et al 2004b と良く合う。星形成期間はバルジと 同じくらい短く 3 Gyr である。星形成率はバルジより小さいが太陽近傍より 大きい。厚い円盤の [α/Fe]-[Fe/H] 関係を再現するには、星形成期間が 短いだけでなく、星形成率も強くなけれなならない。 ハロー ハローの MDF Chiba, Yoshii 1998 ピークは [Fe/H] = -1.6 で非常に低い。 ピーク巾は他領域より広い。その特徴は流入ナシで流出だけあるというモデルで 再現できる。ハロー第一モデル=緑短破線、の年齢メタル量関係は太陽近傍と 似ている。しかし、Crlos et al. 2018 は、Mg 同位体比の観測から、もっと 速い星形成を主張した。星形成期間を短くするとメタル量が高くなりすぎるの で、ハロー第二モデル=薄青点線、では流出を強くした。得られた年齢・メタ ル量関係は厚い円盤と似る。 |
![]() 図3.太陽近傍の [O/Fe]-[Fe/H] 関係。赤実線=失敗 SNe アリ。 緑点線=失敗 SNe ナシだがMu(IMF)=40 Mo. 青一点短破線=失敗 SNe アリ だが HN 比率がメタル量依存. マゼンタ一点長破線= Vincenro, Kobayashi 2018a の失敗 SNe アリ。シアン一点破線= Kobayashi et al. 2011b の 失敗 SNe アリ。観測点=Zhao et al 2016. 図3=太陽近傍 [O/Fe]-[Fe/H] 関係 図3は太陽近傍における [O/Fe]-[Fe/H] 関係である。銀河形成の初期には SNeII/HNe しか [O/Fe] に寄与せず、[O/Fe] は広い範囲の [Fe/H] に対し 平坦面を形作る。例えば、[Fe/H] = -3, -2, -1.1 に対し、[O/Fe] = 0.62, 0.57, 0.52 である。[Fe/H] = -1 付近で SNe Ia が始まる。そして、O のよう な α 元素より Fe の方が多く生み出される。その結果 [O/Fe] は低下 し始める。Matteucci, Greggio 1986. NLTE 解析 Zhao et al 2016 は多数の太陽近傍星の高分解スペクトルを NLTE 解析して 得た元素量を示した。その結果、 (a) [O/Fe] の平坦値は K06, K11 より少し高く 0.6(シアン点破線)である。 (b) 平坦面は [Fe/H] = -0.8 まで伸び、その先で急減する。[α/HFe] が 下がりだす [Fe/H] は SN Ia 前駆星モデルに依存する。その寿命よりも SN Ia 前駆星のメタル量依存性に影響される。SNe Ia に対するメタル量の影響 ナシで [α/Fe] のこの急激な変化を説明することは難しい。 (c) [O/Fe], [Fe/H] は 0 に接近する。 我々のモデルはこれら全てを上手く再現できた。 |
![]() 図4.太陽近傍の [O/Fe]-[Fe/H] 関係。赤実線=M>30Moで失敗 SNe アリ。 K20 で標識される今回の基準モデル。緑点線=M>25Moで失敗 SNe アリ。 青一点短破線=M>18Moで失敗 SNe アリ。 マゼンタ一点長破線= 失敗 SNe ナシでMu=50Mo。シアン一点破線= 失敗 SNe ナシでMu=40Mo。観測点=Zhao et al 2016. ハイパーノバ(HNe) 青短破線のようなハイパーノバ(HNe) の Z > Zo でのメタル量依存性を 仮定すると、コアコラプス型超新星からのメタル生成量は SNeIa よりずっと 少ないと仮定される。現在の HN 比率は 1 % で、残りは失敗型超新星である。 つまり、 O も Fe も作らない。これは [Fe/H] = 0 で低い [O/Fe] を与える。 これは観測とより良く合う。もしわれわれが単純に失敗型超新星を無視すれば、 予想される [O/Fe] 平坦値は観測値より高くなる。そこで、失敗型超新星ナシ のモデル= 緑点線、ではIMF の質量上限を 50 Mo から 40 Mo へ下げて [O/Fe] が観測値と合うようにした。VK18 =マゼンタ長破線、では失敗型超新星は M ≥ 25 Mo, Z ≥ 0.02 で存在し、形成される元素は全てブラックホールに 飲み込まれると仮定する。ただし、 H, He, C, N, F は SN 放出層で形成される。 [O/Fe] 図4では [O/Fe]-[Fe/H] 関係へのパラメターの影響を調べた。 我々のモデルでは SNeII の [O/Fe] は HNe より大きい。このため、 低質量側での失敗型超新星を入れたモデル=赤実線、緑点線、青短破線、は系 統的に低い [O/Fe] を与える。SNeII の上限質量を 30 Mo にすると観測への ベストフィットとなる。上に述べたように、 失敗型超新星なし、つまり SNeII が HN として 50 Mo まで伸びる= マゼンタ長破線、[O/Fe] が大きくなりすぎ る。IMF 上限を 50 Mo から 40 Mo に下げる=シアン点破線、と [O/Fe] 比は 観測と合うようになる。この結論は最近改訂された太陽 O 存在量に依存し、 K06, K11 には書かれていない。 A(O) 不定性 Zhao et al 2016 の NLTE 解析では太陽存在量が各ライン毎に得られるので、 酸素の太陽存在量が Ao(O) = 8.74 から 8.82 にまで散らばる。 (意味不明! ) 太陽存在量の選択に 0.05 の不定性があるため、失敗型超新星ナシで IMF < 40 Mo と M > 25 Mo でアリとのどちらが良いかは決められない。 |
図5ー30=[X/Fe]-[Fe/H] 関係 赤実線=我々の基準モデルにはスーパー AGB 星が含まれている。図5,6 には太陽近傍での X= C - Zn に対する [X/Fe]-[Fe/h} が示されている。 図7−30にはより多くの観測データと我々の基準モデル, K11, K15 を比較 した。 AGB 星 AGB 星の寄与=図5の緑点線、は主に C と N に現れる。Na でも少し。 青破線は超新星のみの場合である。したがって球状星団で観測される O-Na 反相関を太陽系近傍のような滑らかな星形成史で説明するのは不可能に 見える。 AGB 星はかなりの量の Mg 同位体を作るが、 AGB 星を入れても [Mg/Fe]-[Fe/H] 関係は変わらない。 スーパーAGB 星 スーパー AGB 星からの寄与=赤実線、 は非常に小さい。スーパー AGB 星を加えると C 量は僅かに上がり、 N 量は 僅かに下がる。元素存在比の変化傾向からスーパー AHGB 星に対し拘束を与え ることは極めて難しい。元素量の分散からスーパーAGB 星の兆候を見出せるか も知れない。 |
ECSNe ECSNe =マゼンタ長破線、を加えると Ni, Cu, Zn は少し上がる。それらの イールドはカニ星雲において Ni/Fe が高い値を持つ事と良く合う。 SNeIax SNe Iax を加えても加えなくても太陽近傍での組成比に影響しない。それは ハイブリッド WDs の質量巾が狭いからである。しかし、矮小楕円銀河のような 低メタル量の系では重要かも知れない。 失敗型超新星 失敗型超新星を入れた我々の基準モデル=図6の赤実線、は主要元素の観測 と良い一致を示す。K11 と比較して一致は良くなった。改善の原因は主に 失敗型超新星=大質量 SNe II を入れたこと,それに太陽元素量の改訂にある。 HNe HN 比率にメタル量依存性を加えると=青短破線、Cu と Zn が [Fe/H] ≥ -1 で不足する。このため我々は HN 比一定のモデルを採用した。 |
![]() 図7.太陽近傍での [C/Fe]-[Fe/H] 関係。実線=本論文。破線=Kobayashi et al.2011. [C/Fe] のピーク値 宇宙に存在する炭素の半分は M > 10 Mo の大質量星で作られる。残りは 1 - 4 Mo の低質量星で作られる。K11. しかし、低質量星は Fe を作らない ので [C/Fe] の増加には良く効く。図7では基準モデル=実線、が K11 = 破線 より少しフィットが良い。AGB イールドを加えると、図5の緑点線にあるように、 [C/Fe] は、4 Mo 星の寿命 0.1 Gyr に相当する [Fe/H] = -1.5 付近から上昇 を開始する。[Fe/H] = -1 で [C/Fe] = 0.21 (s-過程が入ると 0.16) に 達する。この値は AGB ナシの場合=図5の青短破線、に比べ 0.31 dex 大きい。 スーパーAGB 星を加えても=図5の赤実線、[C/Fe] は 0.004 dex しか上がら ない。[C/Fe] のピーク値は Zhao et al 2016 の観測値と良い一致を示す。 非一様元素分布の効果 しかし、 [Fe/H] = -1 から外れたところでは [C/Fe] のモデル値は観測に 比べ 0.1 - 0.2 dex 低い。その原因の一部は単層モデルに原因がある。 化学力学シミュレイションにおける非一様元素分布では [C/Fe] 変化は 弱くなる。特に、非一様元素量分布を考慮すると [Fe/H] < -1.5 で AGB 星が寄与する可能性がある。Kobayashi 2014, Vincenzo, Kobayashi 2018a. |
![]() 図8.太陽近傍の [C/O]-[O/H] 関係。モデルラインは図3に同じ。 [Fe/H] ≥ -1 で [C/Fe] は低下 [Fe/H] ≥ -1 で [C/Fe] は低下することが Bensby, Feltzing 2006の LTE 観測(8727 A CI 禁制線)や Zhao et al 2016(CI, CH, C2 線) のNLTE 観測から示される。我々のモデルも SNe Ia の効果で [C/Fe] が低下 する。しかし低下は観測より急である。Pignatari et al 2016 はオーバーシュ ートの効果で AGB 星からの C イールドが増加することを示した。それは同時に s-過程元素も増やす。図7破線に示す K11 モデルは[Fe/H] ≤ -1 で基準モ デル=実線より低い [C/Fe] を与える。これは 採用した太陽炭素組成 Ao(C) が 8.56 と AGSS09 の 8.43 より高いためである。 [Fe/H] ≤ -2.5 での [C/Fe] [Fe/H] ≤ -2.5 でモデル [C/Fe] は Spite et al 2006 の観測と良い一致 を示す。良く知られているように、極端に低メタルな星(CEMP)のかなりで炭素 量が増加している。図には Cohen et al 2013 と Yong et al 2013 のデータを 小さなシンボルで示した。CEMP 星の原因として暗い超新星が考えられる。 それは我々のモデルに含まれない。 [C/O] - [O/H] 図8には図3モデルに対する [C/O]-[O/H] 関係を示す。低メタルでは 少しの散らばりはあるが、全てのモデルが [O/H] = -1 から -3 にかけて 弱い増加を示す。我々のモデルは観測と良い一致を示す。高メタルでは 全てのモデルが予想する [C/O] は観測値より大幅に低い。HN 率はメタル量に 依存するモデル=青短破線、が観測 [C/O] に最も近い。 AGB 星からの C イールドはもっと強いオーバーシュートでより大きいのかも知れない。 しかし、それが 0.3 dex の不一致を説明するに十分かどうか不明である。 |
![]() 図9.図7に同じだが、[N/Fe]-[Fe/H] 関係。 [N/Fe] ピーク 炭素と違い、窒素は主に 4 - 7 Mo AGB 星である。K11. そのため、[Fe/H] = -2.5 で既に AGB 星からの寄与(図5緑点線)が現れる。[Fe/H] = -1 で [N/Fe] = 0.37 に達する。この値は AGB ナシのモデル、図5の青破線、より 0.94 dex 高い。スーパー AGB 星を入れると、[N/Fe] ピークは少し上がって 0.44 となり、観測との良い一致を示す。 [Fe/H] ≥ -1 で [N/Fe] 減少 [Fe/H] ≥ -1 では SNeIa の結果、 [N/Fe] の減少が始まる。観測データ ではこの傾向は明確でない。しかし、[Fe/H] = 0 で [N/Fe] = 0 であり、こ れは我々の AGB とスーパー AGB を加えたモデルと良く合う。AGB ナシモデル では [Fe/H] = 0 で [N/Fe] = -0.59、図5青破線、で、K11 モデルでも -0.23 である。図9を見ると、今回の基準モデル、実線、が K11 モデル 破線 より良く合うことが分かる。この差は主に採用した太陽組成 Ao(N)=8.05 (AG89) と 7.83 (AGSS09) との差に起因する。 |
![]() 図10.図3と同じだが、N/O - O/H 関係。 [Fe/H] ≤ -2.5 で [N/Fe] 減少 [Fe/H] ≤ -2.5 では、 AGB ナシでもアリでも、単層モデルでは [N/Fe] に差はない。しかし、非一様性を入れると、[Fe/H] ≤ -2.5 でも AGB 星の 寄与が現れる。Kobayashi, Nakasato 2011. 失敗型超新星 Vincenzo, Kobayashi 2018b は失敗型超新星モデルで N/O-O/H 関係の観測 結果を説明した。図10には太陽近傍の星に対し N/O を O-量に対して表した。 全てのモデルがメタル量増加に伴い N/O が急増することを示す。VK18 モデルは もっとも急で、銀河の N/O0O/H 関係を良く説明する。 |
![]() 図11.図7に同じだが、[O/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図12.図7に同じだが、[Mg/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図13.図3と同じだが、[Mg/O]-[O/H] 関係。 |
![]() 図14.図7に同じだが、[Si/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図15.図7に同じだが、[S/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図16.図7に同じだが、[Ca/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
平坦値 α 元素 O, Ne, Mg, Si, S, Ar, Ca に関しては O と同様の傾向、 すなわち SNeII/HNe による平坦部と SNe Ia による [Fe/H] = -1 からの減少 が見られる。NLTE 観測による平坦値は [O/Fe] = 0.6 であり、Clegg, Lambert, Tomkin 1981, Melendez, Barbuy 2002, Fulbright, Johnson 2003 の LTE 解析 結果とも一致する。 Mg の平坦値 しかし、[Mg/Fe] の観測値は 0.3 dex 低いかも知れない。Cayrel et al 2004 は [Mg/Fe] 平坦値を 0.27 としたが、 Mg 線の等値巾を低く見積もって いるとして、 Andrievsky et al 2010 は改定値を LTE で 0.31, NLTE で 0.61 とした。しかし、Reggiani et al 2017 による LTE 微分法解析は Zhao et al 2016 の NLTE 解析と近い低い平坦値を出した。このように Mg の解析は今後の 進展が必要である。 [Mg/Fe] 我々の基準モデルでは図12に示すように、([Mg/Fe], [Fe/H]) = (0.45, -3), (0.45, -2), (0.43, -1.1) である。この [Mg/Fe] は [O/Fe] より 0.15 しか 低くない。図13には O/Mg 比の O 量に対するプロットを様々なモデルで 示した。モデル [O/Mg] は 0.25 を超えることはないく、[O/H] = [-1.5, -0.5] 区間では観測値よりも低い値を示す。 |
[O/Mg] O と Mg の大部分は大質量星進化の過程で静力学平衡状態での核燃焼により 形成される。そのため、超新星爆発で [O/Mg] を大幅に変更することは難しい。 2.1.節で述べたように12C(α,γ)16O の反応率が変われば、[O/H] ≤ -0.5 での大きな [O/Mg] 平坦部観測値を説 明できるかも知れない。 この論文で使うコアコラプス型超新星のイールドは Caughlan, Fowler 1988 が 与えた値の 1.3 倍大きい。彼らの値は deBoer et al. 2017 が計算した値の 最高で2倍低い。しかし、高メタルでは [O/Mg] を観測値ほど高くすることは 困難である。観測値の幾つか=白丸と黒三角、は高メタルで [O/Mg] が低下 するかも知れないことを示している。 [Si/Fe] [Si/Fe] と [Ca/Fe] の観測平坦値も [Mg/Fe] と同様に 0.3 である。我々の 基準モデルでは、([Si/Fe], [Fe/H]) = (0.58, -3), (0.51, -2), (0.52,-1.1) で観測より 0.2 dex 高い。また([Ca/Fe], [Fe/H]) = (0.28, -3), (0.21, -2), (0.25,-1.1) で観測より 0.1 dex 低い。Si と Ca は超新星爆発の影響を受ける。 O や Mg と同様に 12C(α,γ)16O 反応率 で解決するかどうかは不明である。 [S/Fe] S ラインはライン毎に異なる NLTE 効果があり、 組成比の決定が難しい。基準モデルの予想は、 ([S/Fe], [Fe/H]) = (0.52, -3), (0.45, -2), (0.47,-1.1) で、Spite et al. 2011 と Nissen et al 2007 より 0.1 dex 高い。しかし、 Takada-Hidai et al. 2005 の低メタルでの観測とは良く合う。高メタルでは K11 は Chen et al 2002 や Costa Silva et al 2020 の観測とやや良く合う。S の太陽存在量 Ao(S) の K11 で採用した値は 7.27(AG89) や 7.12(AGS09) より高いことを注意する。 |
![]() 図17.図7に同じだが、[Na/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図18.図7に同じだが、[Al/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図19.図7に同じだが、[P/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図20.太陽近傍 [Cu/Fe]-[Fe/H] 関係。実線=本論文モデル。破線= Kobayashi et al 2011 モデル。一点破線=s-過程を含めたモデル。 |
[(Na, AL, Cu)/Fe] 奇数 Z 元素の生産は、CNO サイクルで作られる 14N から He 燃焼で作られる 22Ne からの中性子供給に依存する。 したがって、イールドは前駆天体のメタル量に依存する。基準モデルでは、 [Fe/H] ≤ -1 領域では [(Na, AL, Cu)/Fe] は低メタル側に向かって減少 する。図17−20 を見よ。Na, Al 量の観測値は NLTE 効果に大きく影響される。 我々のモデルは NLTE 観測とも LTE 解析ともよく一致する。 [Fe/H] ≥ -1 では SNe Ia の寄与により、高メタル側に向け、Na と Al が減少する。ただし減少幅は α 元素ほどでない。新しい反応率を用い、 AGB 星からの Na イールドが K11 で導かれた。 [Cu/Fe] Cu の LTE データは散乱が大きいが、我々のモデルは [Fe/H] = -2.5 で [Cu/Fe] = -0.63 で観測平均値と合う。しかし、 Andrievsky et al 2018 は NLTE 解析に基づき、[Fe/H] = [-4, -1.5] にそのような傾向はないとした。 ただし、Shi et al 2018 の NLTE 解析は我々のモデルに合う観測結果を導い ている。CuI と CuII 双方のラインを用いたより詳細な観測が必要である。 |
Cu Cu は K11 モデルで [Fe/H] ≥ -1 で Al と同様に出来過ぎになる。 図20破線。この問題も今回の基準モデル(実線)では解決した。s 過程(点 破線)により AGB 星も Cu 産生にいくらか寄与する。 P 最近 近紫外と赤外で P の観測が可能となり、図19に比較した。予想と 観測との一致は比較的良い。 |
![]() 図21.図7に同じだが、[K/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図22.太陽近傍 [Sc/Fe]-[Fe/H] 関係。実線=本論文モデル。破線= Kobayashi et al 2011 モデル。点線=HN ジェット効果を含めた Kobayashi et al 2015 モデル。 |
![]() 図23.図22に同じだが、[Ti/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図24.図22に同じだが、[V/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
モデル K, Sc, V, Ti は低目 K, Sc, V, Ti の理論値は前メタル量領域で観測値より低いことが知られて いる。ある種の多次元効果(点線)で Sc, V, Ti 存在量を上げることが可能 である。つまり、 Sc と Ti のイールドは 2,1 説で述べたようなジェット 誘導型超新星で大きく増加し得る。K, Sc, V はまたニュートリノ過程にも 影響されるがあ、その効果はこの論文では扱われていない。星の回転は Cl, K, Sc 量を増加させるが、 V はそうでない。Cl. K, Sc は O-C 合体の際の 静止流体力学的燃焼で増加するかも知れない。 |
[(Cl, K, Sc)/Fe] 基準モデルでは [(Cl, K, Sc)/Fe] は {Fe/H] が -3 から -1 にかけて弱い 増加を示す。これは SN II/HN イールドのメタル量依存性のためである。太陽 の Cl 量が 0.37 dex 増加したことに注意せよ。モデル [Cl/Fe] はずっと負で、 [Fe/H] = -2 での値は -0.8 である。これは K や Sc と同じである。 [(Ti, V)/Fe] Ti と V のイールドは前駆天体のメタル量にあまり影響されない。したがって、 [Fe/H] ≤ -1 では [(Ti, V)/Fe] は平坦である。 これらの元素比は [Fe/H] > -1 で弱い低下傾向を示す。これは SNe Ia のためである。 |
![]() 図25.図7に同じだが、[CrII/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図26.図7に同じだが、[MnI/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図27.図7に同じだが、[MnII/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図28.図22に同じだが、[CoI/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図29.図22に同じだが、[Ni/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
![]() 図30.図22に同じだが、[Zn/Fe]-[Fe/H] 関係。 |
NLTE 効果 鉄ピーク元素は超新星の熱核爆発とコア崩壊型超新星爆発時の Si 燃焼 で形成される。したがって、その存在量を正確に決めることは爆発機構に拘束 を掛ける上で極めて重要である。しかし、鉄以外の元素に対する NLTE 効果は あまり研究されていない。その研究は緊急性がある。 図25ー30で比較 図25ー30には我々のモデルを LTE 解析の結果と比べた。K06 の図20と 21に示される通り、 CrI と CrII の差は大きい。そこで、この論文では Cr II 観測データのみを用いた。鉄ピーク元素の太陽存在量の違いは 0.1 dex 程度である。 Mn, Cu, Zn は 0.1 dex 減少、Co は 0.1 dex 増加である。 Cr, Mn, Zn, Co [Fe/H] = [-2.5, -1] では [(Cr, Mn, Zn)/Fe] モデル値は観測値 [Fe/H] = -2 で (0.07, -0.56, 0.18] と大体合う。[Fe/H] = -2 で モデル [Co/Fe] = -0.20 は観測値より 0.3 dex 低い(図28)。しかし、 点線のように HN のジェット効果を加えると増加する。ただし Cowan et al 2020 は Co I と Co II 存在量に大きな差があることを見出した。より 多数の観測が必要である。 |
Ni NiI と NiII 存在量にはそのような差はない。図29に示すように、[Fe/H] = -2 でのモデル値 [Ni/Fe] = -0.19 は観測値に比べ 0.2 dex 低い。Ni と Fe の双方共に Si 燃焼で形成されるので、両者の比を変化させることは難しい。 [Fe/H] ≥ -1 [Fe/H] ≥ -1 では上の比はほぼ一定である。ただ、[Mn/Fe] だけは例外 である。それは鉄ピーク元素が SNe Ia でも作られるからである。 [Fe/H] < -2.5 での観測データは [(CoI, Zn)/Fe] が低メタル側に向かって 増加することを示す。ただ、そこでは非一様組成増加が効くので議論しない。 |
2D 遅延爆発モデル SN Ia の物理に拘束を掛ける上で Mn は最も重要な元素である。 何故なら Fe に比べると、 Mn は相対的に SNII/HN よりも SNeIa でより多く生産されるからである。Mn イールドは SNe Ia の爆発モデル、 間接的には前駆天体モデルに依存する。この論文では、2D 遅延爆発 モデルを採用する。 |
[Fe/H] ≤ -1 [Fe/H] ≤ -1 ではモデル [Mn/Fe] は平坦であり、 ([Mn/Fe], [Fe/H]) = (-0.56, -3), (-0.55, -2), (-0.43, -1.1) となる。 これは、IMF 重みを付けた SN II/HN イールドで決まり、図26と整合である。 NLTE 効果の影響などを調べるさらなる観測が必要である。 [Fe/H] > -1 [Fe/H] > -1 では, 高メタル側に向かって [Mn/Fe] は増加して行く。 これは SN Ia の遅延増強効果のためである。この効果は SNe Ia 前駆天体の 拘束に利用された。このような平坦部と増加の組み合わせは Gratton 1989 が最初に発見した。 |
亜鉛 (Zn) Zn はコア崩壊型超新星の物理を探るために最も重要な元素の一つである。 というのは 6430Zn は HNe の最深部の爆発エネルギー が大きく高エントロピー領域で形成されるからである。こうして [Zn/Fe] は 多次元効果で増加する、図30の点線。 ニュートリノ過程 Zn のイールドはニュートリノ過程とその結果の Ye に潜在的に依存している。 しかし、注意しておきたいのは、Zn が増加するのは Ye が約 0.5 の薄い層である。 Ye があまりに 0.5 に近いと 5525Mn のイールドが 小さくなりすぎる。そこで K06 では Ye = 0.4997 という値を不完全 Si 燃焼 領域に与えた。Zn の高中性子同位体 66-70Zn もまた中性子捕獲 過程で作られ、そのイールドは高メタル大質量 SNe II で大きい。AGB 星 s 過程による寄与は非常に小さく [Fe/H] = 0 で [Zn/Fe] を 0.004 dex 上げる のみである。 |
HN の寄与 もしわれわれが 2.1.節のように大きな割合の HNe を仮定したら、 広い範囲のメタル量に対して [Zn/Fe] = 0.2 である。これは K11 モデル より 0.1 dex 大きいが、その原因は主に採用した太陽組成の違いによる。 我々の [Zn/Fe] は観測結果と良く合う。Sneden, Crocker 1988 は [Fe/H] ≤ -2.5 で [Zn/Fe] が増加することを見出した。最近の観測は [Fe/H] = -1 から低メタル側へ [Zn/Fe] が線形に増加し、Taakeda et al 2005 はNLTE 補正を行うと勾配がさらに急になるとした。これは銀河形成初期 には HN の比率がより高かったことを意味するのかも知れない。K06 メタル量依存性の HN 率 [Fe/H] = -1 から -0.5 にかけて、[Zn/Fe] の観測値は低下して行き、その 先 [Fe/H] = 0 までやや増加する。Saito et al 2009. 我々の基準モデルは この反り返りを上手く再現する。メタル量依存型の HN 比率を使うと、 「Zn/Fe] は [Fe/H] =−1 から 0 まで連続的に減少する。これは図6に 見られる高メタルでの傾向の下限を与える。 Co と Cu メタル量依存型の HN 比率を使った時には Co と Cu にも同様な問題が 生じる。しかしこのような問題は Kobayashi, Nakamoto 2011 の化学動力学 シミュレイションでは起きなかった。 |
12C/13C 比 図31は [Fe/H] に対して同位体比の変化を示す。赤実線=AGB + スーパー AGB を入れた基準モデル、赤短破線=スーパーAGB ナシ、赤長破線=スーパー AGB も AGB もナシである。モデル 12C/13C 値は [Fe/H] = 0 で 77.0 である。この値は太陽の 89.4 より僅かに低い。t = 13.8 Gyr での値は 62.7 で近傍星間物質での値 68 と良い一致を示す。AGB ナシ だと 12C/13C 値が高くなりすぎる。スーパー AGB は 12C/13C をさらに低下させ、Romano et al. 2019 の観測と合う。N の所で述べたように、低メタル量では非一様な同位体増強が 観測を説明する。 14N/15N 15N の形成量不足は良く知られている問題である。その解決には 新星や大質量における H 摂取のような形成源を必要とするかも知れない。 スーパー AGBs は 15N よりも 14N を多く生産し、 したがって 14N/15N をさらに大きくしてしまう。 N-型炭素星では 14N/15N = 1000 が観測されている。 これは He シェルにおける 15N の生産を必要とするかも知れない。 (破壊でないのか? ) 16O/18O 16O/18O のモデル値は [Fe/H] = 0 で 484 である。 この値は太陽値 499 と良く合う。、t = 13.8 Gyr では 389 であり、これも 星間物質での値 385 と合う。17O は AGB, スーパーAGB で作られ 過ぎ、16O/17O が太陽値のファクター 1.5 倍小さく なってしまう。しかし、最近の LUNA 地下実験(Bruno et al 2016)による 17O(p,α)14N 反応率の測定は以前より 2 - 2.5 倍大きな値を与え、この新しい値を用いた計算が必要である。 |
21,22Ne/20Ne 太陽 21,22Ne/20Ne 比は AGB アリモデルで上手く 説明できる。 24Mg/25,26Mg 24Mg/25,26Mg のモデル値は太陽の観測値より高い。 主要/弱小 同位体比 一般的に弱小同位体は高メタル SN II/HNe で増強されるので、主要同位体- 弱小同位体はメタル量と共に低下していく。失敗型超新星なし、 IMF 上限 40 Mo, 図6の緑点線、は大体同じ傾向の変化を与える。一方、メタル量依存 HN 比率モデル、図6の青短破線、は少し緩い傾きの同位体比変化を与える。 メタル量依存 HN 比率モデルは太陽 Zn 同位体比を上手く説明するが、 Zn 量自体は HN ナシのモデルの方が上手く説明する。 電波観測 同位体比は電波分子線の解析からも得られる。 Zhang et al 2018 は高赤方 偏移銀河の観測から IMF の変化を提案した。この図は高赤方偏移銀河の データを小エラーバー点で示すが、それらは対応する t = 6.3 Gyr モデル点 のどれとも合わない。 |
図32=中性子捕獲元素の進化 図32は太陽近傍での中性子捕獲元素の進化を示す。Au のような元素は 紫外スペクトルでしか観測ができず観測例は少ない。Hansen et al 2018 の R-process Alliance のような体系的な観測により今後観測例は増えて行く であろう。 二つの有名な星 この分野には二つの有名な星がある。CS 22892-052 は r-過程元素超過星 として Sneden et al 2014a が報告した。 [FeI/H] = -3.24, [FeII/H] = -3.16 である。HD 122563 は比較的低い r-過程元素量を示し、[FeI/H] = -2.97, [FeII/H] = -2.93 である。 6つの GCE モデル 図には6つの GCE モデルの結果を示す。 Ni までは元素進化に差はない。 Ga と Ge は主にコアコラプス型超新星で形成される。その予想傾向は 観測と一致する。 軽 s-過程と重 s-過程 青長破線=AGB 星からの s-過程元素は Pb までの元素を形成する。その寄与 が現れるのは軽 s-過程元素(Sr, Y, Zr)では [Fe/H] = -2 から、重 s-過程 元素では [Fe/H] = -1.5 からである。これは軽 s-過程元素が中間質量星から 作られるのに対し、重 s-過程元素が低質量星から形成されるからである。 [Fe/H] = 0 では第1 s-過程ピークに属する Sr, Y, Zr の 70 % が AGB 起源 であるが、Mo, Ru, Ag の半分かそれ以下が s-過程起源となる。Arlandini et al, 1999. 第2 s-過程ピークに属する Ba, KLa, Ce は 50 % 過剰生産の結果 となるが、 Pr, Nd は太陽存在量を再現した。Eu - Tm と Ir は典型的 r-過程元素であり、 s- 過程の寄与は 30 % 以下である。Yb と Hf は s-過程からの寄与が大きい。最後に Pb は第3 s-過程ピークに属し、これも 30 % 作り過ぎとなる。 |
Xmix の低減化 [Fe/H] = 0 の時点で、第2(Ba)、第3(Pb) s-過程ピーク元素が形成過剰 になることから、適用した s-過程イールドが大き過ぎると判断される。 2.1.節に述べた通り、AGB モデルで s-過程元素が作られる質量範囲は Xmix というパラメターで制御される。2.1.節にも述べたが、Xmix は 既に Karakas, Lugano 2016 の 2 10-3 から 1 10-3 (M=2Mo, Z=0.0028, 0.0014) へと減少されている。Xmix の減少は第2 ピーク元素をC-リッチ炭素星の観測 (Abi et al 2002) に近づける。この論文 で考えているより小さな Xmix はまた隕石 SiC グレイン中の Sr, Zr, Ba の 同位体比の範囲をよくカバーする。 電子捕獲型超新星(ECSNe) 薄青短破線=電子捕獲型超新星アリにしても、図5に見るように [(Cu, Zn)/Fe] は 0.1 dex しか増えない。しかし、As, Se, Rb, Sr, Y, Zr は [Fe/H] = -3 から大きな増加が見られる。 Rb は AGB より ECSNe でより 多く形成される。ECSNe 前駆星は AGB 前駆星より質量が大きいので ECSNe の寄与は AGBs より早く始まる。 ニュートリノ駆動風 緑点破線=ニュートリノ駆動風アリでは、Sr - Ag が大きく過剰形成される。 これは大きな問題である。したがって、この図の他のモデルでは ニュートリノ駆動風は含めていない。ニュートリノ駆動風はコアコラプス型 超新星に付随するので、その寄与は [Fe/H] << -3 である。 NS-NS 合体 オリーブ点線=NS-NS 合体アリでは Zr より重い元素が [Fe/H] = -3 から 増加し始める。中性子星前駆天体は電子捕獲型超新星より重いが、二つの NSs 合体には遅延がある。遅延時間は NS-BH 合体ではより短く、もし 橙点短破線= NS-BH 合体でも似た r-過程が起きるなら、 [Fe/H] = -4 で元素増加が始まる。 我々の単層モデルでは、非一様組成増加が起きる [Fe/H] ≤ -2.5 での確実 な結論は出せない。NS-NS/NS-BH 合体は Pb は作らないが Th と U は作る。 |
磁場回転型超新星(MRSNe) 低メタル星の観測から [Fe/H] ≤ -3 までには既に中性子獲得元素の増加が あることが知られている。そのためには NS-NS/NS-BH 合体よりも短い遅延時間 の別過程が必要である。磁場回転型超新星(MRSNe) は星形成から 1 Myr で起き るコアコラプス型超新星の一種であるから、この過程にピッタリである。 実際。赤実線= MRSNe アリのモデルは [Fe/H] ≤ -3 で高原を示す。これは ニュートリノ駆動風と似ているが、元素間の比率はより観測に合う。Sr - Ru でその高原値はニュートリノ駆動風の値よりも低く、[(Sr, y)/Fe] = -1, [(Zr, Mo, Ru)/Fe] = 0 である。Ag に対しては、磁場回転型もニュートリノ 駆動型も過剰形成となる。しかし、観測自体が数点しかない。 同様の過剰形成が Pd, Cd に見られる。磁場回転型とニュートリノ駆動型は、 低メタル星の低い [Ba/Fe] を説明できる。しかし、[Fe/H] = [-3, -2] では 非一様増加過程を通じてAGB 星がより大きな寄与をするだろう。 Sn より重い元素の平坦値 Sn より重い元素の平坦値は磁場回転型がニュートリノ駆動型より高く、 観測に合う。 Te データは一点だけだが、磁場回転型の方に近い。 Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb の観測は 磁場回転型と合うが、La, Ce, Pr の [Fe/H] ≤ -2 の観測より低い。 |
磁場回転型の合う元素 Ba(図36)と同様に、非一様増加を考えると、これらの元素は [Fe/H] = [-2, -2] で AGB 星による増加があるかも知れない。 対照的に, cは図37に見られるように [Eu/Fe] の変化を上手く再現 する。このモデルは、 Os, Ir, Pt でも許容範囲であるが、 Au は不足する。 Au 観測は有名な r-元素過剰星、 BD+17°3248, CS 22892-052, CS 31082-001 のみである。最後に、磁場回転型は低メタル星と太陽の Th を説明する。 注意点 (この個所はよく考えること! ) 我々の GCE モデルの予想は各時点で長期ディケイの後で(???)あり、原始 太陽組成で規格化されている。したがって、予想線は [X/Fe] = [Fe/H] = 0 を 通ると期待される。しかし、観測点は AGS09 から得た現在の太陽値で規格化され、 観測星が太陽と同じ年齢であると仮定している。Th に比較し、しかし、 U の イールドはより過剰生産されているかもしれない。これは磁場回転型ではより 深刻で、M(Th)/M(U) = 0.18 を与える。一方 NSM では M(Th)/M(U) = 0.58 である。我々が採用した太陽値は Mo(Th)/Mo(U) = 1.7 である。 |
Sr, Y, Zr![]() 図33.太陽近傍での [Sr/Fe] - [Fe/H] モデル。破線=s-過程のみ。 実線=s-過程+r-過程。 Sr 図33−37はもっと多くの観測点を、破線=s-過程のみと実線=s+r- 過程=S-過程、ECSNe, NS-NS/NS-BH 合体、MRSNe の二つと比較した。 図33では基底水準の [Sr/Fe] = -0.8 ([Fe/H] ≤ -3.5)は MRSNe に よる。[Fe/H] = -3.5 からの上昇は ECNe により、[Fe/H] = -2.5 からは AGB が効いている。[Fe/H] = -1 からは SNe Ia の効果で低下し始める。 実線は [Fe/H] = 0 で [Sr/Fe] = -0.064 を示す。減少勾配は [Fe/H] = -0.3 で緩くなるが、これは AGB 星からの寄与が増加してきたためである。 以上の傾向は観測データと良く合う。 |
![]() 図34.太陽近傍での [Y/Fe] - [Fe/H] モデル。破線=s-過程のみ。 実線=s-過程+r-過程。 Y 図34では [Fe/H] = -3.5 で [Y/Fe] = -0.4 である。 [Fe/H] = -3 から −1までは緩やかに上昇し、[Fe/H] = -1 からは SNe Ia のために減少して行き、 [Fe/H] = 0 で [Y/Fe] = -0.096 となる。この傾向も また観測と良く合う。 |
![]() 図35.太陽近傍での [Zr/Fe] - [Fe/H] モデル。破線=s-過程のみ。 実線=s-過程+r-過程。 Zr 図35では MRSNe の効果で [Zr/Fe] は 急増して +0.4 に達し、[Fe/H] = -1 までほぼ一定を保つ。[Fe/H] = -1 からは SNe Ia のために減少して行き、 [Fe/H] = 0 で [Y/Fe] = 0.098 となる。この傾向も また観測と良く合う。 共通点 Sr, Y, Zr には主に ECSNe と AGBs で作られるという共通点がある。 相対的な寄与の割合が異なるに拘わらず、 S;R モデルは観測を上手く説明した。 |
バリウム![]() 図36.太陽近傍での [Ba/Fe] - [Fe/H] モデル。破線=s-過程のみ。 実線=s-過程+r-過程。 Ba は AGB 星 s-過程の特徴的元素である。図36 では r-過程により、 初めから [Ba/Fe] = -1 の基底値に達している。s+r モデルではその後 [Fe/H] = -2 から上がりだす。しかし、観測では [Fe/H] = -3 からである。 この食い違いの一部は我々の単層モデルでは無視されている非一様増加過程 に依るに違いない。 |
ヨーロピウム(Eu)![]() 図37.太陽近傍での [Eu/Fe] - [Fe/H] モデル。破線=s-過程のみ。 実線=s-過程+r-過程。 図37で s;r モデルは [Fe/H] << -3 で既に [Eu/Fe] が太陽越え になっている。この平坦値 +0.5 は MRSNe の比率に依存する。観測に合わせ るため、 HN の割合を 3 % とした。[Fe/H] = -1 からは SNe Ia の影響で [Eu/Fe] は低下し、[Fe/H] = 0 で [Eu/Fe] = 0.038 となる。この傾向は 観測と良く合う。 |
鉛(Pb)![]() 図38.太陽近傍での [Pb/Fe] - [Fe/H] モデル。破線=s-過程のみ。 実線=s-過程+r-過程。 Pb もまた AGB 星の特徴的な元素であり、 s-過程の第3ピークに属する。 観測データは非常に少ない。図38を見るとモデルの傾向は Ba と 似ている。 |
図39の説明。 図39の各ボックス内では、元素ごとに形成源の寄与を時間の関数として 色分けした。横軸= 0 - 13.8 Gyr. 縦軸=X/Xo。X(点線)は太陽年齢 4.6 Gyr. Y(点線)は X/Xo = 1 を示す。太陽は同時期星に比べやや高メタルなので、 基準モデルが [O/Fe] = [Fe/H] = 0 を通るのは太陽形成時より少し後になる。 そこで、この図のモデルでは τo = 4 Gyr とした。 黒=ビッグバン合成。 緑=AGBs. 青=コアコラプス超新星(SNeII, HNe, ECSNe, MRSNe含む) 赤=SNe Ia. マゼンタ=NSMs. 星のマスロスによる星間空間への返還を AGBs と コアコラプス SNe に含めた。 H - B H と 大部分の He はビッグバンでできた。小さな緑と青の領域は星のマス ロスによる返還と核合成された He を含む。 Li モデルは初期組成と さらに核合成イールドが不確かなので非常に怪しい。 Be と B は宇宙線で 作られると考えられるが、このモデルには含まれない。 C, N その他 C の 49 %, F の 51 %, N の 74 % は t = 9.2 Gyr で AGB 星で作られた。 ここでは W-R 星からの形成をモデルに含めていない。しかし F に関しては 重要かも知れない。 Ne - Ge に関して AGB の寄与は小さく、それらの小さな 緑領域は大部分がマスロスによる。 (マスロスの扱いがよく分からない ) α 元素 α 元素= O, Ne, Mg, Si, S, Ar, Ca は主にコアコラプス型超新星で 作られる。しかし、 Si の 22 %, S の 29 %, Ar の 34 %, Ca の 39 % は SNe Ia から来る。我々が採用した Ch-mass SNe Ia の代わりに もし sub-Ch-mass SNe Ia を採用すると、これらの割合は高くなるだろう。 |
Cr, Mn, Fe, Ni Cr, Mn, Fe, Ni の多くが SN Ia で作られる。以前は Fe の大部分が SNe Ia で作られると考えられていた。しかし、我々のモデルではその割合は 60 % で ある。残りは HNe で作られる。HNe は冷却と宇宙の星形成史を変えるので非常に 重要である。Co, Cu, Zn, Ga, Ge は Hne で大量に作られる。 Ba と Pb s−過程第2ピーク(Ba)と第3ピーク(Pb) 元素は AGB 星が主要源である。 軽めの中性子捕獲元素 Srの 44 %, Y の 22 %, Zr の 44 % は ECSNe で作られる。我々の質量範囲は 控え目である。 AGBs と組み合わせるとほぼ完全に観測を説明できる。 ニュートリノ駆動風を入れると Sr - Sn が出来過ぎてしまう。 重い中性子捕獲元素 重い中性子捕獲元素には、NS-NS/NS-BH 合体と MRSNe が必要である。 Ti Ti 付近の元素が形成不足なことは昔からの問題であった。 s- 過程元素は 少し作られ過ぎである。Ag はファクター6出来過ぎ、Au はファクター5不足。 U は出来過ぎとなっている。各般の率の改訂が期待される。 |
α 元素 α 元素組成は準静的恒星進化の間に関与する物理=マスロス、対流、 回転、磁場、により ±0.2 dex の不定性がある。 O/Mg, Si/S のようなα 元素間の相対比はそれらにあまり影響されないが、 12C(α.γ)16O 反応率には影響される。 C, N, 奇数-Z 元素の存在量は回転と He 燃焼層への H の混入のの影響が大き い。 AGB イールド マスロスと対流の不定性は AGB イールドに大きく影響する。 (Ventura, D'Antona 2005 a, b, Herwig 2005, Karakas, Lattanzio 2014) s-過程元素の観測が第3ドレッジアップの効率に拘束を与える可能性が あるが、サンプル星の選択バイアスに注意が必要である。 星団中の白色矮星(Marigo et al 2020)や星系内の炭素星の割合(Boyer et al 2019) の観測から新たな拘束が期待できるが、これも選択バイアスの危険が ある。AGB イールドの不定性が表しにくい理由は、例えば、パラメターの一つ、 HBB を行う中間質量星のマスロス率を下げたとしよう。すると C のイールドが ファクター 2 変化する。N のイールドはファクター 10 変わるだろう。そして 重元素のイールドは、Karakas et al 2012 のモデルを使うと、ファクター 100 も変化する。こうして、入力パラメター一つを変えると元素ごとに異なる変化を 引き起こすのである。 コア崩壊超新星のイールド ニュートリノ加熱とブラックホール形成を含む爆発モデルが欠けていることが コア崩壊超新星のイールド不確定性を生み出す。それは鉄と α 元素 との比を変えるので、他の独立観測、例えば超新星光度曲線やスペクトルから 出した鉄存在量を使用する。鉄ピーク元素間の相対比、特に同じ層で形成される 元素間の比、例えば Cr/Mn や Ni/Fe は固定される。ジェット型爆発の効果は K11, K15 の図22−25に示されている。さらにニュートリノの影響もある。 これら二つの効果は非線形で、3Dシミュレイションの計算が必要である。 SN Ia イールドもやはり爆発の機構に依存するが、不定性の主因は前駆天体の モデルにある。 |
s-過程元素 s-過程元素同士の間での食い違い、例えば Sr に対して Ba と Pb ができ過ぎ というような、は核合成モデルの物理が原因である。例えば、AGB 星内の部分 混合域 Mmix の広がりやポケット内での遅い拡散混合などである。 Sr, Y, Zr に対する ECSNs やニュートリノ駆動風の寄与も考える必要がある。 太陽系ないでの元素比というより同位体比の解析はモデルの拘束に重要である。 r-過程元素 r-過程元素の合成は天体核物理学の最先端分野であり、得られたイールドの 数は少ない。ECSNe/MRSNe や NSMs の前駆天体質量にイールドが同依存するか の研究はまだなされていない。計算分解能、次元、一般相対論効果、ニュート リノ物理、さらに最大の問題として r-過程計算に入れる核物理の全てが結果に 影響する。 第1原理法 これまでのモデルでは、r-過程イールドを引き算法で導いていた。すなわち、 太陽組成から s-過程イールドを引き、それを SNe II すべてのイールドとして 適用していた。この論文では第一原理法を採用する。r-過程各合成イールドを 天体内で計算する。ズレから天体核物理のさらに深い理解が得られるであろう。 |
図4は[X/Fe]-[Fe/H] 図40には、 [X/Fe]-[Fe/H] を青実線=太陽近傍、 緑破線とシアン点線= ハロー、赤長破線+オリーブ点破線=バルジ、マゼンタ点長破線=厚い円盤で 示した。AGBs, ECSNe, MRSNe は含むが、ニュートリノ駆動星風は含まない。 バルジと厚い円盤星形成タイムスケールが短い星形成タイムスケールが短いので、太陽近傍太陽近傍に比べるとある寿命の 星の寄与が現れるのはより高メタルになってからである。太陽近傍では、中間 質量 AGB 星は [Fe/H] = -2.5、低質量 AGB は [Fe/H] = -1.5、SNe Ia は [Fe/H] = -1 でそれらの寄与が現れるが、バルジと厚い円盤ではより高い [Fe/H] になってからである。[(C, N, O)/Fe] がピークに達するのは より高いメタル量になってからである。[Fe/H] ≥ -1 では [α/Fe] は 太陽近傍より高く、[Mn/Fe] は低い。これは観測結果に一致する。 中性子捕獲元素は再現できない 中性子捕獲元素でも同様の振る舞いが予想される。我々の s+r モデルでは、 [Fe/H] ≥ -1.5 において、[s/Fe] はバルジ、厚い円盤の方が太陽近傍より も低い。もし、NSMs からの寄与がもっと大きければ、[r/Fe] はさらに低いだ ろう。二つのバルジモデルの差は高メタル端でようやく現れ、流出モデルの方 が銀河風モデルよりも [α/Fe] がやや低めに、そして [r/Fe] が高めに 出る。これらの傾向は観測 Johnson et al 2012 とは大きく外れている。 我々の s+r モデルでは観測が再現できず、中性子捕獲元素に対して別の 起源を考える必要がある。 バルジ流出モデル 図41では、緑破線=r-過程の寄与が異なる様々なバルジ流出モデルである。 MRSNe/HNe の比は 3% から 2% へ低下させ、[Eu/Fe] の平坦値が観測と合う ようにした。青点線=実験的に AGB 星の寄与を半分にしてみた。すると [Zr/Fe] は観測と合うようになったが、[La/Fe] と [Nd/Fe] は駄目であった。 しかし、さらなる調整で三者を同時に合わせることは可能かも知れない。 - [Nd/Fe] |
![]() 図41.バルジにおける [(Zr, La, Nd, Eu)/Fe]-[Fe/H]. 赤実線=流出流アリで太陽近傍と同じ r-過程モデル。緑破線=低 MRSN 率 (HNe の 2%). 青実線=半分は AGBs 寄与。 ハロー緑短破線=太陽近傍より元素増加が遅いハローモデルでは、コア崩壊型 超新星と相対的に AGB からの寄与が大きくなる。そのため [Fe/H] ≥ -2 において、[(s, r)/Fe] は太陽近傍より大きくなる。薄青点線=我々のハロー 第2モデルのように、重元素増加率が太陽近傍より速く、強い流出を伴う 場合は [(s, r)/Fe] 高メタル方向に向かい一層高くなる。これら比較的高メ タルの星の数は非常に少ないに違いない。しかし、大規模サーベイにより、 それらの元素組成を調べることでハローの形成史を再構成できるだろう。 |
改訂モデルの特徴 第1原理計算=理論的核合成計算と形成源の数とから安定元素 C(A=12) から U(A=238) までの核種の存在量時間変化を導いた。 Kobayashi et al 2011b と比べて変わった点は、 (i) 新しい太陽元素組成 (ii) 失敗型超新星 (iii) スーパー AGB 星 (iv) AGB 星からの s-元素 (v) 様々な r-過程、例えば ECSNe, ニュートリノ駆動風、 NSMs, MRSNe 比較した観測データは主に Zhao et al 2016 の NLTE 解析と Reggiani et al, 2017 の LTE 微分解析法である。 失敗型超新星と HNe 理論、観測双方から、もし 20 - 50 Mo 星が Z = Zo で ≥ 1 %, そして ≤ 0.1 Zo では 50 % が HNe として核合成に寄与するなら、 M ≥ 30 Mo の星は失敗型超新星に成りうることがわかった。この割合は 現在の幅広線 SNe の観測率と同じである。宇宙の超新星率は HNe からの寄与に 制限を与えるであろう。理論面では HNe の爆発機構を理解することが大事である。 スーパー AGB 星 Z = Zo で M = 8 - 10 Mo のスーパー AGB 星最後にどうなるかは SNe 率に とって重要であるが、銀河系化学進化に及ぼす影響は無視できる程度である。 ただし、スーパーAGB 星の低質量端からのハイブリッド WDs が所謂タイプ Iax 型超新星になるとか、高質量端が ECSNe となるなら話は別である。 低メタル量ではスーパー AGB 星帯が低質量側に移るので、これらの超新星の 頻度は矮小楕円銀河のような低メタル量環境で上がる。 |
13C ポケット Karakas, Lugaro 2016 の 13C ポケットは s-過程元素の 組成を説明したが、第2 s-元素ピーク(Ba など)と第3ピーク (Pb など) はやや生産過剰であった。我々の縮小 13C ポケットは s-過程 元素の組成を上手く説明した。このモデルの当否は Sr のような第1ピーク 元素を ECSNE とニュートリノ駆動風で説明可能かでテストできる。 ECSNe とニュートリノ駆動風 ECSNe は [(Cu, Zn)/Fe] を 0.1 dex 上げる寄与しかしないが、Sr, Y, Zr のような軽い s-元素に対しては AGBs と共に重要な寄与をする。 ニュートリノ駆動風からのイールドを加えると、それら軽い s-元素が 大きく過剰生産になってしまう。この理由で、当面は化学進化モデルから ニュートリノ駆動風は外す。 NSMs 中性子星の合体は r-元素を Th, U まで作ることが可能である。しかし、 r-元素の進化を中性子星合体モデルのみで説明することはできない。その 理由は (i) 頻度が低すぎる。 (ii) 低メタル期の観測を説明できない。 現在は NS-NS 合体の 3D 核合成計算結果を NS-BH 合体にも当てはめている。 しかし、両者のイールドが異なる可能性は大きい。 連星形成から合体までの期間にメタル量依存性を与え、NS-BH 合体モデルも 別に計算すれば結果が変わるかもしれない。 |
磁気回転型超新星 Eu のような元素の進化の観測結果は、もし 25 - 50 Mo HNe の 3 % が 例えば、磁気回転型超新星のような形で、r-元素を形成すれば説明される。 この論文では磁場を持ち回転する鉄コアの 2-D シミュレイションの核合成 イールドを用いた。外層が全体としてブラックホールになるのかどうか 不明確である。コアだけでなく、星全体をシミュレイトする計算が 必要である。完全に崩壊しないならば、r-元素以外に、 C, N, α 元素も放出されるであろう。 銀と金 第1原理モデルを作った結果、観測と合う結果と合わない結果がはっきり した。例えば、銀は観測の 6 倍も過剰生産されるが、金は5倍も不足する。 核反応率を調べ直す必要がある。 |
化学進化経路 化学進化の経路は銀河系内の場所に依存する。一般には、バルジや厚い円盤 のように急速な星形成が起きた場所では、鉄に比べ s-元素の割合が低い。一 方、ハローのように星形成が十分でないところでは中性子捕獲元素の割合が 高い。これは、同じ時間で比べた時、遅延時間の長い AGB 星、CSNe, NSMs が 急速星形成の系では少ないからである。したがって、銀河系内位置による 差は低質量 AGB 星で作られる Ba, La, Ce, Pb で大きく、 Eu のような r-元素では小さい。バルジの観測からは中性子捕獲元素の起源は もっと複雑であることが示唆される。 |