VI Cyg12, AFGL 2205, AFGL 2885 の 2.5 - 3.3 μm スペクトル を撮って、星間ダスト中に吸着水、水加物グループ、水加鉱物を探した。新しい 吸収帯は見つからなかった。 | 蛇紋石(serpentine)や緑泥石(Chlorite) から予想されるバンド強度と比べると データはシリケイトダスト中のそれらの割合はそれぞれに対し、 25 % 以下と 50 % 以下であった。 |
「シリケイト」ダストの正体 10 μm 星間吸収帯は基本的には Si-O 伸縮振動が原因と考えられている。 しかし、星間吸収スペクトルを地上に存在するシリケイト鉱物の吸収スペクトルと 較べると、吸収帯の巾が広く、形がのっぺりしていて構造がないという特徴がある。 このため、星間ダスト物質は通常のシリケイト鉱物とは違うと考えられている。 その候補として、非晶質シリケイト、水和ケイ酸塩、 隕石鉱物などが提案されてきた。 非晶質ダストの光学計算と吸光実験は疑問符 ところが、一般に広まっている印象とは逆に、非晶質非水和シリケイトの光学定数 を用いた微小粒子の減光スペクトルは星間すぺくとるに一致しない。実験室での 非晶質粒子吸光実験の結果は非晶質シリケイトが星間ダストの主要成分であり得るが、 完全には一致しないというものであった。最近、MgSiO3 と Mg2 SiO4 の混合非晶質シリケイトが星間ダスト、星周ダストの光学的性質 と一致するという説も現れたが、まだ信用できない。 水和ケイ酸塩は? 水和ケイ酸塩が時々候補として取り上げられる理由は、その吸光ピーク位置が 星間吸収ピーク 9.8 μm に近いからである。3 μm 付近の未同定 星間バンドもやはり水和性物質か吸着水の標ではないかと考えられている。 |
炭素質コンドライト中の水和ケイ酸塩 タイプI炭素質コンドライト中では水和ケイ酸塩が鉱物組成中に占める割合は 50 % を越える。このタイプは最も始原的な隕石であることは興味深い。 水和ケイ酸塩は 300 - 400 K 以下で安定であり、星間空間で安定に存在可能である。 ただし、それが星間空間に特有な高エネルギー粒子や紫外、X線輻射に安定かどうか に関しては未だ不明である。ここでは、水和ケイ酸塩の探索観測を報告する。 星間ダストは混合物? 水和ケイ酸塩の吸収帯巾より星間吸収帯の巾の方が広いのは、単一の水和ケイ酸塩 だけから星間ダストが出来ているのではなく、いくつかの鉱物種が入り混じっている ことを示す。また、 18 μm 星間吸収帯のピーク波長は地上鉱物の屈伸モードによる 吸収ピークが 20 μm 付近にあるのに比べ明らかに短い。 水和ケイ酸塩の OH 吸収帯 水和ケイ酸塩は 2.5 - 3.5 μm 域に OH 伸縮振動による吸収帯を示す。 それらは結晶構造に応じてシフトや形状変化を示す。 |
VI Cyg 12 Av = 10 mag の強い赤化を受けており、シリケイト吸収帯はあるが 氷(3.07 μm)吸収はない。減光のいくらかはこの B8 超巨星と直接にはつながらない星間雲起源である。 AFGL 2205(OH26.5+0.6) と AFGL 2885 AFGL 2205(OH26.5+0.6) と AFGL 2885 は強いシリケイト吸収と弱いかまたは 全くない 3.07 吸収を持つ。2.3 - 2.6 μm の CO 吸収はそれらが晩期型の 星であることを示す。大きな光学的深さは吸収が天体の周囲で生じたことを示唆する。 観測 観測は 1982 年 6 月 8, 10 日にカイパー望遠鏡を使い、地球大気の水蒸気 吸収を最小限に抑えて行った。分光には CVF が用いられ、分解能は 1.2 % である。 η Boo (G0)を大気吸収参照星とした。 スペクトル 図1にスペクトルを示す。エラーは個々のスペクトルの何回かの観測の統計的 揺らぎの平均の標準偏差である。全てのスペクトルは大気中の CO2 の 影響のため 2.6 - 2.8 μm で揺らぎ大である。 2.6 - 2.9 μm 吸収 VI Cyg 12 スペクトルに見られる 2.6 - 2.9 μm の浅いへこみが実際の ものか、その付近で強い CO2 大気吸収の補正エラーによる見かけ かの判断は難しい。 VI Cyg 12 と参照星の間に波長ズレも起きており、その影響 も考えられる。 3 - 4 μm 吸収 Gillett et al 1975 は 3 - 4 μm に浅く幅広の吸収帯があるのではないかと したが、今回のスペクトルでは波長帯が延びていないので確認できなかった AFGL 2205 の 3.0 - 3.2 および < 2.6 μm 吸収 AFGL 2205 の 3.0 - 3.2 および < 2.6 μm にはっきり見える吸収は、他の 研究でも報告されている。しかし、それらは地球大気の CO と H2O である。 |
![]() 図1.VI Cyg12(上), AFGL 2885(中), AFGL 2205(下) の スペクトル。実線は蛇紋石のモデルスペクトル。 点線は緑泥石のモデルスペクトル。 |
![]() 図2a.緑泥石(chlorite)半径 0.1μm 微粒子の減光断面積 光学定数 緑泥石と蛇紋石の複素屈折率が実験から定められた。実験にはミクロン厚 資料薄片の反射および透過スペクトルが用いられた。詳しくは Mooney,Knacke 1985 を見よ。 減光断面積 測定光学定数を用いて図2に示すような減光断面積が計算された。半径 0.2 μm 以下では吸収が散乱を上回る。2.5 - 3.4 μm に結合水による 吸収帯が見られる。しかしそれらの 9.8 μm 吸収に対する相対強度は 以前想定されていたより小さい。含水鉱物の 3.07 μm 吸光断面積も 以前の 1/10 くらいに小さい。 9.8 μm で規格化した減光曲線 τ(λ) = [Q(λ)/Q(9.8μm)]τ(9.8μm) で決めた光学的深さを用いて計算したフラックスを図1に示した。 |
![]() 図2b.蛇紋石(surpentine)半径 0.1μm 微粒子の減光断面積 含水シリケイトの存在比 強調したいのは緑泥岩や蛇紋岩が星間ダストのモデルとなることを主張している わけではないことだ。AFGL 2205, 2285 の双方で、蛇紋岩的な物質が星周ダストの 主要成分であるという考えは排除された。VI Cyg 12 ではバンドが弱いためこの 制限はもっと弱くなるが、2.5 - 3.5 μm に吸収帯がないと考えて矛盾はない。 |
含水シリケイトの存在比 蛇紋石的な吸収の強い強い含水シリケイトの存在比は 25 % 以下である。 また、弱い緑泥石的な含水シリケイトの存在比は 50 % 以下である。 緑泥岩の吸収スペクトルは炭素質コンドライトと類似しているので、 後の制限は重要である。 |
実際にその制限内の含水シリケイトがあるか? < 20 - 50 % でも存在するのだろうか?氷が存在する箇所での観測は興味深い。 |