F8 - M7、矮星 - 超巨星で太陽組成の26星 K バンドスペクトルを示す。 分解能は 1.6 cm-1 で、S/N ≥ 400, 地球大気吸収は補正した。 選択された吸収線積分強度と狭帯測光との比較から、連続光決定部にかかる H2O 吸収により矮星の測光 CO 指数はかなり減少することが わかった。 | 低温度巨星における測光分光で決めた CO 指数と測光で決めた CO 指数の差 (Aaronson, Frogel, Persson 1978)は変光のためか、または 2.0 μm 付近 での何らかの付加的な幅広吸収によるものであろう。原子、分子の強い吸収線 温度と光度クラス依存性を調べた結果は、かなり大きな差が検出された。その 原因は一部は原子吸収線の高い励起状態にあり、一部は原子線、分子バンドへの 乱流の影響によるものである。CO バンドヘッドと強い原子線との比較から K-, M-型星の2次元分類の効率的な方法が得られた。 |
1.イントロここに示すスペクトルアトラスは我々が行っている銀河中心の星の研究のた めに作った。しかし、対象の広がりはより広い分野への応用を可能にしている。 データはマシンリーダブルである。2.対象星対象とした星は主に Keenan,McNeil 1976, Keenan, Pitts 1980 の標準星から 採った。26 星の内、 5 星は超巨星、 15 星は巨星、 6 星は矮星である。 15 巨星は光度と組成の点で非常に一様な集団を形成している。超巨星にはクラス 0 が1星、Ia が 3 星、Ib が 1 星含まれている。矮星には GL 411 = ハロー種族かも 知れない M2+ V 星、と Wolf 359 = M5.8 V 古い円盤種族が含まれている。 |
3.観測観測は Mayall 4m/KPNO +フーリエ分光器(apodized resolution = 0.8 cm -1) で行われた。天頂付近の A 型星が参照星 として観測された。A 型星には Brγ 以外には強い吸収線はない。表1に観測 記録を載せた。4.データ整約生データは FWHM = 1.4 cm-1 のガウシアンでなまされた。装置プロ ファイルと大気吸収を補正するために、対象星スペクトルを参照星スペクトルで 割った。ここに示すスペクトルは参照星スペクトルに対する比の形である。そこに モデル大気の連続光を掛けるとフラックススケールに直せる。規格化スペクトルは 4520 cm-1 で 1 とした。 エアマスの差は通常無視できるほど小さいが、σ Dra は天頂距離が 大きかったので、参照星スペクトルを Beer's law でスケールして使用した。 スペクトルの波長は日心速度 0 km/s にずらしてある。 図1には光度クラスごとに、スペクトルタイプの順にしめした。図2では K5, M2, M5 の光度クラス系列を示した。 |
K5 星 61 Cyg A で同定された吸収線を表2に示した。スペクトル線の大部分は
基底状態から 3 - 5 eV 上の状態からの微細構造遷移である。例外は Brγ
(12.7 eV) と Ti (1.7 eV) である。
![]() 表3.合成指数を計算するためのバンドの両端波数。 ![]() 表4.選択スペクトル線の相対強度。パーセント表示。 |
![]() 表2.K5 V 星 61 Cyg A で同定された吸収線 |
選択したスペクトル線 強い吸収線の光度と温度依存性を定量化して調べたいので、次のスペクトル 線と連続光部を積分して強度を出した: CO バンドヘッド、原子多重線、 Brγ、4367, 4778 cm-1 付近の二つの比較的きれいな波長域。 4420 cm-1 Ca 多重線の総強度を測るため、バンド幅 10 cm -1 を認めた。表3にバンドパスを示した。 スペクトル線の相対強度 これ等の積分測定を使い、スペクトル線の積分フラックスを計算した。CO バンド では連続光は 4367 cm-1 を中心とするきれいなバンドで計算した。 原子吸収線の場合、局所連続光は二つのきれいなバンド 4367, 4778 cm-1 の間を内挿したレベルを連続光と考える。 有効温度はどこから採ったか。 表4にはこうして、計算で求めた6つのライン強度をパーセント表示で表した。 この先では、ライン強度を有効温度と比較する。G8 とそれより晩期型巨星の 有効温度は Ridgway et al 1980 から採った。超巨星の有効温度は同じスペクトル 型の巨星の値を採用した。White 1980 によればこの仮定は ±50K の精度 がある。矮星と G8 巨星の有効温度は Johnson 1966 を採用した。 (a) 分子吸収計算 CO と測光 CO の比較K-バンドで最も強い吸収は CO Δv = 2 第1倍音のバンドヘッドである。 表4を見ると、12CO(2,0), 12CO(3,1), 13CO(2,0) はよく相関している。 バンドヘッド間の強い相関から、計算で求めた分光測光 CO 指数とフィルター測光から決めた Frogel et al 1978 の CO 指数とはよく相関するで あろうと予想される。測光指数の観測には 150 cm-1 巾の λ C = 2.36 μm (4240 cm-1 ) と、 2.20 μm (4545 cm-1 )での"連続光"との、差分測光が用いられた。 図3(a) と (b) にスペクトルから計算した 12CO(2,0) 指数と、 フィルター測光 CO 指数との比較を示す。 12CO(2,0) 指数は表4の パーセント表示を等級に直した。巨星全般と M2 より早期の矮星において、両者 の強い関係は図から明らかである。この相関は非常に低温の矮星で崩れる。そこで は、フィルター測光 CO 指数は計算による分光 CO 指数よりずっと小さくなる。この 違いは、"連続光"として測定する波長帯が、晩期型矮星では水蒸気吸収のため低下 することが原因である。 CO 吸収への温度、光度効果 温度が下がり、光度が上がると CO 吸収線は強くなる。図4a では、計算 CO 指数と 有効温度との関係を、各光度クラスごとに示した。温度、光度効果は一部は CO バンド 吸収がマイクロ乱流に強く影響されることにある。マイクロ乱流はスペクトル型が晩期 になり、光度が上がると強くなるからである。 水蒸気吸収 個々で示すスペクトルでははっきりしないが、水蒸気吸収はある星では CO より強い。そして、恒星大気温度では多数の励起状態のために広いウィングが 現れる。水蒸気吸収の中心が 1.9 と 2.7 μm にあるため、K-バンドの両側 がその影響を受ける。"連続光"として採用した 4367 と 4778 cm-1 の両方共が水蒸気吸収の影響を受ける。4778 cm-1 吸収の方が 4367 cm-1 より強いので、両フラックスの比は水蒸気の強うの 指標になる。 4778/4367 比と有効温度の関係 図4b にはこの比を有効温度の関数としてプロットした。4778 cm-1 吸収は矮星で最も強く、有効温度が下がると増大することが判った。 これは、水形成の温度、圧力依存性を考えると理解できる。ただし、それでは 超巨星で 4778 cm-1 の強い吸収があることを説明できない。これは CN が原因であろう。 |
水蒸気指数の比較 CO と同じように、スペクトルから計算で出す、分光測光水蒸気指数と ファイルター測光水蒸気指数を比べるのは興味深い。図3c には巨星 に対する比較を、図3d には矮星での比較を載せた。図を見ると、 矮星ではこの対応は1対1で、巨星でもM2 まではそうである。 低温度の巨星では、スペクトルからの計算 H2O 指数は フィルター測光指数より明らかに小さい。これは変光のためかも知れない。 それとも未知の吸収が 2 μm 付近にあるのかも知れない。 ![]() 図4.スペクトル測光指数(表4を等級に変換)とフィルター測光指数の比較。 ここで、CO のスペクトル測光指数として用いているのは12CO(2,0) バンドヘッドである。右図の丸=矮星、左図の四角=巨星。菱形=超巨星。 黒印は同じ星を比較に用いたことを示す。(a) の実線と (b) の点線は同一で、 (a) 点の直線フィット。(c) の実線と (d) の点線は同一で、(c) 点の直線フィット。 |
(b) 原子吸収Brγ 線の温度変化晩期型星の原子吸収線はスペクトル型で劇的に変貌する。図5にその様子を 示す。予想通り、励起ポテンシャルが高い Brγ 線は温度低下に伴い急 激に弱くなる。この線はどの光度クラスでも K5 より晩期では検出できなくなる。 この線は K バンドスペクトル線の中では、温度依存性が最も強い。 Ca, Na 線の温度変化 Ca, Na 線の励起ポテンシャルは Brγ 線に比べるとずっと低い。これらの ラインも温度低下と共に強くなる。Na I は最低温度星の大気以外では存在量が 少ないので、 Na 線も温度効果が大きい。 |
![]() 図5.図4と同じ。ライン強度と有効温度との関係。(a): 12CO (2,0) バンドヘッド吸収。 (b): H2O 吸収。4367 cm-1 と 4778 cm-1 の間の "連続光" 勾配で決めた。データは表4を等級に 直したもの。 |
同じ CO 強度のスペクトルを並べる 二次元分類のスタートに、CO を選ぶ。CO は光度が上がると強くなり、温度 が上がると弱くなる。したがって、同じ CO 強度のスペクトルを並べると、 暗くて低温の星と、明るくて高温の星が含まれる。 割り算スペクトルの例 このやり方で選んだ星の4つのペアを比べたのが図6である。参考のために K2 III 星も下に並べた。割り算スペクトルの綺麗な 波長帯では、つまり CO バンドヘッドより短波長側では、ペアによっては 連続光の勾配が強く現れる。M2+ V/G8 IIIab ペアでは水の強い吸収が矮星 短波長域連続光のレベルを低下させている。これは矮星を巨星から見分ける よい特徴である。K2 III/K0 Ia 割り算では、多分 CN の強い吸収が超巨星の 連続光を押し下げていることが判る。これ等の効果は、図7a にまとめた。 図では 4367 cm-1/4778 cm-1 を表4から採って示 してある。図を見ると、連続光勾配は M0 より低温の星で矮星と巨星の区別 に使えるだけであることが判る。これらの結果は、例えば フィルター測光で H2O 指数を測る時のように、連続光勾配を 使う際に、星団や銀河の解析では複雑さを導入する。 ( 訳しては見たが、何を言わんとして いるのかさっぱり分からない。) |
強い吸収線の積分吸収強度 上記の結果に基づき、我々は表4から強い吸収線の積分吸収強度を選んだ。 Brγ の温度依存性は Na, Ca 多重線とは逆向きなので、これらの原子 吸収線の強度から Brγ 強度を引いたものを計算した。図7b では、 その結果を 12CO (2,0) バンドヘッド強度に対してプロットした。 それらから、 (1)光度が下がると原子線指数は上がる。 (2)超巨星の原子吸収線指数は全てのスペクトル型で巨星のそれと異なる。 G 型より晩期の巨星と矮星の間では指数の違いはさらに大きい。 (3)これら原子線指数は狭い吸収線の合算から計算しており、赤化の影響 は受けにくい。 これ等の結果は、K バンドスペクトルの分解能は 10 cm-1 より大、 S/N > 100 が二次元分類に必要なことを示す。 |
デジタルスペクトルは NASA から入手可能である。 |