Constraints on the Star Formation History of the LMC


Javiel,S.C., Santiago,B.X. Kerber,L.O.
2005, AA 431, 73-85




 アブストラクト

 LMC 6 領域の HST F814(∼ I), F555(∼ V) 撮像による V555 ∼ 26.5 に達する CMD を得た。測光の不完全性、測光エラー、連星、減光を考慮 して様々な初期質量関数で恒星進化モデルをフィットし、星形成史を導いた。
CMD モデル化には Gallart et al が提案した「部分モデル法」を適用した。全ての 領域で、 τ ∼ 700 Myr の星形成中断が認められた。領域間の変化もあった。
LMC バー近くの 2 領域には、若い(τ < 1 Gyr)と古い(τ ≥ 10 Gyr) 星形成現象、それに 3 - 6 Gyr のはっきりした星形成中断が見られた。他の 2 領域 は非常によく似た星形成史を示した。そこでは τ ≈ 2 - 3 Gyr と 6 ≤ τ ≤ 10 Gyr に星形成率の増大が見られた。残りの 2 領域では星形成率は 一様で星形成の増加減少は見られなかった。

 1.イントロ 

地上観測による LMC の星形成史 

星団
 大部分は t < 4 Gyr, 少数が t > 10 Gyr, 
              一つだけが t = 8 Gyr (Mateo et al 1986)
フィールド
 外側の数フィールドでCMD解析から2−4Gyrに通常の
          10倍の星形成率バースト。Bertelli et al 1992
HST による LMC 星形成史の研究 

地上観測ではt>6Gyrの主系列に到達できない。
――> HSTの利用
Gallagher et al 1996
 WFPC2から過去数GyrはSFR=一定。2Gyrに短いバースト。
Holtzman et al 1997
 同じデータ(バ―から4°)で LF を作り、
  10 Gyr は SFR 一定。t < 2 Gyr 3 倍。
 ――> 4 Gyr より若い星と古い星の数が大体等しい。
     CMD に中間年齢星ターンオフを見出した。
Elson et al 1997
 もっとバーに近い所の観測から 1 - 2 Gyr と 2 - 4 Gyrの成分を検出
 ただし、正確な年齢はメタルで変わる。
Geha et al 1998
 外側3箇所から、やはり4Gyrより若い星と古い星の数が大体等しい。
Olson et al 1999
 バーではより定常的な SFH。Elson et al 1997 と異なる
Holtzman et al 1999
 バーストの証拠がない。フィールドと星団のSFHは違う。

この論文ではLMCから6°以内の6箇所のCMDからSFHを作る。


 2.観測 


星団観測プログラムの一環として撮ったデータを使用。
  NGC1805, 1818, 1831, 1868, 2209, Hodge11 付近
  F814W(I)とF555W(V)を2枚づつ撮影した。



 2.1.サンプル選択 

ALLSTARで星を選択した。
図1のNGC1818フィールド CMD を見ると以下の特徴に気付く。
 (1)飽和はV555=18.5
 (2)主系列がV555=26.5まで。
 (3)ターンオフ=V555=22.5(t>10Gyr)
 (4)レッドクランプはV555=19、V555−I814=0.9
 (5)CMD右の暗い星は赤色矮星

 2.2.測光精度 

 IRAF/PHOT taskの与える測光精度を採用。
 カラーの精度は σ(Color)2=σ(I)2+ σ(V)2 と決める。

 2.3.サンプル完全性=C 


過去の研究ではC(V),C(I)としか求めていないが不十分である。
V の検出と I の検出は独立でない。
C(V−I,V)=C(V)*C(I)とするのは以上の理由で誤っている。
人工星の検出実験を(V−I,V)のメッシュ毎に行った。
何でカラーが影響するのか理解できない。定義が違うのかな?  



図1.NGC 2128 付近の星の CMD



図2.Hodge 11 付近のフィールド星の CMD。数字グリッドは C(V-I,V)×100 %
   完全度を示す。


 3.別のサンプルの統合 

追加データ 

数を増やすためCastero et al 2001 の7領域データを足した。

(1)Castero et al の方が露出時間が短いので飽和等級が明るい。
   その結果V<19.5ではLFに超過が生じている。
(2)中間等級でも Castero et al のLFには系統的な超過が見られる。
   フィールド間の違いは完全にランダムではないらしい。
(3)本論文のLFだけは検出率の補正をしているが、V<25では差がない。
   C=100%に近いからであろう。 (4)CMDのRGBは本論文が0.05赤い。他の領域でもそうで多分焦点の
   時間変化に伴うPSF変化が原因。

そんなことって本当にアリなのか?同じ望遠鏡でも違う測光システムの ように扱えってか?





図3.上:NGC 1831 付近の光度関数。
   下:我々(白丸)とCasero et al(クロス)の CMD


で、2つのサンプルを共通の測光システムにするため Castero et al データの
カラーを少しずらす。
その方法は、
 (1)MSに沿う0.25等のビンで平均カラーを出す。
 (2)つないで基準線を作る。
 (3) Castero et al のI等級をずらして基準線が一致するようにする。
 (4)RGBはI(Castero et al)を0.05ずらす。
 (5)等級の調整後次のように統合した:

    (A) V<19.5   Castero et al を使用。
    (B) 19.5<V<23.5 双方使用。
    (C) 23.5<V  Javiel et al  使用


統合データによるCMD 

統合CMDにはV= 19.9 と 23.5 の切れ目で数が段になっているのが見える。
また、NGC1805 の RGB は太く、減光量が領域内で変化しているためであろう。
 赤化ベクトルの向き(多分)にたなびいて見えるのが面白い。
Casterto et al が指摘した中間年齢ターンオフも見える。
 と書いてあるがどれか不明。



図4.追加データを合わせたデータセットによる CMD.

 4.CMDモデルフィット 

 4.1. 合成CMD 

合成 CMD を作るプロセスは以下の通り。
 (1)SFR(t) を一つ選ぶ。
 (2)年齢―メタル量関係には星団から決めたOlzewski et al 1996 を採用。

τ Z(τ)

τ ≤ 950 Myr 0.008
1 Gyr ≤ τ ≤ 2.1 Gyr 0.006
2.2 Gyr ≤ τ ≤ 7 Gyr 0.004
7.6 Gyr ≤ τ ≤ 12.6 Gyr 0.002
12.6 Gyr ≤ τ 0.001


 (3)Girardi et al 1998 等時線を使用。
   i番目の等時線からの貢献星数 Ntheo,i は、
   Ntheo,i22) = C ∫τ1τ2SFR(τ) ∫mmin(τ)mmax(τ)ψ(m) dm dτ
    ここにφ(m)はIMFでKroupa2003を採用した。
 星団距離:DM(光学中心)= 18.5、円盤の i=45°、ノードライン=N−S
 (4) ランダムに選んだ星(質量m)に対して V,I を求める。
   選び方は、0と1の間のランダム変数 r に対して以下の式でmを決める。
    ∫mmin(τ)mψ(m) dm = r ∫mmin(τ)mmax(τ)ψ(m) dm dτ
 (5)連星ペアもfbinの確率で作る。
 (6)赤化ベクトル (Av,E(B-V))を適用する。Av/E(B-V) = 3.1,
      Av は Castro et al を採用。
 (7)星の位置をエラーのガウス分布でばらまく。
 (8)星が観測CMD範囲外なら捨てる。
 (9)CMDに組み込むかどうかは確率pを合併域ではp=C(V−I,V)、
    単独域ではp=0.5・C(V−I,V)で決める


図5.合成 CMD。
   a)古い種族。明瞭な単一ターンオフ。水平枝。
   b)中間年齢種族。レッドクランプ
   c)若い種族が支配的。主系列がV555<19まで伸びている。
   d)中間年齢と古い種族の混合。レッドクランプ。

 4.2.統計 

フィット=観測 CMD とモデル CMD との直接比較。
比較方法= Partial Models Method (PMM, 部分モデル法)Gallart et al 1999
他の方法として、Hernandez et al 1999, Dolphin 2002 使いやすいから。

部分モデル法の説明
  部分モデル= 部分的時間区間の間星形成率一定とした CMD
    SFR(τ)からの CMD は部分モデルの線形結合で表わされる。
  i = 部分モデルの番号、j = CMD を区切った際の領域番号
  Ni,j = i - 番目の部分モデルからの j - 番 CMD 領域への寄与。
  ai = i - 番目の部分モデルの重み
  Nj = Σ aiNi,j = j-番目の CMD グリッド内の星の数
χr-12 = 1 Σ [l(Σ aiNi,j) -NO,j+1]2
r-1 NO,j+1


  NO,j は CMD j - 領域内の観測された星の数、r は部分モデルの数。
  l = 星の総数を合わせるための規格化定数。

 χr-12 の許容範囲を以下のように定めた。
    (χr-12)min < χr-1 2 < (χr-12min + 2σ S
 ここに、σSこの先の文章は 理解できない。原文は " the standard deviation from (χr-1 2)min of 100 realizations comparing the best CMD (the solution that yields (χr-12)min ) to the observed CMD"

 r = 13 とした。これは、主系列、準巨星枝、赤色巨星枝を効果的に覆う数である。 図6はそうして決めた CMD 上の区分が示されている。図6の各パネルにはそれぞれ 二つの部分モデルが載せてある。それらの年齢区間は図の中に示されている。 部分モデルの大部分は若い種族だが、それは CMD の特徴が若い(1 - 6 Gyr)種族の ターンオフに対しては古い種族に対してより鋭敏だからである。

 部分モデルの数を変えて実験を繰り返したが、8個がベストであった。




図6.8等時線から作ったモデル。CMD上に13点をとった。     各パネルには2つの期間区分が表示されている(らしい)。

上の手法に関しては若干の疑問がある。
(1) r = 13 は粗すぎないか? τ < 2 Gyr は主系列に沿っての 星の光度関数を モデル主系列光度関数(τの関数)の重ね合わせで解いて、 SFH を出しなさい。τ > 2 Gyr は主系列の時間分解能が悪くなるので 準巨星がどこまで垂れ下がるかで SFH に直しているかに見える。赤色巨星枝 は τ > 2 Gyr 全体の総量チェックか?
(2) 部分モデルの数=8である。部分モデルを CMD の 13 区間の星の数で作られる 13次元のベクトルと考えると、部分モデルの線形結合が張る空間は精々8次元で ある。それに直交する観測ベクトルの成分は部分モデルでは原理的にカバーされない。 その直交成分が無視できるパターンかどうかは重要である。

 5.結果 


図7.NGC 1805 と NGC 1818

 5.1. NGC 1805 と NGC 1818

最近 2 Gyr は星形成が活発化している。 NGC 1805 では 6 - 10 Gyr 昔に星形成 が中断した。 NGC 1818 では 2 Gyr 以前は比較的平坦で、6 - 10 Gyr の低下も あるかどうか微妙である。

 5.2. NGC 1831 と NGC 1868

一様な星形成史を示す。NGC 1831 では 3 - 10 Gyr 昔が僅かに低く見える。 NGC 1868 周辺では全くそのようなことはない。NGC 1868 では 1 - 3 Gyr で 星形成が活発であった。

 5.3. NGC 2209 と Hodge 11

 両方共に 1 - 6 Gyr 昔に星形成率が増加している。特に NGC 2209 では、 1 Gyr 昔に星形成のピークがあり、その後星形成が抑えられている。

図8.NGC 1831 と NGC 1868


図9.NGC 2209 と Hodge 11


 5.4. ベスト解パラメターのテスト

 図10にはNGC 1818 フィールドで異なるパラメターを採用した場合の SFH の変化 が示されている。図から、採用 パラメターの変化による SFH の変動は比較的穏やかであることが判る。

ベスト解パラメターは上パネルに記してある。表3では我々の得たパラメターを 以前の研究結果と比較した。
Castro et al 2001 の(m-M)oは彼らの円盤モデルに基づいている。彼らの赤化値は 等時線フィットから決められている。Santiago et al 2001 は LMC 星団の等時線 フィットから値を得ている。彼らの星団と我々のフィールドは近いので同じ赤化を 期待してよい。NGC 1805 野幅広な RGB は赤化の内部変化を予想させる。

 表の値は良い一致を示している。例外は Hodge 11 フィールドの赤化で、Castro et al は非常に低い値を取っている。ただ、著者らもこれを怪しいと述べている。




図10.NGC 1818 フィールドで異なるパラメターを採用した場合の SFH の変化。
   上:E(B-V) 実線=0.05, 点線=0.03, 破線=0.04
   中:(m-M)o 実線=18.58, 点線=18.68, 破線=18.48
   上:fbin  実線=0.5, 点線=0.75, 破線=0.25

 6. まとめ

領域間の差 

 場所間で SFH が異なっていた。
バーに近い NGC1805, 1818 領域はt<2Gyrに SFR 高い。6 - 10 Gyr で低い。
LMCの東側、NGC 2209,Hodge 11 では 2 - 6 Gyr にSFRが高い。
NGC 1831, 1868 では SFH が比較的一様。
ただ、星の拡散を考慮すると、得られた SFH は その場所で過去に起きた SFH ではないことを注意しておく。それにも拘らず、場所 間の変化があるのは混合が完全でないからであろう。

古い種族の存在 

LMC種族に関しては時代と共に概念の変化があった。
80年代初頭ころまでの、若い星からなる(Butcher 1977,Stryker 1984)から、 90年代に Bertelli 1992 が 4 Gyr にバースト説を唱え、HSTにより古い、 中間年齢種族の星が続々発見され、Holtzman et al 1997 では 4 Gyr より古い星が 半分以上という結果を出した。
今回の結果はその延長上にあると言える。

ギャップ 

SFRにギャップが見つからなかった。6−10GyrでSFRが低下したのはバー に近いフィールドのみである。これは星団形成のギャップと矛盾する。

この点でここでは星団から求められたAMRを使用していることを注意する。