Galactic Distributions of Carbon- and Oxygen-Rich AGB Stars Revealed by the AKARI Mid-Infrared All-Sky Survey


Ishihara, Kaneda, Onaka, Ita, Matsuura, Matsunaga
2011 AA 534, 79 -




 アブストラクト

 あかりの IRC 全天サーベイデータを用いて AGB 星を分類した。二色図上で 既知天体の占拠する領域を定めた。次に、マスロスー光度関係を用いて、C-リッチ 星と O-リッチ星の空間配置を定めた。O-リッチ星は銀河中心に集中していることが 分かった。一方、C-リッチ星は太陽から 8 kpc 以内では一様な分布を示した。  この結果は以前の研究で報告されていた傾向を全銀河系スケールで確認するものである。 我々の得た結果、銀河系のメタル量勾配、星間空間の化学進化の関係についても 議論した。 





図1.IRC/2MASS 天体の二色図。(a) [J-K] - [K-9] (b) [K-9] - [9-18] (c) [J-K] - [9-18] 図中の矢印は Av = 20 mag の赤化(Weingartner, Draine 2001 Rv = 3.1)。色分けは単位カラー面積上の星数の対数。

 1.イントロ 

 IRC カタログには 844,649 9μm + 194,551 18μm = 870,973 total が 収められていて、 Ita et al. 2010 は少なくとも 90,000 の AGB 星が含まれていると述べている。

 2.データ解析 

 2MASS 同定 

 Ishihara et al 2010 では 2MASS との同定を位置差 3″ 以内の条件で 行った。その結果、614,204 個の IRC/2MASS 天体が同定された。また、IRC/SIMBAD 天体は 331,764 個見つかった。言い換えると、IRC 天体の 60 % 以上は SIMBAD 上で 新発見であった。
(SIMBAD で IR Source とされた天体は IRC/SIMBAD には含まない?)


 2MASS 二色図 

 図1には 2MASS を使用した二色図を示す。ゼロ点は Fo(9) = 56.3 Jy, Fo(18) = 12.0 Jy (Onaka et al 2007) である。

 二色図の分類 

 次に [J-K] - [K-9] 図上で既知天体の分布を調べ、A - H の8グループに分けた。 図 2 - 4 には 図 1 a, b, c 上での各グループの区画を示す。図 1 a, b, c のどれも 原点付近には通常星の集積が見られる。そこから右上へと分布が延びるのは暖かい星周 ダストを持つ星の系列である。図1a, 1c は[J-K] 軸を持ち、そこでは [K] 超過天体が 赤化を受けた星と混じりあう。一方、1a, 1b は [K-9] 軸に沿い、熱いダストの放射 または PAH の放射を持つ非常に赤い星、[K-9] > 5、がはっきりと分かれる。ただし 数は少ない。  二色図上の区分分けは Ita et al 2010, Takita et al 2010 と一致している。

 C-リッチと O-リッチ AGB 星 

 図2a, 3a. 4a で判るように C-リッチと O-リッチ AGB 星は二色図上ではっきりと 分かれる。これは IRC の 9-, 18-ミクロンバンドが シリケイトバンドをカバーす るが、炭素星のバンドはカバーしないために現れた現象で、 IRAS, MSX, WISE より AKARI が優れている点である。 そこで、まず [J-K] - [9-18] 図でまず分類を行い、 次に占拠領域内の星を他の二色図を使って洗い出し作業に掛ける。この結果、第一 選別で 18,596 C-リッチ星と 83,012 O-リッチ星候補が、洗浄作業の結果、 5537 C-リッチ星と 11,416 O-リッチ星が得られた。表2に結果をまとめた。

混入 

 各占拠領域内の天体は次の4種類から成る:
(a).正しく分類された既知星
(b).他の星種に分類されているが、この星種の可能性がある既知星
(c).未分類星
(d).他の星種に相違ない既知星。
 例えば、「赤外天体」及び「変光星」とされた星は C-リッチ星や O-リッチ 星区分域では (b) に分類される。「ミラ型星」も O-リッチ星区分ではやはり (b) に分類される。

図5.フィルター応答曲線



信頼度と完全度 

信頼度の下限 = na + nb
na + nb + nc + nd


信頼度の上限 = na + nb + nc
na + nb + nc + nd


と看做す。また、
完全度 = na
na + nb + nd


と定義する。

C-リッチ、O-リッチ星の信頼度と完全度 

これらの検討の結果、各分類区域内の星についての信頼度は、C-リッチ星で 44-95%, O-リッチ星で 信頼度は53-95% である。完全度について言うと、C-リッチ星で 82 %, O-リッチ星で 80 % である。純化したサンプルでは信頼度は炭素星で 68-96 %, O-リッチで 71-96% である。完全度は炭素星で 64%, O-リッチ星で 29% である。図2−4を見ると分かるが 青くなると C-リッチと O-リッチが重なり合う。



表1.IRC 天体の分類。



図2. [J-K] - [K-9] 図上での既知天体の分布。(a) E = 赤 = C-リッチ AGB 星。 F =(黒 = AGB 星) + (青 = OH/IR 星). (b) A = (茶 = T Tau) + (緑 = YSO). (c) B = (茶 = Be/WR) + (緑 = 輝線星). (d) C = 緑 = O - M 巨星。 (e) D = 緑 = S 星。茶 = G PAGB+PN. (f) H = (緑 = 通常、星形成銀河)+ (茶=セイファート) (g) まとめ。等高線はピークの 20%, 30%, 80%.




図3. [K-9] - [9-18] 図上での既知天体の分布。グループ分けは図2と同じ。




図4. [J-K] - [9-18] 図上での既知天体の分布。グループ分けは図2と同じ。




表2. C-リッチ星と O-リッチ星分類の信頼度と完全度。

 3.結果 

 3.1.銀河系内の位置分布 

 AGB 星と 矮星/巨星の分布の違い 

 図6には [9-18] - [J-K] 二色図上で選ばれた星(候補星サンプル、純化サンプル ではないことに注意)の方向分布を示す。図の 表面密度は1平方度あたりの星数である。AGB 星は銀河面、バルジ、LMC/SMC を なぞっている。図6で矮星、巨星にあたるグループ C はやや一様な分布となる。
 例外は l = -90°, +90° 方向の弱い集中が見られる。
 通常星と YSO の方向分布 

 通常星は MIR では暗いので、それらの検出体積は < 1 kpc に限られる。それら の星の分布はヒッパルコス星と似て局所腕の構造を反映する。
( 具体的には何を指すか?)
YSO(図6のグループ A では近傍の星形成域 オリオン、タウルス、ウミヘビ座ρ が 認められる。



図6.[9-18] - [J-K] 二色図上で選ばれた星の方向分布。




図7.純化サンプルの分布。(a) C-リッチ AGB 星。 (b) M-リッチ AGB 星。

 3.2.C-リッチと O-リッチ星の分布 

 方向分布 

 図7には C-リッチと O-リッチ星の純化サンプルの分布を示す。ポアソン分布 を仮定して、表面密度の 2 σ 有意レベルは 0.3 cm-2 (C-リッチ星), 1.5 cm-2 (O-リッチ星) である。
( 分からない。)
O-リッチ星は銀河中心方向で 3 cm-2 、外側銀河方向で < 0.5 cm-2 と銀河中心方向に 集中する。一方、 C-リッチ星分布は比較的一様で銀河面に渡って、 0.2 - 0.4 cm-2 である。

 分布に差がある 

 このように、図 7b に見える O-リッチ星の 銀河中心からの減少は事実であるが、図 7a に見える M-リッチ星分布の小構造は 事実でない。この方向分布の差は実際の空間分布の差でも、検出距離の差のためとでも 説明できる。
距離の決定 

 サンプル中の幾つかの星は距離とマスロス率が分かっている。それらは、 Zhang et al. 2010, Le Bertre et al 2003 により独立に与えられた。これらのサンプルに対し、 距離、マスロス率、F(9) の関係を求めた。また、付録 A に示す方法により、 マスロス率 と [K-9] の関係も定めた。この二つの関係をつなげて、マスロス率と [K-9] の関係を 導いた。我々のサンプル中で最も暗い星の距離をこの方向で決めた結果は 8±2 kpc であった。

 分布の縁、集中 

 図8の左側に現れている縁は実際の銀河系外縁であるが、右側の縁は検出限界に よる。銀河中心周りに楕円形の集中が見える。 約 5° の傾きは中心バーのためかも知れないが、距離の不定性が原因かも知れない。

 C-リッチと O-リッチ星の空間分布の差は本当! 

 空間分布図で最も大きな発見は、C-リッチと O-リッチ星の分布に実際の差があることが 分かったことである。



図8.銀河面上での分布。(a) |b| < 10° の C-リッチ AGB 星。 (b) |b| > 10° の C-リッチ AGB 星。(c) |b| < 10° の O-リッチ AGB 星。 (d) |b| > 10° の O-リッチ AGB 星。 赤点=純化サンプル。等高線レベルは (a) について 10, 20, 30 個 kpc-2、 (c) について 10, 50, 100 個 kpc-2 である。 (b), (d) の点線四角は (a), (c) のスケールを表す。

 4.議論 

 完全度の銀河中心距離による変化 

 図9には表面密度の銀河中心距離による変化を示す。完全度の変化も示した。 C-リッチサンプルの完全度は Rg と共に増加するが、O-リッチサンプルの完全度は 低下する。O-リッチ AGB 星の完全度は赤い星ほど高い。したがって、外側銀河系で 完全度が低いのはつまり、ダスト星(質量大の O-リッチ AGB 星)の割合が 外側銀河系で低いことを意味する。対照的に C-リッチ AGB 星の完全度はカラー にほとんど依存しない。外側銀河系ではカタログに載った C-リッチ AGB 星の 数も "variety" も小さい。こうして、C-リッチ AGB 星の完全度は外側銀河系の 方向で増加するのである。
( 理解できない。)
Rg < 8 kpc では O-リッチ AGB 星の完全度に対する C-リッチ AGB 星の完全度 の比はほぼ一定であった。したがって、我々の結論は完全度の変動によって はそう影響されない。
( もっと理解できない。)


 先行研究と一致 

 表3には炭素星分布に関する先行研究を載せた。以前の研究でも、 O-リッチ AGB 星が銀河中心方向に集中するのに対し、 C-リッチ AGB 星の分布が平坦である ことが指摘されていた。図9の結果はその傾向を定量的に明らかにした。

 C-リッチ星とO-リッチ星の分布はなぜ違う? 

 一つの説明は、星間ガスメタル量が原因というものである。Redicelli et al 2009 は d[Fe/H]/dRg = -0.04 to -0.13 dex kpc-1 (R=5-15 kpc) としている。 我々のサンプルでは dlog(C/M)/dRg = 0.1 dex kpc-1 である。

他銀河との比較 

 Battinelli, Demers 2005, Cioni 2009 によると、d[Fe/H]/dlog(C/M) = -0.5 で ある。我々の結果は d[Fe/H]/dlog(C/M) = -0.4 to -1.3 (Rg = 2 - 14 kpc) で あり、近傍銀河の結果に滑らかにつながる。

 [Fe/H] = 0 では (C/M) = 1  

  図9を見ると、[Fe/H] = 0 では (C/M) = 1 である。ただし、我々のサンプルは ダスト星に片寄っている。将来は炭素星の分布と炭素質ダスト分布の関係を調べたい。

図9.上: |b| > 10° の純化サンプル面密度の銀河中心距離 による変化。赤= C-リッチ AGB 星。青= O-リッチ AGB 星。完全度の補正 はなし。各 Rg 毎に0.3 kpc 巾の円環上の星を数えた。狭い帯はポアソンエラー を、広い帯は距離決定に ±2kpc の不定性を考えたエラー。
下: 完全度の変化。



表3.炭素星分布に関する先行研究。



 5.まとめ 






図A1.(a) 太陽中心距離と F(9) の関係。四角と丸は距離が分かった炭素星を示す。 黒点=純化サンプル星。破線=[K-9]=14 mag 星(dM/dt = 10-4 Mo/yr) の距離と [K-9]=1 mag 星(dM/dt = 10-8 Mo/yr)の距離。縦線=検出 限界 270(+150, -100) mJy に対応。これは低ダスト星で 8±2 kpc を意味する。 (b) O-リッチ星の同じ図。

 付録A.距離の評価 

 サンプル 

 Le Bertre et al 2003 サンプルは IRTS/NIRS で 観測した 126 C-リッチ星 と 563 O-リッチ星を含む。Zhang et al 2010 には文献から集めた 184 C-リッチ星と 110 O-リッチ星を含む。その大部分は AKARI 9 ミクロンフラックス が与えられている。ぞれらを BZ サンプルと呼ぼう。

 D - F(9) 関係 

 図A1には BZ サンプルの D - F(9) 関係が示されている。質量放出率 dM/dt は距離と無関係に定められている。L(9) ∝ (dM/dt)γ を仮定すると、

     log L(9) = C1 + γlog(dM/dt)

     log F(9) = C2 + log L(9) - 2 log D

     log D = (6.1±0.06) + (0.35±0.01)log(dM/dt) -0.5logF(9)

が得られた。 

 (dM/dt) 対 [K-9] 関係 

 図A2には (dM/dt) 対 [K-9] 関係を示した。この関係を近似的に、

     log(dM/dt) = log{3.8[(K-9) - 0.4]} - 8/0

と表す。この二つの関係から距離が決まる。図A1にはこうして決めた距離が 黒点で示されている。



図A2.(dM/dt) 対 [K-9] 関係。