あかりの IRC 全天サーベイデータを用いて AGB 星を分類した。二色図上で 既知天体の占拠する領域を定めた。次に、マスロスー光度関係を用いて、C-リッチ 星と O-リッチ星の空間配置を定めた。O-リッチ星は銀河中心に集中していることが 分かった。一方、C-リッチ星は太陽から 8 kpc 以内では一様な分布を示した。 | この結果は以前の研究で報告されていた傾向を全銀河系スケールで確認するものである。 我々の得た結果、銀河系のメタル量勾配、星間空間の化学進化の関係についても 議論した。 |
1.イントロIRC カタログには 844,649 9μm + 194,551 18μm = 870,973 total が 収められていて、 Ita et al. 2010 は少なくとも 90,000 の AGB 星が含まれていると述べている。2.データ解析2MASS 同定Ishihara et al 2010 では 2MASS との同定を位置差 3″ 以内の条件で 行った。その結果、614,204 個の IRC/2MASS 天体が同定された。また、IRC/SIMBAD 天体は 331,764 個見つかった。言い換えると、IRC 天体の 60 % 以上は SIMBAD 上で 新発見であった。 (SIMBAD で IR Source とされた天体は IRC/SIMBAD には含まない?) 2MASS 二色図 図1には 2MASS を使用した二色図を示す。ゼロ点は Fo(9) = 56.3 Jy, Fo(18) = 12.0 Jy (Onaka et al 2007) である。 二色図の分類 次に [J-K] - [K-9] 図上で既知天体の分布を調べ、A - H の8グループに分けた。 図 2 - 4 には 図 1 a, b, c 上での各グループの区画を示す。図 1 a, b, c のどれも 原点付近には通常星の集積が見られる。そこから右上へと分布が延びるのは暖かい星周 ダストを持つ星の系列である。図1a, 1c は[J-K] 軸を持ち、そこでは [K] 超過天体が 赤化を受けた星と混じりあう。一方、1a, 1b は [K-9] 軸に沿い、熱いダストの放射 または PAH の放射を持つ非常に赤い星、[K-9] > 5、がはっきりと分かれる。ただし 数は少ない。 二色図上の区分分けは Ita et al 2010, Takita et al 2010 と一致している。 C-リッチと O-リッチ AGB 星 図2a, 3a. 4a で判るように C-リッチと O-リッチ AGB 星は二色図上ではっきりと 分かれる。これは IRC の 9-, 18-ミクロンバンドが シリケイトバンドをカバーす るが、炭素星のバンドはカバーしないために現れた現象で、 IRAS, MSX, WISE より AKARI が優れている点である。 そこで、まず [J-K] - [9-18] 図でまず分類を行い、 次に占拠領域内の星を他の二色図を使って洗い出し作業に掛ける。この結果、第一 選別で 18,596 C-リッチ星と 83,012 O-リッチ星候補が、洗浄作業の結果、 5537 C-リッチ星と 11,416 O-リッチ星が得られた。表2に結果をまとめた。 混入 各占拠領域内の天体は次の4種類から成る: (a).正しく分類された既知星 (b).他の星種に分類されているが、この星種の可能性がある既知星 (c).未分類星 (d).他の星種に相違ない既知星。 例えば、「赤外天体」及び「変光星」とされた星は C-リッチ星や O-リッチ 星区分域では (b) に分類される。「ミラ型星」も O-リッチ星区分ではやはり (b) に分類される。 |
![]() 図5.フィルター応答曲線 信頼度と完全度
と看做す。また、
と定義する。 C-リッチ、O-リッチ星の信頼度と完全度 これらの検討の結果、各分類区域内の星についての信頼度は、C-リッチ星で 44-95%, O-リッチ星で 信頼度は53-95% である。完全度について言うと、C-リッチ星で 82 %, O-リッチ星で 80 % である。純化したサンプルでは信頼度は炭素星で 68-96 %, O-リッチで 71-96% である。完全度は炭素星で 64%, O-リッチ星で 29% である。図2−4を見ると分かるが 青くなると C-リッチと O-リッチが重なり合う。 |
3.1.銀河系内の位置分布AGB 星と 矮星/巨星の分布の違い図6には [9-18] - [J-K] 二色図上で選ばれた星(候補星サンプル、純化サンプル ではないことに注意)の方向分布を示す。図の 表面密度は1平方度あたりの星数である。AGB 星は銀河面、バルジ、LMC/SMC を なぞっている。図6で矮星、巨星にあたるグループ C はやや一様な分布となる。 例外は l = -90°, +90° 方向の弱い集中が見られる。 |
通常星と YSO の方向分布 通常星は MIR では暗いので、それらの検出体積は < 1 kpc に限られる。それら の星の分布はヒッパルコス星と似て局所腕の構造を反映する。 ( 具体的には何を指すか?) YSO(図6のグループ A では近傍の星形成域 オリオン、タウルス、ウミヘビ座ρ が 認められる。 |
3.2.C-リッチと O-リッチ星の分布方向分布図7には C-リッチと O-リッチ星の純化サンプルの分布を示す。ポアソン分布 を仮定して、表面密度の 2 σ 有意レベルは 0.3 cm-2 (C-リッチ星), 1.5 cm-2 (O-リッチ星) である。 ( 分からない。) O-リッチ星は銀河中心方向で 3 cm-2 、外側銀河方向で < 0.5 cm-2 と銀河中心方向に 集中する。一方、 C-リッチ星分布は比較的一様で銀河面に渡って、 0.2 - 0.4 cm-2 である。 分布に差がある このように、図 7b に見える O-リッチ星の 銀河中心からの減少は事実であるが、図 7a に見える M-リッチ星分布の小構造は 事実でない。この方向分布の差は実際の空間分布の差でも、検出距離の差のためとでも 説明できる。 |
距離の決定 サンプル中の幾つかの星は距離とマスロス率が分かっている。それらは、 Zhang et al. 2010, Le Bertre et al 2003 により独立に与えられた。これらのサンプルに対し、 距離、マスロス率、F(9) の関係を求めた。また、付録 A に示す方法により、 マスロス率 と [K-9] の関係も定めた。この二つの関係をつなげて、マスロス率と [K-9] の関係を 導いた。我々のサンプル中で最も暗い星の距離をこの方向で決めた結果は 8±2 kpc であった。 分布の縁、集中 図8の左側に現れている縁は実際の銀河系外縁であるが、右側の縁は検出限界に よる。銀河中心周りに楕円形の集中が見える。 約 5° の傾きは中心バーのためかも知れないが、距離の不定性が原因かも知れない。 C-リッチと O-リッチ星の空間分布の差は本当! 空間分布図で最も大きな発見は、C-リッチと O-リッチ星の分布に実際の差があることが 分かったことである。 |
完全度の銀河中心距離による変化 図9には表面密度の銀河中心距離による変化を示す。完全度の変化も示した。 C-リッチサンプルの完全度は Rg と共に増加するが、O-リッチサンプルの完全度は 低下する。O-リッチ AGB 星の完全度は赤い星ほど高い。したがって、外側銀河系で 完全度が低いのはつまり、ダスト星(質量大の O-リッチ AGB 星)の割合が 外側銀河系で低いことを意味する。対照的に C-リッチ AGB 星の完全度はカラー にほとんど依存しない。外側銀河系ではカタログに載った C-リッチ AGB 星の 数も "variety" も小さい。こうして、C-リッチ AGB 星の完全度は外側銀河系の 方向で増加するのである。 ( 理解できない。) Rg < 8 kpc では O-リッチ AGB 星の完全度に対する C-リッチ AGB 星の完全度 の比はほぼ一定であった。したがって、我々の結論は完全度の変動によって はそう影響されない。 ( もっと理解できない。) 先行研究と一致 表3には炭素星分布に関する先行研究を載せた。以前の研究でも、 O-リッチ AGB 星が銀河中心方向に集中するのに対し、 C-リッチ AGB 星の分布が平坦である ことが指摘されていた。図9の結果はその傾向を定量的に明らかにした。 C-リッチ星とO-リッチ星の分布はなぜ違う? 一つの説明は、星間ガスメタル量が原因というものである。Redicelli et al 2009 は d[Fe/H]/dRg = -0.04 to -0.13 dex kpc-1 (R=5-15 kpc) としている。 我々のサンプルでは dlog(C/M)/dRg = 0.1 dex kpc-1 である。 他銀河との比較 Battinelli, Demers 2005, Cioni 2009 によると、d[Fe/H]/dlog(C/M) = -0.5 で ある。我々の結果は d[Fe/H]/dlog(C/M) = -0.4 to -1.3 (Rg = 2 - 14 kpc) で あり、近傍銀河の結果に滑らかにつながる。 [Fe/H] = 0 では (C/M) = 1 図9を見ると、[Fe/H] = 0 では (C/M) = 1 である。ただし、我々のサンプルは ダスト星に片寄っている。将来は炭素星の分布と炭素質ダスト分布の関係を調べたい。 |
![]() 図9.上: |b| > 10° の純化サンプル面密度の銀河中心距離 による変化。赤= C-リッチ AGB 星。青= O-リッチ AGB 星。完全度の補正 はなし。各 Rg 毎に0.3 kpc 巾の円環上の星を数えた。狭い帯はポアソンエラー を、広い帯は距離決定に ±2kpc の不定性を考えたエラー。 下: 完全度の変化。 |
サンプル Le Bertre et al 2003 サンプルは IRTS/NIRS で 観測した 126 C-リッチ星 と 563 O-リッチ星を含む。Zhang et al 2010 には文献から集めた 184 C-リッチ星と 110 O-リッチ星を含む。その大部分は AKARI 9 ミクロンフラックス が与えられている。ぞれらを BZ サンプルと呼ぼう。 D - F(9) 関係 図A1には BZ サンプルの D - F(9) 関係が示されている。質量放出率 dM/dt は距離と無関係に定められている。L(9) ∝ (dM/dt)γ を仮定すると、 log L(9) = C1 + γlog(dM/dt) log F(9) = C2 + log L(9) - 2 log D log D = (6.1±0.06) + (0.35±0.01)log(dM/dt) -0.5logF(9) が得られた。 (dM/dt) 対 [K-9] 関係 図A2には (dM/dt) 対 [K-9] 関係を示した。この関係を近似的に、 log(dM/dt) = log{3.8[(K-9) - 0.4]} - 8/0 と表す。この二つの関係から距離が決まる。図A1にはこうして決めた距離が 黒点で示されている。 |
![]() 図A2.(dM/dt) 対 [K-9] 関係。 |