以前の計算結果= 0.6 Mo より低質量ではドレッジアップが起きない、と 組み合わせてマゼラン雲組成の 0.6, 0.7 Mo AGB 星進化計算を先まで行った。 しかし、13C(α,n)16O 中性子源が小質量コアの 全てで、水素がヘリウム燃焼殻まで入り込まなくても、弱く働く。そして、 22Ne(α,n)25Mg 中性子源は 0.6 Mo 星でも働く。 どちらの中性子源の強度も CNO 組成に比例する。さらに、以前の結果と同じく、 熱パルス後の光度低下の深さと期間は、良く知られているコアマス-光度関係 が AGB 星のコアマスを推定するには不十分であるほどに影響する。 | 0.6 Mo 進化を白色矮星で最後の熱パルスが起きるまで追い、0.7 Mo 進化は Mc = 0.61 Mo になるところで止めた。それは、無視していた炭素再結合と 化学的拡散が、ミクシングと元素合成反応に無視できない効果を持つからである。 ヘリウム燃焼による高光度の結果生まれたシェル対流が消滅した後、外層対 流が内側に侵入して来る前に、最初のシェル対流から取り残された高炭素領域 の縁に新しい対流シェルが発生する。この新しい対流シェルは炭素が完全には 電離しない温度領域における高炭素物質の高いオパシティの結果生まれた。 それが高炭素物質を高水素層の中に押し込み、ついには外層対流で表面まで 汲み上げられるのである。この新しい対流のもう一つ新しい点は、高炭素だが 水素を含む領域で水素が点火すると、低炭素領域でより大量の 13C や 14N が作られることである。次の熱パルス時に この 13C と 14N 領域がヘリウム燃焼対流に浸食され ると、より大量の中性子が供給される。 |
熱パルスによる窪み LMC の小中質量 AGB 星は Mbol = -4 で M-型から C-型に変わる。もし、熱 パルスを抑えたモデルで成立する、L = 6 104(Mc-0.5) を仮定 するなら、Mc = 0.55 Mo で炭素星が誕生する。しかし、熱パルスの結果、 無視できない期間星光度は先の式を下回る。M > 2 Mo で Mc > 0.8 Mo の場合この窪みは ΔMbol = 0.5、窪み期間は 20 % で、小質量星では ΔMbol = 1 mag.窪み期間もより長くなる。 したがって、炭素星の光度下限はMc = 0.55 Mo より大きなコアマスに対応する。 Mcmin この論文は小さな Mc の光度変化を調べることである。研究の結果、コアマスが Mcmin = 0.64 Mo を超えるまでは、窪み光度が Mbol = -4 を超え ることはない。 星団の M 型星 星団の M 型星分布の観測から Bessel, Wood, Lloyd Evans 1982 は AGB M- 型星が Mbol = [-4.6, -4.3] に分布していることを見出した。この値を上の 式に入れると Mc ≥ 0.55 - 0.59 Mo となる。上式は熱パルス直前の最高光度 の時にしか当てはまらないから、この Mc は下限値と看做すべきだろう。 炭素星の変光巾からは Mcmin ≤ 0.65 Mo が得られる。 小さいコアマスの炭素星 それより小さいコアマスの炭素星が見つからないことは, Mc ≤ 0.6 Mo では 炭素を表面まで汲み上げられないという理論モデルと整合する。 |
熱パルスに変化 このようにモデルと観測は大体一致するが、劇的という程ではない。そこで、 より精密な小質量 AGB 進化を試みる。その結果、 Mc > 0.6 Mo になると、 ヘリウムフラッシュによる対流が消えると、C/O コアと水素外層の間にある 炭素が上に押し出されて、電子を捕獲する領域に入る。その結果オパシティ が変化してその後の熱パルスのコースが変わることが分かった。 中性子源 低 Mc のもう一つの特徴は中性子源に関する。22Ne(α,n) 25Mg と 13C(α, n)16O 反応 が s-プロセスに必要な中性子を生み出すことである。 |
![]() 図1.0.6 Mo モデルの熱パルス前の光度と表面温度変化。 |
![]() 図2.0.6 Mo モデルの熱パルス期の光度変化。 |
![]() 図3.C/O コアを持つ 0.6 Mo 星の HR 図上進化経路。 |
![]() 図4. 0.7 Mo モデルの L 時間変化。図の第1パルスは実際には第8パルス。 |
![]() 図5.L = 表面光度と LHe = ヘリウム燃焼光度の、フラッシュ期 の時間変化。M = 0.7 Mo. |
![]() 図6.M = 0.7 Mo モデルの熱パルス後の、ヘリウム静謐燃焼と水素燃焼への転換期 における L = 表面光度、LH = 水素燃焼光度、 LHe = ヘリ ウム燃焼光度、の時間変化。 |
![]() 図7.0.7 Mo モデル, 第11パルスの対流領域。斜線部=対流存在層。 TCSB, ρCSB はヘリウム燃焼対流殻基部の温度 (106K)と密度(g cm-3). 25Mg = 対流層 での 25Mg 質量比。破線の 10MH と 11MH は第10、11パルス直前の水素燃焼殻の位置。 |
![]() 図8.0.6 Mo モデルで、順に起きるパルス対流層の範囲と重なり。縦実線= パルス毎の対流層の最大広がり。白丸=その対流層の内、前回の対流層にも含ま れていた物質の割合。 |
![]() 図9.12C と水素の組成。第11パルスピーク後。0.7 Mo. |
![]() 図10.C領域の縁 MC-He と、水素領域中心での拡散時間 τ diff。M = 0.7 Mo. 横軸時間は第11パルスピーク直後から水素再 点火までである。 |
![]() 表3. C-He 層縁での温度と密度 |
![]() 図11.3段ドレッジアップの組成比。 (a) パルスピーク後、ヘリウム燃焼対流層が消失し、水素燃焼はまだ未点火。 (b) 炭素再結合対流最活発期。 (c) 外層対流ドレッジアップ。 (d) 水素点火し、新しく作られた炭素は N14 と C13 に変換される。 |