A Dwarf Satellite Galaxy in Sagittarius


Ibata, R.A., Gilmore, G., Irwin, M.J.
1994 Nature 370, 194 - 195




 アブストラクト

 銀河中心方向に大規模で同じ向きに運動する星の群れを発見した。これは今まで 知られていたどれよりも近い矮小銀河に属する星である。この銀河はこれまで銀河系 の多数の星の蔭にあって見逃されてきた。この銀河をサジタリウス矮小銀河と呼ぶこと を提案する。この銀河はフォルナックス銀河と同じ程度である。サジタリウス銀河は 引き延ばされていて、現在潮汐効果で破壊されている最中であることを示す。

 本文 

多体分光観測 

 バルジ外辺部の恒星種族と運動を調べる一環として、18の低減光領域が Burstein, Heiles 1982 からの選ばれた。分光観測のために UK シュミット BJ , R 乾板から K, M 巨星が自動乾板測定 (ATM) によって選ばれた。観測は AAT 3.9 m 望遠鏡 + 多体ファイバー分光装置で3回の行われた。 この観測装置は同時に 64 天体の観測を 可能にする。内 50 体がターゲット、残りがガイドやスカイ評価用に使われる。6/18 選択領域から 40 ファイバー領域が観測された。視線速度の精度は 9 km/s であるが 他の2領域でも見られる。

視線速度分布 

 図1は銀河座標 l = 5°, b = -12°, -15°, -20° の3領域におけ る太陽中心視線速度ーカラー分布を示す。平均 0 km/s, 分散 70 km/s の成分はバルジ 星である。しかし、低分散の ∼ 140 km/s で BJ - R > 3 まで伸びている成分はどの銀河モデルでも予想されていない。この特徴は他の領域 では見られない。 星の超過は l = 5°, b = -15° で最大であるが、他の2領域でも見られ、 空間の広がりが少なくとも 8° に及ぶことを示唆する。

視線速度の特徴 

 視線速度分布は、太陽中心系統速度 = + 140 ±2 km/s, 銀河系中心 速度では + 172 km/s、である。測定エラーを補正後の速度分散 = 10 km/s である。 b = -12° と -20° の間に系統速度の差は < 5 km/s であった。この 速度分散は銀河系衛星銀河に特徴的な値であるが、バルジの速度分散の 1/6 で、 同経度の銀河円盤星の速度分散の 1/10 である。

図1.銀河座標 l = 5°, b = -12°, -15°, -20° の3領域におけ る太陽中心視線速度ーカラー分布。平均 0 km/s, 分散 70 km/s の成分はバルジ 星である。∼ 140 km/s の成分が BJ - R > 3 まで伸びている。 この特徴は他のどこの領域にもない。星の超過は l = 5°, b = -15° で 最大である。




図2.(左):中心1950 分点での R.A. = 18h 51.9m, Dec = -30° 33' (l = 5.5°, b = -14.1°)、 2° × 2° 領域の写真色等級図。R = 17.6, BJ - R = 1.3 の赤い水平枝/レッドクランプと青い方 BJ - R = 0 までの延長と、急な赤色巨星枝の R = 14, BJ - R = 3.0 までの延長に注意。   (右):(l = 8.4°, b = -13.5°)での同じ図。バルジと円盤しか見えない。


色等級図の特徴 

 この特徴をさらに調べるため、 APM により UKST の4箇所 5.3° × 5.3° 領域、問題領域をまたいで、を調べた。CCD で較正した、2° × 2° 領域、中心は R.A. = 18h 51.9m, Dec = -30° 33' (l = 5.5°, b = -14.1°) の CMD は図2(左)に示されている。R = 17.6, BJ - R = 1.3 の赤い水平枝/レッドクランプと青い方 BJ - R = 0 までの延長と、 R = 14, BJ - R = 3.0 へ伸びる急な赤色巨 星枝のに注意。その他は前景銀河系星である。Burstein, Heiles の減光マップから E(B-V) = 0.14 である。これは AR = 0.32 に相当する。別法として、 中間種族を示す SMC の CMD と比べる。SMC 図を R で 1.6 等明るく、0.2 等 赤くすると良く合う。こうして得た赤化は ∼ 0.3 等で前の結果とよく合う。 こうして得た赤化を使い、SMCの距離を 57 kpc としてサジタリウス銀河の距離 を求めると、24 &plumn;2 kpc となる。
SMC CMD との一致のよさは、サジタリウス 銀河中にかなりの中間年齢種族が存在することを示す。青い水平枝が弱く伸びて いるのは古い種族の存在を意味する。これらは銀河系の衛星矮小楕円銀河の特徴 であり、かなりの数の種族II 変光星の存在を予想させる。

比較 CMD  

 図2(右)は l = 8.4, b=-13.5 での比較CMDである。赤化は(左)と同じ くらいだが、バルジと円盤の特徴しか見えない。UKST フィールド 396, 397, 458, 459 (l = 5, b = 15 付近)で 2° × 2° の CMD を作った。 同様に 336(l = -5, b = -15),517(l = -5, b = 15) でも CMD を作った。 1° × 1° の CMD を l = 25, 15, 5, -5, -15, -25, b = -12, -15, -20 の 18 領域で作った。明瞭な巨星枝と水平枝はフィールド 458 と 459 でしか 見えなかった。



密度超過マップ 

 発達した水平枝の存在は銀河の広がりと光度を決めるのに便利である。水平枝等級 えの等密度線マップを描いて、そこから他の等級で作った等密度線マップを引けば よい。図3には水平枝星の分布を示す。矮小銀河は銀河中心方向に伸びて裂けている。 これは潮汐効果を示している。

球状星団 

近くにある4つの球状星団 M54, Arp 2, Ter 7, Ter 8 はこの銀河に随伴している のかも知れない。それらは距離と視線速度が銀河に近い。しかし、それらの不定性 から確実ではない。

メタル量 

 図2(左)の (BJ, R) を (B, V) に変換して、巨星枝のカラーを 銀河系衛星矮小銀河、球状星団のそれと比べて、メタル量を推定した。フォルナックス 銀河はもっともよく合い、 [Fe/H] ≈ -1.4 ± 0.3 である。これは、 メンバー候補星スペクトルの Mg I "b" 吸収から得た [Fe/H] &asymp: -1 ± 0.3 と近い。分光から得たメタル量の広がりはフォルナックスのそれ 0.3dex に 近い。もし、矮小銀河がメタル量と光度の一般的関係に従うなら、サジタリウス 銀河は銀河系星星銀河の中では最も明るいグループに入る。この様に拡がった 天体の光度は決めにくい。そこで、 水平枝星と巨星枝星の数を使う。図3に示す 超過水平枝星の総数は 17,000 である。低密度矮小楕円銀河では追跡可能な 一番外側の等密度線は約 50 % の星を含むと考えられている。フォルナックス は 35,000 個の水平枝星を含んでいる。星形成史や従って種族構成が異なること を考え、サジタリウスとフォルナックスの星の数が似ているとする。これは サジタリウスの絶対等級は MV = -13 である。

炭素星 

 視線速度∼ 140 km/s の4つの星はスペクトルから炭素星らしい。UKST 対物プリズムを見るとさらに幾つかの炭素星候補が見つかった。これはかなりの 量の中間年齢種族の存在を意味する。これは CMD が 中間年齢の特徴を示して いたこととつじつまが合う。多数の炭素星を有する銀河系衛星銀河はフォルナックス である。
何銀河なのか? 

 この銀河は矮小不規則銀河なのか、それとも矮小楕円銀河なのだろうか? 現在 HI 21cm マップを調べた。しかし、矮小銀河に付随する HI 放射は なかった。しかし、現在のデータの速度分解能は完全な排除はできない。 また、乾板上に不規則銀河にある青い星を探した。しかし、超過は水平枝の 所でしか見られなかった。したがって、矮小楕円銀河の可能性が強い。

 

 この銀河は現在強い潮汐力により引き裂かれているのである。フォルナックス 質量で銀河中心距離 16 kpc を仮定すると潮汐半径は 0.5 kpc である。サジタリウス は 3 kpc に広がっているから、この銀河は潮汐破壊の初期段階を示している。

図3.UKST フィールド 458, 459 から作った、水平枝星等級での密度超過マップ。 最低等高線は 1/8 星 arcmin-2 。銀河が二つの塊りに引き裂かれている のが見える。銀河は 3 kpc の広がりを持ち、MV = -13 である。距離は 太陽から 24 kpc, 銀河中心から 16 kpc である。