A Giant Stream of Metal-Rich Stars in the Halo of the Galaxy M31


Ibata,R., Irwin, Lewis, Ferguson, Tanvir
2001 Nature 412, 49 - 52




 背景 

 階層的銀河形成モデルでは食べられる銀河の破壊は段階的に進み、 壊された銀河の破片は母天体と似た軌道を辿る。その結果、破片は中心銀河から 様々な距離に散らばることになる。こうして、そんな銀河融合が繰り返される内に 中心銀河は星とダークマターからなる広大なハローを発達させる。その間に、 破壊された銀河からのガス成分はエネルギーを散逸させて円盤を成長させる。

 銀河系の場合 

 銀河系中心距離が 15 kpc より大きいハロー中間年齢種族星では、半分以上が サジタリウスストリームに属している事が判っている。これは、天の川銀河への 大きな降着事象は約 7 Gyr 前のサジタリウスが最後で、それ以降はよっぽど古 い星だけで形成された衛星銀河の降着のようなことでもなければ、銀河系の形成 は宇宙年齢の半分くらいの時点で完了したと言える。

 他の銀河では? 

 では、他の銀河でもハロー副構造が見られるだろうか? NGC5907 には巨大な ストリームが知られている。この銀河は以前から赤くて明るい扁平ハローを 持っていることで有名な「特異」銀河であった。普通の銀河に副構造が見られるか どうかを調べるのに最適なのは M31 である。

 観測 

 INT(2.5m)/WFC は4チップモザイクで 0.3 deg2 をカバーする。2000 年 9 月 3-9 日に M31 南東部を観測した。観測は V, i バンドで 58 領域、85 % は シーイング 1".2 よりよい条件で像を撮れた。露出時間は 800 - 1000 秒で、 i = 23.5, V = 24.5 mag. (S/N=5) に到達する。これは、 RGB 星で Mv = 0, 主系列 で Mv = -1 に相当する。

 過去の観測の欠点と今回の観測の特色 

 以前の観測はハローの外側部を数箇所つまむか、広い代わりにずっと浅い眺望を 目的としていた。それに対し、今回の観測は深く広いので、等級・カラー毎に空間分布 を調べることが可能となる。この観測は領域がつながっているので、M31 ハローの 大規模構造と前景天の川銀河星分布とから局所的な密度超過を区別することが可能 となる。

 データ処理 

 データは WFC パイプラインで処理された。測光ゼロ点は毎晩の測光標準星観測と 隣り合う領域間の重なり合い部分の測定を用いて行われ、 1- 2 % の精度を得た。 ノイズ、銀河、星の分類は画像の形態で行った。





図1.M31 ハロー南東部での赤色巨星密度分布。マップの窪みはシーイングの 悪いデータ部分。長軸半径= 55 kpc。短軸の近くに密度超過が見える。
混入1=銀河。銀河密度は V < 24 mag で 25,000 deg-2 であり、 M31 から投影距離 20 - 25 kpc では星の数と同じくらいになる。銀河の一部は星と 間違えて分類されてしまう。
混入2=前景星。観測領域の 10 % 程度を占める。しかし、これらの星の寄与は密度 マップから容易に除去できる。実際、0.01 deg2 という小さい面積で、 S/N > 5 でストリームを検出可能である。
ストリーム以外に、ハローの形が全体的に箱型である。これは他にも副構造がある ことを示唆している。しかし、それは先の研究に任せる。




図2.(V - i, i) 色等級図。左: ストリーム領域 0.3 deg2。 中:短軸上ストリーム外領域 0.3 deg2。M31 RGB 星は i = 20.5 より暗い方に見える。
右 = 左 - 中。実線は左から右へ、NGC6397([Fe/H]=-1.91), NGC1851(-1.29), 47 Tuc(-0.71), NGC6553(-0.2)。メタル量が NGC1851 から太陽に跨っている ことが判る。平均メタル量は 47 Tuc より少し高めである。このようにメタル量 が広がっているので、ストリームまでの距離を正確に確定することは難しい。 d= 800 ±200 kpc であろう。


 赤色巨星の数密度マップ 

 図1には i-バンド像上で星状、かつ等級とカラーが赤色巨星に合致する天体の 数分布にストリーム状の密度超過が見出せる事を示す。そこでは数密度が周囲の 約2倍になっている。RGB チップより明るい星だけ取ると、その分布は滑らかで、 ストリームは現れない。
(TP-AGB がストリーム種族にはない、つまり低メタルで 10 Gyr 年齢ということになるが、本文の主張と違う。)
ストリームの星はハローの他の箇所の星と同様な色等級図を示す。しかし、 赤色巨星枝が赤く、メタル量が高いらしい。その輝度は Σv ≈ 30± 0.5 mag arcsec-2 で、その広がりはサーベイ境界、投影距離 40 kpc、 まで続いている。

 メタル量 

 図2の色等級図で球状星団の赤色巨星枝との対応からメタル量が導かれた。 太陽メタルに近い星がストリームには集中している。そのような高メタル星が M31 ハローには広く薄く分布している。ハローの平均メタル量と星数密度 が共に銀河系ハローの10倍くらい高い事は現在でも謎である。

 デブリ仮説 

 このストリームは何なんだろうか?外側円盤のメタル量は低いので、ストリームと 円盤との間に直接の関係は考えにくい。受け入れられる解釈はこれがハロー中の 大きな副構造であるというものである。このストリームは M32 と NGC205 をつなぐ 線に沿っている。さらに NGC205 の外側等密度線の伸びる向きはこのラインの方向 である。これら二つの矮小銀河とストリームの間には何らかの関係があるのかも 知れない。ストリームの総等級は Mv ≈ -14 mag で、M32, NGc205 のどちらと 比べても一桁暗い。これはストリームが M31 との最近の潮汐作用で M32, NGC 205 の どちらかまたは双方から引きはがされた破片であるという仮説と釣り合う明るさ である。

  NGC205 

 M32 と NGC205 はどちらも M31 中心の近く、 M32 は投影距離 5 kpc, NGC205 は 9 kpc、にある矮小楕円銀河で、普通と違う性質を示すことが知られている。 NGC205 は現在も星形成活動を行っており、複雑な星形成史を有している。その中心 にはダスト、 HI ガス、分子ガスが検出され、形態的ならびに運動学的証拠はこの 銀河が潮汐力で引き裂かれつつあることを示している。HI ガスは星には見られない 速度勾配を示し、星ほど外側まで広がっていない。ガスと星との間のこの明らかな 不一致はガスが最近、おそらく M31 円盤から、取りこまれたことを示している。

 M32

 M32 は引き裂かれつつあるようには見えない。しかし、この銀河には通常の古い 種族に加えて多数の中間年齢種族の星が含まれている。その赤色巨星枝の巾の広さは メタル量に大きな広がりのある事を示している。その平均値は太陽メタルを少し 下回るていどであり、星形成が長く続いたという仮説を支持する。

 ストリームとハローの起源 

 ストリーム星と二つの衛星矮小銀河の星とはメタル量が割りと似ていて、かつ 配列 が揃い、M31 から共に近い。これらの特徴は共通の起源を指し示している。その上、 M31 ハローの残り部分の異常な性質はそれが比較的最近の起源を有することと合致する。 見かけ上は特異に見える M31 はローンの性質は単に二つの近傍衛星銀河からの 長く続いた引きはがしの結果ということが十分にありそうである。この解釈が正しい なら、ストリーム、と多分ハローの大部分、は以前の M31 との作用の結果である。と いうのはそうでなければ矮小銀河から離れる時間がないからである。サジタリウス ストリームについての数値計算結果を見ると、軌道にそって母天体の両側のストリーム が伸びるので、 M31 の反対側にもストリームが見えるはずである。

 遭遇による星形成 

 円盤を横切る間に、M31 円盤及び矮小銀河内のガスはショックを受け、爆発的星形成 とガスの交換を経験する。矮小銀河ではこのガスは以前の世代の星からの放出ガスか M31 円盤からの降着で供給される。これらの複雑な作用が矮小銀河とアンドロメダ ストリームの特異な星形成史を説明するであろう。一方、M31 円盤への衝撃はウォープ した円盤形状の原因かもしれない。銀河系ウォープの原因も類似の過程であることは 十分考えられる。

 結論と今後の研究  

 銀河系、アンドロメダ銀河でストリームが見出されたことから、巨大ストリーム というハロー副構造が大きな渦状銀河では一般的な性質であること、また銀河系星 は穏やかなテンポとはいえ現在も継続しているプロセスである事が示唆された。M32 と NGC205 がストリームの起源であろうが、過去に起きた第3の銀河の降着の残骸という 可能性も捨て得ない。分光による個々の星のメタル量、視線速度の決定、ストリーム の先、及び M31 の反対側への撮像観測の拡大等追究観測が必要である。