Medium Resolution Stellar Spectra in the Two-Micron Region


Hyland
1974 HiA 3, 307 - 326




 アブストラクト 

 2 μm 中分散スペクトルを調べた。12C16O, 13C16O, H2O, CN の振動回転スペクトル、 Bγ の例を示す。CO, H2O のバンド強度、カラー、光度の関 係を G5 より晩期の 100 星の観測から得た。  これ等の関係の解釈と炭素星における CO 強度のカラー依存性のような重要な 問題を議論する。2μm スペクトルを使った赤外源のスペクトル分類の例を 示す。このような観測を銀河中心核に応用する問題を簡単に論じる。


 1.イントロダクション 

  1.9 - 2.5 μm スペクトルの定量的取り扱い 

 Kuiper 1962, Boyce, Sinton 1964, 1965, Sinton 1966, McCammon et al 1967 の 1 - 4 μm 帯スペクトルの研究により、そこでの分子バンド構造 が明らかになった。現在より高分解能の観測 R = 500 - 2000 での課題は CO や H2O のような少数のスペクトル特徴を定量的に扱うこと である。ここでは 1.9 - 2.5 μm スペクトルの定量的取り扱いを行う。 観測はヘール天文台を用い、 Frogel と Hyland が行った。この波長帯が 選ばれた理由は PbS 感度と星のフラックスが最高だからである。
 目的 

 ここでは

(i)晩期型星カラーとバンド強度の定量的関係。

(ii)赤外源のスペクトル分類

を扱う。


 2.観測テクニック 

 3.中分解能で見えるスペクトル構造 

 3.1.分子線 


図1.μ Gem (M3III) と LPV U Ori (M8e) のスペクトル。分解能=32.5 A. U Ori の深い水蒸気吸収に注意。

 CO 

 12C16O の第1倍音 Δv=1 振動回転バンド系列 は 2.29 - 2.45 μm 間に 6 つのバンドヘッドが見える。それらは G5 より 晩期の星に見える。K0 より晩期では 13C16O バンド ヘッドも見える。CO の重要性はそれが C, N, O 存在量の手がかりを与えるこ とにある。13C16O バンドは 12C/13C の導出の可能性を与える。

 H2O 

 地球大気で 1.9, 2.7 μm 吸収帯を示す水蒸気は非常に低温の星大気にも 存在するが、高励起順位からの線吸収のためバンド幅が 2 μm の窓にまで 伸びてくる。図1の U Ori には 2.0 - 2.2 μm に H2O 吸収が 存在することが示されている。Frogel 1971 の水指数はモデル Auman 1969 との 比較に向いている。

図2.LPV 炭素星 V CrB, 不規則変光炭素星 U Hya, S 型星 AA Cyg のスペク トル。12C16O, 13C16O の バンドヘッドと CN レッドシステムのバンドヘッドも示す。HCN と C2H2 の予想位置も示す。 S 型星の CO バンドヘッド はこれまで観測された中で最強である。二つの炭素星の CO バンドの強度に 違いがあることに注意。

 CN 

 CN の (2,4) と (3,5) Δv=-2 システムの R21, R22, R11, Q11 バンドヘッドは Thompson, Schnopper 1970 が同定し、 (1,3) バンドヘッドは Frogel, Hyland 1972 により同定された。 中分解能スペクトルではそれらのバンドヘッドは僅かに見えるだけである。 吸収線の数が多いため、CN 吸収は炭素星で連続オパシティのように働く。M 型星で水蒸気が同様の働きをする。図2には U Hya (C7,3) の CN バンドヘッド を示す。それは LPV 炭素星 V CrB(C6,3) ではずっと弱い。 S 型星 AA Cyg では 更に弱くなる。

 他の分子 

 高励起 TiO, SiO 振動回転バンドが 2 μm 帯に予想されている。しかし、 この分解能では検出されていない。同様の予想が HCN, C2H2 でもされている。図2にその位置を示す。


 3.2.原子 

 水素 

 2ミクロン帯ではブラケットガンマ B7 2.1655 μm しかない。吸収線強度 が測れるのは B - K 型星である。

 ヘリウム 

 1s2s - 1s2p 遷移 2.05813 μm が PN, Nova で輝線として報告されている。
 他の原子 

 Frogel 1971 は Si I, Mg I, Ti I の近接した吸収線を Spinrad, Wing 1969 が予想した位置に検出した。しかし、強さは 3 A 以下でこの分解能 では精密な測定はできない。


 4.バンド強度 - カラー関係 


図3.G5 - M8 巨星の W(CO) - (J-L) 関係。実線=フィット直線。連結黒点 =同じ星の別観測


 第4章では約100の晩期星の CO, H2O 指数の観測結果を論じ る。そのスペクトル型は G5 - M8, 長周期 M-, S-, C-型変光星も含む。

  W(CO)= 2.29 - 2.39 μm での CO 吸収等値巾
     = 12C16O (2,0)-(5,3) バンドヘッド
(連続光は段差上部の延長か? )


図1から分かるように 13C16O (2,0) バンドヘッドが 被るが、影響は小さい。

  WV = log[Fcont(λ=2.10)/Fλ(λ=2.10)]

は Frogel 1971 による水蒸気吸収強度である。この定義は Frogel 1970 と少し異なる。 Fcont(λ=2.10)=連続光部分の外挿で決まる。図1を見よ。

 4.1.G5 - M8 巨星と超巨星のCO 

 CO指数の有用性はどれほどか? 

  Johnson, Mendez (1970) は、スペクトル型が晩期になるにつれ、 CO バンド強度が大きくなることを示した。 幾つかの疑問が起きる:

(i)CO 指数は Teff 決定に使えるほど鋭敏か。光度効果はどう組み込める?

(ii)組成(Z)変化の証拠が CO 指数に見られるか?低メタル K-型巨星やスー パーメタルリッチ星に対し重要である。C, N, O 間の組成を決めるのに役立つ。
(何を考えての疑問か? )

(iii)CO 指数をモデルから説明できるか?

(iv)12C/13C 比が 12C16O、 13C16O バンド強度から出せるか?

図4.超巨星の W(CO) - (J-L) 関係。白四角=クラス II. 黒四角=クラス Ib, Iab, Ia. 直線=図3の巨星フィット線。連結黒四角=別のカラー観測。

  W(CO) - (J-L) 関係 

 図3には W(CO) - (J-L) 関係を G5 - M8 巨星に対して示す。J-L は星間減光 が小さい時には良い温度指数である。Teff < 4000 K では CO は完全に associated (?)しているので、温度が下がるにつれ吸収強度が上がるのは、 CO 分子数が増加するためではなく、連続吸収源の H- 数が減るため である。そうであっても、CO バンド強度を理論的に扱うには、大きなマイクロ 乱流 = 10 km/s を含める必要があった。これは可視スペクトルの解析で使われる 値よりずっと大きく、この問題は更に研究する必要がある。

 CO指数 

 図4には超巨星の CO 指数を示す。同じ J-L カラー=温度に対しては、超 巨星の CO 指数は巨星より大きい。幾つかの超巨星で星間減光、星周減光が大 きいので正確な関係ははっきりしない。固有カラーがきちんと決まらない内は、 光度+温度による二次元分類は難しそうである。J-L カラーの代わりに、連続 光の勾配を直接用いることも可能である。ただ、その精度は低い。

 COバンドの形の差 

 巨星と超巨星のスペクトルを較べると、CO バンドの形が基本的に異なること が分かる。しかし、この違いを定量的に評価した例はない。M 巨星の μ Gem (図1)、IRC*20439 (図8)、S-型星 AA Cyg (図2、このスペクトルは超巨星 のと同一) を較べるとその意味が分かる。
(眺めても分からない! )


 J-L=1 で W(CO) の分散が大きい 

 図3の J-L=1 付近では W(CO) の分散が大きい。これは、測定誤差でなく 実際の現象かも知れない。そこは Cannon 1970 が述べたクランプのカラー 領域である。主に CO の存在量で決まる CO バンド強度と CN やメタルライン 強度との相関は興味あるテーマである。


 4.2.LPV M-, S-, C-星のCOバンド強度 

 様々なタイプの星の W(C0) - (J-L) 関係。 

 図5には、様々なタイプの星の W(C0) - (J-L) 関係を示す。超巨星と矮星は 混乱を避ける意味で除いた。図から、 (1)LPV M-星は、変光サイクルの間 W(CO) を大きく変動する。矢印はその 典型例である。W(CO) 極大時の位置は巨星系列を伸ばした先になる。

(2) S-星は最強の W(CO) を持つ。この効果の一部は H2O 吸収 を欠くための連続吸収の低下による。

(3)SR と Irr の W(CO) は (J-L) と共に低下する。C-星の W(CO) 分布は さらに広いが、 (J-L) はずっと赤い。

 炭素星の特徴 

 炭素星の特徴は Frogel, Hyland 1982 によると

(1)(J-L), (3.5-8.4) カラーと共に W(CO) は低下する。

(2)炭素星分類の炭素パラメタ―が大きくなると W(CO) は低下する。

(3)可視で決めた温度が低下すると W(CO) は上がる。

 CN 

 炭素組成が上がると、CN バンドによる連続吸収が大きくなり、W(CO) が 下がるのである。残念ながら、CN の増加を実際に検証する観測は未だない。 モデル大気で、O 一定に対し、C を増やしていった時に、図5の変化が 検証できれば非常に良い。

図5.様々なタイプの星に対する W(CO) - (J-L) 関係。


 4.3.12C/13C 

 12C16O と 13C16O バンド ヘッドから 12C/13C を出す時の問題は、 12C16O の飽和度が不明であることである。 早期 K 型では飽和していず、12C/13C = 10 -20 で 太陽と大きく異なる。


 4.4.水蒸気バンド 

 WV は変光極小時に最大 

 WV は変光極小時に最大となる。一方、極大期には WV は単に正常 M 型星の 延長に乗る。

 WV とスペクトル分類 

 WV を使って M10 までのスペクトル型を決めることが出来る。それは Wing 1967 の TiO+VO 強度とスペクトル型との関係に似る。ただし、 WV とカラー温度の 相関は良くない。 WV - 温度関係は多値なのかも知れない。

図6.WV = 水指数と (J-L) カラーの関係。LPV の WV 極小値は M-巨星の延長 にある。WV 極大値は明らかに区別できる。  


 5. 2 μm スペクトルの利用 

 5.1.赤外天体のスペクトル分類 

 スペクトルの特徴と分類 

 2 μm スペクトル吸収帯強度の観測的関係から、組成、温度、光度に関する 特性を導ける。例えば、 NML Cyg は Johnson 1968 により M-型超巨星に、多く の OH/IR 星は Hyland et al 1969, 1972 により M-型超巨星、または LPV M- 型星に分類された。これらの天体の有効温度は、類似スペクトルを持つ、赤化の ない天体の温度として決められる。M-型星ではダスト放射の影響は光学的に厚い シェルの場合でも大したことはない。しかし、炭素星の場合、炭素ダストが高温 なため、4.2.節に示したように、ダスト放射により CO バンドは浅くなる。

 図7=例 


図7.赤外天体 IRC-10396 と炭素星 S Cep(C7,4)、赤外天体 IRC-30398 と LPV M型星 W Leo(M7e) の 2 μm スペクトルの類似性。


 5.2.ノバ、シンビオティック星、 Be 星の赤外成分の同定 

 IRC+20439 = 共生星 

 可視では A2 星 DM+22°3840, IRC+20439 は W(CO)=250 A で M7 巨星 T = 2600 K である。

 Z CMa 

 ダスト雲に埋もれた早期型星。2 ミクロンスペクトルに番K型星の特徴無し。

 89 Her 

 F-型超巨星+赤外超過。スペクトルは R CrB と似る。

 FH Ser = Nova Ser 1970 


図8.早期型の可視成分を有する天体の2ミクロンスペクトル。  


 5.3.モデル大気と観測との比較 

 5.4.銀河、星団の合成スペクトル 

 6.結論 

 CO 強度は温度、光度の指標として使える。 1.9 μm 水吸収は LPV M-型星 に特有である。  将来は銀河や星団の研究にも使えるだろう。