The Infrared Properties of Circumstellar OH/IR and H2O/IR Sources


Hyland
1974 IAU Symp 60, 439 - 458




 アブストラクト 

 OH, H2O メーザーを出す M 型超巨星、ミラ型変光星の赤外スペ クトルはそれらの星の大気条件は OH 密度が極大であることを示す。 H2O メーザー星の H2O 1.9 μm 吸収は強い。OH サーベイで発見されたが、対応赤外天体の未同定な星の数は多い。TV撮像 による探査の予備的結果を報告する。  赤外カラー、周期、赤外振幅、OH ピーク間速度差の間に興味深い相関が見 つかった。メーザー放射は赤外放射によるポンピングが原因と考えられる。 ミラ型星における OH, H2O 放射と赤外連続光の関係は、赤外 ポンピング説を支持する。


 1.イントロダクション 

 OH メーザーの特徴 

 Wilson, Barrett 1968 の OH メーザーの発見後多くの観測が行われ、以下 のことが分かった。

(i)タイプ I = 1665/1667 MHz で強い。タイプ II = 1612 MHz が強い。

(ii)二つのピーク間距離= 5 - 60 km/s. よりプラス側の速度=可視吸収 線の速度。よりマイナス側速度=可視輝線速度。

(iii)OH 線は弱く偏光している。

(iv) 1720 MHz に放射は見つからない。

(v)OH は IR と同期して変光する。

H2O 線が検出された OH 星ではその速度は二つの OH 線の中間にある。

 OH/IR 星のイメージ 

(i)中心星=赤色超巨星か M 型長周期変光星。Teff = [1800, 2600] K

(ii)ダストシェル。Ts = [600, 700] K.

(iii)外側ダストシェル。OH, H2O 放射を出す。



 赤外観測のまとめ 

 ここでは、赤外観測のまとめを報告する。

図1.OH/IR 星の漫画。


 2.OH/IR 系の同定 

 赤外源同定の歴史 

 歴史的理由で、 OH/IR 星のサーベイは当初は既知赤外源に対して試みられ、 最近では長周期変光 M 型星へと移ってきている。さらに、 Winnberg et al 1973 や Caswell, Haynes 1973 の銀河面サーベイは超巨星 OH/IR 星の特徴 を持つメーザー源を多数発見した。これらのサーベイで発見された天体の著 しい特徴は電波源と一致する既知赤外源が一つも無かったことである。

 TVカメラの利用 

 赤外源を探すための通常の方法はメーザー源位置のエラーボックス範囲を赤 外受信機でスキャンすることである。しかしこの方法は時間がかかる。そこで、 我々は TV カメラを16インチ望遠鏡に付けて、 16' x 10' 画像を取得した。 フィルターとフォトカソードによる応答の結果は B = 4300 A, IKron = 8000 A となった。図2の上は Glass, Feast 1973 がスキャン方式で同定した G338.5+0.1, 下は OH338.0-0.1 近傍である。下画像には OH 位置 2' 東に 赤外源がある。ただ、同定とするには位置の一致が悪い。

 限界等級 

 この方法で 2.5 秒積分の限界等級は IKron = 14 である。既知の 赤い赤外源で、これは K = 6 に相当する。したがって、この方法で IRC サーベイ の 3 等深い探査が可能である。

図2.SEC vidicon テレビカメラによる青、赤外画像。図のバツ印=OH 位置。 挟み込みマーク=最近傍の赤外天体。  


 3.分光観測 


図3.1612 MHz 源、超巨星 VY CMa と VX Sgr, それにミラ型変光星 IRC+10011, WX Ser の赤外スペクトル。破線=広帯域測光から決めた連続光勾配。CO と H2O 吸収が目立つ。

 赤外スペクトル 

(i)1612 MHz が強い3天体、NML Cyg, VY CMa, VX Sgr は赤色超巨星である。 スペクトルの特徴は強い第1倍音 CO 振動回転バンドと弱いが認識可能な H2O 1.7, 2.0 μm が存在する。図3を見よ。

図4.1665/1667 MHz 源、長周期変光星 IRC-20424, S CrB の赤外スペクトル。 S CrB と不規則 M8 変光巨星 RX Boo は H2O 源。 破線=広帯域測光から決めた連続光勾配。


  (ii)1612 MHz OH/IR 星の大部分はミラ型 M 星で、H2O バンドが 強い。CO は中程度から強い。それらの典型例を二つ図3に示す。極端な例で ある IRC+10011 の場合、連続光は吸収を受けた後、ダストの再輻射で形成された と考えられる。しかし、その影響はスペクトル分類を変えるほど大きくない。

  (iii)1665/1667 MHz OH/IR 星のスペクトルはそれらも長周期変光星である ことを示す。スペクトルから 1612 MHz OH/IR 星と 1665/1667 OH/IR 星を 区別することはできない。図4にその3例を示す。


 4.赤外測光と星周ダスト 

 4.a. 近赤外カラーの統計 

 Wilson, Barrett 1972 は 403 IRC 天体の OH 観測を行った。1612 MHz 源 は全て [I-K] > 4.6 であった。140/403 IRC 天体は [I-K] < 4.6 で、OH メーザーは検出されていない。これは分光観測による、 OH/IR 星の Teff < 2600 K という結論と合致する。

 4.b.  タイプIとIIの赤外カラーの差 

 タイプ II は赤外超過がある 

 1.25 - 20 μm 測光から Hyland et al. は 1612 MHz OH/IR 天体は赤外 超過を示し、 IRC 天体の中で最も赤い群れに属することを示した。 同じように赤く、しかし OH 検出が無い天体の大部分は炭素星であった。 赤外超過は 600 - 700 K のダストシェルからの放射と解釈される。

 タイプ I は赤外超過がない 

 図5に両者の K-L = ダスト吸収を受けた光球放射 と K-N = ダスト放射の ヒストグラムを示す。1665/1667 = 主ラインは青い天体に多い。これは、 タイプ I には赤外超過がないことを意味する。

 特殊な例 

 R Aql は 強い 1612 MHz 放射星だが、ダストシェルの特性を持たない。一方、 IRC-20424 は主ライン星だが強い赤外超過を示す。

図5.OH/IR 星の上段=(K-N), 下段=(K-L) ヒストグラム。 上=タイプII(1612 MHz), 下=タイプ I (1665/1667 MHz). タイプIはタイプII より青い。


 4.c. シェル構造 


表1.OH/IR 星の典型的シェルパラメタ―

 モデル 

 現時点では、未だ簡単なモデルしか提案されていない。Hyland et al 1972 は Teff = 2200 K 中心星の周りに等温ダストというモデルを考えた。ダスト の吸収係数は λ-1 の波長依存性を仮定した。図6には そのようなモデルでも観測カラーを十分に説明することを示す。この簡単な モデルから、

(i)ダストシェル温度=600 - 700 K

(ii)シェル輻射の割合から、1612 星の多くが光学的に厚いシェルに覆われて いることが分かる。また、赤外超過が大きいのに可視で見える星が見つかって いないことから、球対称構造はそう間違っていないらしい。 表1にシェルパラメタ―の例を示す。

図6.(F10.2/F3.5) - (F3.5/F2.2) 関係。黒丸=1612 星。白丸=1665/1667 星。 対角線=黒体。破線= Teff=2200 の星に 600 K と 700 K のダストシェルを付けた 。破線をつなぐ実線=シェル放射の割合。R Aql は左下の黒丸、IRC-20424 は 1612 領域の真ん中にある白丸。短破線=変光観測を結ぶ。


 4.d. マスロスとシェル 

 マスロスは OH 放射に関係している 

 マスロスは OH 放射に関係していると看做されている。ΔV(OH) はマス ロス率の大まかな見積もりを、一方 (L-N) カラーはシェルの光学的厚みを与え る。

 ΔV(OH) に切れ目 

これまで注意されて来なかった特徴の一つは、

ΔV(OH) = 10 - 14 km/s に分布の切れ目がある。


(どちらかと言うと L-N に切れ目と 見える )
この区間は正に巨星や超巨星の脱出速度の領域なので図は、放出速度が脱出速 度に満たないと厚いシェルは形成されず、それを越すと必ず厚いシェルが出来 ると解釈される。
(どういう理屈か分からない。 )

図7.(L-N) と ΔV の関係。黒丸= 1612 MHz. 白丸= 1665/1667 MHz.


 5.赤外と電波の変光 


図8.周期、振幅、カラー、速度間隔の間の相関。

 5.a. 一般性質 

 メーザーと赤外強度の関係を調べるには同時観測が望ましい。H2O では Schwartz et al 1974, OH では Harvey et al 1974 がそのような観測を実施 した。

 5.b. 赤外の変光 

 赤外変光は 8 H2O/OH 源と 14 OH/IR 源に対して調べられた。 赤外変光の特徴は、

(i)NML Cyg と VY CMa を除く赤外源の K 変光巾は 0.5 - 2.5 mag.

(ii)赤外変光の位相は可視変光に対し 0.1 - 0.2 周期遅れる。

(iii)赤外カラーは極大時に青く、極小時に赤くなる。

(iv)周期、振幅、カラー、速度間隔の間に図8に示すような相関がある。 周期と速度間隔の関係は Dickinson, Chaisson 1973 が、周期と振幅の関係は Merrill 1960, Lockwood, Wing 1971 が述べている。

図9.(a) = IRC+10011 の赤外と 1612 MHz の変光。 (b) = S CrB の赤外と 1667 MHz の変光。 (c) = U Her の赤外と 1.35 cm H2O の変光。

図8に示す相関の原因は不明であり、さらに別の例えば光度 L のようなパラ メタ―にも関係するであろう。長い周期、大きな振幅が、大きな速度間隔、 赤外カラーと関係することは、質量放出の過程が脈動機構と関連し、ダスト輻 射圧による放出流は星から遠方での二次効果であることを示唆する。
(ふーん、だが理屈が良く分からん。 )


 5.c. 赤外とマイクロ波変光の相関 

 H2O では Schwartz et al 1974, OH では Harvey et al 1974 が調べた赤外と電波の変光間の相関は、 (i)図9に示すように、赤外と電波の変光周期は等しく、誤差の範囲内で位相 も同じ。
(この時期位相差は検出されていない。)

(ii)1665/1667 変光は 1612 にくらべ不規則である。赤外変光との相関は低い。

(iii)OH フラックスの振幅は赤外と同程度又はそれより著しく小さい。一方 H2O の方は赤外より大きい。

(iv)1612 MHz OH と 1.35 cm H2O 視線速度は変動しない。


 5.d. 赤外とマイクロ波放射の輻射結合 

 メカニカルカップリングがおかしい理由 

 メカニカルカップリングがおかしい理由は、

(i)VLBI 観測からメーザー放射域は中心から 1016 cm 離れている。

(ii)密度の問題(文意がつかめなかった)

(iii)OH, H2 速度の安定性は放射域が星本体と力学的に切り離さ れていることを示す。
 輻射結合がもっともな理由 

(i)中心輻射が OH, H2O 分子マイクロ放射準位の平衡占有率に 影響する。これは (1)M 型星では OH, H2O 分子の解離に必要 な紫外光が欠けている、(2)その場合極大時に解離最大のはずだが、実際 には極大時にメーザーが極大になる、ので割引される。

  (ii)輻射は衝突率に寄与し、それは占有率逆転につながる。

  (iii)輻射ポンピングは尤もらしい説明である。


 6.他の性質 

 (a) OH/IR 星の分布 

 極大時に L = 10,000 Lo と仮定して距離を決めると、1665/1667 天体の平均 距離は 1612 の 1/3 である。K 等級も主ラインの方がずっと明るい。 もし周期光度関係、周期カラー関係が成立するなら、主ライン星の光度は暗い。 そうすると平均距離の差は更に拡大する。
( 1665/1667 天体は低質量で青くて暗い。 数は多いらしい。)

 F(OH)/Fbol と (L-N) の関係。 

 図10には R = F(OH)/Fbol と (L-N) の関係を示す。図は R と (L-N)の正 の相関を示すが、それは数個の超巨星によるところ大である。ミラ型星のみに限ると、 カラーによらず R に一定の上限があるように見える。 その説明はないが、 ポンピングの効率に固有の上限が存在するためかも知れない。

図10.縦軸=F(OH)/Fbol と横軸= (L-N) の関係。黒三角=超巨星。 黒丸= 1612 LPV. 白丸= 1665/1667 LPV.


 7.結論 

 (i) 中心星 

 メーザー源の中心星は M 型超巨星か長周期 M 型巨星である。それらの星の 温度は丁度 OH, H2O 分圧が最大の範囲になる。

 (ii) マスロス 

 中心星はマスロスを行っている。マスロスの強い星が 1612 MHz メーザー源に なる。
 (iii) メーザー領域 

 メーザー放射は中心から 1016 cm 離れている。メーザー強度は 赤外変光と連動する。メーザーは輻射ポンピングを受けている。