Stellar OH Masers towards Globular Clusters


Frail,D.A., Beasley, A.J.
1994, AA 290, 796-802




 アブストラクト 

球状星団の観測 

 NRAO 142-ft 望遠鏡を使い、 δ > -42° の球状星団全てで OH メーザー を探した。感度は 1667 MHz で 69 mJy, 1612 MHz が 66 mJy であった。 5個の球状星団でメーザー天体を発見した。

メーザー検出は1つ 

 6天体は視線速度の点でメンバーシップが疑わしい。NGC 6171 方向の V720 Oph は視線速度が星団に近い、膨張速度が小さい、固有運動が検出されない、点から メンバーシップが支持される。検出率がこの様に低い理由を考察した。  

 1.イントロ 

OH メーザー 

 ミラでは 1665, 1667 MHz メインライン、OH/IR 星では 1612 MHz サテライト ラインが主である。球状星団で強いラインが検出できると、干渉計観測により その運動の決定に役立つであろう。それは、銀河系ポテンシャルの決定に 役立つので重要である。

球状星団でのメーザー探査 

これまで球状星団に OH メーザーを探る試みは、Dockey/Malkan 1980、 Cohen/Malkan 1979、Knapp?Kerr 1973 など全て失敗している。 今回は、 感度向上、数多い、IRASで選択するというシステマティックな方法で 再挑戦する。


 2.天体選択 

球状星団候補天体 

 星団位置はDjorgovski/Meylan(1993)星団カタログから得た。視線速度は メンバーシップ決定に重要で、Pryor, Meylan 1993 を使用した。

 潮汐半径 (Harris, Racine 1979) 内にあるIRAS点源でメーザーを出しそう なものを選んだ。潮汐半径の与えられていない場合は 10' とした。これは NRAO 140-ft 望遠鏡の HWHP が 9' だからである。こうして、322 IRAS 天体 中、フラックスクオリティ = 2,3 のもの 127 天体、その中から 12, 25, 60 μm で  クオリティ = 3 のもの 17 天体が選ばれた。

 IRAS カラーは次の式で定義される:

[12] - [25] - 2.5 log F25μm
F12μm


[25] - [60] - 2.5 log F60μm
F25μm



図1.候補天体の2色図。クロス=12,25でクオリティ2か3.丸=12, 25, 60で3
候補天体の性質 

図1に、127 天体の IRAS 二色図を示す。大雑把に言って、ミラ型星は領域 II, IIIa に多く、OH/IR 星は IIIb, IV に多い。こうして選んだ候補天体は表1に載せた。全体として、あまり有望そうな候補とは 言えない。というのは、どれもhalh light radius より離れているからである。 ここに選ばれた星団は、銀河面に近く、銀河中心方向にある。したがって、 バルジ、銀河円盤の星が混入する可能性が高い。


表1.球状星団付近の候補天体。


 3.観測 

NRAO 140ft OH1667、1612MHz――> 119GCs+上の17/19IRAS



 4.結果 

 4.1.非検出 

 3 σ で 200 mJy 以上あれば検出できた。この観測は Knapp,Kerr 1973 の 1612 MHz 観測より感度が高いが、Dickey, Malkan 1980 の 1665, 1667 MHz 観測より かなり低い。しかし、どちらも観測天体数が少ない。非検出の意味を探るため、 Lindqvist et al. 1992 の銀河中心の 134 OH/IR 星サンプルを用いた。

 Baud et al. 1985 の OHメーザー光度を採用する。

     L(OH/IR) = d2 √(SB×SR) Jy kpc2

ここに d = 8.5 kpc、SB, SR はメーザーの青、赤ピーク フラックスである。

 球状星団に対しても 3 σ リミットを計算した。図2にはその両者の ヒストグラムが示されている。

これを見ると、最も遠い球状星団に対しては銀河中心で最も明るい OH/IR 天体でさえも 必要感度に到達していないことが分かる。しかし、近い星団では検出可能なはず。
なんでそういう結論が出るのか分からん。

 4.2.検出 

検出数 

球状星団: 2/119 星団, Liller 1, Djorg 1.で 1612 MHz 検出。1667 MHz は非検出。 ただし、Liller1 方向のメーザーは te Lintel (1989) の2検出が報告済み。
一方、IRAS 天体候補の方は 19 候補中 観測 13 天体で、その内 3 天体から 新検出に成功した。それに、観測はしなかった3既検出を足して 6 メーザーである。

観測データ 

 8検出を表2に載せた。ΔV = |VR - VB|/2 である。 ⟨V⟩ と VLSR との差が小さいことがメンバーシップの判定条件 になるが、殆どの例でそれが満たされていない。Djor 1 は VLSR が無い ので判定できない。NGC 6656 は一つの天体だろう。



図2.上:銀河中心付近でのOH/IR星の OH 光度分布
   下:球状星団の OH 光度上限値分布 


表2.球状星団方向の OH メーザー検出天体

 4.3.NGC 6171 と IRAS 16296-1305 

視線速度 

 図3には IRAS 16296-1305 のメーザースペクトルを示した。平均視線速度は -29.5 km/s である。一方、近傍の星団 NGC 6171 の視線速度は -147 km/s から -22 km/s まで散らばるが、の最近の視線速度測定結果は VLSR = -34 km/s (Pryor, Meylan 1993), -21 km/s で、速度分散は 3 - 4 km/s 程度である。したがって、この一致は許容範囲内にあると言える。

NGC 6171 (M 107)メンバーシップ 

 NGC 6171 (M 107) は高銀緯 (l, b) = (3.4°, 23°) D=6.4kpc の高メタル 星団である。IRAS 16296-1305 は誤差の範囲でミラ型変光星 V720 Oph.と重なる。 固有 運動データから Cudworth et al 1992 は NGC 6171 がメンバーである確立を 10 % としている。彼らは、V720 Oph の V 等級はこの星が NGC 6171 の RGB 先端 であることと矛盾しないとしている。Cudworth は最近の Private Comm. ではこの 確率を 98 % まで引き上げた。

 van der Veen, Habing 1990 に従って、この星の光度を L = 3000 × BC × (d/6.4kpc)2 L , BC=10 と見積もると明るすぎるのが問題になる。この星は領域 IIIa に属し、 BC = 10 が正しいかどうかが問題である。

周期=332 d からは明らかにおかしい。

膨張速度 

 Baud 1981 によると、メーザー速度は年齢指標である。低膨張速度は古くて 小質量の星に属すると考えられ、IRAS 16296-1305 の膨張速度はこの星が 低質量で低メタルの星であることと矛盾しない。



図3.IRAS 16296-1305 の 1612 MHz スペクトル。


 5.議論 

なぜ、こんなに少ないか? 

上の1例以外は、検出天体のメンバーシップは疑わしい。
なぜ、こんなに少ないか?
  Dickey, Malkan 1980, Cohen, Malkan 1979, Knapp, Kerr 1973

(1) 感度 
  図2を見ると、バルジの明るいソースなら大部分の球状星団にあれば観測 されるが、暗いメーザー源はあったとしても引っかからない可能性がある。

(2) 寿命 
短い AGB 寿命∼105 yr と一つの球状星団中の星の数 ∼105個、球状星団総数∼102 を考えると AGB 星の総数は小さいことが想像される。


(3)LPVの性質 
  球状星団中には LPV(Feast 1988 ,Menzies,Whitelock 1985),
     post-AGB (Cohen/Gillette 1989) は存在する。
  それらはバルジに較べると 30 % 暗い(Frogel,Elias 1988)

  Sivagnanam et al 1988 は OH メーザーが少ない理由は星周シェルが薄い
  ため、メーザーポンピングが弱いからだとした。
  星団ミラの(H-K)o カラーが青いこともこれを裏付ける。

(4)低メタル 
  Blommaert ey al 1993 は銀河系外辺部では OH メーザー検出率が低く、 104 L を超える星に限られると指摘した。 Wood et al 1991 はLMC でも似た現象があるとし、低メタルだとダスト形成 率が下がるためでないかと考えた。メタル量により OH メーザーを放射できる 質量下限が変化するのかも知れない。


 6.まとめ 

 球状星団のサーベイの結果、OH メーザー有力候補は V720 Oph 一つであった。 この星の光度を決めるためにより観測が欲しい。

もし、メンバーシップが本当ならVLBI観測により固有運動を決める必要がある。


この仕事自体はVLBI用の強いメーザー源を探す目的であった。そのような 天体は無かったが、もっと弱い天体が検出限界以下に存在する可能性はある。

もっと深い観測でそのような天体を探すことは低メタル星の進化を 探る上で重要である。