RCB 星の特徴は低速の「彩層」流である。これはエディントン限界を超える 光度による輻射駆動性流で質量放出の主原因であろう。この流れの中に生じる 不安定性によってダスト形成が起こり、その結果発生した小雲は直ちに星から 外へ噴出する。そうであるなら、ダスト形成による彩層の質量欠損を補充する 時間が赤外放射の長期変化に自然なスケールを与える。赤外データは少なく とも幾つかの RCB 星の「脈動」は星全体のものでないことを示す。 | RY Sgr の深い極小時における見かけ上の巨星脈動が記述され、 その説明が与えられる。RCB 星は双極性であり、ダストは星周環という説を 議論する。観測は球対称分布を支持する。 低温低密度の RCB 星周辺ガスの中を,急速に膨張するダストとガスの小雲が 突き抜けていくのであり、RCB 星は高温ガスに包まれてはいないというモデル を提案する。RCB 星と HdC 星の元素存在比効果について述べ、UW Cen の周り の反射星雲が RCB 星小雲モデルを検証するのに役立つ可能性を指摘する。 |
輻射駆動流モデル 深い極小時に星が隠され外側に広がる大気のみを見ることがある。この外側 大気は通常「彩層」と呼ばれるが、これが特に加熱機構において太陽の彩層と 同じかどうか明らかでなく、少なくとも一部は反転層(reversing layer) と 考えられる。彩層ガスからの輝線は星本体の吸収線に対して約 10 km/s の青 方変位を示す。これは RCB 星からは深い極小と無関係に、連続的なガス流出が あることを意味する。その駆動力は輻射圧であり、星の光度はエディントン限 界を超えているに違いない。log g - log Teff 図上に RCB 星をプロットする と、RCB 星は電子散乱に対するエディントン限界の僅かに下に来る。しかし、 Asplund, Gustafsson 1996 はラインブランケッティングを考慮すると、星は 超エディントン限界になることを示した。すると、ダスト小雲(puffs)形成 のような現象は輻射駆動流の中に起きる二次効果ということになる。 RCB 質量放出にたいし、エディントン駆動流はこうして脈動にへの対抗モデル と考えられる。 |
脈動モデル 通常は RCB 星質量放出の原因は脈動と考えられている。しかしこの考えには 見直すべき点がいくつかある。RY Sgr はかなり規則的な変光曲線、視線速度 変化、安定した周期を持つ。他の RCB 星も脈動しているかも知れない。例えば UW Cen は比較的安定した周期と時に V-(B-V) 面上で RY Sgr と似た、しかし もっと小さい輪を描く。しかし、もし極小頻度や赤外超過を指標とするなら、 質量放出は脈動振幅と相関しない。多くの RCB 星は V 等級で 0.1 等以下の 変化しか示さないし、周期もあまりはっきりしない。 RCB 星に期待される動径 基本振動の周期は約1か月である。一方、Wdowiak 1975, Feast 1986 が考え たように、もし RCB 星大気が 30 個ほどの巨大対流セルで構成されるなら、 セルサイズと音速から決まる力学的タイムスケールも同じくらいになる。 RY Sgr の場合、L バンドでも変光が起きている。この光はダストシェルから で、つまり星全体からの積分光である。他の RCB 星での低振幅変光が星全体 の変化に起因するという証拠はまだない。逆に、例えば SU Tau の場合、星本体 からのJ 光は振幅 0.15 等で周期約 40 日の変化を示す。 しかし、シェルからの L 光は何の変化も示さない。こうして J 変化は 巨大対流セルかダストの小規模遮光による非一様で変動する明るさの結果と 考えられる。そのタイムスケールが約1か月なので、脈動との区別は難しい。 視線速度も対流で変動するから視線速度での区分けも困難である。 |
RCBs 特に RY Sgr の場合に、深い極小の出現が脈動位相と相関すると主張 されてきた。その証拠はまだ確かでない。これまで言及されていないが、しかし、 極小と脈動変光の間にある関係が存在する。それは、RY Sgt の場合、大きな 極小の直前に急速な光度低下と回復が起きることである。この現象は 1963 から 1991 年までの間 AAVSO に記録された4回の深い極小のいずれにも 見出せる。そのうち3回は SAAO の JHKL 測光が行われている。遮光期間中の 恒星変光は L フラックスで検知されている。これら3回の極小前に起きた 短期間の極小は脈動変光の極小期に起きたことが分かった。実際、この第1極 小の下部=初期急減光と回復は脈動変光を拡大したように見える。この現象の 説明として、 |
(1)脈動変光サイクルの間に視線方向で付加性のダスト形成と蒸発が起きた。
しかし、ダストは作られると直ちに吹き飛ばされるだろう。
(2)脈動サイクル中の星サイズの変化による幾何学効果。しかし星は変光 極大時には極小時より小さい。 (3)光球の輻射が一旦ダスト層に吸収され、光球とシェルの中間温度で再 放射される。それが V 等での大きな変化を生む。UBVRIJHKL 測光による この機構の可能性評価が SAAO で進行中である。 (4)大きな極大の方のフラックス変化は彩層の電子散乱光による。 1967 年極小時の分光観測では極小下部のスペクトルは彩層輝線が支配的で あって、最後の頃はほとんどラインのない連続光で埋められていた。この ふるまいはモデル(4)に合う。 |
円盤と双極流モデルが提案された Hd 星は通常、(1) 近接連星中の質量輸送の結果、と (2) 単一星の 2つに分けられる。 RCB 星は (2) と考えられている。しかし、最近 Rao, Lambert 1993 は円盤と双極流モデルを提案した。この考えは、 RCB 星 を他の特異高炭素星、例えば CRL2688, the Red Rectangle, HD4197 に 結びつける点で魅力的である。連星の問題は重要なので、観測的に RCB モデル を考える枠組みを整理しよう。 小雲モデル RCB 星の標準モデルはススの小雲がランダムな方向に放出され、時に遮光を 生み出すという機構を含む。単純で観測を説明するモデルは星表面近くで固体 が凝結するというものである。このモデルは Feast が 1979, 1986 に提案した。 ダスト小雲は複写圧で 200 km/s の速度で星から吹き飛ばされる。これは ダストと共存すると思われるガスの吸収線の青方変位から分かった。 このモデルの難点は、星のごく近くでダストを形成しなくてはならないことである。 |
Alexander et al 1972, Clayton et al 1992 は 4000 K でのダスト形成が不可能
ではないと主張する。しかし、ノバなどのほかの天体ではみな低温でダスト
形成しているのに RCB のみ例外とするのは無理がある。別の可能性は
Feast 1990 が研究した RCB 星から離れた 900 K の距離でダスト形成
を起こすことである。このモデルを完全に捨てることはできないが、
RCB 星極小の測光、分光変化を満足の行く程度に説明するためには付加的な
仮定を必要とする。
双極モデル 深い極小はダスティトラスで生み出され、トラス自体は星から動径方向に 広がっていく。ただ、このモデルで観測を説明するのは全く困難である。 それでここでは記述を略す。 |
青方変位吸収線から輝線へ 遮光のある時期、青方変位する吸収線が観測された。それらは 200 km/s で RCB 星から離れていく遮光雲中のナトリウムやカリウムによるものである。 その後、星と彩層が隠されると、幅 400 km/s の D, H, K, He I 輝線が現れ た。Feast 1986 はこれを 200 km/s でいろいろな方向に動く多数の小雲からの 輝線が合わさったものと解釈した。 |
He I 輝線問題 Surendivanath et al 1986 は He I 輝線を説明するには T = 2 104 K, n = 1010 cm-3 という 高温高密度環境が必要とした。しかし、He I の準安定 3S レベルに電子が溜まれば輝線は可能で、それは高速小雲と周囲のガスとの 原子衝突による励起で可能である。 |
V854 Cen Kilkenny, Marang 1989 が定量的スペクトル解析を行い、この星の水素量が 高いことを示した。この星は現在極度に活動的な RCB 星で、その点では 現在知られている最低水素量を持つ XX Cam が RCB 活動をほとんど示さない ことと対照的である。HdC 星もやはり極度に水素量が少ない。水素量が RCB 活動と一般に相関するのかどうかは確定していない。 |
FG Sge 関連して、水素欠乏という報告はないが、最近炭素量の超過を示した FG Sge の追跡観測は重要である。 FG Sge の急速な化学進化は、 RCB 星 UW Cen の周辺に広がる不規則な形の反射星雲がススによるか どうかを不思議に思わせる。 |
巨大対流セル Wdowiak 1975 は巨大対流セルが RCB 星表面近くでのダスト形成に関与して いると提案した。これは有望そうだが、詳細な定量的検討はまだである。 星風内不安定 一方で、質量放出は超エディントン限界光度による輻射駆動星風が原因と 考えると、ダスト形成はこの星風内に生じる不安定性が原因の二次的現象なの かも知れない。Stencel et al. 1986 は赤色巨星の彩層においてそのような 不安定性を考え、そこでのダスト形成を提案した。彼らはそのような環境で 物質は熱い状態と冷たい状態の二つを取ることができると考えた。星間物質で はそのような2成分の存在はよく知られている Field et al 1969. |
他の不安定 別の可能性は、物質の流れが何かの原因で滞り、高密度領域を作った際の レイリーテイラー不安定である。別の話だが、脈動や対流が彩層不安定を 引き起こす可能性もある。 中性の凝集雲 以上は全て思弁である。しかし、 Pottasch 1984 は惑星状星雲 NGC 7293 中に中性の凝集雲を発見した。これはプラズマ中に濃い中性雲が存在可能で あることを示す例である。また、濃い小雲が飛び去り、彩層密度が下がると 補充までに時間がかかる。この補充時間が長期間の赤外光レベルの変化を 定めているのでないか? |