アブストラクトB = 23 までのフォルナックス B, R 撮像からCMDフィットにより星形成史を 導いた。フォルナックスは複雑な星形成史を持つことが判った。多くの星が早期 に形成されたが、最も支配的な種族は中間年齢種族である。そこには 3 - 4 Gyr 昔の爆発的星形成が含まれる。また、大きな種族勾配が明らかに見える。他の 矮小楕円銀河と似て、最近の星形成は中心近くに限られる。さらに、中心付近では メタル増加が外辺部より速い。中心部では年齢 10 Gyr 以上の星は [Fe/H] ∼ -1.4 であり、3つのメタル量分布のピークを示す。全体として、フォルナックス のメタル増加は非常に効率的であった。もっとも最近の爆発的星形成は太陽 メタル量に近い星を産み出した。我々の結果は以下のシナリオを支持する。 すなわち、早期に急速なメタル量増加期を経て、広いメタル量分布を産み出す。 星形成は 4 Gyr 昔まで次第に穏やかに低下して行く。そこで急な爆発的星形成 が起き、メタル量が大きく変化する。その後は弱い星形成が続く。年齢 100 Myr 以下の星が存在する定性的な証拠がある。1.イントロ繰り返し星形成 矮小楕円銀河は大きな ∼ 100 - 1000 の M/L 比を示し、 108 - 109 Mo のダークハローの中心に星は存在する。ダークハローは 観測される銀河の限界のさらに外側まで広がっている。全ての矮小楕円銀河は 古い種族を持つ。Held et al 2000 しかし、フォルナックスのような銀河では 数回の星形成期を持つ。これらの銀河の環境は大きな銀河に較べると比較的 単純で、星形成の研究に適している。シミュレーションによると、ガスが 陥落してきて星形成が起き、メタルが増加したガスが吹き飛ばされ、そして 再び陥落して来て次の星形成が起きる。Salvadori et al 2008 はサイクル の時間を ∼ 250 Myr とした。 矮小楕円銀河の多彩な星形成史の原因 矮小楕円銀河では最近の星形成は中心に集中する。Harbeck et al 2001. 銀河系には [Fe/H] < -5 の種族が存在するが、矮小楕円銀河には [Fe/H] < -3 の種族は存在しない。Helmi et al 2006 これは、矮小楕円銀河の第一世代 の星を作ったガスが事前にメタルで汚染されていたことを意味する。その上、Grebel, Gallagher 2004 は矮小楕円銀河の多彩な星形成史は再電離の結果ではなく、 銀河毎の個別過程が影響していると論じた。それらの個別過程には、内部フィード バックによるガス運動の調整が含まれる。勿論、ラム圧力による剥ぎ取りや 銀河系の潮汐効果もある。 |
フォルナックスの概容 フォルナックスは d = 138 kpc, MV = -13.1 で、固有運動の測定 によると、銀河系を中心にほぼ円軌道の運動をしている。軌道周期は約 3.2 Gyr である。Walker et al 2006 は 206 星の視線速度を測り、速度分散が銀河全面で ほぼ等しいことを見出した。これは相当な量のダークマターを意味する。 1.5 kpc 内では M/LV ∼ 15 であった。 フォルナックスの星形成史 フォルナックスの星形成史は複雑である。フォルナックスには発達した AGB を持ち、炭素星も存在し、強い中間年齢種族の存在を示唆している。その上、 フォルナックスには若い星種族も存在する。主系列は 100 - 200 Myr まで伸びている。Gallart et al 2005 の解析によると、フォルナックス中心で 爆発的星形成が 1 - 2 Gyr 昔に起き、これは現在に至るまで続いている。実際、 Battaglia et al 2006.によると、赤色巨星枝の半分以上は 4 Gyr より若いと 思われる。 種族勾配 フォルナックスには種族勾配もある。若い星は中心付近に集まっている。この 性質は矮小楕円銀河に共通し、星形成を継続させるガスがダークハロー中心部に 保持されることを示している。フォルナックスでは若い種族は主銀河と重なって いず、構造が見られる。これは 2Gyr昔にシェル的構造が作られたことを示す。 メタル量 年齢の巾に加え、メタル量にも巾がある。Ca II 三重線による赤色巨星の メタル量は -2.5 ≤ [Fe/H] ≤ 0.0 に及んでいる。Battaglia et al 2006 の観測は 562 星と多く、メタル量と運動の関係も調べられた。高メタル星は 速度分散が小さい。 星形成史 しかし、フォルナックスの星形成史の研究は欠けていた。そこでここにフォルナ ックス前面に渡る深い撮像の結果を報告する。手法は Dolphin 2002 が開発した CMDフィットを使用する。データは B = 23.0 まで及んでいる。従って主系列 を 3 Gyr まで辿れる。t > 3 Gyr は RGB, RC, HB で調べる。 |
2.1.データ整約ESO/MPG 2.2m 望遠鏡+ 4×2 CCD モザイクを使い、34'×33' を 0.24"/pixel で撮った。これまでに図1に示すように 21 回で 5.25 平方度を撮 った。シーイングは中間値で 1.4" であった。![]() 図1.観測範囲。実線楕円はコアと潮汐半径を示す。破線は今回のサーベイ 範囲。点線は観測の重なり区間。斜線はフォルナックス球状星団で、 丸の半径は 1.5' で星団の潮汐半径に相当する。二つの円弧はシェル的な特徴 (Coleman et al 2004, 2005)を示す。 2.2.測光 DAOPHOT で行った。2.3.CMD種族勾配に合わせた領域区分 フォルナックス中心部の恒星種族に関しては Stetson et al 1998, Saviane et al 2000 を参照。しかし、周辺部は良く分かっていない。図3にはフォルナックス 全領域に渡る CMD を示す。Saviane et al 2000 はフォルナックスに強い種族勾配 が存在するという理論を示した。そこで、フォルナックスを図1に示すように4 領域に分割した。領域区分半径は rC, 2rC, 3rC, と rt, ここに rC = 13.8'はMateo 1998 のコア半径, rt = 76.0' は潮汐半径である。若い星の分布は非対称だが、この区分内 に収まる。 星の数 領域 1 には 28,000 星、領域 2 には 41,000 星、領域 3 には 31,000 星、 領域 4 には 51,000 星が含まれる。背景星の差し引きには Grillmair et al 1995 の手法を用いた。その結果が図3の下段である。 |
CMDの特徴 領域1の CMD の特徴は、 (1)B = 20 から青い側に下る RGB. t > 1 Gyr 種族が含まれ、様々な年齢と メタル量が混ざるため太い。 (2)(B-R) = 1,3, B = 22 に RC がある。若い ∼ 中間年齢で高メタルの種族 の水平枝である。 HB が青い方に伸びているように見える。RC から赤い方にも伸び ているようだが、これはディザリングの効果で B フレームが1回しか撮れていない 箇所から生まれている。これらの数は小さいが星形成史への影響は後に述べる。 (3)RC の 0.6 等上に密度超過がある。これは Saviane et al 2000 により AGB 開始時のクランプであることが示された。 (4)RC の下に準巨星枝が伸びる。年齢、メタルの広がりを反映して太い。 (5)Saviane et al 2000 は主系列が 200 Myr まで伸びていることを見出した。 領域の比較 (1)若い主系列星は中心に集中している。 (2)HB が領域 4 では (B-R)=-0.2 まで伸びている。低メタルの古い星 (3)外側へ行くと RGB 位置が青くなっていく。平均メタル低下。 全体として、後期の星形成とメタル増加が中心部に集中している。 ![]() 図3.4領域のCMD |
3.1.CMD フィッティングパラメターの設定Dolphin 2002 の CMD フィッティング "MATCH" を使用した。モデルCMDは Girardi et al 2002 から採った。シーイングが観測毎に異なるのでフィットは 各領域毎に行った。 フィッティングの主なパラメターは、距離、 年齢、メタル量、減光である。連星の割合、IMFも重要だ。連星比 = 0.5, サルピータ INF を仮定した。距離は 138 kpc とした。Schlegel et al. 1998 の減光マップでは E(B-V) = 0.015 - 0.03 である。そこで、前景赤化に E(B-V) = 0.015, 0.02, 0.025, 0.03, 内部赤化に E(B-V) = 0.0, 0.1, 0.2, 0.3 を仮定し、その全組み合わせに対しフィットを行った。 年齢区分は Δlog t = 0.15 とした。最古の年齢ビンは 11 - 16 Gyr で、 最若は 10 - 16 Myr である。年齢ビンの数は 21 である。 メタル量に関しては, [Fe/H] = -2.4 から 0.0 まで 0.15 巾で 16 ビンとった。 ![]() 図4.フィールド15での領域1のCMDフィット。(a):観測ヘス図。(b):モデル。 (c):残差。黒は予言不足。白は予言過剰。(d):残差/ポアッソンσ | フィットの例 図4は領域1、図5は領域3をフィールド15から再生したものである。 HB/RC 付近でフィットに問題がある。これはモデルが不十分なためと思われ、より改良さ れたモデルの使用で改善されるとし対している。 「良い」フィット 距離3通り、前景赤化4通り、内部赤化5通りの計60通りのフィットを行い、 そこから、Q = フィットの良さ指数を計算した。ベストフィットから 1 σ 以内 のフィットは「良い」フィットと看做す。 ![]() 図5.フィールド15での領域3のCMDフィット。 |
3.2.結果3.2.1.全体の様子銀河全体の星形成史全領域の星形成史を足して銀河全体の星形成史を作り図6と表1に示した。 10 Gyr 以前の最初の星形成の後、星形成率はゆっくり低下して行った。 4 Gyr 以前に急な星形成増加が起き、 1 Gyr 続いた。その後星形成率は 極度に低下し、現在に至る。比較のため、図6には Tolstoy et al 2001 の測光と CaII 三重線に基づく結果を示した。彼らの星形成ピークはずらして 我々のピークと一致させた。最近数 Gyr に関しては一致がよいが、早期の 歴史は我々の方が詳細である。これまでに形成された星の総量は IMF を 0.15 Mo まで積分して 6 × 107 Mo である。 図6.からの概算をやってみた。出来た星の数は t > 4 Gyr が8割以上になる。
![]() 図6.上:銀河全体の星形成史。下:年齢ーメタル量関係。 横棒は年齢巾。上点線はTolstoy et al 2001, 下点線はBattaglia et al 2006 |
メタル量変化 古代の星は汚染済みのガスから生まれた。16 - 11 Gyr の星は [Fe/H] = -1.4 である。メタルが上昇し始めるのは 5 Gyr 昔に辿りついてからである。これらの 結果はこれまでの研究と合っている。図6下には Battaglia et al 2006 による 562 562 RGB 星分光に基づく、AMR を示した。各年齢ビンの中でもメタル量の 分散は大きいことに注意せよ。また、Battaglia et al 2006 より、少し上に ずれている。これは、進化モデル、距離、測光較正などの誤差のためかも知れない。 ![]() 図7.各年齢ビン内で形成された星の質量 ![]() 表1.全体での星形成史 |
3.2.2.細かい見かた距離による星形成史の違い種族勾配は矮小楕円銀河では普通に見られる。Harbeck et al 2001. 一般には 新しい星形成は中心付近で見られる。図8は中心から周辺への4領域で SFH が大きく変わっていくことを示す。中心では 3 - 4 Gyr 昔に起きた 星形成が著しい。しかし、領域4ではそれは全く見られない。 1 Gyr より若い 星も大部分は領域1に集中している。これは矮小楕円銀河で良く見られる特徴である。 メタル量変化 メタル量変化は領域による違いは見られない。 [Fe/H] = -1.4 から始まり、 5 Gyr まであまり変わらず、そこからメタルが急に上昇し始めて -0.5 に達する。 その後の増加は見られない。 5 Gyr 付近での急なメタル増加は強い星形成と 結び付いている。 フィールド間のばらつき 領域1では SFH にフィールド間の違いがない。力学タイムスケールが短いため 混じり合いが大きいからであろう。領域4でも違いが小さいが、これは古い星 が多く、拡散に十分な時間があったからである。中間の領域2と3では 4 Gyr バーストの強さがフィールド毎に異なる。この点の検討は次の論文で扱う。 ![]() 図9.4領域における星形成史。濃い四角ほど高い星形成率を示す。 | ![]() 図8.4領域での 左:SFH と 右: AMR。4本の線は各領域内での異なる フィールドを示す。右側の数字はフィールド番号。 |
3.2.3.古い星における組成変化図9を見ると、フォルナックスのメタル量の広がりが大きいことがわかる。 どの年齢でもその広がりは 1 dex 程度ある。特に 10 Gyr 以上古い星では 広がりが大きく [Fe/H] ∼ -0.5 から -2.4 のカットにまで及ぶ。図9では 最も高メタルビンがゼロでない値を示している。これはディザリング不足で生じた 人工的な赤い水平枝星を合わせようとして MATCH プログラムが無理に赤い RC を 加えようとしたためである。古い星のメタル量分布 562 RGB 分光から Battaglia et al 2006 は [Fe/H] ∼ -0.9 と -1.7 にピーク を見出した。彼らは高メタル星に中心集中が大きいことを見出した。図10には 古い星のメタル量分布を示した。メタル量分布の [Fe/H] = -1 ピークは領域1から 3にかけて段々弱くなり、領域4で消える。領域4では [Fe/H] = -1.5 に幅広の ピークを持つ。 よく飲み込めない。 RGB は t > 10Gyr だというのか? なぜ、フィットした各領域の CMD 上の RGB メタルを直接グラフにしない? 領域4では [Fe/H] = -2.4 に第3のピークがあるがこれはモデルのメタル範囲がそこ で終わっているため集積効果かも知れない。しかし、それでも 1, 2, 3 領域の メタル量分布は [Fe/H] = -1.0, -1.5, ≤ -2.0 のピークを示している。 まとめると フォルナックスの高メタル([Fe/H]=-1.0)成分を再現した。しかし、我々の結果は 古い星に3つのピークが存在することを示す。Battaglia et al 2006 の2ピークに 反する。t > 10 Gyr にフォルナックスには3つの大きな星形成が起きたのかも 知れない。 3.3.シェル3.4.光度史 |
![]() 図10.最古の年齢ビン(11-16Gyr)中のメタル量分布。各枠の数字は領域番号。 |
低質量銀河における星形成 低質量銀河における星形成とメタル量増加のメカニズムはまだ良く分かっていない。 定性的には次のように考えられている。ガスが沈着してきて中心のガス密度が高まると 星が形成され、重い星が爆発してガスにエネルギーと重元素を注ぎ込む。ガスは膨張し、 ダークハローのポテンシャルが十分に深ければ、また沈着を開始する。こうして星形 成とガス膨張が繰り返される。 なぜ SFH が違うのか? しかし、多くの問題が未解決である。Helmi et al 2006 は、dSph では [Fe/H] < -3 の星が欠けることを示した。これは dSph を作ったガスが既に汚染されていたこと を示す。それとも一番初めの急速なメタル上昇期の星が今は無いのか良く分からない。 さらに、 SFH が銀河毎に大きく異なる理由も不明である。Draco は > 10 Gyr の 古い星のみで出来ている。Fornax には複数回の星形成の証拠がある。なぜ、ドラコと フォルナックスは同じくらいの質量なのに光度が 10 倍も違うのか?Mayer et al 2006 は二つの可能性を指摘した。 (1)同じ量のガスを持っていたが、フォルナックスの星形成効率が高い。 (2)フォルナックスに10倍のガス供給源があった。 宇宙の再電離 Grebel, Gallagher 2004 は宇宙の再電離は矮小楕円銀河の星形成率に影響しない ことを示した。したがって、星形成率の差は何らかの局所的効果によるものである。 潮汐変形、力学的フィードバック、ガス降着などの差が原因として挙げられている。 Ferrara, Tolstoy 2000 はダークマターの大きさが影響すると言う。 |
4.1.古い種族メタル増加の差t > 10 Gyr の星は平均 [Fe/H] ∼ -1.4 で、最初の数 Gyr に強い 星形成が起き、メタルが増加したことを示す。この現象はフォルナックス全体で 起きたと考えられる。図9は古い種族が [Fe/H] ∼ -1.0 の星を多数含むことを 示す。しかし、中心の古い星は平均して端の古い星より [Fe/H] で 0.3 高い。 これは Battaglia et al 2006 の結果からも確かめられる。メタル分布の3つの ピークはおそらく早期に3つの星形成期があった証拠である。結論として、 初めの数 Gyr でメタル増加が速かったが、中心ほど増加量が大きかった。 シミュレーション Marcolini et al 2006 は流体力学モデルに化学進化を組み合わせたモデルを 作った。このモデルは我々の結果とよく合う。彼らは、中心ほどメタル増加の 効率が高いことを見出した。Salvadori et al 2008 は半解析的宇宙論モデルに 基づいて、初めの数百 Myr の間に複数の爆発的星形成と、ガスの膨張放出と 再降着のプロセスを繰り返すことを見出した。結果はわれわれのとよく合う。 このように、シミュレーションは初めの星形成を再現できる。 |
4.2.中間年齢種族爆発的星形成Salvadori et al 2008 はヴィリアル化のあと 2.5 Gyr の間星形成率が 10-4 Mo/yr 以下に落ちることを見出した。これは年齢に直すと 9 Gyr に当たる。これに関連して、我々は 9 - 4 Gyr 昔の間は星形成率がほぼ 一定であることを見出した。この期間は [Fe/H] がゆっくりと増加して行く期間に 相当する。しかし、星形成率は 3 - 4 Gyr 昔に突然の増加を示し、それに伴って メタル量も急増した。これは Pont et al 2004 の Ca II 三重線の観測結果と 一致する。このバーストは中心 ∼ 0.5 rC 以内に限られていた。 バーストの原因 バーストの原因は色々考えられてきた。銀河の合体、吹き上げられたガスの 再降下、近銀点通過に伴う潮汐力などである。 4.3.若い種族100 Myr の星種族まで存在する。5.まとめ | ![]() 図13.左:t < 100 Myr のモデルCMD.赤は log t = 7.95 - 8.10, 青 は t < 100 Myr. 右: フォルナックスコアの CMD |