アブストラクトマゼラン雲の DENIS カタログから作った、 (I-J,J) 色等級図の様々な箇所に 集まる天体毎に空間分布図を作った。それらの分布形態は互いに著しく異なる。 色等級図の各領域はそれぞれ異なる年齢に属している。大マゼラン雲は拡がった 丸い形をしており、中心から外れた明るいバー、中心核、不規則な渦状腕がある。 小マゼラン雲には明るい中心部と乱れた構造を示す。古い諸族と若い種族は 互いに中心がずれている。1.イントロLMC と SMCマゼラン雲は 0.2 Gyr 昔に銀河系と強い相互作用をした証拠がある(Westerlund 1997). LMC は Irr dwarf と分類されており、その最も明るい特徴は中心バーである。 これは棒渦状銀河に見られるものに似ている。その東の縁 | は西側寄り我々に
近い。(Caldwell, Coulson 1986) バーの下にはより古い星の円盤が
(Westerlund 1997)拡がっている。SMC の見かけは LMC よりずっと弱いバー、
それにウイングと呼ばれる東側の拡がりが特徴である。SMC は視線方向に奥行き
が深い。ウイングとバーの北東部は南側より我々に近い。(Westerlund 1997) 最近のサーベイデータによる構造の研究 最近、異なる波長で大規模測光サーベイが行われ、LMC の大規模構造を 調べられるようになった。特にNIRデータは RGB, AGB 時期の星の進化 を調べるための向いている。 最近 Zaritsky et al 2000 は SMC の非対称な見かけは主に若い星の分布 が原因で、古い星は極めて規則正しい形に分布していることを見出した。彼らの 図は見にくくて、中心に向かっての密度変化を評価することは難しい。 Weinberg, Nikolaev 2000 は LMC から 15 kpc 離れた潮汐デブリの存在を 指摘した。 |
2.データDCMC カタログこの論文は DCMC カタログ Cioni et al 2000 からのデータを使用している。 DCMC は I, J, Ks の内 2 バンドで受かった天体を全て載せている。範囲は、LMC が 20 × 16 平方度で、中心は (5h27m20s, -69°00'00"), SMC が 15 × 10 平方度で、中心は (1h02m40s, -73°00'00") である。 使用したサンプルには Ks で受かったかどうかに関係なく、I と J で観測できた 天体を全て含む。 天体の区分 図1には LMC の CMD を示した。図をきれいにみせるため、3 バンド全てで検出 された星のみをプロットした。この画面を下のように3つに分けた。 (A): I < -4.64 (I-J) + 19.78 明るい矮星、ブルーループ星、超巨星(左から 3番目の指)前景の矮星と巨星(左側の2本の指)。 若い種族である。 (B): I > -4.64 (I-J) + 19.78 で TRGB の上方。AGB 星 (C): I > -4.64 (I-J) + 19.78 で TRGB の下方。主に RGB 星で古い種族。 I と J のみで受かった天体は画面の下側に集中している。 I, J, Ks の限界等 級は 18, 16, 14 である。測光エラーの結果、系列は暗くなると幅広になって行く。 区分別の天体空間分布 LMC, SMC の3区分の天体に対してそれぞれの空間分布を作った。そのため、 0.2° × 0.2° ビンで数を数えそれにスムージング処理を施した。 等光線の値は対数で一定に区切られている。データが欠損している領域は内挿で 補った。その影響は図4以外では無視できる。そこでは一種の不連続さが見える。 |
![]() 図1 LMC 20 × 16 平方度の(I-J, I)図。平行線は TRGB(Cioni et al 2000) 斜線 I = -4.64 (I-J) + 19.87 は区分線。 |
前景星の差し引きは行わなかった。その影響は図2上で銀河面方向にはっきり
現われている。他のマップでは前景線の分布はかなり平坦でマゼラン雲の特徴
を見るには影響しない。
3.1.LMCの空間分布円盤の配置 図2, 3, 4 の低密度側等高線はいずれも丸に近い形で、その軸比は傾斜角 i = 30° - 40° と合う。中心は(5h20m, -69°)主軸が約 13° で ある。Westerlund 1997 は古い円盤の星に似た値を与えた。この恒星円盤は HI 円盤(Kim et al. 1998)と形、大きさが似ている。円盤の中心はバー中心 の 30' 北にある。(図2を見よ。) LMC の 2 成分 我々は Westerlund 1997 の次の結論を再確認した: (1) LMC は二つの成分、円盤とバー、から成る。 (2) 星の約半数は円盤、半数はバーに属する。 (3) バーの比率は若い星ほど高い。 この形状が一時的なものでないなら、 LMC は不可視物質の重力ポテンシャル中 に埋まっている(Sofue 1999)と考えざるを得ない。これは Stil 1999 の、LMC が 属する矮小銀河のクラス("fast rotators")はダークマターが支配的であるという 結論とも合致する。 クラスA 図2はまだらで不規則な分布を示している。クラスAの星は 0.5 Gyr より若く、 非常に明るい主系列星から成る。4° 以上に広がるバーは図2ではっきり 見える。バーにははっきりした中心集中部分がある。30 Dor 領域はバーの 北東側に小さな特徴として見える。Shapley Constellation III は δ ≈ 67° の大きな模様である。バーの両端の長く伸びた模様は渦状腕の存在を 示唆する。これは、北西部の HII複合体 領域 N11 で最もよく見える。類似の構造 は、恒星複合体(Maragoudaki 1998), アソシエーションとHIIR (Bica et al 1995) の分布にも見える。 クラスB AGB 星は 1 Gyr 程度の比較的若い種族を代表し、明るいバーと中心核が 図3には見える。Shapley Constellation III は AGB 星でははっきり現れない。 幅広で微かな渦状腕がバーの南東端から始まり、(4h45m, -73°)で二つに 分かれている。これは、Bothun,Thompson 1988 がマゼラン雲の表面測光を 行った際に注意した特徴である。彼らの 1.1 < B-R < 1.35 図を見よ。 少なくともこの渦状腕は潮汐効果であるようだ。と言うのはこの腕は、 マゼラン雲ブリッジにつながっているからである。Staveley-Smith et al 2000. 最も外側の等高線は Kunkel et al 1997 による炭素星の分布と同じ形をしている。 ![]() 図3.LMC クラス B. 等高線は 3, 5, 7, 10, 20, 30, 50, 100, 150 /0.04平方度 |
クラスC 図4は古い種族を表わす RGB 星の分布を示す。ここには再び明るいバーが見える。 バーの巾は若い種族のバーより著しく太い。前景星が最も下の等高線には影響して いる可能性がある。南の渦状腕ははっきりしない。しかし、図3の北側に見える 2 本の微かな渦状腕は図4でも α が 5h から 6h, δ が -64° から -68° への対応する模様として存在する。 HI マップとの対応 Bothun,Thompson 1988 は LMC が他の矮小銀河と違って、はっきりした渦状構造 を持つ銀河と同じようなスケール長を有すると結論した。興味深いのは、図 2, 3, 4 に出た非対称渦状腕は Gardener et al 1998 の HI マップとよく一致 することで、それは彼らの力学モデルでよく再現される。 ![]() 図2.LMC クラス A. 等高線は 100, 125, 200, 400, 500, 800, 1000, 1200 /0.04平方度 ![]() 図4.LMC クラス C. 等高線は 100, 150, 200, 250, 500, 600 /0.04平方度 |
3.2.SMCの空間分布SMC の構造は未だに理解されていない。Westerlund 1997. 我々のマップは異なる 年齢の種族が異なる分布をすることを示している。 クラスA 若い成分は図5に見られるように、 北東から南西への軸に沿って非対称な分布をする。南側では最外側の等高線は4つ の突起を示す。これらは潮汐効果を表わしているのかも知れない。少なくとも 東側と西側の突起はマゼラン雲ブリッジと向きが揃っている。密度が上がると北東 へ拡がり、SMC バーと平行になる。バー構造自身は若い星団の分布(Bica, Dutra 2000)、上部主系列星の分布(Zaritsky et al 2000) と同じである。星団、HIIR, アソシエーション (Bica,Schmidtt 1995) も南の突起部に見られる。若い星団は SMC バーの南西部に強く集中している。SMC 主要部の外側には2つの銀河系 球状星団 NGC 104 = 47 Tuc と NGC 362 が存在する。Stanimirovic et al 1998 による HI 分布図は若い星とよく重なる。 クラスB 図6に見られるように、AGB 星の分布は若い星よりなだらかで、二つの明るい 中心がある。これは炭素星の分布 Hardy et al 1989 にも見られるものである。 東側のピークは若い種族のピークとも重なる。 AGB 星分布の軸は、若い種族より傾きが寝ていて (PA &astmp; 75°) RGB 星 の分布と大変よく似ている。LMC の場合と同様、年齢が古くなると分布は規則的 かつなだらかになって行く。これは、Zaritsky et al 2000 の B-, V-バンド像 にも見えたことである。Kunkel et al 2000 の炭素星分布の最外側等高線も そうであった。Rebeirot et al 1983 の炭素星分布は図6の第2外側等高線を 満たしている。 クラスC 図7に示す RGB 星の分布は AGB 星と似て、二つのピークを示す。西側の ピークは AGB に比較すると RGB でより強く出ている。東側のピークは 西側よりかなり若いようである。Stanimirovic et al 1998 が作った SMC の HI マップの最も強いピークは上の二つのピークの丁度中間に位置する。 ![]() 図6.SMC クラス B. 等高線は 2, 5, 10, 15, 20, 25, 50 /0.04平方度 | 古い種族はバーの主要部から 2° 離れた潮汐と思われる特徴まで 拡がっていることも注目される。HI の分布は古い種族に較べると東側に寄って いる。HI で明るく、若い種族の分布にも現れている SMC ウイングは古い種族 には全く出て来ない。 ![]() 図5.SMC クラス A. 等高線は 20, 30, 45, 60, 75, 100, 125, 200, 250 /0.04平方度 ![]() 図7.SMC クラス C. 等高線は 50, 60, 75, 100, 125, 150, 200, 225 /0.04平方度 |
クラス分け DCMC カタログから抽出した星を、CMD の領域で分けて、分布図を作った。 3つの年齢グループの分布図は全く異なる。若い種族は不規則な分布と渦状腕、 潮汐の特徴を持つ。若い種族の分布は星団、アソシエーション、HIIR, HI と 重なる。古い種族はスムーズで規則的な形を示す。 LMC の特徴 LMC バーが円盤中心から著しくずれていることは LMC 重力ポテンシャルが |
ダークマターによって支配されていることを示唆する。はっきり見える南側
渦状腕は SMC との潮汐作用の結果生じたものであろう。北側の2本の渦状腕
の性質ははっきりしない。 SMC の特徴 SMC の AGN, RGB 分布に見られる二つのピークは目立つ特徴である。それらが HI 分布とずれているのも特徴の一つである。二つのピークは異なる平均 年齢を示す。若い種族が示す、比較的微かな東ー西構造(ウイングを含んで)は 多分潮汐効果の現れであろう。 |
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