オリオン領域の変光星探査 南 2MASS 望遠鏡でトラペジウム周辺 0.84° × 6° を J, H, Ks で反復観測した。データから前主系列星の変光を 1 - 36 日、2か月、2年の タイムスケールで調べた。全部で 1235 個の変光星が検出され、その内 93 % は 分子雲にくっついているように見える。 様々な変光形態 変光の様子は様々で、周期15日までにおよぶ周期的変光、非周期的な毎日の 変光、食変光、1か月またはそれ以上におよぶゆっくりした光度変化、色変化を 伴わない変光、暗くなると赤くなる変光、暗くなると青くなる変光などがある。 等級とカラーの変動幅 等級変動の山から谷にかけての平均巾は 0.2 等で、変光星の 77 % でカラー 変化は 0.05 等以下である。極端な変動を示す星では等級で 2 等、カラーで 1 等 の変化があった。 |
変光の原因 等級変動の典型的なタイムスケールは数日以下で、近赤外変光は主に短時間 仮定に関連していることを示唆する。低温または高温の星班の回転による変調、 内側星周円盤による遮蔽、ガス降着率の変動その他考えられる原因を検討した。 変光星の 56 - 77 % では、低温の星班のみで変光特性が説明できた。一方、 少なくとも 23 % の変光星は熱い星班または減光で説明可能である。円盤からの 降着による変光は約 1 % で起きている。 オリオン星団 しかし、観測とモデルとの間の細かい点での差異は、ここで考えなかった別の 機構が働いている、またはいくつかの機構が複合して作用している可能性を 示唆する。星計数の解析から、オリオン星雲星団は 0.4° × 2.4° = 3,4 pc × 20 pc におよび 14 等より明るい星を 2700 個含む大きな 表面密度超過領域の一部であることが判った。 |
変光 変光は前主系列星の主な特性として早く(Joy 1945, Herbig 1962) から認識 されていた。そして、X,UV, 可視、赤外、電波のあらゆる波長域で変光が 観測されている。それらは若い星の様々な側面のそれぞれを探求して、全体と して前主系列星の総合的な姿を浮かび上がらせるのである。 近赤外モニタリングはその中で比較的低温の減少を調べるのに適している。 そして、短波長観測では到達できない、ガスとダストに富んだ星周空間の温度、 吸収度、幾何学構造の変化を明らかにする。 |
赤外アレイ観測 個々星のモニタリングから始まった近赤外観測も近年は赤外アレイを使用し、 星団全体を対象とするようになった。その結果、低温、高温の星班や減光変動 以外に、星周物質起源と見なされる近赤外放射の変動も検出された。しかし、 それらがどのくらいの割合を占めているのか、振幅、タイムスケールなど多くの 疑問が残されている。 本論文 ここでは、トラペジウム領域の 0.84° × 6° の J, H, Ks モニタリングの解析結果を報告する。 |
2.1.観測とデータ処理タイル2MASS の標準観測はタイルを単位とする。タイルは Δα × Δδ = 8.5′ × 6° である。今回の観測 は隣り合う7タイルからなる。タイル位置は表1に載せた。 観測間隔 通常 2MASS 観測: 1998 3月、2000 2月。 オリオン観測: 2000 3 - 4 月の 36 日間の内の 29 晩で観測。 3 月の 16 晩は 7 タイルを観測。以降は部分的。 表2に観測ログを載せた。全体では、 1 - 36 日、 2 か月、2年のタイムスケール での変光が検出可能となった。 ![]() 表1.観測位置 |
データ処理 データ処理は IPAC の 2MASS パイプラインを通して行った。 2.2.点源リスト16 晩の観測中 15 晩で検出された星の限界等級は J = 16.0, H = 15.4, Ks = 14.8 で 5.12 deg-2 の領域内に 18,552 星あった。ただ、内 744 は明るい星の周りのしぶきであった。最終的には、 α = [83.405, 84.250], δ = [-8.98, -2.88] J2000 内に 17,808 星が残った。![]() 表2.観測ログ |
![]() 図1.16晩 J, H, Ks 観測 の reduced χ2 = χν2 のヒストグラム。実線曲線 = χν2 の期待値。大部分の星 では、観測された測光値の散らばりランダムノイズであることが 分かる。χν2 の大きな星は変光星 の可能性が高い。 χν2 が変光星の基準
ここに、n = 観測数、ν = n - 1 = 自由度、σi = 測光誤差 である。図1に全領域を観測した 16 晩の J, H, Ks データに対する χν2 のヒストグラムを示す。実線は 自由度 15 に対する χν2 期待値 を示す。この曲線より大きな χν2 を持つ 星は変光星と看做せる。 |
![]() 図2.観測された測光等級 rms と等級との関係。 rms は明るい星では 0.015 mag, 完全性限界付近の星では 0.15 等である。 S/N 比 図2には観測された時系列測光の rms σobs を等級と比較 して示した。観測 rms (?) は 個々の観測値 mi と測光誤差 σi から次の式で求まる。
ここに wi = 1.0/σi2 は個々の観測 の重みである。 また、ランダムノイズに起因する測光 rms (σnoise) の予想値を 以下の式で定義する。
図2は、観測 rms が測光ノイズが原因であった場合の等級との相関が示されて いる。 観測 rms は明るい星に対する最低値 0.015 mag から完全度限界付近の 0.15 mag まで広がっている。J, H, Ks で 97%、89%、86%の星は観測 毎の S/N > 10 である。 |
眼視検出 画像の比較や光度曲線を見る方法は様々なタイプの変光に適応できる利点がある。 一方、主観に片寄り、大量のデータを処理するには向いていないという欠点がある。 χν2 χν2 = reduced χ2 はガウシャンノイズ を仮定した時に観測された変動が起こる確率を与えてくれる。欠点はノイズが非ガウシャン の場合が実際には多いことである。また、例外的に大きな単独誤差が大きな χν2 に導くことになるという問題もある。もっと大事なのは χν2 統計では多バンドでの相関する変化が考慮されていない ことである、 Stetson index S Welch, Stetson 1993, Stetson 1996 は変動の相関を考えた新しい統計を提案 した。ただし、この変光指数の数学的性質はモンテカルロシミュレイション以外 ではまだ十分解明されていない。Stetson は指数を J と名付けたが、近赤外バンド J との混同を避けるため、ここでは S と呼ぶ。その定義は、
ここに、p = 同時観測のセット数、Pi = δj(i) δk(i) = 二つの観測の規格化した残差の積、gi = 各規格化残差の重みである。規格化残差 δi は次の式で 定義される。 δi = sqrt[n/(n-1)]・(mi - 〈m〉)/σi Sの分布 図3には H 等級と S の関係を示した。でたらめ雑音の場合には S はゼロ の周りに散らばり、バンド間で相関した変光があると大きな正値をとるはず である。図を見ると S には正のオフセットが存在する。この原因は不明である。 それにも拘らず、Sには正の方向に大きな散らばりがある。変光星の限界S値は 光度曲線と S の関係を眼視で調べて 0.55 と決めた。 またこの基準には合致しないが著しい変光が変光曲線で確認されたものも変光星 とした 表3に示すように、観測夜で決めたサンプル毎に多数の変光星が検出 された。表4にはこうして得た 1235 個の変光星の性質をまとめた。 |
![]() 図3.Stetson 変光指数 S と等級の相関。16 晩観測の全てで観測された 星のみを載せた。 S = 0 の破線は非変光星を指す。S = 0.55 の点線は この論文で変光星とした基準線である。 Sが正の方にバイアスがかかっている原因は不明である。 ![]() 表3.星のサンプル |
変光曲線 表4の 1235 変光星のバンド毎の変光曲線と観測時系列の Ks - (J-Ks) 色等級図、(J-H) - (H-Ks) 二色図を作成した。これも電子版の方に 全て含まれている、ここでは図 4 - 13 にその一部を示す。 |
図の説明 左図は 1998年3月から2000年2月までの J, H, Ks 変光を示す。右図は 色等級図と二色図である。色等級図の実線は 1 Myr 前主系列星の等時線である。 二色図の実線は巨星と主系列星の系列を示す。 |
図4.Star 5123 S = 0.58 で変光星判定限界の S = 0.55 をギリギリに超えている。J, H, Ks の光度変化は相関しており、振幅は小さい。 ![]() 図6.Star 8783 = BM Ori 食連星である。したがって、約3日おきの食の時以外は変光は起こらない。 ![]() |
図5.Star 3230 ほぼサインカーブを描く周期的変光を示す。カラー変化は認められない。 変動幅は山谷間で 0.25 等である。周期は約 8 日。 ![]() 図7.Star 4067 2000 年 3 - 4 月の間一方向きに光度が増加し続けた。しかし、 1998 年 3 月のデータはこの傾向が長くは続かないことを示唆している。 ![]() |
図8.Star 6707 = YY Ori Ks 変動幅最大で、 星が暗くなるとカラーは青くなる。色等級図上の変動の向きは、熱い星班の回転 による変調や、減光変化から期待される方向と逆である。星周円盤の幾何学 の変化または降着率変化とは合致する。 ![]() 図10.Star 1048 暗くなると赤くなる星の例だが、図9と違い 1002 年の最初2週間は 無変光だったが、その後約1等暗くなった。 暗くなった時に近赤外超過が目立った。その後はまた元に戻った。 ![]() |
図9.Star 11926 = AO Ori J で変光巾最大で、暗くなると赤くなる。変動は一日の内に起きる。カラー 変化は熱い星班の時間変動または減光の変化で説明可能である。 ![]() 図11.Star 13688 = AW Ori 大きなカラー変動を示す別の例である。暗くなるに連れ赤くなる。この星は 準周期的な光度変化を示し、変動ベクトルの向きを図10と比べると、二色図 では緩く、色等級図では急である。 ![]() |
図12.Star 10527 2000 年 3 - 4 月は無変光だが、それ以前 1998 年 3 月 - 2000 年 2 月にかけては長期変動があった。 ![]() |
図13.Star 5841 = V1314 Ori 2000 年 3 - 4 月のデータに変光が認められたが、それより大きな 長期変動が 1998 年 3 月から 2000 年にかけて認められる。それは、 J で 暗くなっていく間 Ks では明るくなるというものであった。 ![]() |
赤外超過変光星と輝線星 ここでは表3のサンプル1に含まれる 1006 変光星の空間分布を調べる。図14 を見ると、δ = [-7, -4.5] に集中している。最も高密度なのは δ = -5.5 ONC トラペジウム領域である。第二高密度域は NGC 1977 (α, δ) = (83.8, -4.8) 近くにある。近赤外超過の ある変光星は変光星全体よりも限られた領域に集まっている。それらは また Hα 星の分布とも相関がよい。ただし輝線星はトラペジウム 付近では星雲光が強すぎて検出が不能であった。 |
OB星 図14には示しておらず、また数は少ないが、やはり赤外変光星、 輝線星と同じ赤緯帯に集まっている。 全体分布 夫々の星種族の星は全体として分子雲の大規模構造を反映する分布を 示す。 |
変光星の割合は表面密度に依存しない 表5には各表面密度限界毎にその内部での変光星の割合を数えた。最小限界密度 で 29 % が変光星であった。この割合は表面密度が高くなってもあまり変わらない。 変光星の割合が等級によりどう変わるか 図15では変光星の割合が等級によりどう変わるかを見た。ピークは完全度限界より 明るい等級にある。 K < 11 では 45 % が変光星であるが K > 12 では 14 % に低下する。モンテカルロシミュレイションの結果これは低光度では測光エラー の影響が検出を妨げるためと分かった。 ![]() 表5.オリオンAに付随する星種族 |
![]() 図15.オリオンA分子雲の星と変光星の Ks 分布。明るい星で変光星の 割合が高いが、暗い星では S/N が低くなるためであろう。 |
t ≤ 1 Myr の低質量星 図15の Ks ピークは前主系列星の t = 1 Myr 進化と Millar-Scalo IMF で説明される。さらに赤外減光と赤外超過を無視すると、変光星の Ks ピーク は M = 0.2 - 0.6 Mo に対応する。D = 480 pc とした。ONC 星種族の研究は それらが t ≤ 1 Myr の低質量星であることを示している。 色等級図 図16はその解釈を支持する。図の 85 % はフィールド星である。それらは主に 1 Myr 等時線の左側にある。一方変光星は右側にあり、赤化を受けた前主系列星 という解釈を裏付ける。 |
2色図 図17の二色図を見ると、非変光星の大部分のカラーは赤化を受けない主系列星 のものと分かる。変光星は非変光星より赤く、その多くは星間減光では辿りつけない 領域に位置している。それらのカラーは若く低質量の古典 T タウリ型星 (CTTSs) に典型的である。変光星の 30 % は CTTSs のカラーを持っている。おそらく変光星の 50 % が CTTSs であろう。その他は赤外超過の小さな CTTSs か弱い輝線の T タウリ 型星 (WTTSs) であろう。したがって、近赤外変光は CTTSs と WTTSs に共通な 特性と思われる。 |