An Infrared Sensus of Dust in Nearby Galaxies with Spitzer (DUSTINGS) IV. Discovery of High-Redshift AGB Analogs


Boyer, McQuinn, Groenewegen, Zijlstra, Whitelovk, van Loon, Sonneborg, Sloan, Skillman, Meixner, McDonald, Jones, Javadi, Gehrz, Britavskiy, Bonanos
2017 ApJ 851, 152 - 165




 アブストラクト 

 Spitzer による近傍銀河内の "DUST" 探査は近傍矮小銀河中に幾つかの AGB 星候補を見つけた。そして非常に低メタル (Z=0.008 Zo) の系でもダストが形 成されることを示した。ここでは、 HST WFC3/IR による追加観測の結果を示す。 使用フィルターは C-リッチと O-リッチを区別できるよう F127M, F139M, F153M を用いた。星形成 DUSTiNGS 銀河 NGC 147, IC 10, Peg dIrr, Sextans B, Sextans A, Sgr DIG を観測に加えた。全てマゼラン雲より低メタルで、メタル 量の散らばりは一桁に亘る。  これ等の銀河で我々は知られていたダスティAGB 星の数を2倍に増やし、そ れらの殆どが C-リッチであることを見つけた。 IC 10 では26個の M-型ダス ティ星を発見した。それらの大きなダスト超過と空間分布が区切られているこ とから、それらは AGB 星質量分布の上部に属する。ホットボトム燃焼期にある のであろう。理論モデルは低メタル M-型星では大量のダスト形成を予測しない。 しかし、最も低メタル、12+log(O/H) = 7.26 - 7.50 の銀河でも M-型星の周りに ダスト超過を見出した。低メタルと高質量(-10 Mo) から、 AGB 星は誕生後 30 Myr という極めて早期にダストを形成可能で、おそらく高赤色変移銀河に見られる ダストの貯蔵源となっていると思われる。


 1.イントロダクション 

 ダスト供給源 

 ダスト供給源として通常考えられる、

(1)超新星:ダスト形成と破壊とのバランスが不明。

(2)AGB 星:ダスト形成のメタル量依存性が不明

という問題がある。

しかし、銀河形成初期では高質量 M-型 AGB 星によるダスト形成が重要である。 3 - 4 Mo より高質量星ではホットボトム燃焼で 12C が 14N に変わる。10 Mo では形成後 30 Myr でダストを放出する。

 メタル依存性 

 C−星と異なり、M-型星は凝結物質( = Si, Fe, Mg, O) を作り出している わけではない。したがって、ダスト形成効率はメタル量に強く依存すると考えら れている。しかし、この依存度を観測から定量化するのは、M-型星の数の少なさ、 観測されるサンプル星のメタル量の巾の狭さ、などで困難である。
 論文 II の成果 

 高質量の M-型 AGB 星からのダスト放出を調べるために、局所群の低メタル 星形成矮小銀河が適している。しかし、個別の AGB 星の同定は困難であった。 そこで、McQuinn et al 2007, Javadi et al 2013 が M33 で行った変光により AGB ダスト星を探す手法を Boyer et al 2015 は DUSTiNGS において、 近傍銀河に対して行った。DUSTiNGS は近傍 50 銀河を観測し、 526 ダスト AGB 星を同定した。その結果 Z = 0.06 Zo という低メタル量でも AGB 星は ダストを形成していることが分かった。しかし、それらの星が本当に AGB 星な のか、スペクトル型は何かまでは分からなかった。

 この論文 

 この論文では、DUSTiNGS 銀河中から 6 個の星形成銀河を選んだ。HST NIR 観測を Spitzer の結果と組み合わせて、星の化学が O-リッチか C-リッチかを 決めた。その結果、この6銀河で 120 ダスト炭素星、26 ダスト O-リッチ星 を決めた。これは、高質量 AGB 星が極度に低質量の銀河でもダスト形成に 貢献していることを示す。





表1.観測銀河リスト

 2.データと解析 

 2.1.HST による ABG スペクトル型の決定 

 HST フィルター選択 

 可視観測はダスト星に向かない。近赤外 JHK バンドは幅が広すぎて分類 精度が低い。そこで、感度と空間分解能に優れた HST WFC3 の出番だが、よく 使われる F110W, F160W は感度は高いが、幅が広すぎて分類に向かない。 Boyer et al 2013 は中間帯フィルター F127M, F139M, F153M が M-, C- 星分 類に適していることを示した。

 2.2.サンプル選択 

 銀河 

 表1に観測リストを示す。これらは AGB 候補星が多く、メタル量の幅が広い。 4/6 銀河は高ガス不規則矮小銀河で、星形成領域の指標である HII 領域を含ん でいる。 ペガサス DDO 216 は遷移型 dTrans 銀河である。この銀河は高ガス であるが HIIR はない。NGC 147 は dSph で低ガスで現在星形成は行っていない。 しかし、中間年齢 AGB 星が多い。

 観測領域 

 AGB 候補星をなるべく多くように領域を選んで観測した。図2には WFC/IR の 観測領域を示す。その結果論文 II で報告された内 99/375 星の観測を行った。

図1.WFC3/IR の中間バンドフィルターを用い、C-星(赤線)と M-星(青線) を区別した。M-星の H2O と C-星の C2+CN 吸収帯が その差を生む。  



図2.候補6銀河の DSS 画像。楕円=半光量半径。赤十字=ダスティ AGB 候補。






表2.観測

 2.3.観測と測光 




図3.HST F127M-F163M CMD. 破線= TRGB. 実線=(F127M-F153M)=0.4 の基準線。 カラー=0付近に主系列が見える。実線やや左の縦系列=前景星。IC 10 と Sag DIG は銀河面に近いので前景星が多い。

 同定 

 観測情報は表2にまとめた。HST カタログと Spitzer カタログのマッチは困難 であった。それで、近赤外で明るい星に絞って同定を行った。IC 10 はそれでも 大変であった。

 CMD 

 図3には HST 色等級図を示す。表3には VizieR で得られるカタログの項目 解説を載せた。





表3.カタログ情報





表4.星数計測




表5.近赤外 TRGB

 2.4.分類 

 カラーカット 

 TRGB より上の星について、 Aringer et al 2009, 2016 スペクトルモデル を使って、カラーカットによる分類を行った。その結果、表4に示すように、  908 C-星と 2120 M-星が同定された。

 2.4.1.TRGB 

 Mezdez et al 2002 の方法で TRGB を決めた。もっと精密なベイジアン最尤法 もあるが、サンプル数が多いのでそうは変わらない。 結果は表5に示す。

 2.4.2.二色図上のカット 

 図4=二色図 

 図4に見えるように、TRGB より上の2色図には3本の枝=M-, C-, K- 星が 出来る。図に使用したAringer et al 2009 の炭素星モデルは log g = [-0.8, 0], C/O = 1,4(薄橙), 2(橙), 5(赤) である。二色図にある赤化線は Groenewegen 2006 による 60 % シリケイト、40 % AlOX ダストモデルと 70 % 非晶質炭素、40 % SiC モデルの E(B-V) = 1 赤化線である。

図4.橙-赤の菱形=炭素星モデル(Aringer et al 2009)。 紫-青丸= M/K 型星(Aringer et al 2016)。TRGB より明るい星のみ プロットした。前景星と主系列星のシミュレイションカラーを黄色と 灰色で示す。実線= M-星と C-星の領域。赤矢印=C-星の星周赤化線。 青矢印=M-星の星周赤化線。  





図5.TRGB より明るい星+3.6 μm TRGB より明るい星のHST二色図。 実線=カラーカット。大きなマークはSpitzer で見つかったダスティ星。

 2.4.3.ダスティ星 


図6.SMC における dMdust/dt とカラー[3.6-4.5] の関係。 (Srinivasan et al 2016)

 x-AGB 星の回復 

 ダスティ星は近赤外では暗くなるので TRGB 規準を満たさなくなる。それで、 Spitzer からそれらを回復した。Blum et al 2006 は LMC において x-AGB 星の定義として J-[3.6] > 3.1 とした。同様の定義が [3.6]-[4.5] でも 得られる。HST でが観測した中に 99 x-AGB 星があるが 90/99 が HST カタログ に載っていた。そして 77/90 は確実に M-, C- 分類を得た。表4を見よ。 7/90 は C-, M- 領域に入らない。6/90 は混入星と判断された。

 検出数の増加 

 HST とSpitzer データを合わせ、論文 II で 変光 x-AGB 星と検出されな かった M-, C- ダスト星の数を増やすことが出来た。こうして表4にあるように 既知 x-AGB 星の数が 50 % 増えた。その大部分は C-星である。

 9つの HST 非検出星 

 9つの HST 非検出星の平均カラーは [3.6]-[4.5] = 1.1 である。論文 II では最も吸収の強い星を 6 つ選んだが, 5/6 星がここに含まれる。興味深いことに それらのカラーと等級は 中間光度可視トランジット SN2008S の前駆星と良く 似ている。

図7.Spitzer 色等級図に HST で検出されなかった9つの DUSTiNGS 天体 が


表6.HST 観測のない DUSTing-x AGB 変光星9個が見える。 シアン線=Nanni et al 2016 によるダスト成長モデルによる 等時線。





図8.HST色等級図。赤=炭素星。青=M-型星。晩期 M-型星は水蒸気吸収 のために F127M-F153M カラーが非常に青くなることに注意。大きなシアン菱形 = ダスト M-型星。大きなピンク菱形=ダスト C-型星。破線= TRGB. 実線= ダスト AGB 星と混入星との境界。黒印=混入星。形はそれを HST 2色図上に プロットした時の分類を示す。




図9.スピッツア色等級図。右:赤=炭素星。左:青=M-型星。等時線は log t = 8.8 .

 4.議論 

 4.1.ダスト炭素星 

 CMDが良くなった原因 

 今回、120 ダスト炭素星を見つけたが、論文 II の 2 時期変光法で見つけた 数の2倍である。図9には HST で検出した星のスピッツアー CMD を示す。 この図は論文 I に比べると著しく明瞭になっている。それは広がった背景光 源の混入が HST の高空間分解能のお蔭で大幅に低下したせいである。

 Sag DIG と Sextans A  

 Sag DIG と Sextans A は最も低メタル銀河である。炭素星では [3.6]-[4.5] は ダスト形成率に比例する。したがって、サンプル銀河間で炭素星の [3.6]-[4.5] が似ていることはメタル量に関わりなく、炭素星のダスト量が同じくらいである ことを意味する。
 PN? 

 幾つかのダスト炭素星には図8で * 印を付けた。それらは炭素系 PN か post-AGB 星である可能性がある。マゼラン雲では post-AGB 星は 4.5 μm で PNe より 明るく赤いことが知られている Ruffle et al 2015, Jones et al 2017. この理由で、 M[4.5] = -10 付近の混入星は post-AGB 星にである可能性が ある。

 最も赤い炭素星 

 最も赤い炭素星は [3.6]-[4.5] = 1 程度で。これは、 SMC を参考にすると、 log(dMdust/dt) = [-9, -8] である。







表7.ダスト M-型星のリスト

 4.2.ダスト M-型星 

 ダスト形成率 

 ダスト形成 M-型星の数は26で、M-型星全体の 1.2 % である。それらを表7 に示す。それらの内で最も赤い星は [3.6]-[4.5] = 1 で、SMCとの比較から log(dMdust/dt) = [-7.5, -6.5] である。

 高質量 AGB 星? 

 高 O-AGB 星はドレッジアップ不足の低質量側とホットボトム燃焼の高質量側 の二つに分かれる。その限界はメタル量に依るであろう。2.2.2.節で同定 した M-型星の大部分は低質量 AGB 星で、ダスト生成量は小さい。ここで、 同定した 26 個の M-型星は HBB AGB 星と考えられ、従って炭素星より高質量 である。これは、ダスト M-型星が銀河の内側に固まっていることからも裏付け られる。これらから、 AGB 星の約 1 % が高質量 M-型星であると考える。 この数字は SMC と大体同じである。それらは高赤方偏移のダスト AGB 星と最も 似た天体と言える。

 超巨星 

 M-型 AGB 星を RSG と区別するのは困難である。しばしば、 Mbol = -7.1 を 古典的 AGB 限界として境界にする。しかし、 HBB AGB 星がこの境界を越すことが 知られている。水蒸気吸収は RSG で弱いことが知られている。従って、 HST CCD (図 4, 5) の水蒸気系列を AGB と RSG の区別に使えるかも知れない。
 AGB星 

 水蒸気吸収と変光振幅とから、 IC 10 には高確度で HBB AGB と看做せる星 が 10 個、やや怪しいのが 5 個ある。NGC 147 には #103322, SextansA には #90034 の高確度 AGB 星がある。

 境界星 

 幾つかの星は RSG 的な性質と AGB 的な性質を示すので判断が難しい。

 ダスト形成にメタル依存性がない 

 結局、どの銀河のダスト AGB 星も同じような光度、カラーを持ち、メタル量 による変化は認められなかった。ダスト形成量はメタル量に依存しないらしい。

 4.2.1.スーパー AGB 星 



 4.3.ダストの収支 

 星毎のダスト形成率と総量 

 SMC での研究から、[3.6]-[4.5] ≥ 0.1 の星は同じカラーの炭素星と較べ、 1ケタ以上多いダスト形成率を持つ。我々が研究したフィールドでは、 炭素星の数は O-リッチ星の 2-10 倍多い。
 将来 

 しかし、O-リッチ星の数が少ないので、ストカスティックな変動が大きいだろう。 JWSTの観測が期待される。


 4.結論 

 DUSTiNGS 

 DUSTiNGS サーベイは広い範囲に亘るメタル量を有する近傍銀河でダスト形成 AGB 星を数百個発見した。(論文 II)しかし、それが炭素星か M-型星か不明で あった。今回はその中の 6 銀河を HST WFC3/IR と中間域フィルターで観測し、 そのスペクトル型同定を試みた。

 今回の観測 

 観測範囲内にはダスト星候補が 99 個含まれていた。観測銀河のメタル量範囲 は [Fe/H] = [-2.1, -1.1] である。観測の結果 980 炭素星と 2120 M 型星を見 出した。内 炭素星は 13.2 %, M-型星の 1.2 % にダスト形成が見出された。解析 の結果をまとめると、

 (1)ダスト星のほとんどは炭素星 

 論文 II で見つかったダスト星候補の大部分は炭素星であった。非常に低メタル の環境でも炭素星がダストを形成できることが分かった。
 ダスト形成 M-型星 

 サンプル中にダスト形成 M-型星が 26 個あった。その中には最も低メタル 銀河 (Sextans A, Sag DIG) に発見されたものも含まれる。炭素星と違い、 それらの星では自分でダスト原料物質を作ることがないので、驚きであった。 これらは高質量 AGB 星と考えられる。これ等の星は高赤方偏移銀河での 形成後 30 Myr 時代でのダスト形成 AGB 星の類似天体と看做される。

 スーパー AGB 星  

 IC 10 内に見つかった最も明るいダスト M-型星は AGB 古典光度限界を上回 る。しかしその強い水蒸気吸収は RSG より AGB 星らしく見える。この星は 非常に稀なスーパー AGB 星の例かも知れない。