Low-Mass Stara I. Flash Driven Luminosity and Radius Variations


Boothroyd,A.I. and Sackmann, I.J.
1988 ApJ 328, 632-640




アブストラクト

 低質量星ヘリウムフラッシュの観測的変化を調べた。 Z=0.001 では M = 1.0, 1.2, 2.0 M, Z=0.02 では M = 1.2, 3.0 M を調べた。 強度が最高近くのフラッシュで光度曲線と 半径変化が全フラッシュサイクルに渡って得られた。これらは外層不安定性 とマス放出の観点から興味ある結果である。観測可能な光度変化はフラッシュの 直後数十年間起きる。フラッシュ間隔は数万年間である。したがって、その時期 の星が観測される可能性は数千のAGB星を見て1個である。半径変化の検出は 一層難しい。しかし、1M 近くの星ではフラッシュ間隔の 20 - 30 % の期間を Mcore - L 関係から示唆される間パルス光度の半分程度 に落ちている。質量が大きくなると Mcore - L 関係光度に留まる。特に低メタル量 星では熱パルス後の光度極大が星を数百年間 Mcore - L 関係光度の倍くらいに する。これが外層の力学的不安定性に導き、0.1 M 程度の急激 なマスロス???

1.イントロ

 熱パルスは光度、半径変化をもたらすが観測は難しい。その結果マスロスに 及ぶ影響は重要である。Tuchman,Sack,Barkat 1978, 1979 が述べたように、 熱パルスによる半径と光度の増加は外層を力学的に不安定な領域に動かし、 急速なマスロスをもたらし、もしかすると外層全体を吹き飛ばす可能性がある。 これは、短周期ミラの数が足りない(Tuchman,Sack,Barkat 1979)ことの説明になる かも知れない。また、熱パルスサイクルの一定期間を Mcore - L 関係光度を下回 っていることも大事である。

 この論文は4編シリーズの第1篇で、第2は Mcore - L 関係を、第3は進化 を、第4は炭素星を扱う。


2.計算の詳細

 個々で扱われる星の進化はMSから始まる。 M ≤ 2 M では 計算途中に極めて激しいヘリウムコアフラッシュを経験することとなる。コア フラッシュの扱いは非流体力学的なコードでしか扱えないのは事実である。しかし、 近似は何もしないよりは良い。それに近似に依る誤差はそう大きくないらしい。 一方、MSから計算を始めると、Minit や 初期組成の情報が保存される利点が ある。計算は次の組み合わせの星に対し行われた:

  X = 0.759 Y = 0.24 Z = 0.001  M = 1.0, 1.2, 2.0 M
  X = 0.71 Y = 0.27 Z = 0.02   M = 1.2, 3.0 M

 注意しておくが、赤色巨星枝上での第1ドレッジアップは外層ヘリウム量を ΔY = 0.01 増加させ、水素を同じだけ ΔX = 0.01 減少させる。


 Teff < 5000 K では Reimers 1975 のマスロス式を適用した。

     M ' = -η 4 × 10-13 (L/gR) M/yr

ここで、L, R, g は太陽単位で表わされる。Kudritzki,Reimers 1978 が言うように、 η = 0.4 を採用した。ただし、3 M の時だけは η = 1.4 とした。

 対流の扱いでは、α = l/H = 1.0 を採用した。星の半径は大体 α に 反比例する。本論文モデルの有効温度は少し低すぎる(Te ≈ 2000K)ので、R を 下げるために、α = 1.5 - 2 くらいが適当であろう。したがって、 ここで示す R はファクター、1.5 - 2 くらい過大に評価しているかもしれない。

3.結果と議論

 低質量 

 M ≤ 1.2 M ではレイマース星風のため、熱パルスを 6回終えるとAGB進化が終了してしまう。これらの星ではパルス強度はMcore に 見合った振幅に達した。しかしある場合にはそこまで行かないかも知れない。 それでも、図1を見ると分かるように、熱パルスを4−5回繰り返すと定常的な 熱パルスに落ち着く。したがって、この仕事で最小質量の星の結果はそのような 星の典型と思ってよい。ただ、もう少し弱いマスロス、したがってもう少し多数回 のフラッシュが、適当なようである。

 メタル量 

 同じ質量でもメタル量の差でAGB状態がかなり異なる。Z = 0.02 の星は Z = 0.001 よりずっと低い Mcore で熱パルスに出会う。(この論文では通常の 流儀に従い、Mcore を水素燃焼殻の内側の質量としている。)ヘリウム熱パルス の性質や、その大気表面への影響は Mcore に強く影響され、Mstar にはあまり よらないのでこの差は重要である。

 異なる星の表面の様子を比較する際には、星の全質量よりは Mcore とメタル量 に注目しなければならない。Minit や現在の全質量は AGB での進化を調べるには 不適当である。

 計算例 

 図2−6は、様々な Minit と メタル量の組み合わせに対する計算例である。 全体の形は皆良く似ている。点Aの熱パルス前の最高光度から、急激に 低下して点Bの極小に至り、次にさらに急激に上昇して点Aと大体同じくらい の水準に戻る。そこからはゆっくりと点Cの熱パルス最高点に達する。Mcore が小さい時には最高点の後に第2極大が現れる。 光度はゆっくりと点 Dの間パルス極小点まで下がる。その後次の熱パルス前のピーク点Eまで 上がって次の熱パルスが開始されるのである。点AからEまでの光度と 半径の値は表1にまとめられている。

 半径変化は光度変化をなぞっている。(M, Z) = ( 1.0 M, 0.001) と (1.2 M, 0.02) では最後のパルスはマスロスの 結果外層が薄くなり星がHR図上を左側へ移動している途中で起きる。

 計算結果の解釈 

 光度と半径の変化は以下のように解釈される。熱パルス前には光度の殆どは 水素殻燃焼で賄われていた。ヘリウム熱パルスが発生すると内側が膨張し、 水素燃焼殻を押し広げ、その温度を低下させるため水素燃焼が停止する。この 結果、星の表面は暗くなり星は収縮する。その後、ヘリウム熱パルスによる光度 上昇が表面に達し、星は明るくなり膨張する。そのころには内側のヘリウムパルスは は終了しつつある。それに伴い、星の光度と半径も低下していく。ヘリウム燃焼が 収まるに連れ水素層も収縮していき水素燃焼が再開する。間パルス光度極小は 上がっていく水素燃焼と下がってくるヘリウム燃焼が交差する時点である。その 後は星の光度は水素燃焼を反映する。この熱パルス後の長い光度低下は星の外層 に関係のない燃焼殻だけで決まっていることに注意せよ。


図1 Minit = 3 M 星の半径変化。5−6回のサイクルの後に 熱パルスが規則
   的な繰り返しになる点に注意。
   計算はマスロスなし、分子吸収なしで行われた。分子吸収が入ると半径
   は倍増するだろう。




表1 熱パルスでの光度と半径の変化




図2a 1.0 M, Z=0.001 の第4,5パルス(Mcore=0.535 M. 半径と光度の時間変化。時間原点はパルス極大。


図2b ΔlogL = 1 あたりの存在確率。低および高光度に伸びた尾っぽ に注意。そこでのスケールを100、10倍にしてある。これらはポストパルス の急激な変化の部分である。




図3a  1.2 M, Z=0.001 の第4,5パルス(Mcore=0.553 M.


図3b ΔlogL = 1 あたりの存在確率。




図4a  2.0 M, Z=0.001 の第4,5パルス(Mcore=0.628 M.


図4b ΔlogL = 1 あたりの存在確率。




図5a  1.2 M, Z=0.02 の第4,5パルス(Mcore=0.524 M.


図5b ΔlogL = 1 あたりの存在確率。




図6a  3.0 M, Z=0.02 の第4,5パルス(Mcore=0.648 M.


図6b ΔlogL = 1 あたりの存在確率。


 光度変化の観測可能性 

 熱パルスの光度変化を観測できそうかどうかを見るため表2を作った。表面変化 が最も激しい時、点Aから点Bへの低下と点BからCへの上昇、での変化率と それらが熱パルスサイクル期間のどのくらいの割合を占めるかを載せてある。 最も速いケースでそのタイムスケールは数十年である。その上、それらの星は ミラ型変光星である可能性が高いので、長期間の平均光度変化が検出に必要で ある。このような変化期間が全体に占める割合は千分の一以下である。した がって、観測は可能であるがその期待度は低い。

 半径変化に伴う速度の検出は 1 km/s 程度でさらに難しい。半径の直接 観測も困難である。

 Mc - L 関係 

 熱パルスによる光度変化は、Mc - L 関係の解釈に対して大きな影響がある。 この関係は間パルス光度を核質量と結び付けるものである。この関係は Paczynski 1970 が提唱し、Iben 1970, Havazelet, Barkat 1979, Wood, Zarro 1981 らに確認された。これはAGB上での星の進化をモデル化するのに 極めて有用であり、また観測された光度から Mc を推定する道具としても (Weidemann 1984, Aaronson,Mould 1985) 用いられた。それから、 Weidemann, Koester 1983 は Mi - Mf 関係を導いた。

 これらの仕事では熱パルスサイクル間に Mc - L 関係からずれることが考慮 されていない。低質量星では 20 - 30 % の期間 Mc - L 関係光度の半分以下の 明るさに留まる。すると、30 % の星に対して Mc を 0.1 M 低く見積もってしまう。別の言い方をすると、星の数が少ない場合、星団のAGB 先端光度を半分程度に見積もってしまうことがあり得る。

 マスロスとの関連 

 熱パルス後の光度と半径の増加は、AGB上で星をずっと上の方に引き上げる。 低メタル星(Z=0.001)の場合にはこの効果が特に著しく、光度は静謐水素殻燃焼の 場合の倍になる。太陽メタル量では 1.7倍である。このため外層が不安定に なるか、マスロスがどの程度増大するかはこの論文の範囲外だが、もしかすると これがAGBをずっと早めに終了させる原因になったかも知れない。



表2 光度と半径の最大変化率。





表3 Mc - L 関係から外れている時間の割合