Infrared Observations of the Galactic Center


Becklin, Neugebauer
1968 ApJ 151,




 アブストラクト

 銀河系中心核を 1.65, 2.2, 3.4 μm、分解能 0.06 × 1.8 で観測した。結果として、
(1)直径 5 の明るい天体。
(2)その中心にある点源
(3)広がった背景輻射
(4)その他の分離した広がった天体
が検出された。2.2 μm の等高線マップが 2.2, 0.8, 0.25 の分解能で与えられた。
 電波と赤外の観測の比較から、明るい赤外天体と電波源サジタリウスA は同じ 座標と同じ大きさを持つことが判った。
 赤外放射の解析から太陽と銀河系中心の間の可視域減光は 25 等と見積もられた。 銀河系中心と M 31 中心からの赤外放射を比べると双方の中心核の見かけ構造と 光度が同程度であることが判った。


 1.イントロダクション 

 電波観測 

 IAU Bull. 11, 1963 は銀河系中心はサジタリウス座の方向 10 kpc にあるとした。 電波観測は半径 10 pc の非熱的電波源サジタリウスA を銀河系中心核と看做した。
赤外観測 

 Stebbins, Whitford 1947 はフォトセルを用いて有効波長 1.03 μm で 銀河面沿いにスキャン観測を行ったが孤立赤外源の検出に失敗した。 Moroz 1961 は有効波長 1.7 μm でサジタリウスA付近でスキャンを行ったが、何も検出 出来なかった。 1966 Aug にベックリンは 2.0 - 2.4 μm でスキャンを行った。 その結果、サジタリウスAと同じ位置に同じ大きさの赤外源を見出した。


 2.装置 

 3.観測 


図1.信号と参照ビームは f/16 でビーム間隔は 5 cm. フリップ―インミラーは 空でなく黒体を見る時のため。




図2.24インチ望遠鏡、アパーチャ― 1.8 での 2.2 μm での銀河中心赤経スキャンのペンレコチャート。γ Sagittarius のトレース は同じスキャンパラメタ―で取られた。ただしゲインは 6.3 倍下げてある。

表1.観測の記録




図3.200インチ望遠鏡で銀河中心と γ Sag を赤経方向および赤緯方向に スキャンしたチャート。アパーチャは 0.08。赤経スキャンは 二つの赤緯 A と B とで行われた。 γ Sag のゲインはファクター 320 倍下げた。



図4.1.8 アパーチャで取った 2.2 μm 銀河系中心マップ。 X 印は点源。




図6.0.25 アパーチャで取った 2.2 μm 銀河系中心マップ。 破線=スキャン中心線。




表2.観測されたフラックス密度。

図5.0.8 アパーチャで取った 2.2 μm 銀河系中心マップ。 X 印は点源。破線=スキャンの中心線。






図7.表面輝度最高点で 3.5 アパーチャで取った 赤外スペクトル。 10 μm 限界は Hughes 1965 による。Downes, Maxwell 1966 の Sag A 電波スペクトル と Johnson 1966, Neugebauer, Becklin 1967 による M31 データも示す。M31 スペクトル は適当な倍率を掛けてある。




表3.観測されたカラー比

 4.データのまとめ 

 4.a. 記述 

 4種類の天体 

 銀河中心領域の輻射は、(1)電波源と位置と大きさが一致する最も明るい天体、 (2)その中にある点源、(3)銀河面沿いに広がる背景輻射、(4)幾つかの 小さい広がった天体に分けられる。

 (1)の最も明るい領域  

 図4中央に見える明るい天体は、図2の 1.8 分解能観測では、 FWHM = 3 - 5 で全体の直径 5 - 10 で銀河面沿いに伸びている。測光径を変化させた際のフラックス 変化が図8に示されている。直径 1.8 を越えたところでは図4、5の データを数値的に積分する必要があった。点源(2)の寄与は引かれている。空間分布は ガウシャンではなく、べき乗的である。近似的に F(D) ∝ D1.2±0.1 と表される。これは、表面輝度に直すと I(D) ∝ D-0.8±0.1 に 相当する。このべき乗則は明るい中心天体の全域で成立するが、図3の最高分解能 0.08 では中心部でべき乗からはずれ、 FWHM = 0.3 の平坦な中心核が見える。この中心核の面輝度は周囲より高いが、そこからの 2.2 μm 放射は明るい中心天体全体の 4 % 程度である。

 2.点源 

 図3には中心の明るい天体の頂点から 10 離れて点源が見える。 2.2 μm でこの天体の直径は 5 以下で K = 6.7 である。 (1.65 - 2.2) カラーは周辺より少し赤い。


表4.小さく広がった天体の中心座標
3.背景放射 

 図4には背景放射も示されている。その明るさと広がりははっきりしない。しかし、 中心明るい天体のすそ野のように見える。

 4.小さく広がった天体 

 図4には中心以外にも小さな広がった天体が写っている。それらの中心座標を表4 に示した。それらの明るさは中心天体の 1/5 程度である。


図8.輝度極大点における 2.2 μm フラックスの測光口径による変化。 点源(2) の寄与分は引いた。


 4.b.力学中心との比較 

 Oort, Rougoor 1960 による銀河系の力学中心は、
     RA1950            Dec1950
     17h42.7m ±0.4m     -28°56 ±5 
図4から分かるが、この位置は赤外極大から 4以内にある。

 4.c.赤外と電波の比較 

 電波観測の結果 

 銀河系中心の電波観測 Downes, Maxwell 1966 は次の電波源を明らかにした:
(a) 直径 3 - 4 の明るい孤立電波源 = Sagittarius A
(b) 幾つかの二次的な孤立電波源
(c) 直径 1° に広がった背景放射


 サジタリウスA 

 赤外の明るい中心天体の位置を電波観測と比べたのが下の表である。1.8 分解能で観測した赤外中心天体は FWHM = 3 - 5 で Dowens, maxwell, Meeks 1965 の分解能 2.2 1.9 cm 電波観測の結果と一致する。これは両者が空間的に同一であることを強く示唆する。
(電波の方は非熱的輻射で、赤外は星の熱放射 だと思うが物理的にどう関係するのか? )




 スペクトル 

 図7のスペクトルから明らかだが、電波スペクトルを外挿すると 3.4 μm では 観測値の 1000 倍くらい小さな値となる。従って、放射メカニズムは良く検討 する必要がある。

図9.Downes, Maxwell、Weeks 1965 による 1.9 cm 電波の分布。


 4.d.M31 との比較 

 図10では、M31 の 2.2 μm 赤経スキャンを銀河系中心スキャンと比較 した。分解能はほぼ同じである。ここに示さないが、 3.4 μm の表面輝度は 減光が小さいため、両方でよく似ている。

図10.M31 の 2.2 μm 赤経スキャンを銀河系中心スキャンと比較した。分解能は ほぼ同じ。


 5.議論 

 5.a. 星間減光 

 固有スペクトル 

 銀河系中心領域の固有スペクトルは Johnson 1966, Neugebauer, Becklin 1966 が測った M31 中心部と同じと考える。それは図7の破線に示されるように 4000 K 黒体輻射に近い。

 赤外減光 

 赤外減光則は Johnson, Borgman 1963, Johnson 1965 が太陽近傍で銀河中心方向に 対して得た減光則の平均値を使う。減光は次のように表される:
     (Bν1/Bν2)obs = (Bν1/Bν2)emit exp[-τ0(A2 - A2)]
ここに、Bν1 = ν1 における表面輝度、A2 = ν1 における減光係数で表5のように 0.55 μm で 1 に規格化されている。 τ0 = 0.55 μm における光学的深さである。
2.2, 1.65 μm, 2.2, 3.4 μm の波長セットはそれぞれ、 τ0 = 25±4 と 30±10 を与える。今後の議論は 25 を使う。 この値は Munich 1952 が太陽近傍 1 kpc で得た 2 mag/kpc と合致する。

 5.b. 二次的な広がった天体 

 二次的な広がった天体は中心天体のすそ野で減光の小さい部分が見えているのか、 独立の星団なのか、どちらだろう。おそらく前者であろうという根拠はそのカラーが 表3に示すように青いことである。星団であるとすると、青いカラーは星団が太陽と 銀河中心の間の中間点にあることを示唆する。

 5.c. 銀河中心の物理的性質 

 光度分布 

 表7に、中心部の光度を半径の関数として示した。減光の不定性で数値にはファク ター2の不確実性が含まれる。

 質量分布 

 M/L = 10を仮定して質量を求め、表7に載せた。半径 1 pc 以内の平均密度は 太陽近傍の 107 倍である。図8に示されるようなフラックスのべき乗は、 星密度が R-1.8 で落ちることを意味する。
 Rougoor, Oort 1960 は銀河中心 70 pc 以内の質量を定め、外挿から 20 pc 以内の 質量として 0.7 × 108 Mo を得た。表7を見ると、20 pc 以内の 質量は 2.3 × 108 Mo となる。これは良い一致と言える。

表5.減光係数




表6.銀河中止方向のモデル減光量




表7.銀河中止天体の固有性質


 5.d. 銀河中心の他のモデル 

 減光が 15 mag 程度とすると、SED は図11に示すように NGC 1068 と そっくりになる。ただし、 M31 の中心部とは似なくなる。

 5.e. 点源 

 点源のカラー 

 図3にはピークの 10 以内に点源があることが示されている。 この天体のカラー比は、
     Bν(1.65)/Bν(2.2) = 0.15±0.03
で、周辺での
     Bν(1.65)/Bν(2.2) = 0.20±0.03
と合うので、多分この天体も周辺の広がった背景と同じ場所にあるのだろう。

 星団? 

 これが星団としたら、 L = 3 × 105 Lo, M = 7 × 105 Mo で 0.2 pc 以内に 108 Mo という高密度になる。衝突 は 10-3 /yr で起こり、星団の寿命は 1 Gyr 程度である。

 単一星? 

 Av = 27 mag を受けた単一星とすると、MK = -11.0 となる。α Ori が MK = -10.5 である。



図11.減光 15 mag で補正した銀河中心 SED を NGC 1068 と比較。


 6.まとめ 

 銀河中心にある広がった赤外天体 

 銀河中心にある広がった赤外天体を観測した。その形と光度は M31 中心核と 似ている。その位置は銀河系の力学中心と一致する。さらにその広がりと位置が 電波源サジタリウスAと一致した。

 中心天体は星の集まり 

 赤外放射は 4000 K の星から発せられていると考える。それは可視減光 25 mag を 受けている。
点源 

 点源の実体ははっきりしない。