OWL Telescope Project


本稿ではESOが推進している次世代超大型望遠鏡計画である口径100mのOWL(= OverWhelmingly Large)望遠鏡計画で検討されている赤外観測装置について概観する。


本論に入る前に、なぜ次世代超大型望遠鏡が必要なのか、銀河研究の観点から私見を述べることにする。

パロマーの5m望遠鏡が宇宙の果てを見るために作られたのは有名な話だが、1970年代中盤から口径4m望遠鏡の時代が本格的に始まり、遠方の銀河の観測が少しずつ行われるようになった。1980年代中盤から導入されたCCDカメラなどの高性能検出器のおかげで、クェーサーなどのAGNに限って言えば、赤方偏移=5の世界に肉薄するようになった。しかしながら、普通の銀河の研究では=1を超える世界に突入することは決してできなかった。

このことは口径8��10m望遠鏡の建設に拍車をかける一因になったことは明らかである。実際、すばる望遠鏡建設のキーワードの一つは「銀河形成領域を見よう」であった。

HSTが1991年に打ち上げられ、遠方宇宙の観測は格段に進歩した。しかし、撮像だけでは限界があり、やはり大集光力にものをいわせたスペクトル観測が必須であった。それを実現させたのが口径10mのケック望遠鏡であった。1990年代中盤には、ついに=1を超える普通の銀河の姿を捉えることに成功した。その後は順調に高赤方偏移銀河の観測が進み、1998年には=5を超える世界に突入した。そして2003年。ついにすばる望遠鏡は=6.58のライマンα輝線銀河の発見で世界一になった。

しかし、ここに至って感じることは、既に多くの銀河研究者の関心は=7を超える、宇宙の暗黒時代に存在するサブ銀河の探査に移ってきていることである。宇宙初代天体(Population III)天体に関する理論研究の進展、宇宙再電離源の探求とあわせて、次世代の研究目標がかなり明確に認識されるようになってきたのである。WMAPによる宇宙論パラメタに対する観測的制限はさらに認識を新たにしてくれたことは記憶に新しい。

では、次世代の研究にはどのような望遠鏡が必要なのだろうか?その答えの一つがまさに「次世代超大型望遠鏡 (NG-ELTs)」なのだ、ということである。宇宙の暗黒時代に存在する天体を確実に捉えうる観測能力を持っているからである。


OWL Telescope Project


推進母体: ESO

計画名: OWL = OverWhelmingly Large

     (or Observatory at World Level)

望遠鏡仕様: 口径100m

開業:2012年ファースト・ライト、2015年通常運用開始を目標


能力:限界等級=38 mag (10hr integ) & 角度分解能��1 mas @

   O型星@��2

   巨大HII領域@��3

   超新星@��10

       を見分けることができる

開発要素:full adaptive optics

可視光から中間赤外まで全て回折限界のイメージングを行う


OWL望遠鏡の詳細についてはここでは述べない。


OWL望遠鏡に搭載される近赤外線観測装置


参考文献: Kaufl, H. U., & Monnet, G. 1999, in the proceedings of “Extremely Large Telescope” From ISAAC to GOLIATH, or better not !? Infrared Instrumentation Concepts for 100 m Class Telescopes


・タイトルから予想されるように、あまり明快な論文ではない。


・現在、ESO/NTTにはSOFI、そしてESO/VLTにはISAACという赤外線観測装置があるが、OWLにはその後継機としてGOLIATH(巨人)という仮称の装置が作られる、ということを言っているにすぎない。


・NGST (口径8mを想定)とOWLとの比較:

上段が限界等級、下段が角分解能

(尚、OWL++は full adaptive optics が働いている場合)



J

H

K

L

N

Q

NGST-8m

30.6 mag

39 mas

29.9 mag

50 mas

28.9 mag

66 mas

27.8 mag

110 mas

24.6 mag

315 mas

20.1 mag

629 mas

OWL

30.5 mag

30 mas

30.0 mag

20 mas

29.7 mag

10 mas

26.1 mag

10 mas

19.5 mag

25.2 mas

16.1 mag

50.3 mas

OWL++

33.0 mag

3.1 mas

31.7 mag

4.0 mas

30.4 mag

5.5 mas

26.1 mag

8.8 mas

19.5 mag

25.2 mas

161. mag

50.3 mas


JHKLではOWLの方が性能がセルがN & Q ではdepthの点でNGSTにかなわない(ただし、分解能ではこれらの波長帯でもOWLの方が10倍強優れている)。

また、NGSTは現在では口径が6mクラスにdegrade されていることに注意。


・中間赤外線での deep surveys にはNGSTでやるべき(サブ arcsec 分解能が実現されているので、とりあえずOKと思うべき)。

近赤外線ではOWLによる deep surveys が圧倒的に有利。

分光では全ての波長帯でOWLの方が良い(HSTと現在の8m級地上天文台との比較を思い起こせばよい)。

まとめ


宇宙の暗黒時代に何が起きたのかを解明するためにはどうしてもOWLのようなELTs が必要である。Adaptive opticsの完成度に依存する部分はあるが、2012年までには解決されれば(楽観的か?)、OWLの独壇場の時代がやってくるだろう。

 対象となる研究分野は、ここでは私の個人的な趣味から、宇宙の暗黒時代における銀河形成や宇宙再電離源の解明などに焦点をおいたが、OWLは基本的にはほとんどの研究分野でブレークスルーを達成できる能力を兼ね備えている。

回折限界以上の角分解能を要求する場合(例えば親星に近接する惑星系探査など?)は、スペース干渉計に頼ることになるかもしれないが、省エネルギーの観点からいえば、OWL-like なELTs は魅力的である。


ところで、次世代の日本の革新的な望遠鏡計画(JET = Japanese Extreme Telescope) の行方はどうなるのだろうか?これはなかなか難しい問題である。どのような計画にするのかはサイエンス・ドライバーが基本的には決めることだが、現実問題として、日本独自でいけるのだろうか?あるいは、いく必要があるのだろうか?

国際協力の中で日本がうまく分担できるチャンネルを持つ方向を探る方が好ましいかもしれない。われわれのコミュニティは4m級を持たずして、8m級を持ったわけだが、いかんせんまだまだ研鑽を積まなければいけないフェーズにある。ELT関連の仕事はきっと楽しいはずではあるが、JETの構想を練ると同時に、現在進行中のELTs (OWL、CELT等)の計画を通して、「8m級で何をやっておかなければならないか?」を考えることにフィードバックさせることも大切である。そして、時にはOWLの向こう側に何があるのかを考えることも大切だろう。


では、がんばりましょう。