度重なる障害にめげずに東京大学-NRO 60cmサブミリ波望遠鏡VST1を
ねばりづよく使うためのガイド
初版 1993/03/02 阪本成一
第1次改訂 1994/01/30 阪本成一
第2次改訂 1994/03/20 阪本成一
改訂3版 1996/01/12 半田利弘(体裁補正および内容更新中)
はじめに
このガイドには,60cm鏡で観測する際によく起こる障害と,
その対処法について簡単に手引きしてあります.
すべての場合を網羅しているわけではありませんし,説明も舌足らずで不親切ですので,
どうしても対処法が分からない場合には,しかるべき人にお尋ねください.
なお,障害の発生頻度の目安を*の数で表示してありますので参考にしてください.
皆様の幸運をお祈りします.
一般的注意事項
-
観測データは信頼性が命です.自分の取るデータの信頼性は自分で守ってください.
また,取得されたデータは一人歩きを始めることがあります.
信頼性の極めて低いデータを取った場合には,その場にいなかった人にも分かるよう,
その旨を観測ログに責任を持って記入してください.
-
観測開始に先立って,PCの時計合わせを行ってください.settimeコマンドが有用です.
その後キャリブレーション観測を開始し,一旦受信機室に行ってください.
そして以下の項目の点検および調整を行ってください.
これを怠ると,1日のデータが全部使いものにならなくなることもあり得ます.ご注意ください.
- 天気は悪くないですか?
- 受信機の温度計は10K以下を指示していますか?
- 受信機の真空計は1mTorr以下を指示していますか?
- Gunn発振器バイアスのエラー電圧が0近辺になるようにバイアスつまみ
を調整してください.
- 第2 IF系の緑色LEDが2つとも点灯していますか?
障害の発見
さて,障害が起こっているかどうかを判断する最も簡単な方法は,
実際に素性の分かっている天体を観測することです.
観測を開始する際には必ずまず基準天体の観測を行いましょう.
また,トータルパワーモニター用チャートレコーダーや
AOSバンド特性モニター用オシロスコープを,観測中常時モニターしておくことを
強くお勧めします.
- STEP 1.
観測を開始してください.正常に観測を開始しましたか?
- はい. →STEP 2へ
- ハングする.
- リセットしてやり直し.
- コンソールにAntの表示が出たところで停止する.
- アンテナ駆動モーターの電源が入っていない.
- I/O error a:\tele\adm\using.scdと表示されて終了する.
- スケジューラーファイルの書式が不正である.
- アンテナが動かない.
- メガトルクモーターのトルクが0になっている.
- モータードライバーのパルスだまりにパルスがたまっている.
- ケーブル巻き取り部でケーブルが引っかかっている.
- 機械的リミットを越えて移動させようとしている.
- 天体に追いついたのち積分を行わずに停止し,しばらくすると
calibration errorと表示される.
- 強度較正用のミラー切り替えが完了していない.
- コンソールに「装置の準備ができていません.<読取り中><装置 k:>」と表示
される.
- sgrへのNFSマウントに失敗している.
- STEP 2.
基準天体は強度,速度ともに正しく受かっていますか?
- 正常. →頑張って観測しましょう.でも安心しないで!いつまた
トラブルが,あなたを失意のどん底に叩き落とすかも知
れません.
- QLOOKで全く一直線に見える.
- 積分器が動作していない.
- QLOOKでほとんど一直線に見える.
- Rデータ取得からskyデータ取得まで時間がかかりすぎた.
- 雑音が異常に大きい.
- 大気の光学的厚さが異常に大きい.
- 建物もしくは山を観測している.
- on点データ取得からoff点データ取得まで時間がかかりすぎた.
- Rが入っていない.
- 受信機が暖まっている.
- 電波軸をチョッパーが横切っている.
- 受かっていない.
- エンコーダーがずれている.
- PLL周波数が大きくずれている.
- 通常よりも弱い.
- 水蒸気量が多い(雨・雪・曇あるいは温暖).
- 大気の光学的厚さが大きい.
- 雨・雪もしくはその直後.
-->鏡面の反射効率が落ちている.
- elが20degを下回っている.
-->大気の光学的厚さが大きい.
- 時計が合っていない.
- 光軸をチョッパーが横切っている.
- トータルパワーモニターが発振した形跡がある.
-->PLLのロックが外れている(または,一時外れた).
- 第2 IF系の緑色のLEDが消灯している.
-->第2 IF系のPLLのロックが外れている.
- 通常よりも強い.
- 観測室のAOSバンド特性モニターの読みが平常時よりも大きい.
-->第2 IF-AOS系がサチュレートしている.
- 強度較正用の常温黒体が正しく入っていない.
- QLOOKでの速度がずれている.
- PLL周波数がずれている.
- 通常よりも線幅が広い.
- 第2 IF系の緑色のLEDが消灯している.
-->第2 IF系のPLLのロックが外れている.
障害を未然に防ぐために
観測中にも,途中で障害が起きて観測が中断されないように,機器類のモニターを定期的に行いましょう.この作業は,異常なデータが混入するのを未然に防ぐのにも役立ちます.チェックポイントは以下の通りです.
- トータルパワーモニター用チャートレコーダー
- on点とoff点を移動する際に一瞬レベル変動がみられないか.
- on点とoff点の移動時には一瞬PLLがフリーラン状態になるので,
Gunn発振器のバイアスエラー電圧が大きくなると,この変動が
大きくなる.このままだとPLLの周波数がずれる恐れがあるので,
バイアス電圧を調整すべきである.
- Rが入ったときのレベルに急激な変動がないか.
- 受信機システムが安定ならば変動は小さい.Rのレベルが非常に
急激に変化するようならば,受信機の温度上昇を疑ってみる必要
がある.
Rのレベルがスキップしている場合,PLLの周波数がずれている
可能性が大きい.
- ペン先が小刻みに大きく振動していないか.
- PLLが外れるとこのようなレベル変動が現われる.
- R-skyの出力差は十分に大きいか.
- 天気の悪いときやelの低いときにはRとskyの温度の比が減少する.
このようなときには大気の光学的厚さが大きいので,その天体を
その時点で観測することは止める.
- on点とoff点のレベルが違いすぎないか.
- on点とoff点での大気の厚さが大きく違うと,特にベースライン
の安定性に影響が出る.
elが低くなって,on点またはoff点の一方だけのレベルが突然高く
なった場合,太陽電波観測棟や山を観測している可能性がある.
- AOSバンド特性モニター用オシロスコープ
- バンド特性は普段と変化ないか.
- パワーアンプのゲインやレーザーの出力が低下すると,特性が異
常にフラットになる.
- 積分は正しい時間行われているか.
- 観測室のモニターにバンド特性が表示されるのは,積分が行われ
ているときだけなので,積分器が正常に動作していないと,一瞬
しかバンド特性が現われない.このとき空のデータが生成される.
観測を強制終了して,まだ積分が終了しないうちに次の観測プロ
グラムを実行すると,その後,積分器が異常動作するので注意が
必要である.
典型的な障害とその対処法
- アンテナ系
- (AN01)**
鏡面の反射効率が落ちている.
- 鏡面についた水滴や雪を拭き取る.鏡面が結露することはない.
- 雨や重い雪が降っている場合には,効率が時々刻々変化して強度
較正に影響するばかりでなく,望遠鏡の故障の原因となるので,
直ちに観測を終了してカバーを閉めること.
- (AN02)***
エンコーダーがずれている.
- move1コマンドで望遠鏡をAz=180,El=0に移動する.
- 受信機室内でAzモーターの電源を切る.
- Azモーターのブレーキを解除する.
- ルーフに上り,望遠鏡が精度1deg以内で正しく南を向くように手動
で調整する.
- Azモーターの電源を入れる.
- (AN03)**
メガトルクモーターの電源が入っていない.
- スライドカバーを開け,OPENEDのLEDが点灯したことを確認
する.
- 凍結が原因で完全に空かないときには,屋根に上ってカバーに
付いた氷を剥がす.
- 強風が原因でOPENEDのLEDがときどき消灯するときには,
リミットスイッチのあたる部分に詰め物をする.
- メガトルクモーターの電源を入れる.
- RESTARTの黄色の表示が点灯している場合には,そのボタン
を押しながら電源を入れる.
- (AN04)*
メガトルクモーターのトルクが0になっている.
- NKSメガトルクモーターの電源を切る.
- AzモータードライバーのCN1ポートからケーブルを外し,代わり
にハンディーターミナルを接続する.
- メガトルクモーターの電源を入れる.
- ハンディーターミナルでTL75と入力する.
- メガトルクモーターの電源を切る.
- ハンディーターミナルを外し,ケーブルを接続する.
- メガトルクモーターの電源を入れる.
- (AN05)**
モータードライバーのパルスだまりにパルスがたまっている.
- NKSメガトルクモーターの電源を切る.
- メガトルクモーターの電源を入れる.
- (AN06)**
Rのデータ取得からskyのデータ取得まで時間がかかりすぎた.
- 観測を中止し,改めてR-skyから取り直す.
- 頻繁に起こるようならば,move1でel=0degとel=85degの間を往復
させて,elモーターを滑らかにする.
- (AN07)*
時計が合っていない.
- MS-DOSのgpstimeuコマンドで時計合わせをする.
- 時間はGPS信号を受信し自動的にUTCで設定される.
- 本システムでは時間基準をPCの内部クロックに求めており,
1日に1秒ほど進む.
- 受信機
- (RX01)*
電波軸をチョッパーが横切っている.
- アンテナ第6鏡と受信機上面の間にあるチョッパーの羽根が電波
軸を横切らないように向きを調整する.
- (RX02)*****
受信機が暖まっている.
- 受信機室左手にある電源操作盤を開け,コンプレッサーの電源を
切る.
- ラック最下段にある温度計の表示が280Kを超えるまで待機する.
- 電源操作盤で真空ポンプの電源を入れ,受信機デュワーの真空バ
ルブを開ける.
- 圧力計の表示が10mTorrを下回ったら,コンプレッサーの電源を
入れて真空バルブを閉める.
- 温度計の表示が30Kレンジで10Kになってから観測を再開する.
- (RX03)****
PLL周波数がずれている.
- EIP周波数カウンターのresetボタンを押す.
- lock freqボタンを押して,表示される (ロックすべき) 周波数を記
録する.
- resetボタンを押す.
この状態でLOはフリーランになっている.
- 周波数表示がロックすべき周波数にほぼ一致するように,STS
Gunn発振器バイアスの電圧を調整する.
バイアスつまみを時計回りに回すと周波数が下がる.
- バイアス電圧が5.8Vを越えるようならば,電圧を上げるのをやめ,
Gunn発振器のバックショートをゆっくり回すことで調整する.
バックショートを時計回りに回すと周波数が上がる.周波数が
84GHz付近にジャンプしたら,バックショートを一旦逆方向に
回して周波数を74GHz付近に戻し,やり直す.
- 必要に応じて,flockボタンを押して周波数をロックし,STS
Gunn発振器バイアスの電圧を微調整して,エラー電圧の指針が
中央に来るようにする.
バイアスつまみを時計回りに回すと指針が左に寄る.
- (RX04)**
PLLのロックが外れている(または,一時外れた).
- 対処法は(RX03)と同じ.
- (RX05)*
強度較正用のミラーの切り替えが完了しない.
- 観測室にあるミラー切り替え回路のAUTO/MANUALスイッチを
AUTO (上) にする.
- 受信機室にあるミラー切り替え回路のREMOTE/LOCALスイッチ
をREMOTEにする.
- ミラー切り替え回路のIC基板ソケット部の接触を確実にとる.
- バックエンド
- (BE01)*
第2 IF系のPLLのロックが外れている.
- 正面中央の調整用の穴にマイナスドライバーを差し込み,左右に
少し回して緑色のLEDが点灯するように調整する.
- (BE02)*
第2 IF系のPLL周波数がずれている.
- 正面中央の調整用の穴にマイナスドライバーを差し込み,左右に
少しずらしたところで緑色のLEDが点灯するように調整する.
LEDが点灯する箇所が複数あるので注意する.
- (BE03)*
第2 IF-AOS系がサチュレートしている.
- バンド特性が平常時と同じになるように回転式のアッテネーター
を絞る.
- (BE04)*
AOSのレーザーが点灯していない.
- レーザー電源を交換し,点灯するかどうか確認する.
- それでもだめな場合には担当者に以下の作業を依頼する.
- レーザー管を交換する.
- AOSの蓋を開け,光軸を調整する.
- 周波数較正を行い,AOSパラメターファイルを更新する.
- (BE05)***
積分器が動作していない.
- オートニクス積分器の電源を切る.(背面手前側)
- オートニクスA/D変換器の電源を切る.(背面手前側)
- 積分器の電源を入れる.
- A/D変換器の電源を入れる.
- 積分器のERASEトグルスイッチで積分器をクリアーする.
- 計算機
- (CP01)**
sgrへのNFSマウントに失敗している.
- PCをリセットして再度NFSを試みる.
- (CP02)***
sgrのハードディスク容量が不足している.
- rootに依頼してsgrのeuropaのマウントされているディスク上の
ファイルを一時的に退避する.
- あるいはPCのハードディスクやフロッピーディスクにデータを
書き込む.
- その他
- (XX01)****
大気の光学的厚さが大きい.
- 通常のR-sky法では正しく較正されないので,その天体を今観測
するのは諦める.
[非常時連絡先]
東京大学理学部天文学教育研究センター 野辺山分室 0267-98-4472
東京大学理学部天文学教育研究センター 0422-34-3737
長谷川 哲夫 (自宅) 0422-33-9457
林 正彦 (自宅) 0422-32-0228
半田 利弘 (自宅) 0422-33-9845
阪本 成一 (自宅) 03-3309-3646