SSBフィルター移動つまみをCCW(エンコーダーの値が小さくなる方)に回してゆくと
、ゼロ付近でブザーが鳴る。その「鳴り始める」ところがゼロになっているはずであ
る。何回かやってみて2〜3ミクロンの精度で合っていればOK。
合っていない場合は、エンコーダー表示パネルのリセットボタンを押して、1ミクロ
ンの精度で合わせ込む。
SSBフィルター(アルミ)の熱膨張のため、1度Cあたり1ミクロン程度は変化する。
ブザーが「鳴り止む」場所は+0.2mm付近である。こちらは再現性が悪いのでリセット
には使わない。
SSBフィルターに衝撃を与えたり、つまみを速く回しすぎたり、エンコーダーの電源
が切れたりして誤差が大きくなっている恐れのあるときには表示が点滅する。その時
は必ず上記の手順でゼロ点リセットを行う。
計算するスプレッドシート(Excel4.0)を作った(BinHex書類、取得してBinHexをデコードすればよい)。観測RF周波数(USB/
LSBは関係ない)、IF周波数(普通は1.45GHz固定でよい)を入力して設定値を求める
。エンコーダーがその値を示すようにSSBフィルターのつまみを回して合わせる。
12COと13COを観測する場合の設定値を受信機室内の東側の壁(分電盤のふた)に貼っ
ておいたので活用されたい。
設定精度は数ミクロンでよい。計算精度(キャリブレーション精度で決まっている)
は10ミクロン程度。10ミクロンずれると最もSSBに近いIF周波数が100MHz程度変
わるが、それはほとんど問題ない。
合わせるときはつまみをCW(リニアエンコーダを押しこむ方向)に回して合わせるほ
うが精度よく合わせられる。CCWで合わせると、その時には十分追従しなかったリニ
アエンコーダーが後からのびてきて値が変わることがあった。
スプレッドシートは合わせて、そのRF周波数がイメージとしてリジェクトされる設定
値も計算する。その設定でオリオンなどを観測するとイメージリジェクションがどの
くらいちゃんとできているかを測定することができる。
連続波観測で受信機雑音を少しでも下げたいときにはDSBモードにすると良い。これ
で(連続波に対する)システム雑音を約半分にできる。
まずSSBフィルターのストロークいっぱいに引き出す(つまみをCWにいっぱい回して
エンコーダーの表示が25mm超になるはず)。そこから戻して(つまみをCCWに回す)
、ミクサーに入るLOパワーが最大になる最初のピークに合わせる。ミクサーに入るLO
パワーは、ミクサー電流(パワーが入ると電流が流れる)で判断する。
これでIF=1.55GHzあたりで完全なDSBになる。1.45GHzでDSBにするにはスライド機構
のストロークが2mmほど足りないが、この差はあまり問題ではない。
LOからミクサーへの透過率は、SSB設定の時(約50%)の倍(約100%)になる。このた
め、ミクサーの動作点を最適化するために、少しLOアテニュエータを絞る必要がある
かもしれない。
DSBモードはライン観測には原則として用いない。信号も半分になるのでS/N比では得
しない上、上下のサイドバンドの感度比が不明になるので強度較正が不確かになるから。
今回(1997/1/1以降)、ゼロ点合わせがきちんとできるようにリミットスイッチを移
動しました。その結果、SSB設定位置のエンコーダー表示が以前のものに比べて変わ
っていますのでご注意ください。
なお、それに伴い、移動機構のCCW側のストロークも20mmほど短くなっています。
SSBフィルターの移動つまみは優しく回してください。移動ストロークの端に強く押
しつけたりしないでください。
60cm望遠鏡一号機のSIS受信機に取り付けられているSSBフィルターは阪本成一氏の設
計によるもので、Martin-Pupplet干渉計を用いている。
ミクサーのフィードから出たビーム(上向き、E-vectorは東西方向)は45度のワイヤ
ーグリッドで二つの直交する偏波成分に等分される。それらは、それぞれルーフミラ
ーで反射されて同じワイヤーグリッドに戻り、そこで西向きの一本のビームに合成さ
れる。
そのとき、二つの「(ワイヤーグリッド)→(ルーフミラー)→(ワイヤーグリッド
)」の光路長に差があると、それにより生じる位相差によって、合成されたビームの
偏波がリサージュ図形のように変わる。光路差が波長の整数倍の場合はE-vectorは鉛
直方向となり、半整数倍の場合は水平方向となる。
合成ビームは、縦のワイヤーグリッドによって、E-vectorが鉛直方向の成分は上方に
反射されて望遠鏡の光学系に導かれる。E-vectorが水平方向の成分は縦グリッドを透
過して、コールドロードに導かれる。コールドロードへ向かうビーム一部(約1%)
はLOのフィードへ導かれる。
光路差 | 光路がどうつながるか | |
波長の整数倍 | ミクサー → | 空sky |
波長の半整数倍 | ミクサー → | コールドロード(約99%) LO(約1%) |
L=λsig×n=λimg×(n±1/2)
2×fif=±(fimg−fsig)
実際はnが整数なので、上の二式を同時に厳密に満たすLは一般には存在しない。し
かし、解に最も近い整数nを採用することで、十分良いイメージ除去ができる。
上式よりLは(λif/4)に近いことがわかる。それに最も近い整数nを採用する。
230GHz付近ではnは40程度になる。
光路差は、干渉計の一方のルーフミラーをスライドさせて作る。そのスライド量dを 、1ミクロン読みのリニアエンコーダで読む。この方法で光路差数ミクロンの再現性 が達成できる。しかし、絶対的な光路差の精度は、リニアエンコーダの読みxと光路 差の間の関係式、
L=2×d=2×(x+d0)
に現れるオフセットd0(リニアエンコーダの原点におけるルーフミラー位置のオフ
セット)の精度で決まる。
d0の決定精度の目標はオーダー10ミクロンである。SSBフィルターの各部の寸法を機
械的に測定してこの精度を出すのは難しい(ノギスのバーニアの最小目盛りが50ミク
ロンであることを思い出そう。だいたいどこを測ればいいんだ?)。
そこで、電波を使って測定する。上に述べたことからわかるように、LOからミクサー
へのカップリングは、イメージと同様に、
L=2×(x+d0)=λlo×(n+1/2)より、
x=(λlo/2)×(n+1/2)−d0
のとき最大になる。そこで、複数のLO周波数(複数のλlo)について上式の条件を満 たす位置(ミクサーに入るLOパワーが最大になる場所)を求め、nが整数であること を利用してd0を決めることができる。
測定は以下の5つの周波数で行った。
flo/3=76362.66、70050、78287、73100、75000 [MHz]
SSBフィルターのストローク全体にわたって、ミクサーに入るLOパワーが最大になる
x(n')を測定し、線形回帰した。
機械的測定からdは23.4mm(精度1mm程度)前後と推定されたので、x(n)の回帰直線
を-23mm付近まで外挿し、各周波数でのLO最大点が一致する場所を探した(いわゆる
格子点の問題)。
その結果を図1(添付書類;KaleidaGraph書類)に示す。横軸にはd=23.4mmに最も近
い半整数の格子点を0.5としたオーダー、縦軸にはそのときのxを76.363GHzの場合か
らの差としてプロットしている。理想的にはどれかの半整数のオーダーで一点に交わ
るはずである。実際は、オーダー1.5で収束している。5測定間の平均をとると、
d0=23.785mm(重み付き平均)
Δd0=0.026mm(標準偏差)
となる。
上に示した標準偏差はオーダー1.5における5つの周波数の測定値の間のばらつきを
示している。そのもととなった各周波数での線形回帰に起因する誤差は0.003-0.007m
mと予想され、それらの間になぜ0.026mmものばらつきが出るのかは理解できていない。
先にメールで送ったSSB設定値を求めるExcelのシートには、このように求めたdが入
れてある。
シグナルサイドバンド | リニアエンコーダの読み |
USB | LOピークより1/8波長増やす |
LSB | LOピークより1/8波長減らす |
SSBフィルターの設定がΔdだけずれると、イメージ、LO、シグナルの周波数が全部 同じ方向に、−f×(Δd/d)だけずれる。dは25mm程度であるから、Δdが+11 ミクロンずれると、チューンされる周波数はおよそ100MHz下がる。その結果イメージ サイドバンドからのレスポンスの除去が甘くなり、観測されるラインの強度をアンダ ーエスティメイトすることになる。その量は以下の程度である(いずれもIF=1.45GHz での値)。
設定誤差 | 強度較正の誤差 |
11ミクロン | −0.3% |
22ミクロン | −1.2% |
33ミクロン | −2.6% |