土居 守のページ

祝 2011年ノーベル物理学賞

2011年のノーベル物理学賞は、遠方超新星を用いた加速膨張の発見の功績で、パ ールムッター博士・シュミット博士・リース博士が選ばれました。特にパール ムッター博士は、私たちが2001年からすばる望遠鏡を使って遠方超新星観測を一 緒に行ってきた共同研究者で、我々の研究グループは、毎年夏にパールムッター 博士率いるSupernovaCosmology Projectの研究会に出席してきました。遠方超新 星による観測的宇宙論観測を開拓したパールムッター博士、独立に宇宙膨張の加 速を発見したシュミット博士・リース博士の受賞を心からお祝いいたします。

なお、たまたま2011年9月20日にできあがった一般向け解説書
「宇宙のダークエネルギー − 「未知なる力」の謎を解く」
光文社新書 土居守・松原隆彦共著
は、意図しなかったものの、今回のノーベル物理学賞の意義や方法についての ぴったりの解説書になっています。この研究の現状と将来、あるいはパールムッ ター博士だけでなく、シュミット博士とすばる望遠鏡建設について話をした逸話 なども入っていますので、興味のある人はぜひご覧ください。

研究内容


人類は太古より、空の彼方がどうなっているか、宇宙はどのような姿をしている のか、我々と同じような世界は他にもあるのか、などの素朴な疑問を抱いてきて います。現代の天文学の研究は、科学技術の粋を尽くして、これらの疑問を追及 し、観測可能な限り宇宙の果てまで観測すると共に、物理学を駆使して、宇宙の 始まりから現在までの進化の様子、さらには未来の姿を予想し、人類の素朴な疑 問に答えようとしています。天文学は欧米や豪州・中国・インド・韓国・チリ・ ブラジル・アルゼンチンなどはもちろん、世界の多くの国で行われています。私 がたまたま話をした天文学者がいる国では、たとえばネパール、マレーシア、イ ンドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、エジプト、さらには北朝鮮、グルジ ア、アゼルバイジャン、ウズベキスタン、イランなどがあります。天文学の分野 は大変広いですが、中でも私は、広い範囲を調べる掃天観測(サーベイ観測)を 中心に研究を行っています。以下にいくつかの内容をご紹介します。

○サーベイ観測

広い空に見えるたくさんの星や銀河(星の集まり)などをたくさん調べていく観 測を、サーベイ観測と呼びます。たとえば東京大学の 木曽観測所にある口径1.05メートルのシュミット望遠鏡は、6度四方、一度に満月が144個も 写る広い視野を持っています。写真の時代には、大型の乾板で、この6度四方の範 囲を一度に撮影できました。ただ写真乾板は感度が低いため、現在では、CCDと呼 ばれる半導体検出器(デジカメなどにも使われています)にとってかわられてき ています。私は1990年代初めから、東大の岡村教授・国立天文台の関口助手(当 時)らと、CCDをたくさん並べて広い範囲を覆うカメラを作ることを始めました。 最初のカメラは100万画素のCCDを16個並べていました。その後さらに40個並べた カメラ作りにも参加ました。こちらは現在は引退し、国立天文台の展示室に展示 されています。その後、米国と共同で、CCDを54個使った大型カメラを用いるスロー ンデジタルスカイサーベイ(SDSS)という国際共同研究に参加、 1億個を越える天体のカタログづくりへいろいろな 作業を行いました。また、すばる望遠鏡 の広視野カメラSuprime-Cam(リンク)のたちあげにも参加しました。広い範囲を 撮影する能力では、2010年の段階では、SDSSのカメラとすばる望遠鏡Suprime- Camが、世界1位と2位の能力を誇っています。これらの望遠鏡とカメラを使って 様々な研究を行っています。

○銀河の研究

銀河には、きれいな渦巻き腕を持って星がたくさん生まれている渦巻銀河や、だ 円形をして古い星が集まっているだ円銀河などがあり、いろいろな形をしていま す。もともとは有名なエドウィン・ハッブル博士が20世紀初めに目で見て分類を していましたが、計算機が発達した現代においては、数式であらわすことのでき る値にして、誰でもできる形態の分類が重要になります。私は1990年代前半に、 岡村教授らと、中心の光の集中度を使った分類を、木曽観測所のシュミット望遠 鏡(リンク)で撮像した791個の銀河で行いました。カナダや米国の研究者に注目 され、彼らがさらに発展をさせ、我々もスローンデジタルスカイサーベイで撮ら れた銀河の形態分類を発展させた形で行いました。これらの形態分類は、銀河の 研究する上で、基礎の一つになっています。

○超新星の研究

超新星は、星の終末の爆発現象です。重い星は、星の内部で核融合がどんどん進 み、やがて中心に鉄の核ができます。鉄は核融合をしてもそれ以上エネルギーが とりだせないため、それまで核融合エネルギーをもとにした光の圧力でささえて きた重力がささえられなくなってつぶれ、大爆発をおこします。この重い星の終 末は重力崩壊型超新星です。一方軽い星の場合、たとえば炭素や酸素でできた白 色矮星の段階で、核反応が進まなくなるのですが、たがいの周りをまわりあう連 星系では、相手の星から白色矮星が物質をもらい、白色矮星を支える限界の重さ に近づいて爆発する熱核暴走型の超新星もあります。後者をIa型超新星と呼んで います。Ia型超新星は、明るさがほぼ一定だということが、1990年代前半にわか り、距離を測定することに使われてきました。その結果、宇宙膨張、特に暗黒エ ネルギーの研究のため、たくさんの超新星が観測されるようになりました。我々 もすばる望遠鏡・ハッブル宇宙望遠鏡を使って遠方(90億光年くらいまで)の超 新星を観測してきています。またSDSSのサーベイからは30億光年くらいまでの超 新星を観測してきています。Ia型超新星の明るさのばらつきを、色やスペクトル との関係を調べ、よく理解してさらに精度よく距離を測るための研究を行ってい ます。また、超新星の出現頻度を調べることで、超新星自身を理解しようという 研究も行っています。

○宇宙膨張・暗黒エネルギーの研究

宇宙にちらばる銀河と銀河の間の距離は、たがいに遠ざかりあっていること(宇 宙膨張)が、エドウィン・ハッブルによって1920年代に発見されました。宇宙膨 張は、物質どうしに働く重力のためブレーキがかかって(減速して)いる、と 1990年初めくらいまで、大部分の天文学者が信じていました。ところが、遠方の 銀河が予想よりもはるかに多く観測される問題、天の川銀河の古い星の年齢が、 宇宙膨張から予想される宇宙年齢よりも短くなる問題など、いくつもの矛盾が指 摘されました。さらに1998年には、遠方のIa型超新星を観測した2つのグループ によって、宇宙膨張が速くなって(加速して)見えることが独立に発表され、加 速させている謎のエネルギー源には暗黒エネルギーという名前がつけられました。 さらに、2003年には、約140億光年彼方に見えている、火の玉宇宙の名残りの放射、 すなわち宇宙背景放射のゆらぎの観測から、観測されている物質(普通の物質に 加え、暗黒物質と呼ばれる謎の重力源)では、ゆらぎの間隔がうまく説明できず、 宇宙のエネルギー・物質の約3/4は暗黒エネルギーであるべき、という結果も発表 されました。

暗黒エネルギーは物理学の基本法則に関わる大きな謎です。この謎に挑むため、 我々は、すばる望遠鏡を中心に、遠方の超新星を観測し、宇宙膨張を精密に測っ ています。また、SDSSでは、銀河分布から、暗黒エネルギーに制限を与える共同 研究にも参加しています。暗黒エネルギーは「21世紀のエーテル」にも例えられ る大きな謎ですが、その性質に迫るためには、大変広い範囲、多くの天体を観測 していく必要があるため、謎の解明には時間がかかると予想されます。私はいろ いろな工夫をして、この謎にとりくんでいこうとしています。

○装置開発

天体からの光は大変微かですので、天体望遠鏡を使って光を検出器に集める必要 があります。天体望遠鏡は世界に台数も限られ、また製作や運用が決して安くな いため、天体観測に使える時間は限られています。そのため、できるだけ感度の 高い、また、効率の良い観測装置が望まれます。私のところで開発をしている観 測装置は、ダイクロイック・ミラー(フィルター)と呼ばれる、特殊な鏡を使っ て、光を色(波長)ごとに分けていき、15の色で別々に絵が撮れる装置です。通 常のカメラは一度に1つの色でしか撮れないのに比べ、大変効率の良い装置です。 この装置はまだプロトタイプが動き出したところですが、順調に天体の画像情報 を保ったままで、色の情報を詳しく調べることができています。将来はより大型 の本格的な装置を作って銀河や超新星、暗黒エネルギーなどの研究に活用したい と考えています。

○東京大学アタカマ天文台

天体からの光は、地球の大気を通過する際に、吸収・散乱されたり、ゆらいだり します。特に赤外線の波長域や波長の短い電波の波長域では、水蒸気の量によっ て、天体からの光がみえたりみえなかったりします。天文学教育センターでは、 赤外線波長域の観測を重視し、南米チリ共和国のアタカマ砂漠にあるチャナントー ル山山頂(海抜5640m)に世界最高地点の天文台を建設しています。現在口径1m の望遠鏡が完成し、さらに6.5mの望遠鏡建設へと進もうとしています。1m望遠 鏡の観測の結果、チャナントール山は、すばる望遠鏡のあるマウナケア山(海抜 4200m)よりも大気の透明度が高く、また空気のゆらぎも大変少ないことがわかっ てきています。我々は日本では実現できない好環境の天体観測条件を活かし、様々 な天体観測を実現していきたいと思っています。

○木曽観測所

木曽観測所は口径1.05mと、視野の広いシュミット望遠鏡としては、世界第4位の 口径を誇る望遠鏡です。1974年以来、日本全国の天文学者に利用されてきました。 木曽観測所では現在、主力観測装置として、視野が2度角を有する広視野カメラ を開発中です。木曽観測所は、国内にあるということで、アクセスの比較的良い 観測所として、教育や科学コミュニケーションのためにも活躍をしています。

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