2008年度の談話会の記録(終了分・最新順)
- 第128回: 4月24日(木) 大薮進喜 (JAXA/宇宙研)
- " AKARI North Ecliptic Survey "
あかり」衛星は、2006年2月に鹿児島県内之浦より打ち上げられた、日本で初
めての本格的な赤外線天文衛星である。その「あかり」に搭載されている
Infrared Camera (IRC)は、近・中間赤外線(2-26ミクロン)において、広視野撮
像、分光、さらに中間赤外線全天サーベイを実現した非常にユニークな観測装置
である。本セミナーでは、「あかり」の紹介をし、そのIRCの能力を生かした北
黄極深探査、その中での我々が進めている中間赤外線での銀河研究について紹介
する。
また次回の公募観測時のIRCの観測能力についても紹介する予定である。
- 第129回: 5月 8日(木) Michael Richmond (Rochester Institute of Technology)
- " Recent developments in extrasolar planetary science "
I will try to give a brief overview of the latest developments in the
study of extrasolar planets. The field is moving very fast, with new
discoveries every month, and it is impossible to discuss
everything in one hour. Therefore, I will concentrate on
just a few of the papers which have appeared very recently and
seem most interesting to me. I will try to explain some
of the clever methods astronomers have devised to extract as much
information as possible about these other worlds.
- 第130回: 5月22日(木) 前田啓一(IPMU)
- 「 可視域観測で探る超新星の性質 」
- " Properties of Supernovae Probed by Optical Observations "
超新星に関する知見の大部分は、可視域における観測を通して得られ
ている。本講演では、まず超新星からの放射の基礎過程を概観する。
それを基に、実際に観測データからどのように超新星の性質が導かれる
かを、以下の研究成果と共に紹介する。
(1)爆発後数ヶ月程度までの可視域測光・分光観測を用いた、重力崩
壊型超新星の質量とエネルギーの関係。主系列質量が20太陽質量程
度で超新星の性質が異なり、そこを境に爆発機構が異なることが示唆
される。
(2)爆発後1年程度の可視域分光を用いた、重力崩壊型超新星の爆発
形状の特定。重力崩壊型超新星が一般に球からかけ離れた爆発をして
いることが確認された。
- 第131回: 5月29日(木) 加藤大輔(東大天文教室)
- 「 IRSFマゼラン雲近赤外線サーベイの概要 」
- " The IRSF Magellanic Clouds Survey "
本講演では、南アフリカ天文台に設置したIRSF1.4m望遠鏡と
近赤外線3色同時カメラSIRIUSを用いておこなった、
IRSFマゼラン雲近赤外線サーベイを紹介する。
このサーベイはJHKsの3バンドでマゼラン雲の55平方度をカバーしており、
既存の2MASS、DENISサーベイに比べて約10倍深く、
約2倍以上高い角度分解能を持っている。
講演の前半では、望遠鏡などの装置の立ち上げから観測・解析まで、
このサーベイ計画の一連の流れを紹介する。
後半では、サーベイデータを基に作成した点源カタログと、
そのカタログを用いた今後のサイエンスの展開について紹介する。
- 第132回: 6月 5日(木) 高梨直紘 (国立天文台)
- 「 距離指標としてのIa型超新星 」
- " How can we use type Ia supernova as a standard candle? "
Ia型超新星は宇宙論的距離における標準光源としてもっとも適した天体の一つであ
る。Ia型超新星を使ったダークエナジーの研究は、様々な赤方偏移宇宙の膨張を直接
測れるという意味で、BAOやWMAPなどとは異なるユニークな方法であり、今後の観測的
宇宙論の重要な柱の一つであり続けるだろう。
しなしながら、Ia型超新星を正確な距離指標として利用することは、簡単な話ではな
い。Ia型超新星にだって個性はあるし、近傍と遠方の宇宙で性質が同じであると扱っ
て良いかという問題もある。母銀河のダストによる減光も考慮せねばならない。Ia型
超新星を精度良い標準光源として利用するためには、これらの問題を適切に補正して
やる必要がある。
現在、複数の大規模超新星サーベイが行われており、これらの諸問題についての知見
も徐々に増えつつある。本講演では、我々の関わっている SDSS-II SN Survey の成果
にも触れつつ、Ia型超新星を巡る研究状況についてレビューしたい。
- 第133回: 6月12日(木) 宮崎聡(国立天文台)
- " Hyper Suprime-Cam "
Hyper Suprime-Cam (HSC)は直径1.5度角の視野を持つ、すば
る望遠鏡用次世代広視野カメラである。視野全面に渡り0.3秒角
(FWHM)以下という、非常に高い結像性能を目指している。常にシー
ングリミットの観測を行うことが、世界的競争の中にある弱重力レ
ンズ効果を用いたダークエネルギー研究において、他プロジェクト
をリードするために必須だからである。これを実現するには、高精
度な望遠鏡機械系、大型光学系が重要な開発課題である。焦点面に
は、国立天文台と浜松ホトニクスが共同で開発中の、長波長側の量
子効率を大きく改善した完全空乏型CCDを配置する。弱重力レ
ンズ効果の観測では、銀河の形状測定はi-band等の長波長側
で行うので、このCCDにより飛躍的な観測効率の向上が期待で
きる。本公演では、HSC開発の目的と現状をお話する。
- 第134回: 6月19日(木) 小林正和(国立天文台)
- 「 Lyman Alpha Emitters の観測と理論の現状 」
- " Present State of Observations and Theoretical Models of Lyman Alpha Emitters "
Lyman alpha Emitters (LAEs) は高赤方偏移銀河の一種である。 明るい Lyman alpha (Lya)
輝線と暗く青い UV 連続光から、 若い低金属な銀河であると考えられ、高い個数密度と合わせて、 銀河の形
成・進化を探る上で非常に重要な種族である。 最初の発見から十数年が経過し、検出された LAE の個数は大き
く増えてきたが、 連続光が暗いことから観測的に LAE の物理的性質に制限を付けるのは困難であり、 未だ謎
の天体である。
こんな時こそ理論の出番であるが、LAE 理論モデルの構築も、Lya 光子の厄介な性質のせいで
未だ発展途上の段階にある。
本講演では、まず LAE の観測的性質と LAE 理論モデルの先行研究を紹介する。
その後、銀河形成の準解析的モデルをベースに我々が構築した LAE の理論モデルと、 Lya 光度関数、UV 光度
関数、Lya 等価幅分布などの観測結果との比較を紹介する。
- 第135回: 7月17日(木) 小麦真也(東大・天文センター)
- " AzTEC/ASTE Survey of Cold Dust in M33 "
星間空間の冷たいダスト(〜10K)はサブミリ波領域での黒体放射として観測され (38)
る。サブミリ波帯では観測される放射に対して大気の寄与が大きく、望遠鏡サイトや観
測装置の感度の制限から、系外銀河の観測対象は明るく角度広がりの小さなものに限ら
れていた。
本講演では、ASTE望遠鏡に搭載されたボロメータAzTECによって行われたM
33に対する1.1mm広域サーベイの初期成果を紹介する。サーベイ面積は現時点で900平
方分が完了し、1σ感度でダスト質量80太陽質量に達している。銀河スケールでの冷
たいダスト分布や、Spitzer衛星の赤外線データと組み合わせて行ったダストの高温成分
と低温成分の分離、星形成との関係を議論する。
- 第136回: 7月24日(木) 大坪貴文(JAXA/宇宙研)
- 「 彗星の赤外線観測で探る原始太陽系星雲のダスト進化 」
- " Study of Dust Evolution in the Early Solar Nebula by Infrared Observation of Cometary Dust "
彗星は、いわば原始太陽系星雲中の氷微惑星そのものと言ってもよく、
氷と塵で形成された後に比較的熱変成を受けていないため、その塵は
太陽系形成初期の始原的な情報を保持していると予想される。こうした
始原天体である彗星に含まれる氷や固体微粒子の組成や粒径分布を調べる
ことは、太陽系形成初期における温度環境や物質の集積プロセスを探る
上で重要である。
本講演では、これまでの地上観測だけでなく、赤外線
衛星の観測、またDeep ImpactやStardustなどの探査機による結果を
総合し、彗星のダストの性質について、現時点までに特に赤外線観測の
面から分かっていることについて紹介したい。
- 第137回: 9月18日(木) 遠藤光 (東大・天文センター / 国立天文台先端技術センター)
- 「 窒素原子源による窒化アルミニウムトンネルバリアの生成 」
- " Atomic Nitrogen Source for the Formation of Aluminum Nitride Tunnel Barriers "
物質科学(マテリアル・サイエンス)と天文学は古来より深い関係にある。最近、
窒化アルミニウム(AlN)を材料として、量子力学的トンネル効果による電子の透過率が
きわめて高い絶縁体膜を作製できることがわかり、注目されている。
このような絶縁体膜を超伝導トンネル接合のバリアに応用すれば、SIS受信機の
RF帯域を一挙に数倍広げられるからである。我々は、ALMA Band 10 (RF帯域0.79-0.95 THz)の
テラヘルツ波受信機にこの新材料を応用すべく、研究開発を行ってきた。
我々は、活性種の存在量やエネルギーが異なる様々な窒素雰囲気でアルミニウム膜を窒化する実験を行った。
その結果、トンネル透過率の高いAlN膜を作製する鍵がAlNの生成過程にあり、
特にプラズマ中の中性窒素原子が重要な働きをして
いることを突き止めた。この新知見にもとづく、世界有数の良質なAlNトンネルバリア作製法の確立により、
ALMAの挑戦的な国際仕様を満たすBand 10受信機実現の見通しが非常に明るくなった。
今後は、SISミクサ、STJ検出器、Cooper対箱検出器等の天文用超伝導デバイスを始め、
不揮発性メモリや超伝導集積回路など各種産業への幅広い応用が期待される。
- 第138回: 10月 2日(木) 安部正真 (JAXA/宇宙研)
- 「 小惑星探査「はやぶさ」の成果と小惑星イトカワの地上観測の成果 」
- " Nature of Asteroid Itokawa, revealed by Hayabusa spacecraft and ground-based telescopes "
2005年9月から12月にかけて日本の小惑星探査機「はやぶさ」が小惑
星「イトカワ」の探査を行った。
「はやぶさ」は、探査機による近傍の観測によって、小惑星の形成メカニズムに
迫る証拠や地上に落ちてくる隕石と
小惑星の関係を明らかにした。
また小惑星「イトカワ」に対しては、木曽観測所をはじめとする地上望遠鏡を用
いた、観測キャンペーンが探査の
前後(2000年〜2007年)に行われた。地上観測の成果は探査計画の策定に役立っ
ただけでなく、地上観測の
有効性を示すことにつながった。
講演では以上の内容について具体的な例を示すと同時に、今後の小惑星探査計画
についても触れる予定である。
- 第139回: 10月16日(木) 坪井昌人 (JAXA/宇宙研)
- 「 VSOP2/ASTRO-Gプロジェクトの目指すもの、そして開発の現状 」
- " VSOP2/ASTRO-G Project "
We introduce a new space VLBI project, the Second VLBI Space
Observatory Program (VSOP2), following the success of the VLBI Space
Observatory Program (VSOP1). VSOP2 has 10 times higher angular
resolution, up to about 40 micro arcseconds, 10 times higher frequency
up to 43 GHz, and 10 times higher sensitivity compared to VSOP1. Then
VSOP2 should become a most powerful tool to observe innermost regions
of AGN and astronomical masers. ASTRO-G is a spacecraft for VSOP2
project constructing in ISAS/JAXA since July 2007. ASTRO-G will be
launched by JAXA H-IIA rocket in fiscal year 2012. ASTRO-G and ground-
based facilities are combined as VSOP2. To achieve the good
observation performances, we must realize new technologies. They are
large precision antenna, fast-position switching capability, new LNAs,
and ultra wide-band down link, etc.. VSOP2 is a huge observation
system involving ASTRO-G, ground radio telescopes, tracking stations,
and correlators, ISAS alone can not prepare a whole system of VSOP2.
Then we must need close international collaboration to get sufficient
quality of resultant maps and to give a sufficient quantity of
observation time for astronomical community. We formed a new
international council to provide guidance on scientific aspects
related of VSOP2, currently called the VSOP2 International Science
Council (VISC2). This paper is based on cooperative activity of the
ASTRO-G project team.
- 第140回: 10月23日(木) 田中培生(東大・天文センター)
- 「 質量放出がきめる大質量星の最期 」
- " Mass loss dominates the final stage of massive star evolution "
質量放出に着目して、超新星に至る大質量星進化の最終ステージに
ついて考えてみたい。近年、様々な方法によって得られた質量放出
率の不一致が問題となっている。主な原因は、質量放出を担ってい
る恒星風の Clumping にあると推測されている。その Wind
Clumping の構造および正しい質量放出率を求めるために、我々は、Wolf-
Rayet 星、O 型星の近赤外スペクトルを観測した。これらの
スペクトルをシンプルなモデルを用いて解析することにより、Wind
Clumping の空間構造を明らかにし、質量放出率を再評価した。さら
に、銀河系中心方向に隠されている多くの WR 星 (core-collapse
型超新星の progenitors) の、近赤外 CIV 輝線を用い
た探索を提案する。
- 第141回: 10月30日(木) 辻本匡弘 (JAXA/宇宙研)
- " Suzaku X-ray Observations of Classical Novaet "
古典新星は白色矮星表面で水素の核燃焼に火がつく事で発生し、爆発からの時期
により特徴が大きく変化する天体である。一般的に、爆発の初期には吹き飛ばし
た物質により加熱されたプラズマを起源とする硬X線、後期には白色矮星表面の
核燃焼を起源とする軟X線が観測される。古典新星は突発的で、かつほとんどは
X線による分散分光観測が可能なほど明るくない為、多くの場合は統計とエネル
ギー分解能の不足により詳細な調査が困難であった。これに対し、すざく衛星は
広いエネルギー帯域、高い感度と適度なエネルギー分解能を持ち、一般的な古典
新星を効率的に調査する為に非常に適している。
すざく衛星はこれまで3つの古典新星を観測した。いずれもX線を検出し、良
質のスペクトルが得られた。Suzaku J0105-72は視野の端または外側で偶然に
発見され、軟X線スペクトルからプラズマの温度や白色矮星の質量が求められ
た(Takei et al. 2007, PASJ)。V458 Vulはスウィフト衛星と協力して即応観
測が行われ、爆発初期・後期とも様相が異なる多くの輝線を持つスペクトルが
得られた(Tsujimoto et al. 2007, PASJ)。さらにV2491 Cygでは、スウィフト衛星
と協力して爆発初期を含む2回の即応観測が行われ、初回は鉄の輝線と約10~keV
まで伸びたスペクトル、2回目は酸素やネオンなど多くの輝線を含むスペクトル
が得られた(Takei et al. in prep)。
本講演では、すざく衛星で観測されたこれら古典新星の結果をまとめて報告し、
爆発後の猫像やプラズマの進化について議論する。また、スウィフト衛星や
MAXI衛星との連携も含めた今後の発展について議論したい。
- 第142回: 11月 6日(木) Jonas Zmuidzinas(Caltech)
- " Submillimeter Astronomy and Technology "
With the construction of ALMA now well underway, and the Herschel
Space Observatory
nearing launch, the field of submillimeter astronomy is rapidly
growing beyond its early pioneering
stages and is moving to the scientific forefront. Progress in this
field is driven strongly by the development
of new technology and instrumentation, which lead to scientific
discoveries. I will provide a broad overview
of both the science and technology of submillimeter astronomy,
starting from the 1960s and leading to
some of latest advances being made today.
- 第143回: 11月13日(木) 太田一陽 (理研)
- 「 ライマンα輝線銀河で探る宇宙再電離 」
- " Probing Reionization with Lyα Emitters "
宇宙の再電離がいつどの様に進み完了したかを知ることは、
宇宙史を紐解く上での重要な課題である。近年、クエーサー、ガンマ線バースト、
WMAPなどの観測により解明が進んでいる。再電離を調べられる別の有力な天体として、
高赤方偏移のライマンα輝線銀河(Lyα Emitter = LAE)が注目されている。
LAEのLyα輝線光子は宇宙再電離時代に存在したまだ電離されていない中性水素によって
吸収・散乱されるため、中性水素が増加すれば観測されるLAEの個数密度やLyα光子密度が
減少すると考えられている。我々はこの性質を利用し、Subaru Deep Field Projectで
発見された赤方偏移z~6-7のLAEサンプルを用いて、
宇宙の再電離が終わった時期とその直前の時代の宇宙の中性度を調べた。
本談話会では、この結果及び進行中のプロジェクトについて紹介する。
- 第144回: 11月19日(水)14:00-15:00 Chris Packham(University of Florida)
- " The Gemini Observatory, Current Status, The Future and Synergies "
Abstract: It is almost a decade since the current set of
8m-class telescopes saw first light, and the observatories are
now achieving a level of maturity in their instrument suites
and scientific output. The Gemini Observatory and Subaru
Telescope have several ongoing research activities across the
facilities, including an exchange of observing time on our
three 8-m telescopes, leading to an increasing level of synergy.
In May 2009 a joint Subaru-Gemini conference will be held in
Kyoto with the goals to better understand the science and
instrument paths of the observatories, and to explore areas of
collaborations. I present the current and future instrument
suite of Gemini and science highlights, and encourage discussion
of the possible future collaborations between the observatories.
- 第145回: 11月20日(木) 山口作太郎(中部大学)
- 「 今世紀のエネルギー・システムのための直流超伝導送電システムの開発 」
- " Research and Development of DC Superconducting power transmission line for Energy system in this century "
昨年のIPCC報告から地球環境悪化が強く懸念され、
本年の石油資源価格の高騰からそれの有限性が強く意識されるようになり、
次世代のエネルギー・システムの開発が強く求められる時代になった。
中部大学では2001年から応用超伝導研究を開始し、
2006年には世界で初めて高温超伝導材料を利用した直流超伝導送電実験装置を完成し、
研究開発を進めている。
超伝導が得意な直流大電流を生かした装置開発を進め、
常伝導ケーブルよりも損失の少ない送電システムの実現を目指している。
講演では、システム全体の紹介や特長から、及び太陽エネルギーとの組み合わせや、
独自に開発してきた個別技術の紹介を行う。
- 第146回: 12月 4日(木) 松岡良樹 (東大・天文センター)
- " Assembly of Giant Galaxies in the Final Stage of the Cosmic Structure Formation "
現在の宇宙に見られる星質量が10^11 Msunを超すような巨大銀河が
いつ、どのように誕生したかは、宇宙の大構造と銀河の形成過程に
残された大きな謎の1つである。階層的構造形成シナリオによれば
巨大銀河はより低質量の銀河どうしの衝突・合体を経て比較的最近
(z < 1) 出現したと予測されるのに対し、多くの巨大銀河は宇宙の
比較的初期にガスの急激な収縮によって誕生したとする説も有力な
シナリオとなっている。近年の観測によって、z > 1の宇宙にすでに
成熟しきったと思われる巨大銀河が大量に発見されてきているが、
これらの天体が現在の巨大銀河のどれだけを説明できるのかは未だ
明らかにはされていない。
本講演では、このような状況の中われわれが行なっている、UKIDSS
LASとSDSS-II Supernova Surveyのデータを組み合わせた超広視野の
巨大銀河探査について紹介する。
- 第147回: 12月18日(木) 三澤 透 (理研)
- 「 クェーサー吸収線でさぐる活動銀河核 」
- " Active Galactic Nuclei probed by QSO Absorption Lines "
遠方宇宙に存在するクェーサーは、手前に存在する暗い天体を吸収線として検
出するための背景光源としての利用価値もある。「クェーサー吸収線」とよば
れるこれらの吸収線は、従来は主に銀河や銀河間ガスを研究するために活用さ
れてきた。ところが近年、観測技術の向上にともない一部の吸収線が背景光源
であるクェーサーそのものに起源を持つことが明らかになってくると、クェー
サー近傍のガスの研究にも応用されるようになってきた。これらは降着円盤か
ら吹き出されるアウトフローガスを見ているのだという見方が一般的である。
そこで本講演では、まず最初にクェーサー吸収線およびそれを用いた研究の現
状を概観する。その後、現在私が行っている(クェーサーに起源をもつ)吸収
線の統計的性質、およびモニター観測による時間変動の様子を報告する。いず
れも可視高分散分光スペクトルを用いた結果である。さらに、X線吸収と可視吸
収との比較や偏光分光観測から導かれるアウトフローガスの構造にあたえる制
限などについても報告したい。
- 第148回: 1月15日(木) 早崎公威(基礎物理学研究所)
- 「 巨大バイナリーブラックホール探査の新方法 」
近年、巨大ブラックホールとその母銀河は共に進化してきたと
する強力な観測的証拠がいくつか発見された。
このことは、銀河中心のブラックホールの成長は、
銀河の衝突合体によって引き起こされたことを強く示唆している。
したがって、多くの発達した銀河の中心核では、
必然的にバイナリーブラックホール(A binary black hole: BBH)
を形成する進化段階が存在するはずである。
しかし、ブラックホール同士の距離が1pcかそこら以下の
BBHの存在は、観測的に同定されておらず、
また、1pc程度から軌道収縮し合体して単一のブラックホール
となるまでどのように進化していくかも未だに解決されていない(*注)。
そこで、今回は、
1.「ミリ〜マイクロパーセクスケールのBBHをいかに検出するか?」
を、独自の理論的モデルをたてて提案する。
また、2009年5月に打ち上げ予定の全天X線観測衛星MAXIでの
BBH探査計画(発案段階)についても簡単に紹介する。
を中心に、もし時間が許せば、
2.1.の理論モデルに基づいて、パーセク/サブパーセクスケールのBBHs
がミリ〜マイクロパーセクスケールまでどのように進化していくか調べ、
ラストパーセク(ロスコーン)問題(*注)の解決策を提案する。
もお話します。
*注: 二つのブラックホール同士の距離が、1pcから重力波放出
による軌道収縮が有効になる0.01pcまで収縮するのに、
既存のメカニズム(星とブラックホールの力学的摩擦)
だと宇宙年齢を超えてしまい、宇宙年齢内にブラックホール
が合体成長できない、という宇宙物理学上の大きな問題
(オープン問題)の一つ。ラストパーセク(ロスコーン)問題
と呼ばれている。
- 第149回: 1月22日(木) 時田幸一(東大・天文センター)
- " Spectroscopic Diversity of Type Ia Supernovae "
Ia型超新星は、個々の性質や明るさのばらつきが小さいことから、理想的
な標準光源として考えられてきた。しかしながら、近年ではIa型超新星
にも様々な多様性(diversity)が見られることがわかってきており、そう
した多様性の研究も、Ia型超新星に関する重要な研究テーマの一つと
なっている。最近では近傍に加えて中遠方の超新星スペクトルが多数取得
されてきたことによって、静止系紫外から可視光にかけての波長域で多様性
が顕著に見られるという結果が報告されている。これらは親星の金属量
などを反映していると考えられるため、多様性を調べることはIa型超新星
の性質や爆発メカニズムを理解するうえで非常に重要な意味を持つ。
本講演では、主にIa型超新星の分光的性質に見られる多様性を紹介すると
ともに、SDSS-II Supernova Surveyで発見された中遠方(z=0.2-0.4)の
Ia型超新星のスペクトルを使って、多様性を調査した結果について報告する。
- 第150回: 2月25日(水) Shouleh Nikzad (Jet Propulsion Laboratory / Caltech)
- " High Performance UV/Optical/NIR Imaging Arrays "