東大・理・天文学教育研究センター談話会


********2006年度の談話会(終了した分)********


第78回: 4月13日  寺田 宏 (国立天文台ハワイ観測所)

「 近赤外線分光で探る原始惑星系円盤  」
" Study of Proto-planetary Disks with Near-infrared Spectroscopy  "

 ほとんどの若い星は、その周囲にダストとガスからなる円盤をもつことが知 られている。この円盤は惑星系を形成する現場と考えられ、原始惑星系円盤と 呼ばれる。原始惑星系円盤の形成過程を明らかにすることは、我々太陽系の成 り立ちを解き明かす上で本質的に重要である。
 この10年の観測技術の向上を受けて、原始惑星系円盤の観測的研究は飛躍的 に進展した。特に、ハッブル宇宙望遠鏡や地上補償光学を用いた高空間分解能 観測により、原始惑星系円盤を直接的に撮像検出することが可能となった。直 接撮像によって検出された円盤は、その形態が明らかな故に原始惑星系円盤を 研究する上で絶好のターゲットである。
 ここでは、すばる望遠鏡口径8mの大集光力と近赤外線分光撮像装置 IRCSの 高感度を生かした原始惑星系円盤の最新の分光結果を紹介し、将来的な展望に 触れる。


第79回: 4月20日  伊王野 大介 (国立天文台ALMA推進室)

" Active Galaxies in the Universe  "

Recent deep optical imaging surveys have revealed that our Universe is a zoo of galaxies, varying from normal disk galaxies similar to those seen in our local Universe, to morphologically disturbed systems characteristic of colliding/merging galaxies. It is now firmly established that the tidal activity induced by collision/merger of two massive galaxies is largely responsible for the extreme starbursts observed in far-infrared luminous galaxies (i.e. ULIRGs), both in the local and in the early Universe. Since molecular gas is the fuel for star formation activity, high resolution observations of warm and dense molecular gas in these systems provide important new information about the physical properties in these systems.
First, I will review our current understanding of tidally driven starburst activity, both from simulations and observations. I will then show our recent results obtained at the Submillimeter Array toward nearby and distant actively starbursting galaxies.
In particular, I will present our new analysis conducted on CO(3-2) and HCO+(4-3) emission data of NGC 6240. Coupled with radiative trasnfer modeling, we obtain tight constraints on the temperature (T ~ 100 K), density (n = 10^5 cm^{-3}), and the optical depth (tau ~ 0.02 - 2) in the central 1 kpc of NGC 6240. We also provide new evidence of two inflow activity along the tidal arms of NGC 6240, which is a phenomenon predicted in numerical simulations of colliding galaxies but difficult to confirm observationally due to limitation in sensitivity and angular resolution. I will close the discussion with future prospects of observing similar systems using ALMA.


第80回: 4月27日  高桑 繁久(国立天文台 ALMA))

「 サブミリ波観測で探る原始星周エンベロープの温度構造と内部運動  」
" Study of Temperature Structure and Internal Motion of Protostellar Envelopes with Sub-mm Observations  "

生まれたての星「原始星」の周りに普遍的に存在する分子ガスの構造「エンベ ロープ」は、中心の原始星に質量を供給する、原始星の母体であると考えられ ている。これまでは波長が 1-mm 以上の電波「ミリ波」領域に存在するいくつ かの分子輝線を用いてエンベロープの観測が行われ、エンベロープの外周部(~ 2000天文単位) のガスが、中心星に向かって回転しつつ落下していく様子 が捉えられている。しかし、より原始星近傍 (< 500 AU) の高温 (> 40 K)、 高密度 (> 107 cm-3) のガスの構造や 運動がどうなっているのかはこれまで ほとんど明らかにされていなかった。そこで我々はこのような領域を選択的に トレースできる「サブミリ波」分子輝線 HCN (4-3), CS (7-6) による、原始 星周エンベロープの観測を SMA, JCMT, および ASTE を用いて行っている。こ れまでの成果としては

  1. 原始星周エンベロープにおいて、サブミリ波分子輝線は予想以上に広がっ て分布しており (> 2000 天文単位)、これは、これまで考えられていなかった、 高温 (> 40 K) 分子ガスがエンベロープ全体にわたって存在していることを示 している。
  2. これまでのミリ波観測とは異なったガスの運動がサブミリ波によってとら えられており、中心星に向かって回転しつつ落下していくというガスの運動だ けでは説明できないあらたな運動の存在を示唆する。

コロキウムではサブミリ波分子輝線の基礎知識や SMA の簡単な紹介も含めて、 このような研究成果を報告していきたい。


第81回: 5月11日  松永 典之(東大 天文学教育研究センター)

「 星の進化と変光星――周期光度関係が語るもの  」
" Evolution of variable stars and their period-luminosity relation  "

脈動変光星は、静水圧平衡状態から膨張・収縮を行うことで 熱エネルギーを力学的な仕事に変えて、安定した脈動を繰り返す星である。 恒星は進化によってその状態を変えていく間に このような条件を満たすことがあり、変光現象が観測される。 本来、この条件は色等級図上のある特定の領域にいる様々な星に 対して質量などに関わらず成立するが、星の進化経路という条件が 加わることによって、周期と光度の線形関係が生じる。
本講演では、まず周期光度関係が成り立つ物理的な条件を整理する。 それから、セファイド変光星やミラ型変光星といった実際の天体に関して 私が行っている球状星団での近赤外線観測などの成果を含めながら、 周期光度関係と星の進化がどのように関わっているかを議論したい。 また、時間があれば、銀河の距離や構造の研究への応用に関しても紹介したい。


第82回: 5月18日  早野 裕 (国立天文台 ハワイ観測所)

「 すばるレーザーガイド星補償光学系  」
"  Laser guide star adaptive optics system for the Subaru Telescope  "

すばる望遠鏡では、大気ゆらぎの影響を補正して、望遠鏡の 回折限界分解能を得られる補償光学系を搭載しており、近赤 外線、とくに2.2μm波長帯で0.07秒角という角度分解能を 達成している。この装置は2002年4月から共同利用観測装置 としてIRCS(近赤外線撮像分光装置)、CIAO(コロナグラ フ撮像装置)とともに利用されてきた。
一方、2002年度より、大気ゆらぎ補正点数を188に増大させ、 かつレーザーガイド星を使った次期補償光学系の開発が開始され、 今年度中に望遠鏡に取り付けて試験観測がスタートする。
補正点数の増大によって、波長1μmまで望遠鏡の回折限界分解能が 得られ、さらに、波長800nm付近でも、0.1秒角をきる角度分解能が 期待されている。また、レーザーガイド星を使うことで、補償光学系で 観測可能な天体数の劇的に増大し、特に系外天体は桁違いな増大が 見込まれている。
本談話会では、次期レーザガイド星補償光学系の 開発状況と、この装置が拓く観測天文学の可能性について 簡単に紹介したいと考えている。


第83回: 5月25日  久野 成夫(国立天文台 野辺山宇宙電波観測所)

" Nobeyama CO Atlas of Nearby Spiral Galaxies  "

系外銀河の分子ガスの観測、特に渦状腕や棒状構造といった銀河の構造を分解しうる角分解能での観測は、 それらの構造と分子雲形成、星形成の関係を調べる上で重要である。 我々は、野辺山宇宙電波観測所45m鏡に搭載されたマルチビーム受信機BEARSを用いて、 近傍渦状銀河のCOマッピングサーベイを行ってきた。 サンプル選択の条件は、(1)ハッブルタイプがSa-Scd(2)距離が25Mpc程度以下 (3)銀河の天球面に対する傾きが79deg以下(4)IRAS100μmのフラックスが10Jy程度以上 (5)他の銀河との相互作用の影響が小さい、である。 このサーベイ以前に観測された銀河を加えた結果、最終的なサンプルは合計40個の銀河となった。
本講演では、このサーベイについて紹介するとともに、 このデータを用いて棒状構造が渦状銀河の分子ガス分布に及ぼす影響について調べた結果についても報告したい。


第84回: 6月 1日  固武 慶(国立天文台 理論研究部)

「 超新星を舞台とする様々な高エネルギー天体物理現象 」
"Core-Collapse Supernovae and Their Astrophysical Relevance"

(重力崩壊型)超新星爆発とは、大質量星がその進化の最終段階に迎える大爆発現象 である。この超新星は、特に近年、ガンマ線バースト、マグネタ−(強磁場中性子星)、 などの高エネルギー天文現象と観測的相関があることが分ってきており、その生成メ カニズムを巡り大きな話題となっている。更に、超新星の爆発時には、重力波、 ニュートリノが同時にかつ強く放出されることから、次世代観測のターゲットとして も注目されている。
本講演では、これら超新星を舞台とする様々な高エネルギー物理 現象に関する研究のレビューを行なった上で、我々の一連の研究についてお話ししたい。


第85回: 6月 8日  千葉 剛(日本大学)

「 ダークエネルギーと重力 」
"Dark energy or new gravitational physics"

本講演では、ここ10年ほどの間に明らかになってきた宇宙の加速膨張の 宇宙論的・物理学的な意義について述べる。観測的証拠 について触れたあと、ダークエネルギーの導入や重力理論の変更によって 観測を説明しようとする試みについていくつか紹介し、二つの試みを 観測的に区別する可能性について述べる。さらに宇宙の未来像についても 簡単に触れる。最後に、宇宙項問題についての最近の理論の進展と ダークエネルギーや重力理論との関係についても紹介する。


第86回: 6月15日  松本 浩典(京都大学 物理)

「 すざくで挑む高エネルギー宇宙 -- ワイドバンドX線分光観測 」
"Suzaku's challenge to the high energy universe -- wide-band X-ray spectroscopy --"

2005 年 7 月 10 日に打ち上げられた日本の X 線天文衛星「すざ く」は打ち上げ後、X 線マイクロカロリメーター (XRS) を失うと いう悲劇に襲われたが、その他の二つの検出器である X 線 CCD (XIS) と硬 X 線検出器 (HXD) は順調に稼働し、0.3 -- 600 keV というかつてないワイドバンドでの X 線分光観測を可能にしてい る。
本談話会では、すざくの 3 つの検出器の特徴の紹介し、さら に打ち上げ後 1 年で得られた主な科学的成果 (銀河中心領域・ HESS γ線天体・スターバースト銀河など) を紹介する。


第87回: 6月22日  内一 由夏(東京大学 天文学教育研究センター)

「 すばる近赤外線多天体分光撮像装置MOIRCSの開発と高赤方偏移銀河の観測的研究 」
"Current Status of MOIRCS and the Near-Infrared Observation of the SSA22 Field"

すばる望遠鏡に搭載されている近赤外線多天体分光撮像装置 (Multi-Object InfraRed Camera and Spectrograph: MOIRCS) は、4' x 7' の広視野撮像機能 と、冷却マルチスリットによる多天体分光機能を持つ第2期共同利用観測装置 である。MOIRCSは2004年9月にファーストライト、2005年12月に撮像機能共同 利用開始を迎え、2006年後期には多天体分光機能の共同利用を開始する予定で ある。
本講演ではMOIRCSの機能と性能、これまでの機能試験観測で得た結果、今後の 性能試験観測計画について紹介する。


第88回: 6月29日  西浦 慎悟(東京学芸大学)

「 コンパクト銀河群の力学的性質を探る 〜今までの研究とこれからの研究〜 」
"Dynamical properties of the Compact Groups of Galaxies --From an optical spectroscopy and a deep imaging--"

コンパクト銀河群は、数個の銀河からなる小規模かつ高銀河数密度な 銀河環境である。コンパクト銀河群は、これが登場した20年ほど前から  銀河衝突の最前線として様々な側面から研究されてきた。しかしながら、 その一方では銀河集団としての重力的結び付きを疑問視する声もあり、 コンパクト銀河群およびこれに属する銀河の性質に関する統一した性質と いうものは、今一つ具体性に欠けるものであった。
本談話会では、今までのコンパクト銀河群研究を概観しつつ、私達が 可視分光観測と可視深撮像観測から得た、コンパクト銀河群の力学的性質 と進化の描像を紹介し、さらに今後の研究の方向性などの考察も行いたい。


第89回: 7月 6日  岡 朋治(東京大学 物理)

「 銀河系中心領域では何が起きているか? 」
"The Central Region of Our Galaxy - Millimeter and Submillimeter-wave View"

私たちの銀河系の中心数百パーセクの領域(Central Molecular Zone; CMZ)は、 星の強い集中と大量の星間物質で特徴づけられる銀河系内で最も特異な領域である。 この領域に集中した星間分子雲は、高温・高密度・広い速度幅などの、 銀河円盤部のそれとは大きく異なる性質を有することが知られているが、 それら特異性の起源は未だ解明されていない。
我々は内外のミリ波サブミリ波望遠鏡を駆使し、 同領域の分子輝線観測を進めてきた。その結果から見えてきたものは、 多数の膨張シェル/アーク構造と、極めて速度幅が広くコンパクトな分子雲群の存在であった。 これらの多くは著しい高励起状態を示し、局所的な爆発現象に起因する構造である事が窺える。 本談話会では、これらの成果を紹介するともともに、 同領域の星形成史および中心核活動との関連について議論したい。


第90回: 7月13日  池田 優二(フォトコーディング社)

「 紫外〜赤外用観測装置における光学系の役割とその発展 」
"UV-NIR Optical systems for Astronomical instrumentation"

市場における半導体技術の目覚ましい進歩は、光検知器性能 (感度および分解能)の飛躍的向上をもたらした。 この技術を基盤として、ここ20年間で天文学は著しい発展を遂げ、 その興味もますます多様化したことは、よく言われている事実である。 このように互いに相補の関係である天文学と光検知器性能の発展は、 同時に観測装置、特に検知器のプレデバイスである「光学系」の 急激な性能向上と新しいアイデアを盛り込んだ光学デバイスの 出現を要請してきたことは、それほど強く認識されていない。 光学技術への要求が高まりは、(光学そのものがクラシカルな 学問であるが故)、いかに光学を理解/駆使することによって 観測装置を通じて天体光を制御できる能力が、研究(プロジェクト) の成否を占う上で重要な要素となったことを示している。

本公演では、近年の紫外〜赤外用の観測装置に的を絞り、そこに 搭載される光学系の原理や機能的役割について具体的事例を 交えながら紹介する。また、今後天文学分野への応用の可能性が ある市場光学技術についても時間の許す範囲で触れたい。


第91回: 7月20日  関口 朋彦(国立天文台))

「 太陽系小天体の熱放射観測:第10惑星のサイズ測定を例に 」
"Thermal Observations of Minor Bodies: Size of the Tenth Planet"


太陽系において惑星とはこれまで「水金地火木土天海冥」であった。これは何 かの基準があるわけではなく、ただ漠然とそう定義されて来たのであろう。そ れでもさしたる問題はなかった。最近になって太陽系の外側、海王星や冥王星 の軌道よりも遠い領域で「冥王星よりも大きい可能性のある小惑星」の発見が 報告された。"2003 UB313"という仮符号が付けられている天体である。現在 「惑星」という言葉の定義がさかんに議論されており、この夏プラハで開かれ るIAU総会の開催中にもこの議論のための会議が催されると伝え聞く。

本談話会ではこの天体がなぜ第10惑星と呼ばれるのか、なぜ冥王星より大きい とされたかをミリ波望遠鏡+ボロメータ(IRAM 30m+MAMBO-2)で測定された 例(Bortoldi et al. 2006)を紹介し、我々が近地球型小惑星Itokawaのサイズ を中間赤外線観測(Sekiguchi et al. 2003, Mueller, Sekiguchi et al. 2005) によって測定し、後にはやぶさ探査機によって直接測定された例との比較を元 にして解説していきたい。 熱放射観測によって測定された第10惑星の直径はHSTによって直接空間分解する ことによって測定された結果(Brown et al., 2006)とは異なっている。この相 違点は惑星か否かの議論にとって決定的な点であり、これへの解決の糸口を今 後のAKARIとALMAによる観測可能性を元に議論する。


第92回: 8月18日(金)  Robert Quimby (University of Texas)

"The Texas Supernova Search"

The ROTSE-IIIb telescope, located at the McDonald Observatory in west Texas, is one of four instruments designed by the University of Michigan to image the optical afterglows associated with gamma-ray bursts. ROTSE-IIIb has a small (45 cm) aperture, but a wide (1.85 x 1.85 degree) field of view, and it can operate autonomously. For the past two years I have used ROTSE-IIIb to search the Virgo, Ursa Major, and Coma galaxy clusters for transient events. Although these clusters cover more that 300 square degrees on the sky, ROTSE-IIIb can image most of these fields every night to limiting magnitudes deep enough to detect a Type Ia supernova--in or in between the thousands of cluster galaxies--just one day after explosion. With target of opportunity (ToO) time on the neighboring 9.2 m Hobby-Eberly Telescope, I can obtain spectra of these transients the same or following night. I will present and discuss light curves and multi-epoch spectra for a few of the 25 SNe observed so far, and present some early results on the progenitors and explosion physics of SNe Ia.



第93回: 8月21日(月)  Grant Wilson  (University of Massachusetts)

"Submillimeter Galaxy Studies with the 1.1mm AzTEC Instrument"

I describe a recent large scale survey of the Submillimeter Galaxy (SMG) population by AzTEC, a 144 element bolometer camera, on the 15m diameter James Clerk Maxwell Telescope. From November 2005 to February 2006, over 400 hours of telescope time were spent imaging over 1 square degree of sky with an area weighted target sensitivity of 0.7 mJy rms. Several fields with large multi-wavelength data sets were mapped including the Subaru Deep Field South, the Lockman Hole, GOODS-N, and a subset of the COSMOS field. In addition we mapped fields spanning a wide range of environments including several regions with known mass over-density. Together this represents the largest/deepest survey of the SMG population. I will report on the technical details of the surveys, describe the reduction pipeline, and show preliminary results from a subsection of the survey fields.


第94回: 11月 2日  富田 浩行 (東京大学・天文センター木曽観測所)

「 変動成分解析による1型活動銀河核の観測的研究 」
"A study of the variable component of type 1 Active Galactic Nuclei"

活動銀河核中心には巨大ブラックホールがあり、その周りに降着円盤が形成さ れ、さらにその外側にはダストがトーラス状に分布し降着円盤からのUV放射に よって暖められていると考えられている。活動銀河核の可視、赤外線放射源は、 主にこの降着円盤とダストトーラスであると考えられるが、一方で活動銀河核 は非常にコンパクトで分解できないため、観測では母銀河成分の混入が避けら れない。
本講演では、母銀河成分の混入を除去し、近赤外波長域で降着円盤成分とダス トトーラス成分を分離する変動成分解析の手法を紹介する。そして、この変動 成分解析を東京大学MAGNUMプロジェクトで観測している1型活動銀河核の光度 曲線に適用し、得られた結果について議論する


第95回: 11月 9日  工藤 哲洋 (国立天文台・理論研究部)

「 星間分子雲分裂の三次元磁気流体力学数値シミュレーション: 弱電離ガスにおける磁気拡散と乱流の効果 」
"Three-dimensional MHD simulations of magnetized molecular cloud fragmentation with turbulence and ion-neutral friction"

星間分子雲が分裂して原始星コアが形成される過程を3 次元磁気流体力学数値シミュレーションによって調べた。 もし、磁気拡散がなければ磁場によって支えられ自己重 力的に安定な分子雲が、磁気拡散があるために分裂を引 き起こす様子を再現した。また、星間分子雲に超音速の 乱流がある場合には通常の線形成長で考えられている時 間よりも早くに分裂が生じることを確認した。


第96回: 11月 16日  白旗 麻衣 (宇宙研・ 赤外・サブミリ波天文学研究系)

「 CO回転振動遷移の吸収線観測によるAGN分子トーラスの研究 」
"Probing Molecular Tori in Obscured Active Galactic Nuclei
 with Spectroscopic Observations of CO Ro-vibrational Absorption Lines"

In this colloquium, we present a new physical insight into molecular tori around AGNs, based on the results of infrared spectroscopy of gaseous CO absorption lines. In order to investigate the physical conditions of the molecular tori directly, we attempted to resolve CO absorption lines of fundamental ro-vibrational band with the IRCS on the Subaru telescope. We observed ten AGNs in total and successfully detected CO lines from three obscured AGNs, which are classified as ULIRGs. The detected lines include highly excited rotational levels, which reveal the presence of warm (10^(2-3) K) and dense (>10^7 cm^(-3)) molecular gas. The velocity profiles show some discrete blue- and red-shifted components. These results tell us that the molecular torus has more complex structure than we expected from the unified scheme of AGN. We show these observation results in detail and discuss the physical conditions and geometrical structure of the molecular tori. We will also present on-going observation plan of the infrared spectroscopy of AGNs/ULIRGs with "AKARI" satellite.


第 97回: 11月 30日  出口 修至 (国立天文台・野辺山観測所)

「 一酸化珪素メーザーと星流/球状星団/矮小銀河 」
"SiO masers and star stream, globular clusters, and dwarf galaxies"

 一酸化珪素メーザー輝線を使い、銀河系ハローを巡る矮小銀河およびその尾(星流)に 含まれる酸素過剰型AGB 星の探査を行ったので、その結果について報告する。 Sgr dwarf elliptical galaxy の発見以来、続々と矮小銀河あるいはその一部である球状星団から 潮汐分離されたと思われる星の流れが見つかりだしたが、一酸化珪素メーザーの 視線速度データーにそれらの片鱗を見つけたので、それについての議論を行う。


第 98回: 12月 7日  諸隈 智貴 (東京大学・天文センター)

「 すばる望遠鏡広視野カメラSuprime-Camを用いた可視変光天体探査 」
"Optically Faint Variable Object Survey with Subaru/Suprime-Cam"

天体の可視域での変光現象の研究は、距離はしごの一部を担うなど重要な 役割を果たしてきた。可視望遠鏡が多く稼動している現在、時間変動を モニター観測する研究は、非常におもしろいトピックの1つである。 我々は、すばる望遠鏡主焦点に搭載されている広視野カメラSuprime-Camで 取得された、約4年にわたる撮像データを用い、約25等級程度までの暗い 可視変光天体の探査を行っている。他波長のデータと合わせることで、 検出した変光天体を銀河系内の変光星、超新星、活動銀河核に分類する ことができた。本談話会では、検出された各種類の変光天体の 統計的な性質について議論する。時間が許せば、可視変光天体研究の 今後の応用についても紹介したい。


第 99回: 12月 14日  酒井 剛 (国立天文台・野辺山観測所)

「 大質量星形成領域における化学進化 」
"Chemical evolution of massive star forming regions"

 希薄なガス雲から高密度コアが形成され星形成へ至る過程で、ガスの 化学組成は時間とともに変化していく。たとえば、進化の初期段階で は、中性炭素原子や炭素鎖分子が豊富に存在し、進化が進むにつれて NH3やN2H+などの分子の割合が増加してくる。星形成以前の分子 雲コアの化学進化についての観測的研究は、小質量星形成領域では多く 行われているが、大質量星形成領域においてはあまり行われてこなかっ た。これは大質量形成の若い段階にあると思われる天体があまり見つ かっていなかったためである。
 我々は、大質量星形成の若い段階にある天体を見つけるためW 3巨大分子雲に対し中性炭素原子輝線の広域観測を行った。その結果、 中性炭素原子輝線が強くかつ、炭素鎖分子輝線も強い大質量な分子雲コ アを新たに発見した。談話会では、W 3領域で見つかった若い大 質量コアの化学的、物理的性質について主に紹介し、大質量星形成領域 の化学進化について議論したい。


第100回:  1月 18日  長尾 透 (国立天文台)

"Metallicity Evolution of Active Galactic Nuclei"

本談話会では、AGN電離領域における金属量の進化に ついての我々の研究について紹介します。  AGNの金属量については、これまで主に broad-line region (BLR) について研究されてきています。BLR の金属量の赤方 偏移と光度への依存性を独立に調べるため、SDSS データ から "Composite Spectra" を作成して解析を進めた結果、 金属量と光度の間にタイトな相関がありこの Z-L relation が z=4程度まで無進化だという事が分かりました。
一方、母銀河と同程度の空間スケールをトレースするため BLR よりも母銀河の化学進化を反映していると期待される Narrow-Line Region (NLR) の金属量についても研究を進めて います。NLR の金属量診断方法は BLR に対するものほど 確立しておらず、そのため診断方法の吟味から研究を進める 必要があります。ここでは、我々が提案した NLR 金属量診断 法について紹介し、NLR でも BLR と同様に Z-L relation が 見られこの関係がz=4程度まで無進化だったという結果につい ても紹介します。

references:
 Nagao, Marconi, Maiolino 2006, A&A, 447, 157 
 Nagao, Maiolino, Marconi 2006, A&A, 447, 863 
 Maiolino, Nagao, et al. 2006, astro-ph/0603261 


第101回: 1月 25日  大越 克也(電気通信大学)

「 クエーサー吸収線系の起源と進化 ---DLAを中心に--- 」
"Evolution of QSO Absorption Systems --- Damped Lyman-alpha Absorption System (DLA) ---"

 クエーサー吸収線系は宇宙に於ける構造形成過程を探る重要なシステムのひとつである。 特に、Damped Lyman-alpha Absorption System (DLA) は、中性水素ガスを多く内包することから、 星形成過程初期にある原始銀河との関連性が極めて強い系として知られている。 近年の高分散観測の結果、DLAと銀河の相関性が、統計的かつ多角的に考察できる段階 に至っている。宇宙全体の中性水素ガスの殆どがDLAに存在 し、金属量は1/10Z(sun)で、金属吸収線系との強い相関を示 し、典型的な銀河の10倍以上の数密度をもつことなどが特徴 である。しかし一方で、DLAの起源に関しては明確な結論には 至っておらず、観測及び理論の側面から様々な議論がなされ ている。
 本研究では、銀河の冷たいガス成分からなるDLAに対して、 dark haloや銀河の合体過程およびガス内での星形成過程など を考慮にいれた準解析的モデルを構築し、銀河形成過程ととも に、DLAの力学的、化学的進化過程を考察した。
 その結果、光度関数や中性水素質量関数(HIMF)などの近傍 銀河の基本観測量を再現すると同時に、DLAの金属量などの基 本的な観測的描像を説明できることがわかった。さらに、低赤 方偏移のDLAの特性に着目することにより、DLAは主に低輝度の 矮小銀河(〜3 kpc, 0.01 M(sun)/yr)であることがわかった。
 ここでは、これら結果の紹介や最近の理論的考察(数値シミ ュレーションなど)との比較や、その問題点を挙げ、検証を行 う。また、DLA観測に関する最新の動向、さらには、現在我々が 進めているSubaru(AO)などによる観測計画やHIPASSやADBSとい った電波観測によるDLA銀河の撮像観測の可能性も併せて考察し、 Lyman-break銀河、ガンマ線バーストや吸収線系(MgII,CIV, sub-DLA)等との関連性にも触れる予定である。


第102回:  2月 15日  塩谷 圭吾 (宇宙研)

「 SPICA コロナグラフミッション 」
"The SPICA coronagraph mission"

太陽系外惑星(以後は系外惑星)の直接観測は、 惑星系の形成課程を明らかにし、究極的には地球外の生命の兆候にも 関連するため、たいへん重要な課題であると考えている。 しかし系外惑星の直接観測においては、 惑星のごく近傍に存在する、惑星にくらべて極めて明るい主星 からの光が決定的な障害となる。 そのため系外惑星の直接観測は、未だに達成されていない非常に チャレンジングな課題となっており、その実現にむけて世界中で 激しい競争が展開されている。
SPICA (Space Infrared telescope for Cosmology and Astrophysics) は宇宙航空研究開発機構が中心となって開発をすすめている、 「あかり」に続く次世代の赤外線天文衛星である。SPICA ミッションでは、 口径 3.5 m の望遠鏡を4.5 K に冷却し、2010 年代に H-IIA ロケット を用いて太陽・地球 L2 ハロー軌道に打ち上げる。SPICA には大気揺らぎの 影響を受けないことのほか、赤外観測が可能なこと、大口径による解像度、 シンプルな瞳形状などの特徴があり、コロナグラフ観測にとって非常に 有利でユニークなプラットフォームとなる。これらの特長を活かし、 主星から数〜数 10 λ/D(λは観測波長、D は口径)の角距離にて 6 桁の コントラストを実現するコロナグラフを開発し、太陽系外の木星型惑星 を検出、精査することを目指す。
開発研究の初期段階においては、まずは実現性を重視した結果、 バイナリ瞳マスク方式によるコロナグラフに注目した。 産総研との共同開発を行い電子ビーム描画法を用いたマスクを製作し、 宇宙研に構築した Test bed を用いて、1 ×10^-7 のコントラストを実証した。 この結果は SPICA の要求仕様を満たす性能に達しており、またコロナグラフ単体 での世界記録でもある(Enya, Tanaka, Abe & Nakagawa, A&A, 461, 783, 2007)。 また、開発はよりチャレンジングではあるが、 原理的にはより高い性能 が期待される Phase-Induced Amplitude Apodization 方式についても、 シミュレーション、実験を進めている。

談話会では、まず SPICA およびコロナグラフについて基礎的な解説を行い、 SPICA コロナグラフに関するこれまでの研究成果について発表する。



第103回:  3月 19日(月) 15:30─16:30  松原 隆彦 (名古屋大学)

「 宇宙のバリオン音響振動とダークエネルギー 」

宇宙論において,ダークエネルギー問題がホットなトピックとなっています. この問題は,半世紀以上に渡って理論物理学者を悩ませてきた難問中の難問, 真空エネルギーの問題が発展したものです.この素粒子物理学的な問題は,宇 宙論的な考察と組み合わせたときに最もその問題点が浮き彫りになります.最 近の天文学的観測技術の進歩によりダークエネルギーの存在がほぼ確かなもの となり,さらにその正体に迫る観測的アプローチの可能性が開けてきました. ダークエネルギーを探るための観測的方法はいくつか知られていますが,ここ ではその中のひとつである,宇宙のバリオン音響振動を用いた方法について, 我々の研究を交えてお話します.