東大・理・天文学教育研究センター談話会


********2005年度の談話会(終了した分)********


第53回: 4月14日  川村 静児 (国立天文台)

「 重力波天文学へのみち
   ―― Way to The Gravitational Wave Astronomy 」

重力波とは光速で伝わる時空のひずみの波である。90年前にアインシュタイ ンの一般相対性理論によりその存在が予言されたが、未だ検出はなされていない。重 力波が発見されればこれまでの観測手段では観ることのできなかった新しい宇宙の姿 が見えてくる、すなわち重力波天文学の創成が期待できる。本講演では、重力波の説 明から始め、宇宙における重力波源やその検出方法、そして観測の現状、将来の計画 などについて簡単なレビューを行う。


第54回: 4月21日  藤田 裕 (国立天文台)

「 銀河団の cooling flow 問題と津波モデル
   ―― The cooling flow problem in galaxy clusters and the Tsunami model 」

銀河団は全体として1億度ほどの高温ガス(銀河団ガス)に覆われている。 銀河団の中心部分ではガス密度が高いので、ガスの冷却時間は宇宙年齢よ りも十分短い。したがってもし加熱源がなければ、ガスは冷え、低下した 圧力を補うために、周辺からガスが流れ込むはずである(クーリングフロ ーモデル)。このモデルは銀河形成のメカニズムと似ていることもあり、 多くの研究者に注目され、研究されてきた。ところが最近のX線の観測に よると、ガスはクーリングフローモデルが予想するほど冷えておらず、何 らかの加熱源があることが示唆されている。本談話会では近年のパラダイ ムシフトについて解説し、加熱モデルのひとつとして我々のグループが提 唱している「津波モデル」について紹介したい。


第55回: 4月28日  Edwin L. Turner (Princeton University Observatory)

「 DETECTION AND CHARACTERIZATION OF EXTRASOLAR PLANETS AND PLANTS 」

Following an introductory overview of the scientific goals and programmatic status of the coronagraphic version of NASA's Terrestrial Planet Finder mission (TPF-C), work on some selected technical problems related to plans for TPF-C will be described in more detail. These include concepts for optimized pupil anisotropic coronagraph designs, a theoretical investigation of terrestrial planet characterization using diurnal light curves, comparison of this model to recent Earthshine observations of the Earth's diffuse scattered light and a speculative but potentially practical technique for the direct detection of extrasolar plants. Finally, potential TPF follow-on missions are briefly described.


第56回: 5月19日  田中 邦彦 (東大・天文センター)

「 分子雲中の中性炭素原子ガスの観測
   ―― Observation of Neutral Carbon Atom 」

よく知られているように、分子雲中には豊富な中性炭素原子ガスが含まれている。 銀河系内の典型的な分子雲における中性炭素原子/一酸化炭素分子比は、0.1程度から、大きいときには1前後の値までが観測されている。 なぜ、紫外線の届かない分子雲の奥深くの領域にまでこのように多量の中性炭素原子が存在するのかについては、いまだに定説がない。 富士山頂サブミリ波望遠鏡グループの展開してきた[CI]輝線の広域観測からは、分子雲内部の中性炭素が、分子雲が経験した原子相/分子相の相変化と関わりのあることが明らかになりつつある。 談話会では、講演者が富士山頂サブミリ波望遠鏡を用いていくつかの領域に対して行った492 GHz, 809 GHzの[CI]輝線の観測について紹介する。 これらの結果は、分子雲中における中性炭素の分布や、一酸化炭素分子に対する存在量比が、分子雲の進化とともにいかに変化してゆくかを示している。


第57回: 5月26日  吉川 真 (ISAS/JAXA)

「 深宇宙探査機の軌道決定の現場より
   ―― Current Status of Orbit Determination of Spacecraft in ISAS/JAXA 」

宇宙探査の分野では、月以遠の宇宙空間を「深宇宙」と呼ぶ。つまり、単純に言えば、 ロケットで打ち上げているもののうち、地球を周回する人工衛星ではないものが 深宇宙探査機なのである。 日本が打ち上げた深宇宙探査機は、「さきがけ」、「すいせい」、「ひてん」、 「GEOTAIL」、「のぞみ」、「はやぶさ」の6機であるが、これらの探査機によって 日本の深宇宙探査の技術が格段に進展した。特に、最近の「のぞみ」や「はやぶさ」 は、 欧米の宇宙ミションと比べても引けを取らないどころか、世界最先端のことにも挑戦 している。深宇宙探査機は、非常に多くの技術が結集したものであるが、本講演では 特に軌道決定ということについて紹介する。最初に、探査機の軌道決定技術の基本に ついて簡単にレビューをし、その後で、ミッションとしては目的を達することがで きなかった火星探査機「のぞみ」と、もうすぐ目的の小惑星に到着する「はやぶさ」 について、行われてきた軌道決定について紹介する。

In the field of space mission, "deep space" is the space beyond the distance of the moon. Spacecraft in deep space goes further from the earth to the space, not just orbiting around the earth. Japan has launched six spacecraft to deep space and they are "SAKIGAKE", "SUISEI", "HITEN", "GEOTAIL", "NOZOMI", and "HAYABUSA". By these spacecraft, the technology of spacecraft of Japan has developed much. Especially the recent two missions, "NOZOMI" and "HAYABUSA", are not only comparable to those space missions of US or Europe but also trying to the forefront technology. It can be said that spacecraft is assembly of many technologies, and in this lecture I will introduce about the orbit determination of spacecraft. At first, I will quickly review the basic methods of the orbit determination, and then I will talk about the Japanese Mars mission "NOZOMI", which was not able to achieve its scientific goal, and asteroid sample return mission "HAYABUSA", which will soon arrive at a destination asteroid.


第58回: 6月 2日  山本 智 (東京大学)

「 星間分子雲の化学進化
   ―― Chemical Evolution of Molecular Clouds 」

星間分子雲には数多くの分子が含まれている。その化学 組成は必ずしも平衡状態になく、そのために化学組成が 星間分子雲の物理進化をトレースするよい指標となる。 本講演では、(1)炭素原子のサブミリ波輝線の観測に よる分子雲形成、(2)炭素鎖分子の観測による分子雲 コアの進化、(3)複雑な有機分子の観測によるホットコア の進化、の3つを通して、化学的視点のユニークさ、重要性 についてお話したい。


第59回: 6月 9日  横山 順一 (東京大学)

「 Cosmic Inversion: 宇宙背景輻射の非等方性による初期揺らぎのスペクトルの再構築
―― Cosmic Inversion: Reconstructing Spectrum of Primordial Curvature Perturbation from CMB anisotropy data 」

WMAPの初年度データにより宇宙背景輻射の非等方性の角度パワースペクトルが さまざまなスケールに亘ってこれまでにない高精度で観測されました。本講演では、 これまで私たちが開発してきた、角度パワースペクトルから初期揺らぎのパワースペ クトルを再構築する方法について述べ、その方法をこのデータに適用した結果について 報告します。また、PLANCK衛星等次世代の観測計画によってどのような進展が 期待されるかについても触れます。


第60回: 6月16日  高田 将郎 (東京大学)

「 星震学の現状と展望
   ―― Current status and prospect of asteroseismology 」

恒星の表面でおきる振動現象を検出し、その性質を利用して恒星内部の構造を 探る研究分野を(地球の地震学、太陽の日震学になぞらえて)星震学という。 この分野では、特に近年の日震学の成功を受け、「次は他の星で同様の成功を」 という機運が高まっている。実際観測的には、多くの星において太陽型振動が 検出されたり、専用の人工衛星による観測が行われたりするなど、活発な進展 が見られる。一方で、観測結果から内部構造を診断する手法にはまだ多くの検 討の余地があるものと考えられる。観測の質的量的な制約により、太陽で用い ることのできた手法をそのまま適用できないからである。本講演では、このよ うな現状を概観し、今後どのような可能性があるかを議論する。


第61回: 6月23日  後藤 友嗣 (ISAS/JAXA)

「 謎の銀河E+A銀河の正体 ―― the origin of E+A galaxies 」

E+A銀河は強いバルマー吸収線を持ちながら、星形成を示す輝線をまったく持 たないため、最近10億年以内に活発に行っていた星形成を急に止めてしまっ たポストスターバースト銀河であると解釈されてきた。しかし、その稀さ故に、 発見以来20年以上にわたって、なぜE+A銀河が急に星形成を止めてしまった のか、その物理的起源は謎のままであった。スローンデジタルスカイサーベイ の25万個の銀河のスペクトラから見つかった過去最大のE+A銀河のサンプルを 用いて、我々はE+A銀河の起源について有力な手がかりを得たので紹介する。


第62回: 7月 7日  坪井 昌人 (国立天文台・野辺山)

「 Progress of the Sunyaev-Zel’dovich effect observation at Nobeyama Radio Observatory 」

SZ効果は銀河団中高温ガスにより宇宙背景放射の光子を逆コンプトン 散乱することにより生じる効果であり、銀河団中央の宇宙背景放射の 輝度が数千分の1ほど弱くなることとして観測される。SZ効果は始め ハッブル定数など宇宙論パラメータの、光学観測とは独立の、決定法 として注目された。現在はそのれに加えて銀河団の物理状態の観測法 としても期待されている。しかしこの効果は上述のように強度が弱く しかも広く広がっている。このため観測は極めて難しい。 野辺山宇宙電波観測所と大学の連合グループはここ数年『SZ効果の 確かな観測データ』を得るため努力を続けて『なんとか』データが 得られるまでになった。今回は45m鏡での観測の現状と将来の特に サブミリ波での展望について発表する。


第63回: 7月14日  山田 亨  (国立天文台)

「 銀河の進化の研究における最近の進捗(レビュー)
   ―― A Review of the Recent Progrss in the Study of Galaxy Evolution 」

ここ数年、GLAEX, Spitzer の両衛星や、ハッブル望遠鏡、 そして、すばる、VLT など地上大望遠鏡による大規模な 探査観測が行われ、また、SDSS などによって近傍宇宙の データベースが充実したことにより、銀河の進化について、より 系統的かつ精度の高い研究がすすめられている。
今回の談話会では、「銀河の進化についてのレビュー的な話」 として、銀河の星形成史、星質量進化史を解明するという観点から、

  1. z=0-1 の星形成史は、GALEX 探査、Spitzer 探査、そして 地上 VVDS、及び DEEP2 などの探査によってどこまで 明らかになりつつあるのか?
  2. これまで砂漠地帯であった赤方偏移 z=1-2 での銀河探査は どこまで進んでいるのか?
  3. 大質量銀河・低質量銀河の進化を全体的に俯瞰し、 解明するための手がかりをどこに求めるか?

の3点に重点をおいてお話しする。


第64回: 9月15日  辻本 拓司 (国立天文台)

「 星と銀河の生い立ちを語る化学組成
   ―― Elemental abundances tell us about the origin of stars and galaxies 」

星の化学組成は、星や銀河の起源?進化を探る有力なツールである。 星の化学組成を解析することによって、過去に星や超新星でどのような 元素合成が行われたか?銀河はどのような星形成史を歩んできたのか? を知ることができる。現在、星の化学組成に関連した観測の大きな動向は、 1.我々の銀河内での非常に金属量が欠乏している星の観測、2.近傍銀河の 明るい星の観測、の2つに集約することができる。これらの観測結果は、 星や銀河の起源の理解に対し多くの貴重な知見を与えると同時に、新たな 理論的考察の必要性を我々に示唆している。本講演では、これら最新の観測?理論 の近況を、自ら手掛けている研究の一端を交えながらレビューするとともに、 一般的な「化学組成解析学」を紹介したい。


第65回: 9月22日  今西 昌俊 (国立天文台)

「 超高光度赤外線銀河のエネルギー源
   ―― Energy sources of ultraluminous infrared galaxies 」

赤外線天文衛星IRASによって見つかった超高光度赤外線銀河 (ULIRGs)は、宇宙で最も明るい天体クエーサーに匹敵するほどの 莫大な光度を、赤外線でダスト熱放射している種族である。ダスト の向こう側に、非常に強力な星生成活動か、活動銀河核(AGN)活動 が存在していることを意味する。宇宙赤外線背景放射は、遠方の ULIRGsに支配されていると考えられており、従って、ULIRGsのエネ ルギー源の理解は、宇宙における、ダストに隠された側での、AGN と星生成の結び付きとも密接に関連している。 今回は、発表者自 身による、すばる望遠鏡、Spitzer望遠鏡を用いた、熱的赤外線に よる観測に加えて、野辺山ミリ波干渉計による3mm帯観測、X線の観 測結果をも組み合わせ、近傍ULIRGsのエネルギー源に関する研究の 現状をまとめる。


第66回: 10月20日  倉山 智春 (国立天文台)

「 VLBA によるミラ型変光星 UX Cygni の年周視差測定と今後の VERA 観測
   ―― Parallax Measurements of a Mira-type star UX Cygni by VLBA and VERA Observations in the Future 」

ミラ型変光星の周期光度関係は、大マゼラン雲のミラ型変光星でよ く研究されているが、銀河系内では距離の不定性のために研究が進 んでいない。これを改善するために VLBA を用いた位相補償 VLBI から年周視差を測定するモニター観測を実施した。その結果、ミラ 型変光星の 1 つである UX Cygni の年周視差を 0.54±0.06 mas と 求めた。1 つの天体だけなので周期光度関係自体を求めることは難 しいが、これまでに得られている大マゼラン雲の距離や周期光度関 係と矛盾しない結果である。 その後の観測としては VERA による観測を検討している。VERA によ る観測の現状と、将来の展望についても述べる。


第67回: 10月27日  有本 信雄 (国立天文台) ※この回に限り時間変更 13:30-14:30

「 高赤方偏移・大質量銀河の広域サーベイ(BzKとERO銀河の計数観測とクラスターリング)
   ―― A wide area survey for high-redshift massive galaxies (Number counts and clustering of BzKs and EROs) 」

We present the results of a deep, wide-area, optical and near-IR survey of massive high-redshift galaxies. The Prime Focus Camera (Suprime-Cam) on the Subaru telescope was used to obtain BRIz' imaging over 2x940 arcmin^2 fields, while JKs imaging was provided by the SOFI camera at the NTT for a subset of the area, partly from the ESO Imaging Survey (EIS). We report on the properties of K-band selected galaxies, identified from a total area of 920 arcmin^2 to Kv=19, of which 320 arcmin^2 are complete to Kv=20. The BzK selection technique was used to assemble complete samples of about 500 candidate massive star-forming galaxies (sBzKs) and about 160 candidate massive passively evolving galaxies (pBzKs) at 1.45 color criterion was used to assemble a sample of about 850 extremely red objects (EROs). Both sBzKs and pBzKs are strongly clustered, at a level at least comparable to that of EROs, with pBzKs appearing more clustered than sBzKs. We estimate the reddening, star formation rates (SFRs) and stellar masses (M_*) for the ensemble of sBzKs, confirming that to Kv=20 typical (median) values are $M_*=10^11Mo, SFR=190Mo/yr, and E(B-V)=0.44. A correlation is detected such that the most massive galaxies at z=2 are also the most actively star-forming, an effect which can be seen as a manifestation of "downsizing" at early epochs. The space density of massive pBzKs at z=1.4-2 that we derive is 45+-15% that of similarly massive early-type galaxies at z=0. Adding this space density to that of our massive star forming class, sBzKs, in the same redshift range produces a closer comparison with the local early-type galaxy population, naturally implying that we are detecting star formation in a sizable fraction of massive galaxies at z>1.4, which has been quenched by the present day.。


第68回: 11月10日  柴田 大 (東京大学)

「 連星中性子星の合体 ―― Merger of Binary Neutron Stars 」

連星中性子星の合体は強力な重力波源であるとともに、ショートγ線バー ストの中心天体の有力候補である。最近のシミュレーション研究の結果、連星 中性子星は合体後、非常に重い中性子星かブラックホールに落ち着くことが分 かった。ブラックホールが瞬時に形成される場合には、周りにほとんど物質が 残らず、回転するブラックホールが残されるのみである。よって、ショートγ 線バーストの中心天体としては好ましくない。一方、重い中性子星が形成され る場合には、その後強力な重力波源になる、ショートγ線バーストの中心天体 を形成し得る、などの可能性がある。セミナーでは、その可能性に関して最近 得られた理解について解説する。


第69回: 11月17日  田代 信 (埼玉大学)

「 活動銀河核ジェットによる力学的エネルギー放出
   ―― Kinetic Energy Outflow through the Active Galactic Nucleus Jets 」

ある種の活動銀河核(AGN)は、大規模な相対論的ジェットを伴い、 電波ローブやコクーンといったMpc規模にいたる構造をもつ。これ らの構造はまた、この10年の間にX線でも盛んに観測されるよう になった。多くの場合X線は、マイクロ波背景放射の逆コンプトン 散乱によって作られている。マイクロ波背景放射の強度は既知であ るので、X線観測から電子のエネルギー総量を測定できる。これは ジェットの運動エネルギーが、衝撃波によって再配分されたものな ので、AGNの力学的光度のよい指標となる。最近のX線観測の成果か ら、これまで見過ごされがちだった、AGNからの力学的エネルギー放 出について論じる。。


第70回: 11月24日  平林 久 (ISAS/JAXA)

「 スペースVLBIについて ――  Space-VLBI 」

 1987年2月に打ち上げられた世界初の本格的電波天文衛星「はるか」は、地球 のまわりを、2万キロまで遠ざかる楕円軌道をまわっています。地球上の電波望遠鏡 群と軌道上の「はるか」は、直径3万キロメートルの、超巨大な電波望遠鏡を合成し てきました。この電波の瞳は、圧倒的な解像度で遠くの天体の姿をみせてくれました。
 「はるか」をつかったまったく新しい考え方の電波望遠鏡を、「スペースVLBI」 と呼びます。「はるか」は、世界初めてのスペースVLBIを実証する実験衛星として、 平成元年(1989年)に設計製作が始まりました。「はるか」との通信、軌道決定のた めに、世界5ヶ所の追跡局が、また、14カ国の88基もの電波望遠鏡が共同観測に 参加してきました。この観測計画は、VSOP(VLBI Space Observatory Programme)計 画」と名づけられ、成功裏に続行しました。そして、遠方のクェーサーや銀河の中心 [でおこる驚くべき現象をまのあたりにてくしてくれました。そこには、太陽の何百万 から何十億倍もの重さのブラックホールの近傍から光速に近いジェットが噴出してい るのです。
 わたしたちはまた、2012年初打ち上げをめざして、さらに強力にした衛星によ る「VSOP-2計画」を提案しています。


第71回: 12月 8日  船渡 陽子 (東京大学)

「 中心にブラックホールを持つ高密度恒星系の力学進化の研究の現状と今後の課題について
   ―― On the study of dynamical evolution of dens stellar systems with blackholes 」

多くの銀河の中心に巨大ブラックホールが存在すると考えられている。また、 近年の観測からは、星団の中における中間質量ブラックホールの存在が明らか になってきた。このことは、巨大ブラックホールがもっと小さなブラックホー ルが成長してできたものである可能性を示している。成長メカニズムの候補の 一つに、まわりの星を飲み込みとブラックホールどうしの合体がある。巨大ブ ラックホールがこのようなメカニズムでできたかどうかを検証するには、まず、 ブラックホールを含む星団等の恒星系がどのように力学的に進化するかをN 体 計算を用いて明らかにする必要がある。本談話会では、N体計算によるブラッ クホールを含む恒星系の研究の現状について紹介する。そして、今後の研究を すすめる上での課題、特に、数値計算方法について議論する。


第72回: 12月15日  市來 淨與 (国立天文台)

「 宇宙初期の密度揺らぎから生成される宇宙論的磁場について
   ―― Cosmological Magnetic Field: a fossil of density perturbations in the early universe 」

磁場は宇宙の様々な階層スケールに存在し、重力と並んで力学的に重要な 役割を果たしています。ところが、銀河や、銀河団といった非常に大きな 天体においても磁場の存在は観測的に確認されているものの、その起源は 今だ定かではありません。 本研究では、宇宙の構造の種であると考えられている宇宙論的な密度揺らぎが、 この大スケールの磁場の起源として十分なだけの種磁場を宇宙の晴れ上がりの 時期までに生成することを示します。 また、この密度揺らぎから生成される宇宙論的な(微弱な)磁場を観測的に 検証する方法についても紹介します。


第73回: 12月22日  斎藤 貴之 (国立天文台)

「 原始球状星団周りのダークマターハローの潮汐破壊
   ―― Tidal disruption of dark matter halos around proto-globular clusters 」

近年、多くの観測により我々の宇宙は、小さな構造が合体し、より大きな構造を 作る階層的構造形成宇宙であることが支持されている。このような宇宙の中で、 球状星団は年齢が古い低質量の星の集団であることから宇宙初期に形成された天 体であると考えられている。そのため、銀河形成や宇宙の構造形成に密接に関連 した非常に重要な天体である。有力な可能性として、球状星団が銀河形成過程に 形成されたというシナリオが提案されている。しかし階層的構造形成モデルで球 状星団を作る場合に自然に予想される球状星団ダークハローは、観測されていな い。

そこで本研究では、球状星団程度が分解できる質量解像度を用いたTree+GRAPE SPH法による大規模な銀河形成シミュレーションを行い、階層的構造形成宇宙に おける球状星団形成の可能性について調べた。ここで用いた数値モデルでは、重 力相互作用、ガスダイナミックス、ガスの輻射冷却、高密度領域での星形成まで を考慮した。

コールドダークマターの密度揺らぎから重力的に成長したクランプは、輻射冷却 により速やかに中心の密度の高いバリオンと広がったダークハローからなるコア ・ハロー構造を持つようになる。これらが母銀河と相互作用する過程で、広がっ た分布を持つクランプのダークハローが潮汐相互作用により選択的にはぎ取られ ていく。その結果、ダークハローを持たないコンパクトなバリオンコアが銀河ハ ロー内に残る。我々の結果は潮汐進化による球状星団形成シナリオを支持するも のである。

可能であれば「天の川創成プロジェクト」についても触れたい。


第74回:  1月12日  辻本 匡弘 (立教大学)

「 チャンドラ衛星による銀河面のX線深観測と近赤外線同定
   ―― Chandra Deep X-Ray Observation of a Typical Galactic Plane Region and Near-Infrared Identification 」

Using the Chandra Advanced CCD Imaging Spectrometer Imaging array (ACIS-I), we have carried out a deep hard X-ray observation of the Galactic plane region at (l,b)~(28.5d,0.0d), where no discrete X-ray source had been reported previously. We have detected 274 new point X-ray sources (4 σ confidence), as well as strong Galactic diffuse emission within two partially overlapping ACIS-I fields (~250 arcmin2 in total). The point-source sensitivity was ~3×10-15 ergs s-1 cm-2 in the hard X-ray band (2-10 keV) and ~2×10-16 ergs s-1 cm-2 in the soft band (0.5-2 keV). The sum of all the detected point-source fluxes accounts for only ~10% of the total X-ray flux in the field of view. Even hypothesizing a new population of much dimmer and numerous Galactic point sources, the total observed X-ray flux cannot be explained. Therefore, we conclude that X-ray emission from the Galactic plane has a truly diffuse origin. Removing point sources brighter than ~3×10-15 ergs s-1 cm-2 (2-10 keV), we have determined the Galactic diffuse X-ray flux to be 6.5×10-11 ergs s-1 cm-2 deg-2 (2-10 keV). Only 26 point sources were detected in both the soft and hard bands, indicating that there are two distinct classes of X-ray sources distinguished by their spectral hardness ratios. The surface number density of the hard sources is only slightly higher than that measured at the high Galactic latitude regions, indicating that the majority of the hard sources are background AGNs. Following up the Chandra observation, we have performed a near-infrared (NIR) survey with SofI at ESO/NTT. Almost all the soft X-ray sources have been identified in the NIR, and their spectral types are consistent with main-sequence stars, suggesting that most of them are nearby X-ray-active stars. On the other hand, only 22% of the hard sources had NIR counterparts, which are presumably Galactic. From X-ray and NIR spectral study, they are most likely to be quiescent cataclysmic variables. Our observation suggests a population of >~104 cataclysmic variables in the entire Galactic plane fainter than ~2×1033 ergs s-1. We have carried out a precise spectral study of the Galactic diffuse X-ray emission excluding the point sources. Confirming previous results, we have detected prominent emission lines from highly ionized heavy elements in the diffuse emission. In particular, the central energy of the iron emission line was determined to be 6.52+0.08-0.14 keV (90% confidence), which is significantly lower than what is expected from a plasma in thermal equilibrium. The downward shift of the iron line center energy suggests nonequilibrium ionization states of the plasma or the presence of a nonthermal process to produce 6.4 keV fluorescent lines.


第75回:  1月19日  森井 幹雄 (JAXA)

「 近赤外、可視光、及びX線によるAnomalous X-ray Pulsarの観測
   ―― Near-Infrared, Optical and X-ray Observations of Anomalous X-ray Pulsars 」

Anomalous X-ray Pulsar (AXP)は、 超強磁場を持つ中性子星であると考えられており(マグネター)、 そのエネルギー解放機構は謎に包まれている。 我々は、一番明るい AXP 4U 0142+61に着目し、 近赤外、可視光、及びX線の領域で観測を行なっている。 特に、すばる望遠鏡の近赤外線検出器「IRCS」による 近赤外パルス観測はユニークなものである。 その結果、近赤外とX線のパルスの波形は同じで、位相も一致している という興味深い結果を得た。このことは、X線も近赤外線も 中性子星近傍からの放射であることを示唆する。 可能であれば、偏光パルス観測についても触れたい。


第76回:  1月26日  小林 千晶 (国立天文台)

「 宇宙の化学力学進化シミュレーション:銀河の形成と進化
   ――  Simulating cosmic chemical enrichment: formation and evolution of galaxies 」

WMAPによる宇宙背景放射の観測から宇宙の初期条件が決まり、 CDMによる構造形成はほぼ確かなものとなったといわれる。しかし、バ リオンの進化についてはほとんどわかっていない。ガスが冷えて星が生 まれ、銀河が形成される。星は超新星爆発を起こして星間空間に重元素 を放出し、温めて星形成を抑制する。我々は並列SPHコード GADGETに極超新星やIa型超新星などの物理過程を導入し、宇宙の 化学力学進化をシミュレーションする。それをLBG銀河、 DLA系、IGMなどのさまざまな観測と比較することで、銀河の星は いつどこで生まれたか、大質量銀河は古いか?、重元素はどのように分 布されるか、銀河風として銀河から銀河間空間へ?、銀河の質 量-金属量関係の起源は何か、などの問いに答えたいと思う。


第77回:  2月 2日  海老沢 研 (JAXA)

「 降着円盤のX線エネルギースペクトルとブラックホールの質量
   ――  X-ray energy spectra of accretion disks and black hole mass 」

1980年代から90年代にかけて、我々は「ぎんが」衛星を用い、ブラックホール 連星の高光度状態のX線エネルギースペクトルは標準降着円盤モデルでよく表され、 光度が大きく変わっても円盤内縁の半径は一定であることを発見した。その半径は ブラックホールの周りの最小安定半径(シュバルツシルトブラックホールの場合は 3シュバルツシルト半径)に対応していると考えられる。X線スペクトルフィットから 円盤半径を求め、各種の補正をしてシュバルツシルト半径を見積もり、ブラックホールの 質量を推定することができる。その後、観測精度が向上し、データサンプルも増えるにつれ、 ブラックホールの回転による効果や、質量降着率が極端に高い場合の標準降着円 盤モデルからのずれも検証されるようになってきた。近年、近傍銀河中に多数存 在する、10^40erg/sから10^41erg/sという極端に明るい「Ultra-lumious X-ray Sources (ULXs)」の起源が盛んに議論されているが、X線エネルギースペクトル の解釈によってブラックホールの質量の推定が大きく異なる。100から1000太陽 質量の「中質量ブラックホール」の周りの標準降着円盤だとする解釈もあるが、 我々は、20から30太陽質量のブラックホールの周りの、超エディントン光度で輝 いているスリムディスクだと考えている。


<天文教室・天文センターの合同談話会>


  3月17日 16:30から 祖父江 義明(東京大学) 最終講義
  場所: 理学部1号館2階206号室(物理学専攻講義室)
「 銀河系は爆発したか?―30年論争はつづく― 」

お問い合わせは下記まで

土居 守
tel.0422-34-5084 fax. 0422-34-5041
半田 利弘
tel.0422-34-5062 fax. 0422-34-5041
係専用共通メールアドレス