東大・理・天文学教育研究センター談話会


**********2004年度の談話会(終了した分)**********

 
第26回:5月 6日 土居 守(東大理天文セ) 

「超新星による宇宙膨張測定とダークエネルギー」

近年標準光源としてのIa型超新星の活用により、赤方偏移が1を 越えるところまでの宇宙膨張の測定が行われつつある。 一方WMAPに代表される宇宙背景放射のゆらぎの測定などから、 宇宙はたいへん「平坦」であるという結果が出てきている。 これらの結果を総合すると、宇宙膨張は最近加速をしている という驚くべき結果が得られ、加速のもとになるエネルギーは ダークエネルギーと呼ばれるようになってきた。 ここではハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡などを使った 超新星観測の現状の紹介を中心に宇宙膨張モデルの理解や ダークエネルギーについての簡単なレビューを行う。

第27回:5月 13日 嶺重 慎(京大基研) 

「Models for AGN Variability」

We construct a simple cellular-automaton model to understand the nature of AGN variability. The observations show some systematic trends in structure functions etc, which can be basically understood in the framework of our model. Its implications on the underlying physics is briefly discussed.

第28回:5月 20日 酒向重行(東大理天文セ)

「A flared circumstellar envelope around a Class I object revealed by a silhouette」

若い星(YSO)の星周ダストが背景に広がる明るい赤外線星雲を遮り シルエットとして観測される効果を利用し、星周ディスク、 およびエンベロープの密度構造を探った。我々はこのような シルエット天体を探すために、M17大質量星形成領域にて 2.166μmのBr輝線を背景光とし、すばる望遠鏡+IRCS+AOを用いて 高分解能な撮像サーベイ観測をおこなった。この観測から、 多数のコンパクトなシルエット天体が見つかった。中でも、 M17-SO1と名付けた天体は、〜10,000AUスケールの美しい フレア構造を持ち、追って行われたJ,H,K',L',11.7μm,12.8μm の観測から、中心星の散乱光と考えられる赤いコンパクトな ソースと青い双極散乱光を伴う小中質量のエッヂオンClass I YSO であることがわかった。また、双極散乱光の外縁部に沿って分布する ダストの殻状構造がシルエットとして初めて確認された。 シルエット(減光)から見積もられた星周ダストの密度構造から、 M17-SO1のエンべロープは0.1Moと0.01Moの二重のダストトーラス から構成されており、外側のエンベロープは中心星への落下が 既に停止している成分と考えられる。講演ではシルエットを利用する ことによって初めて詳細にとらえられた、YSOエンベロープの外縁部 にまで至る密度構造を中心に紹介する。

第29回:5月 27日 土橋一仁(東京学芸大) 

「Atlas and Catalog of Dark Clouds Based on the Digitized Sky Survey I」

ここ数年来、東京学芸大学の研究グループでは、光学写真のデータベースである Digitized Sky Survey I(DSS)を利用した暗黒星雲の全天カタログの作成に取組んできた。銀 緯|b| ≦40°の領域を6ユの角分解能で完全に網羅する減光量(Av)マップを作成し5000個を 超える暗黒星雲のカタログ化を行った。本講演では、「DSSプロジェクト」と名付けたこの 研究の概要を紹介しつつ、東京大学VSTグループおよび大阪府立大学電波天文学グループと の将来的な共同研究に関する展望を述べる。

第30回:6月 3日 鎌崎 剛(東大理天文セ)

 「Small scale strucutres in the rho Ophiuchi A region」 

星形成の母胎となる高密度コアの詳細構造を調べる為、へびつかい座星形成領 域にある高密度領域のダスト連続波及び分子輝線の詳細観測を野辺山ミリ波干渉 計を用いて行った。観測の結果、これまでの単一鏡の観測では一つコアと考えら れていたものが、より微小なスケール(〜1000AU、〜0.1Msun)のコアの集合体(微 小コアは空間的かつ速度的に分布)である事が分かった。自由落下と単純な衝突 のタイムスケールを簡単に評価するとどちらも10^4年程度となる事、最も大きな 微小コアに関してはセンチ波が付随していると考えられる事から、この領域では 微小コアの集合合体(coalescence)による星形成が起きている可能性がある事が 分かった。講演ではダスト連続波の結果を中心に話す予定であるが、分子輝線に 関しても興味深い結果が得られており、それに関しても紹介する予定である。

第31回:6月 10日 青木和光(国立天文台)

「リチウム組成の諸問題」

リチウムはビッグバン元素合成でつくられる点や、比較的低温で壊される点でユ ニークな元素であり、いろいろな局面でその組成が問われます。星のリチウム組 成研究を中心に、最近問題となっている点、および二つの同位体それぞれの起源 について概観し、現在我々のグループで取り組んでいる研究を紹介します。

第32回:6月 24日 稲田直久(東大理天文セ)

「The SDSS Gravitationally Lensed Quasar Survey」

今や重力レンズクエーサーは単なる一般相対性理論の観測的な証拠にとど まらず、有用な宇宙論の検証の道具の1つとして使えることが知られている。 重力レンズクエーサーを宇宙論の検証として用いる際には大規模でかつ一様 なデータ(サーベイ)が必要であり、これまでにCLASSと呼ばれる電波観測など の大規模なレンズサーベイが行われてきた。しかしながら、現在進行中の スローン・ディジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)のデータを用いればそれら に比べおよそ1桁大きいレンズサーベイが行えることが見積もられており、 そこで我々は過去最大のレンズサーベイを行うべく「The SDSS Gravitationally Lensed Quasar Survey」を開始した。現在までに10個以上の新しい重力レン ズクエーサーを発見することに成功しており、また世界初の銀河団による 大離角重力レンズクエーサーSDSS J1004+4112を発見することに成功している。 講演ではこれら新しく発見された重力レンズクエーサーを中心に、我々のレ ンズサーベイの最新の状況について紹介する予定である。

第33回:7月 1日 亀谷和久(東大理天文セ)

「中性炭素原子輝線観測で探る分子雲形成
---Neutral Atomic Carbon Distribution and Molecular Cloud Formation」

星間分子雲が希薄なガス雲から形成される過程では、気相の炭素の主要形態は 中性炭素原子(C)から一酸化炭素(CO)へと変化していく。このような物質変化に 着目して分子雲形成過程を探るために、我々のグループでは 富士山頂サブミリ波望遠鏡を用いて、銀河系内分子雲に対する かつてない規模での中性炭素原子輝線の広域観測を展開してきた。 その結果をCOの分布と詳細に比較することにより、いくつかの場所で 分子雲が形成される現場と考えられる領域が発見された。 講演では、そのうち主にへびつかい座分子雲の結果を紹介する。 また、南米チリのアタカマ高地に持ち込んだ口径18cmのサブミリ波望遠鏡による、 中性炭素原子輝線の銀河面サーベイの結果についても紹介する予定である。

第34回:7月 8日 森正夫(専修大学)

 「銀河形成と重元素の非一様混合過程 ---Galaxy formation and inhomogeneous mixing of metals」

銀河形成初期段階での化学力学進化を、これまでにない高分解能のシミュレーションを行って解析した (1024x1024x1024格子流体計算)。原始銀河内で星が誕生し、やがて超新星爆発を起こすと、 銀河内のガスが激しくかき乱され、多数の泡状の構造が形成される。 また、超新星によって放出された重元素はガスの密度の小さい泡構造の内部に蓄積され、 それを取り囲む高密度のガス殻では重元素の量は少なくなっている。 それは、この部分はもともと重元素を含まない原始のガスが爆発によって掃き集められた ものであるからである。銀河形成のきわめて初期では、まだ銀河内の空間全体を均一に汚染するほどの 超新星が発生していないために、星間ガスの化学進化の度合が異なっていたためである。 このようなシミュレーション結果から、観測で見つかった重元素の極端に少ない星は、 銀河形成初期の多重超新星爆発により発生した、重元素の非一様分布が原因で誕生した可能性が高いことを指摘した。 このような重元素の少ない星の形成過程を詳細に調べることにより、 銀河形成初期の元素合成や物質循環過程を知る手がかりを得ることができる。

第35回:7月 15日 海野和三郎(東大名誉教授)

「改良ソーラーポンド:熱伝導方程式の解析解
---Analytic Solution of the Heat Conduction Equation for Ideal Solar-Pond」

石油より格段に安いエネルギーを得るための太陽エネルギー装置の原理を述べる。 19世紀末までの人類文明と自然(バイオマス、水力等)の間にあったバランスが、化 石燃料の過度の消費で崩れ、人口は4倍となりエネルギー枯渇と地球環境問題の危機 が迫っている。固定全天集光系と細隙対流防止型ソーラーポンドの結合により、太陽 電池や太陽熱温水器より10倍程度効率のよいエネルギー装置を設計することが可能 である。熱伝導方程式は、波動方程式、拡散方程式と同型であり、日射によるソー ラーポンド内の水温変化の解析解を求める手法は、広い応用がある。その一つ、エン トロピー増大と時間の進行との一致が複素経路積分で保証される。

第36回:9月 16日  常田 佐久 (国立天文台)

「飛翔体天文学への誘い  ---Invitation to space astronomy」

ふわふわ浮かぶ気球、5分間だけ大気圏外に出ることのできる小型観測ロケッ ト、大型ロケットで打ち上げる科学衛星と宇宙への道は多様です。これらの飛 翔体に搭載する望遠鏡の構想から製作、打ち上げまでのようすを、宇宙開発で 日本の技術がどのようにいかされているのかを含めて、紹介します。 もし時 間に余裕があれば、後半は、太陽のお話です:頻発する爆発現象、つなぎ変わ る磁力線、数億度に達する火の玉、光速近くまで加速される電子、日本の太陽 観測衛星「ようこう」は、ダイナミックに変化する太陽の姿を初めて明らかに しました。「ようこう」のもたらした新しい太陽像、その後継衛星である SOLAR-B衛星の意義を解説します。

第37回:9月 30日  須藤 靖  (東京大学) 

「太陽系外惑星大気の分光観測
 -- Spectroscopic observation of atmosphere of extrasolar planets」

我々は、東京大学、国立天文台、神戸大学、プリンストン大学、ハーバード大 学の研究者と共同で、すばる望遠鏡を用いたトランジット惑星HD209458b大気 の分光観測を行っている。今回は、その初期成果の報告に加えて、太陽系外惑 星探査の最近の進展、および将来の方向性について個人的な見解を交えて紹介 させて頂く。

第38回:10月 7日  岩本 弘一 (日本大学)

「Ia型超新星 〜理論と観測の最近の進展について〜
 -- Type Ia Supernovae: Recent Developments in its Theories and Observations」

Ia型超新星は、熱核反応の暴走により白色矮星全体が爆発する現象であると考 えられている。そして、重力崩壊型のII型(およびIb/Ic型)超新星とともに、 宇宙における主な重元素の起源を説明し、銀河の化学進化に大きな影響を与える。 また、大きな絶対光度とその一様性から、宇宙における標準光源として宇宙パ ラメータの決定にも利用され、宇宙論的にも重要な役割を果たしている。本講 演では、Ia型超新星の親星の起源、爆発のメカニズム、元素合成、光度曲線と スペクトル、宇宙パラメータ決定への応用などについて、最近の進展を交えな がら理論と観測における基本的な事項を概観したい。

第39回:10月14日  山村 一誠  (宇宙研/JAXA)

「SiO Masers in the RV Tauri Star, R Scuti
 -- RV Tauri 型変光星 R Sct からの SiO メーザーの検出」

RV Tau 型変光星は、これまでの研究で、 post-AGB と呼ばれる各燃焼を終えた直後の進化段階にある、 脈動変光星であると解釈されている。しかし、個々の星の性質はバラエティに富んでおり、 その進化について統一的に扱って良いものかさえ、必ずしも明らかではない。 我々は、RV Tauri 型星のひとつ R Scuti の ISO/SWS スペクトルを解析し、 この星がM型巨星ときわめて類似した様相を示すことを見いだした。 今回、野辺山 45-m 電波望遠鏡による観測で SiO メーザーを検出したことは、 ISOの解析結果を強く支持するものとなった。これらの結果の意味するところ、 すなわちこの星の大気外層の状態、質量放出、進化段階などについて議論を試みる。

第40回:10月21日  北本 俊二 ・ 大川 洋平 (立教大学)

「Soft Lag and Its Implication of X-ray Time Variation in GRS 1915+105
-- マイクロクエーサーGRS1915+105のX線時間変動における低エネルギー側の遅れとその解釈」

マイクロクエーサーGRS1915+105は、超光速ジェットを示すことで有名なマイクロク エーサーである。この天体は公転周期も測定されており、ブラックホールを含む連星 系であると考えられている。X線で観測すると、いろいろな時間尺度で様々な様相を 示し、他のブラックホール候補天体とは一見違っている。この特異なX線源 GRS1915+105のX線強度の時間変動を調べると、ある時期には低エネルギー側が少し遅 れた変動を示すことがわかった。ここでは、X線のエネルギースペクトルと時間変動 の両方の観測結果から、X線放射領域がどのようになっているのか考察した結果を紹 介する。

第41回:11月 4日  茂山 俊和 (東京大学)

「星の元素組成から見た銀河進化と元素合成の現場
-- Evolution of galaxies and sites for nucleosynthesis inferred from elemental abundances of stars」

1990年代中頃から金属欠乏星の元素組成が4m級の望遠鏡を用いて精力的になされてきた。鉄と水素の組成比が太陽の1/1000位より小さな星では重 元素の組成比にばらつきが大きいことが示唆され、特に r ー過程元素では顕著であった。我々は理論的な超新星爆発モデルと観測された元素組成パターン を注意深く比較し、このような星はそれぞれ一つの超新星の影響しか受けていない星間物質から誕生したと結論づけた。つまり、少なくとも銀河初期には超新 星が星形成を誘発していたことになる。このことから予測される銀河の化学進化・星形成史や元素合成の現場に関して得られる情報などについてお話しする予 定である。

第42回:11月11日  大橋 隆哉 (東京都立大学)

「銀河団のX線観測の進展  -- Progress in the X-ray observations of clusters of galaxies」

銀河団の研究が我々に教える情報は、宇宙論から構造形成、銀河形成、化学進 化、ダークマター、活動銀河、粒子加速など実に多岐にわたり、X線観測はこ うした銀河団の情報を引き出すためになくてはならない重要な手段である。こ こでは最近のChandra, XMM-Newton による銀河団観測から何がわかってきたか を紹介するとともに、来年打ち上げられるAstro-E2衛星で銀河団に関してどう いう新しい結果が期待されるのかを述べる。時間があれば、より将来の計画に ついても簡単に触れたい。

第43回:11月18日  小久保 英一郎 (国立天文台)

「惑星系の多様性の起源
  ― Origin of the Diversity of Planetary Systems」

近年発見されている太陽系以外の惑星系は、惑星系は太陽系のようなものだけ ではなく、多様であることを示している。このような多様性はどのようにして 生み出されるのだろうか。ここでは惑星系形成の初期条件である原始惑星系円 盤の質量の違いによって、形成される惑星系にどのような多様性がもたらされ うるのかについて考える。また、地球型惑星の形成確率についても議論する。

第44回:11月25日  吉田 道利 (国立天文台)

「岡山天体物理観測所の現状と将来計画
  ― Current Activities and Future Plans of Okayama Astrophysical Observatory」

岡山天体物理観測所の現在の活動および近年の科学的成果と、将来 計画について紹介する。
岡山観測所は現在、高分散エシェル分光器HIDESを中心として共同利 用を行っている。HIDESは最高波長分解能10万を誇り、ヨウ素セルを用 いた超精密視線速度測定により、系外惑星探査に成果をあげつつある。 この他、近赤外分光撮像カメラISLEと可視低分散分光撮像装置KOLAS の二つの観測装置を188cm望遠鏡用に開発中である。両観測装置ともに 2005年後期から共同利用に供する予定である。
将来計画の柱としては京都大学と共同で行っている中口径望遠鏡計 画があるが、この他にも、近未来の計画として広視野赤外線カメラ計 画、HIDESのグレードアップ計画などを進めている。これらの計画の概 要とこれからの見通しを示す。

第45回:12月 2日  北村 良実 (宇宙科学研究本部)

「野辺山ミリ波干渉計を用いた原始惑星系円盤の形成・進化に関する研究
  ― Observational Study of Protoplanetary Disks with the Nobeyama Millimeter Array」

惑星系は、星形成に必然的に伴う(原始惑星系)円盤内で形成されると考えら れている。 従って、太陽系や発見が続く系外惑星系の起源や多様性を理解するためには、 原始惑星系円盤が、いつどのように形成され、進化して惑星系へと至るかを、 観測的に明らかにしていくことが必須である。 我々は以上の考えに基づき現在、野辺山ミリ波干渉計を主に用いて、 円盤の(高分解能)撮像観測を行っている。 今回は、最近明らかになってきた原始星期での円盤形成過程と、 その後の降着円盤としての進化過程についての観測成果を主に紹介する予定である。

第46回:12月 9日  近田 義広 (国立天文台)

「Yet Another SKA -- 大きな望遠鏡が欲しい」

SKA(Square Kilometer Array)が国際的協力の下に進もうとしているが、できあがるの はずいぶん先だろう。同じように、1平方km集光力をねらった別のアプローチ:レンズ・ アンテナについて紹介する。 電波望遠鏡の大きさは現在、限界にきている。観測波長の1万倍を越える口径の望遠鏡 は、重力、風、温度分布の不均一に抗して鏡の面精度を波長の10分の1以下という精度に 保つことが出来ない為である。受信機の感度も物理的な限界に近づき、より大きな集光面 積を実現できなければ、21世紀の電波天文学は壁に突き当たる。多数の望遠鏡をつなぎ 干渉計で集光面積を稼ぐ方法もありうるが、相関器始め、システム全体の複雑さが増えて 得策でない。この壁をkm級のレンズアンテナ望遠鏡で一挙に打ち破る方法を探る。

第47回:12月16日  梅村 雅之 (筑波大学)

「銀河の起源 ―― The Origin of Galaxies 」

銀河の起源を解明するために明らかにしなければならない 課題は,銀河形態の起源,矮小銀河(衛星銀河)の起源, 銀河中心核と巨大ブラックホールの起源,球状星団の起源 宇宙再電離の起源,宇宙第一世代天体の起源などである。 これらは,最近注目されている銀河形成や,巨大ブラックホールの ダウンサイジングとも関係する。本講演では,これらの問題について, 最近の取り組みを紹介する。

第48回: 1月 6日  奥田 治之 (東大名誉教授)

「赤外線天文学、来し方、行く末
     ―― Progress of Infrared Astronomy, look back and look ahead 」

赤外線天文学が始まって、およそ半世紀になる。
私は、たまたま、同じ時期に、同じ道を歩む機会に恵まれたが、この間のわが国における赤外線天文学 研究の歩みを、自らの反省を込めて、振り返り、今後の発展への期待と問題点につい ての私見を述べる。

第49回: 1月13日  続 唯美彦 (東大理天文セ)

「Fe II/Mg IIのブレイクを隠すもの
     ―― What is masking a break in Fe II/Mg II of quasars ?」

クエーサーのFe II/Mg II輝線強度比は、クエーサー母銀河の年齢や母銀河での最初の 星形成の時期を制限する時計として期待されている。Feの大部分がIa型超新星起源で あるのに対し、MgはII型超新星起源であり、それぞれの寿命の違いからFeのMgに 対する増加には遅延がある。母銀河の化学進化モデルからは、赤方偏移3以上で Fe/Mgのブレイクが予測されている。クエーサーのFe II/Mg IIの測定によってこの ブレイクを見出す試みが行なわれているが、未だ見つかっていない。本講演では その原因を示し、Fe II/Mg II測定の時計としての有用性を再提示する。

第50回: 1月27日  坪井 陽子 (中央大学)

「X線で探る星形成プロセス
     ――X-ray study of star formation」

透過力の強いX線は、星がまさに塵の中で生まれる現場を捉えることができる。 我々は硬X線、特にラインX線を使って、星形成プロセスの最も中心部、すな わち星本体とその近傍のダイナミクスに迫ろうとしている。本講演では、現在 稼動中のX線天文衛星チャンドラおよびXMMニュートンで得た星形成についての 最新成果をレビューし、今年日本から打ち上がる予定のAstro-E2衛星で探るべ き我々の課題について紹介する。

第51回: 2月 3日  松尾 宏 (国立天文台)

「ASTE搭載連続波観測装置と最近の観測成果
  ――Submilllimeter-wave continuum observation system
     on ASTE submillimeter telescope and recent observational results」

ASTEにサブミリ波3周波で観測を行うことのできるボロメータを搭載し、 アンテナ性能の評価、観測性能の評価、南天の星形成領域の観測などを 行った。観測周波数は350GHz、650GHz、850GHzでマッピング観測では ほぼ同時観測が可能となる。 これまでボロメータはASTEアンテナに4回搭載され、 連続波によるファーストライト副鏡の異常調査、 マッピング観測手法の確立、サブミリ波帯でのアンテナ性能の評価、 サブミリ波連続波による科学観測などが実行された。 科学観測としては、あいにく5日間の観測にとどまったが、 大質量星形成領域の観測を中心に3つの観測プロジェクトを実行した。 南天にはカリーナ領域を中心に大質量星形成領域が広がっている。 カリーナ領域は太陽系から2kpcの距離にあり、 ASTE望遠鏡で大質量星形成コアを分解して観測することが可能である。 発表では、NGC3576、UltraCompact HII領域、ηカリーナ星の 観測成果について紹介する。 また、今後の連続波観測装置の計画についても紹介する。

第52回: 2月10日  北山 哲 (東邦大学)

「原始銀河形成におけるフィードバック過程の重要性
  ――Impacts of Feedback Processes in Primordial Galaxy Formation」

宇宙初期に現れた星による放射や超新星爆発は、原始銀河の形成・進化に多大 な影響を及ぼし、宇宙再電離や大局的星形成史とも密接に関連すると考えられ るが、定量的には未知の点が多く残されている。銀河形成の大規模シミュレー ション等においても、これらの過程が本質的な不定性を生んでいる場合が多い。 本講演では、1) 原始銀河内に形成された星の放射、2) 超新星爆発、3) UV背 景放射、によるフィードバック過程について我々が進めてきた研究を紹介し、 それらが宇宙の熱史・星形成史に対して持つ意義について議論する。



 

 
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