東大・理・天文学教育研究センター談話会

2003年4月から、天文センターでの院生コロキウムに引き続き、談話会を毎回開くこ とになりました。大学院生教育に重点をおいた談話会とし、講師の方には、大学院 生向けということで、ご自身の研究紹介だけでなく、レビュー的な側面にも重点をお いて話をお願いすることにいたしました。

日時:毎週木曜日3時半〜4時半
場所:天文センター講義室です
時間割:
院生コロキウム 13:30-14:30(+α)
お茶の時間   15:00-15:30
談話会     15:30-16:30

**********2003年度の談話会**********

第1回:4月17日 杉山 直(国立天文台)
「WMAPで何がわかったか」
最新のWMAPの観測結果は、宇宙の進化・発展をつかさどる宇宙論パラメータを これまでにない精度で決定するとともに、ビッグバンのはじめに起きたインフ レーションの存在を決定的にし、さらに宇宙最初期の天体形成に対しても大き な示唆を与えるものであった。ここでは、WMAPによってなにが明らかにされた のか、またなぜ、そのようなことが宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎを測 定することで可能になるのかについて解説する。

4月24日 集中講義のためお休み

第2回:5月 8日 嶋作一大(東大理天文)
「すばるで探る遠方の銀河の性質」
遠方銀河の観測は銀河の形成と進化を解明する上で不可欠で ある。我々は「すばる望遠鏡」の広視野カメラを用いて赤方 偏移が 4 以上 (最大で 6.6) の銀河を多数検出し、その性質 を詳細に調べている。ここでは、銀河の光度関数と空間分布 に焦点を当て、我々の観測によって遠方銀河についてどう いうことがわかって来たかを述べる。

第3回:5月 22日 小林尚人(東大理天文セ)
「補償光学(AO)を用いた最新のサイエンス」
 この5年で「補償光学(Adaptive Optics:AO)」と呼ばれる、大気のゆらぎ を打ち消してシャープな星像を得る地上観測技術が急速に進展しました。その 結果、望遠鏡の回折限界にせまる0.1秒角近くの高空間分解能が、赤外線波長 域では日常的に得られるようになってきています。
 このAOによって、どのようなサイエンスが可能になってきたかを、世界第一線 で活躍する「すばる望遠鏡」の補償光学を中心に概観します。

第4回:5月 29日 立松健一(国立天文台)
「分子雲コアの進化と星形成」
当該領域の最近の研究動向を紹介しつつ、野辺山45m電波望遠鏡を 用いたおうし座分子雲コアのN2H+観測の結果を紹介する。 我々は以前中質量星形成領域のオリオン座分子雲OMC-2/3で、乱流の散逸 が星形成の始動条件になっているらしいことを明らかにした (Aso et al. 2000)。分子雲コアがほとんど熱的にサポートされていて、 乱流の散逸の余地の少ない小質量星形成領域ではどうなっているであろうか? 本研究では、depletionが効きにくいことがわかっているN2H+ 分子の観測をもとに「星ありコア」「星なしコア」の物理的性質を しらべ、星形成の開始条件を調べた。

第5回:6月 5日 河合誠之(東工大)
「HETE-2 が切り拓いたガンマ線バースト観測の新展開」
 2003年3月29日午後8時すぎ(日本標準時)に発生したガンマ線バーストは、記 録破りの明るさの残光を残し、世界中の数十の望遠鏡で観測された。この残光 には超新星との関連を示すスペクトル成分が検出され、ガンマ線バーストの研 究の上で、もっとも重要なイベントのひとつとなった。大岡山の東工大屋上に 設置した小型望遠鏡でも世界に先駆けてこの残光の観測に成功した。
 HETE-2衛星がガンマ線バーストの位置通報にかかる時間を、BeppoSAXなどの 以前の衛星よりも大幅に改善した結果、ガンマ線バーストの研究はこの1年足らずの 間に急速な進展を見せている。この最近の状況を紹介する。

第6回:6月 12日 田村元秀(国立天文台)
「太陽系外惑星探査観測」
1995年における、惑星による恒星の速度揺らぎの観測以降、独立な 間接方法による検出などを経て、系外惑星の存在はいまや揺ぎ無い 観測事実となった。これに勢いを得て、現在、さまざまな 系外惑星探査観測が実行・計画されている。 本談話会では、まず、惑星検出のための多様なアプローチについて レビューを行い、それぞれの成果と長所・短所を議論する。 ついで、将来計画としての地球型系外惑星の直接検出のための 計画について紹介する。

6月19日 集中講義のため休み

第7回:6月 26日 関井 隆(国立天文台)
「日震学」
太陽という天体は、色々な意味でごくありふれた天体である一方、地球に住む われわれにとっては一番大事な星である。また、ありふれているからと言って、 その仕組みがすべて理解出来ているわけでもない。それどころか、基礎的な部 分でまだまだ謎が残っている。近年、日震学(Helioseismology)の発展により、 太陽表面の波動現象を基にして、太陽内部の静的・動的な構造を「観測的に」 調べることが可能になった。日震学の成立の背景と現状、これからの展望につ いて述べる。

第8回:7月 3 日 後藤 友嗣(東大理物理)
「Environmental Effects on Galaxy Evolution」
Using the Sloan Digital Sky Survey (SDSS) data, we investigate the morphology-density relation to find two characteristic environment where the morphology-density relation abruptly changes (0.3 and 2 Rvir).The result suggests that two different mechanisms might be responsible for the morphology-density relation. In addition, we study the environment of unusual spiral galaxies with no [OII] or Halpha emission lines (passive spirals), and find that passive spiral galaxies preferentially live in cluster infalling regions (1-10 Rvir}). Thus, the origin of passive spiral galaxies is likely to be cluster related. In the latter half of the talk, we report on the origin of E+A galaxies.

第9回:7月10日 早川 貴敬(東大理天文セ)
「ALMAプロトタイプアンテナ」
ALMAおよびアタカマコンパクトアレイ(ACA)建設に先立って、12mアンテ ナのプロトタイプ建設、性能評価試験が行われる。日本のプロトタイプ アンテナは、現地(米国VLAサイト内)での組み立てがほぼ完了し、性 能を出すための調整が始まっている。 ALMAプロトタイプアンテナプロジェクトの概要、最近の状況、今後の展 望について紹介する。

第10回:7月17日 藤本 龍一(宇宙研)
「Astro-E2衛星搭載XRSと次世代のX線マイクロカロリメータの開発」
Astro-E2衛星はわが国5番目のX線天文衛星である。米国との国際協力の下で開 発が進められており、2005年に打ち上げ予定である。Astro-E2にはXRS (X-ray Spectrometer、X線マイクロカロリメータ)、XIS (X-ray Imaging Spectrometer、 X線CCDカメラ)、HXD (Hard X-ray Detector、井戸型フォスウィッチカウンター) の3種類の検出器が搭載され、6keVで6eVという極めて優れたエネルギー分解能 と、0.5--600keVという広い帯域を実現する。講演の前半では、Astro-E2衛星に ついて概観し、特にXRSの観点から科学的目標について述べる。
次世代のX線天文衛星(NeXT等)に搭載するX線分光器としては、超伝導転移端を 温度計に利用したカロリメータがもっとも有力な候補である。講演の後半では、 現在我々のグループで行なっている超伝導遷移端型X線マイクロカロリメータ の開発状況について簡単に触れる。

第11回:9月11日 河鰭公昭(名大名誉教授)
「古代日食の解析から求めた地球慣性能率の変動」
700 BC から AD 1200 の中国・日本の皆既日食及び時刻記録のある日食の観測記 録からこの期間の地球の慣性能率の変化を求め、長期的変動と700〜800年程度の 時間スケールの変動があることが判った。長期的変動は過去6000年間の海面の下 降による慣性能率の減少と略一致する。 関連話題として、平安時代の日食予報精度や日の出・日の入り時刻の計算精度などがある。

第12回:9月18日 松田 有一(東北大理/国立天文台) 
「SSA22 z=3.1 原始銀河団とその周辺領域のひろがった Lyα輝線天体」
我々は2002年秋にすばる望遠鏡、主焦点カメラによるSSA22天域z=3.1原始銀 河団領域とその周辺の広視野で深いLyα撮像を行なった。この原始銀河団領域は、高 赤方偏移において、これまでに観測された中で非常に銀河数密度超過の大きな領域と して知られており、またLyαで明るく広がった形態を持つ2つのブロッブを含む領域 としても注目されている。そして、この広視野で深いLyα撮像データに基づき、ひろ がった輝線天体を探したところ、Lyαブロッブを含む35個のひろがった輝線天体候補 を検出することに成功した。候補のなかには、新しく見つかった、Lyαブロッブの約 1/2の明るさと大きさを持つ天体やライマンブレイク銀河に付随するLyα輝線構造が 含まれている。これらのひろがった輝線天体のほとんどは以前検出した比較的に小さ な283個のLyα輝線天体の高密度領域の中に分布し、また小さなLyα輝線天体に比 べて高密度領域の中で強いクラスタリングを示すこともわかった。さらにひろがった 輝線天体の形態やLyα輝線フラックスを出すのに十分なUV光源を持っているかなど を調べ、これらのひろがったLyα輝線構造の起源についても議論する。

9月25日 天文学会秋季年会(松山)のため休み

第13回:10月 2日 佐藤文衛(国立天文台)
「視線速度変化精密測定による巨星の惑星探し」
惑星の引力が引き起こす恒星の微小な視線速度変化をとらえることにより、 これまでに約100個の太陽型星で惑星が見つかっている。我々のグループ は、1997年から岡山観測所においてこの観測技術の導入を進め、現在約 5m/sの測定精度を達成している。これを用いて、2001年からは巨星のま わりの惑星探しを開始し、最近、一つ目の惑星を発見するに至った。 ここでは、視線速度精密測定の方法と惑星発見に至るまでの道のりを、 この間の世界における系外惑星探しの進展を交えながら紹介する。

第14回:10月 9日 福島登志夫(国立天文台)
「力学シミュレーションの基本のき:常微分方程式の数値積分法」
太陽系や銀河のN体問題をはじめとする力学的数値シミュレーションの基本は、 常微分方程式の数値積分法である。よく知られているルンゲ・クッタ法や 外挿法、多段法などの定番を復習するとともに、最近注目されるようになった シンプレクティック積分法、エルミート積分法、対称多段法について簡単に 説明する。また最も中心となる摂動ケプラー問題について、KS正則化、 エンケ法、多様体補正などのテクニックも紹介する。

第15回:10月16日 藤本眞克(国立天文台)
「TAMA300と重力波天文学力学」
重力波検出用レーザー干渉計TAMA300は1999年の運転開始以来 これまでに感度と安定度の向上を進めながら8回のデータ取得運転 を行ってきた。なかでも2001年夏の50日間の運転と、今年春の2ヶ 月間の運転では、それぞれ1000時間を超える長時間観測データが 得られている。これらのデータから見たTAMA300の重力波検出能力 について紹介する。

第16回:10月 23日 川端弘治(国立天文台)
 超新星の偏光観測は有名なSN 1987Aの出現以降、本格化し、 1990年代後半にはようやく型別の分類が行われるまでになっ た。その結果、重力崩壊型の超新星は一般に非球対称的な爆 発を示すことがわかりつつある。最近ではIa型超新星でもご く初期には偏光を持つ場合があり、progenitorが過去に質量 放出した痕跡ではないかとも考えられている。 発表では、 前半に超新星の偏光観測のレビューを行い、後半では私達が すばる望遠鏡で行ったSN 2002ap と SN 2003dh/GRB 030329 の2つの偏光分光観測とその結果について、GRB との関連性も 交えて紹介する。

第17回:11月 13日 亀野誠二(国立天文台)
「次期スペースVLBI計画 「VSOP-2」で狙うサイエンス」
VSOP「はるか」は1997年の打ち上げ以来のべ700を超える観測を実施 し、センチ波帯でミリ秒角を切る分解能で活動銀河角ジェットの高分 解能撮像などの成果を挙げてきた。私たちはスペースVLBIの技術をさ らに向上させて、次期スペースVLBI「VSOP-2」を計画している。VSOP-2 では最高周波数43 GHzで40マイクロ秒角の分解能を達成し、活動銀河 核の降着円盤や原始星磁気圏の撮像・偏波観測を狙っている。2010年 の打ち上げをめざして、JAXA (宇宙航空研究開発機構) に提案を出し ている。今回のセミナーでは、VSOPの成果ハイライトをレビューした 上で、VSOP-2で狙うサイエンスについて「VSOP-2サイエンスワーキン ググループ」で検討した内容を紹介します。

第18回:11月 20日 浅井祥仁(東大素粒子物理国際研究センター)
「ダークマターと加速器物理 --- 超対称性粒子探索の現状と将来-----」
ダークマターの有力な候補である超対称性粒子探索の既存の制限や最新の状況に ついてまとめる。特にモデル依存性など、DMの性質を決める部分と、 加速器実験での探索に重要となる部分について整理し、簡単にまとめる。 2007年実験開始予定のLHC実験(世界最高エネルギーの陽子・陽子衝突実験)の 超対称性探索能力は著しく高く、DMとして興味深いパラメーター領域をわずか 一週間ほどの実験で探索が可能であり、この実験で期待される成果もまとめる。

12月 4日 集中講義のため休み 

第19回:12月 11日 牧野淳一郎(東大天文)
「N体計算の現状と将来」
1960 年に von Hoerner によって最初のデジタル計算機による重力多体問題の 数値積分がなされてからほぼ半世紀の間に、計算機の能力の発展と計算法の発 展により扱える問題の規模は飛躍的に大きくなり、その結果多体シミュレーショ ンは理論天文学の欠くことのできないツールの一つになったといえる。 本講演では、 重力多体計算の適用限界を決めているのは何かという原理的な 問題から、現在の研究の方向までを概観したい。

第20回:12月 18日 蜂巣 泉(東大総合文化)
「Ia型超新星の進化経路」
どのような星がIa型超新星として爆発するのか、Ia型超新星の進化経路 について解説します。私たちが1996年に白色矮星から質量降着新星風が 吹くことを明らかにしてから、それまで想定されていた二重白色矮星系 に代わって、白色矮星+主系列星の系や白色矮星+赤色巨星の系がIa型の 親星であることがはっきりして来ました。最近、この進化経路に沿った、 具体的な対応天体もいくつか見つかっています。また、水素の輝線が 見つかった、Ia型超新星 SN2002ic についても、進化経路との関連で議論 します。

第21回:12月 25日 本原顕太郎(東大天文センター)
「次世代地上大型望遠鏡計画」
1990年代最後に続々と8mクラスの望遠鏡が完成して駆動しはじめた現在、 その『次』の世代のより大きな望遠鏡の建設を目指した動きが活発化している。 とくに、口径30メートルを目指すの北米のTMT(Thirty Meter Telescope)計画と 口径100mを視野にいれたヨーロッパのEELT(Europe Extremely Large Telescope) 計画が世界の二大潮流となって、基礎的な技術開発が始まりつつある。 本講演ではこれらの計画の概略を紹介するとともに、要求される技術と問題点にも 焦点を当て、日本のコミュニティの動向も含めて解説する。

第22回:1月 8日 Martin Bureau(Columbia Univ.)
「Bar-Driven Evolution in Bulges」
Numerical simulations suggest that bars can drive substantial evolution in disks galaxies and may contribute significantly to the build-up of bulges. A multi-faceted approach is thus described to quantify the importance of those mechanisms and test the models. Bars are shown to contribute substantially to the formation of both large-scale (triaxial) bulges and embedded central disks. First, new stellar kinematic and morphological diagnostics are developed for edge-on bars using 3D N-body models and orbital calculations. They are compared with, respectively, long-slit spectroscopy and near-infrared imaging data. Particularities of the kinematics and vertical structure of barred bulges are highlighted, and the pervasiveness of central disks stressed. Second, the SAURON integral-field survey of the stellar/ionized-gas kinematics and stellar populations of spheroids is briefly described and results relevant to the dynamics of bulges are presented. Specific examples are used to illustrate the potential of coupling kinematic and linestrength (i.e. age and metallicity) information to unravel the chemical enrichment history of galaxies.

第23回:1月15日  戸谷 友則(京都大学)
「暗黒物質の起源に迫る」
暗黒物質の存在は数十年前から知られており,宇宙論における最大の問題である. 今回は,我々が現在行っている二つのアプローチを中心に,暗黒物質の起源にどう迫る かを議論したい.第一のアプローチは,MACHOs の探索である.MACHOs の探索は様々 な方法で行われているが,10--$10^5 M_\odot$ の質量領域では未だに強い制限がなく, このようなコンパクトオブジェクトが暗黒物質の支配的成分である可能性がある.我々 は視線上に二つならんだ銀河団をすばる望遠鏡で観測するという新しいアイデアで, この未踏の質量領域を探っている.その途中経過を報告する.第二のアプローチは, 超対称性粒子が暗黒物質だったときに期待される対消滅の兆候の探索である.銀河中 心方向からの対消滅ガンマ線などを捕らえるという可能性は今まで広く議論されてき た.しかしここでは,最近話題になっている銀河団のクーリングフロー問題を解決す るための熱源として,超対称性粒子の対消滅が有効であるという新しいアイデアを提 唱したい.良く言われている活動銀河による加熱よりも安定した供給源になるという 利点もある.

第24回:1月29日 松下恭子(東京理科大学)
「XMM Observations of Abundance in the Intracluster Medium」
Based on XMM-Newton observations of centers of clusters and groups with cD galaxies, abundance profiles of O, Mg, Si, S, Ar, Ca, Fe and Ni of the intracluster medium (ICM) are derived. The observed O, Si and Fe abundance pattern determines the contribution of supernova (SN) Ia and SN II, with the abundance pattern of ejecta of SN Ia. The most of Si and Fe of the ICM in the central region of the clusters come from SN Ia occured in the central galaxies. In order to explain the observed O/Si ratio of a half solar, SN Ia products should have similar abundances of Si and Fe, which may reflect dimmer SN Ia observed in old stellar systems. The measurements of abundance ratios of S/Si, Ar/Si, Ca/Si and Ni/Fe also constrain detailed abundance pattern of SN of cluster galaxies.

第25回:2月 5日 梶田 隆章(東大宇宙線研究所)
「ハイパーカミオカンデとニュートリノ物理/天体物理」
ニュートリノ物理の次の大型装置の可能性として、約100万トンの純水を 用いたハイパーカミオカンデ構想がある。この装置の概要とどのような 物理と天体物理が可能かを議論する。


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土居 守
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